ヒトニザメ 五




『こちらウルフデール号、アルファポイントに到達』

『こちらコンロー号、ベータポイントに到達』

『こちらブルームデール号、ただいまより餌をデルタポイントに投下し、ガンマポイントで待機する。ウルフデール号、コンロー号は各ポイントで待機せよ』

『了解』『了解』







月と星。日本では決して味わうことのできない夜空が、このインド洋の上に広がっていた。

周囲には光を妨げる光源は存在せず、空と海面に輝く月と星だけがあたりを照らしていた。

美しい、あまりに美しい光景だ。

「あーあ・・・」

僕はため息を漏らした。

あまりの美しさに、ではない。

かすかな冷たさを感じながら、僕は夜の海を漂っている。

旅客船に乗ったままならば、船室から漏れる光でここまで美しい景色は見られなかったろう。

そしてパーティの熱気に当てられ、甲板で火照った身体を冷まそうとしなければ、夜景に見とれて身を乗り出し、バランスを崩さなければ、二つの夜空の間で漂うこともなかったろう。

「あーあ・・・」

後悔9割、あきらめ1割のため息を漏らし、僕はぶるっと身震いした。

冷たい。

いくら今が夏で、ここが赤道に近いインド洋であっても、夜の海の水温は確実に人間の体温よりも低い。

服はとっくの昔に、水を吸って重くなるだろうという予想をつけて脱ぎ捨て、今は下着姿だ。

日が出ているならまだしも、この時間帯にパン一で海水浴は酷だ。

でも水に落ちたら服は脱ぎ捨てろって、サバイバルの本にもあったし・・・

「いや、あれは『冬の湖や川に落ちたとき』だっけ?」

曖昧な自分の記憶に、もうちょっとよく読んでおけばよかったという後悔の念を覚える。

そして、もし戻れたらしっかり読み直そうという考えが浮かばなかったことに気が付き、慌てて首を振る。

「いや、助かる!絶対助かる!」

甲板から落ちてしまったとき、甲板にはほかにも人の姿はあった。

酔っ払いがほとんどだったのは事実だけど、その内の一人だけでも船員さんに伝えてくれればいい。

それに父さんと母さんが、いつまでも甲板から戻ってこない僕のことを心配して、船員さんに言ってくれるだろう。

だから、助かる。

「・・・っとっとっと」

両腕で水をかき、身体を安定させる。

おとなしく、沈まないように努力していればきっと助かる。

そう信じながら、僕は腕を動かした。







「・・・」

すきっ腹を抱えつつ、彼女は海底に身を横たえ、じっとしていた。

ここ数日、ついていない。

以前は一日海を泳いでいれば、一隻は船を見つけることができた。

しかしここ数日、船が全く見つからないのだ。

確かに魚を食えば腹は満たされるが、それでは力が蓄えられない。

縄張りの外にでれば、海岸沿いまで行けば人が喰えるが、それでは乙姫達に気が付かれてしまう。

そのため彼女は三日前から何も食わず、こうして海底に身を横たえている。

じっとしていると、いろいろな音が聞こえてくる。

波の音、魚群の動く音、海鳥が魚群めがけて海面に飛び込む音、シャチか何かが海鳥を狙って海面へ躍り出る音、大きな魚が他の魚を噛み砕く音、鰭が水をかく音・・・

目を閉ざし、その中から聞きたい音だけを選び出す。

海面近くの音、連続する唸り声のような音、海面を巨大なものが引き裂く音。

つまりは、船の音。

「・・・」

空腹により集中力は極限まで増し、その聴覚は三つの船の音を捉えていた。

三隻ともかなりの距離があり、一度に二隻を襲うことはできそうにない。

さて、どれを襲おうかと考えていたその時―

ぼちゃん

「!」

一隻の船から、何かが海面に落ちる。

ばちゃ ばちゃ

何かは船を追うかのように、海面を叩きつつ動き、止まった。

「・・・」

間をおきながら、海面を叩く何か。

そう、まるで人間が海面で姿勢を保っているような音が聞こえる。

「・・・見つけた」

彼女は目を見開くと、その何かに向けて尾びれを力強く動かした。









「えーとあれが北斗七星だからひの、ふの、みの・・・あー分からん」

眠らないように意識を保ち、方角を認識するため夜空を見上げてみるが、星はどれも同じように輝いており、北極星を見つけるのは困難だった。

「北斗七星は分かるのに・・・」

傍の星を明々と輝かせる北斗七星から目を離し、今度は反対側のカシオペア座を探す。

と、その時、姿勢を維持するために海中で動かしていた両足が、何かに掴まれた。

「え?」

僕の疑問の声をよそに、僕の少し前の波打つ海面から海草の塊が突き出す。

いや、海草じゃない。これは、髪の長い人間の頭・・・!

「捕まえた」

海面からさらに二本の白く細い腕が現れ、濡れて垂れ下がった髪を声と共に掻き揚げる。

髪の下から現れたのは、水死体のような腐乱した顔などではなく、非常に整った、美しい女性の顔だった。

ただしその瞳はぎらぎらと輝き、その奥に狂気を孕んでいた。

「やっと、捕まえた――!」

「ひっ」

両手を伸ばし寄ってきた女から逃げようともがくが、足を掴んでいる何かがそれをさせなかった。

けん制のために突き出した両腕をかいくぐり、僕を抱きしめる。

胸に押し付けられた彼女の乳房が、女は一糸纏わぬ姿であることを僕に伝えたけど何のプラスにもならない。

「あはぁ、裸だぁ・・・」

全身をまさぐる彼女の両腕が、僕がパン一であることを伝える。

「待っててくれたんですね・・・!」

「いやっ、ちがっ・・・」

彼女の口が開き、唇の間から指先から手首まではあろうかという長い舌が現れ、僕の顔に当てられる。

「ひっ・・・!」

粘液質の唾液を纏った肉の感触に、思わず悲鳴を上げる。

しかし舌はそれだけに止まらず、僕の顔を上へ舌へと舐めまわしていく。

唾液の異様に甘ったるい香りが、ぼくの鼻をくすぐった。

「うふふ、肌がつやつやでおいしそう・・・」

彼女は舌を出したまま器用にそういうと、首筋や耳たぶに這わせていた舌を僕の唇に押し当てる。

舌先が唇と前歯をこじ開け、強引に唇を重ねる。

「んぶっ!?」

彼女によって広げられた僕の口腔へ、ねっとりとした唾液が注ぎ込まれた。

糸を引くほどの粘度を持った液体が口の中を占めていき、喉の奥へと流れ込んでいく。

むせ返るほど強烈な甘い香りと、濃厚な甘みが僕の意識に靄をかけていく。

女から逃れようと必死に動かしていた両腕が、次第に緩慢なものになっていく。

両脚を振りほどこうと込めていた力が、次第に抜けていく。

数度の嚥下で、彼女の唾液は僕から抵抗力をすべて奪っていた。

そして、完全に僕の全身が弛緩したのを確認すると、彼女は糸を引きながら唇を離し、舌を引き抜いた。

「うふふ・・・出来上がったみたいですね・・・」

塞ぐものがなくなっても口を半ば開いている僕の姿に、彼女は小さくつぶやいた。

「こっちも準備完了・・・!」

腕を片方水面下に沈め、下着の中で屹立している僕のペニスに指を這わせる。

彼女のひんやりとした指が、充血して熱を持ったペニスに心地よかった。

下着の生地越しに、指が亀頭を撫でる。

「あっ・・・」

布の織り目による亀頭への微かなむず痒さに、僕は声を上げていた。

彼女は口の端を吊り上げながら、亀頭を撫で、裏筋に指を這わせる。

下着越し、しかも片手だけだというのに、彼女がペニスにもたらす刺激は、次第に僕を押し上げていく。

「うぁ・・・ぁ・・・」

手のひら全体でペニスを握り締め、親指の腹で亀頭を擦り、残る四本の指が裏筋を揉み立てる。

彼女の手の中で、ペニスの脈動が加速していく。

腹の奥に何かが渦巻くような感覚が生じる。

「あ、ああ・・・」

全身が硬直し、ペニスの、心臓の鼓動が加速していく。

そして―

「ふふ、だぁめ」

唐突に女がペニスから手を離した。

与えられていた快感が中断され、興奮が急速に冷めていく。

「え・・・?」

意識に靄こそかかってはいたが、刺激の中断に対する戸惑いを覚える程度の思考は残っていた。

「まだ、出しちゃ、だめです」

ペニスをいじっていた手を海から引き上げ、彼女はペニスに触れぬよう注意を払いながら身を寄せる。

「せっかく捕まえたのに、魚の餌にするなんて、だめです」

彼女の手が僕の手をとり、海中へ引き込む。

海水を潜り抜け、導かれた指先が何かに触れる。

なめらかな表面と弾力、そしてほのかな温もりを持ったもの。

おそらく、彼女の腹部。

「ですから、ここに出してください」

言葉と共に指先が下へと導かれ、指先の感触が不意に変化する。

なめらかな皮膚の感触が、やわやわと蠢く粘膜の感触に。

指先の点で触れるだけだったものが、指先を左右から挟むようなものに。

僕は直接見たことはないが、女性器をイメージさせる感触だった。

しかし、『そこ』は手の位置からすると彼女のへその辺りにある。

明らかに女性器ではない。

しかし―

「あ・・・」

差し入れられた指先に、彼女の『そこ』は優しく絡みつき、その内壁は指先をさらに奥へと導くように蠕動していた。

その感触は、意識に靄のかかった僕に得体の知れぬ器官への恐怖を忘れさせ、興奮と欲望を呼び起こすには十分だった。

「・・・ぁ」

手が引かれ、指先が彼女の『そこ』から引き抜かれる。

彼女の粘膜は引き抜かれていく指先を押しとどめるかのように締め付けを増したが、とどめるには至らなかった。

彼女は僕の体を抱きかかえなおしつつ、身体を密着させた。

彼女の豊かな乳房が、僕の胸に押し当てられ変形する。

「それじゃあ、入れますね・・・!」

彼女の腹部と、僕の腰が接近し、ペニスが彼女の『そこ』に触れる。

『そこ』は指のときと同じように、押し当てられた亀頭にも優しく絡みついた。

指先に心地よさを与えた粘膜が、ねっとりと亀頭に吸い付きその表面を蠕動させる。

「あ、あぅ・・・」

皮膚に覆われておらず、その分神経が刺激にさらされやすい。

そのため、彼女の蠢く粘膜は僕にすさまじいまでの快感をもたらしていた。

「ぃ・・・あ・・・」

少しずつ、少しずつペニスが彼女の『そこ』へと挿入されていく。

なめらかな粘膜だった入り口と異なり、少し奥の粘膜には無数の襞が刻まれていた。

襞は侵入してきた亀頭を迎え入れ、さらに奥へ導くかのように前後に蠢いていた。

その動きは、まるで球場でのファン達によるウェーブのように連携がとれ、亀頭や竿を根元から先端へとくすぐっていく。

襞の与える感触に、呼吸が荒くなり心拍が加速する。

しかし、まだ僕のペニスは半ばほどまでしか挿入されていない。

蠢く襞を掻き分け、奥へ奥へとペニスが侵入していく。

「ぅ・・・ぐ・・・ぁ・・・」

そして根元までペニスが挿入され、亀頭に触れる粘膜の感触が消えた。

代わりに感じるのは、生温かい粘液の感触だった。

「あははぁ・・・はいったぁ・・・」

彼女の言葉と同時に、竿の半ばを包む襞状粘膜の動きが、激しくなった。

「うぁ・・・!」

敏感な亀頭を放置したまま、襞が竿を上下に擦る立てる。

根元からカリ首へ、根元からカリ首へとペニスを、その内部にたまる僕の体液を誘うような動きに、小さいうめき声を漏らしてしまう。

海水で隔てられているというのに、襞の生み出す感触は、僕の脳へ直に粘液質な水音を伝えてくる。

「ほら・・・我慢しないで・・・」

徐々に、徐々に追い詰められていき、ペニスの脈動が増していく。

その脈動により、彼女の襞さえもが脈動しているかのような錯覚を生み出す。

その感覚により限界が訪れ、腰の奥で快感がはじける。

「うぁ・・・ぁあ・・・!」

全身が硬直し、痙攣と共に尿道を精液が駆け上り、鈴口を押し開いて噴出する。

「あは・・・あはははは・・・!」

まさに搾り出されるかのような射精を受け、女が哄笑を上げる。

「出てる、出てる!いっぱい出てる・・・!」

女は腰をくねらせ、さらに精液を搾り取ろうとする。

その動きに僕は素直に反応し、ペニスを喜びに震わせながら精液を噴出させた。

襞状粘膜が、緩やかながらも根元からカリ首へと竿を扱きたてる。

亀頭を包む精液混じりの粘液が、粘膜の動きによりかき回され、亀頭をくすぐっていく。

与えられる刺激の全てが、僕に射精を継続させていた。

「あぁ・・・!うぁ・・・!」

心臓の鼓動が加速し、呼吸が荒く、全身の痙攣が激しくなっていく。

「あがっ・・・!」

意識がはじけ、不意に周囲が一層暗くなっていった。







「・・・うぅ・・・」

股間に絡みつく、生温かで柔らかな感触により、意識を取り戻す。

目を開くが、暗い。まだ目を閉じていると思ってしまうほどの闇だ。

失明したのかと思い、目を擦るべく右手を引き寄せようとするが、それはかなわなかった。

動かないのは右腕だけではなく全身、顔以外の全てに及んでいた。

僕の体は何か柔らかなものに包まれ、がっちりと固定されているようだ。

「・・・くっ・・・」

手に力を加えてみるが、柔らかなそれをほんの少しだけ動かすことしかできなかった。

「あら、目が覚めました・・・?」

どこからともなく、あの女の声が響く。

その声に先ほどのような狂気のこもった必死さはなく、若干の落ち着きを感じさせた。

「あなたが寝ている間に、たくさんいただきましたよ」

「うぅ・・・あう・・・!」

彼女の声にあわせて、先ほどと同じように僕のペニスを咥えている粘膜が蠢き、亀頭を包む粘液中へまた精液を放ってしまう。

とはいってもほんの数雫が漏れた程度であり、彼女の言うように気を失っている間に幾度も搾られたようだ。

「・・・さすがにだいぶ少なくなってきましたね・・・」

襞状粘膜が必死に扱きたてているというのに、次第に硬度を失いつつあるペニスを意識してか、観察でもしているかのような口調で言う。

「ならもう少し強くしてもいいですね」

「ひぅ・・・!」

粘膜が蠢き、ペニス全体が吸われ始める。

いや、これは亀頭を包んでいた精液と粘液の混合物が吸引されているだけだ。

粘液の逃げ場を防ぐべく、竿は根元からカリ首の辺りまで、襞状粘膜の強い締め付けにより固定されている。

そしてむき出しの亀頭が、粘液の生み出す水流に嬲られている。

「あれ・・・?粘液吸いだしているだけなのに、また大きくなってきましたよ?」

再び膨張を始めたペニスを知覚してか、彼女は嘲りを含んだ声でそう言った。

「このぐらいで大きくなるんだったら、この後はあっという間に精液漏らしちゃうんでしょうねぇ」

次第に粘液の量が減っていくためか、カリ首から亀頭の先端へ向けて、だんだんと粘液を包んでいた粘膜が密着していく。

その表面には小さな突起が無数に並んでおり、粒々とした管ショックが粘液の代わりにペニスを包んでいく。

「うぁ・・・ぁ・・・」

潤滑液代わりのわずかな粘液を挟んで、亀頭と粒状の粘膜が密着する。

竿を圧迫する襞状粘膜と、亀頭を柔らかく包み込む粒上粘膜の感触が、何の動きもないのに僕に快感と興奮をもたらしていた。

「それじゃあ動かしますね・・・」

興奮のためか、震える声で彼女が言う。

「我慢できないと思いますけど、我慢せずにたくさん出してくださいね・・・!」

「ひゃぁうっ!」

ペニスの根元から先端へ、締め付けの圧力が移動する。

圧迫により襞状粘膜が竿を根元からカリ首へとなで上げていき、亀頭は粒状粘膜によって揉み解される。

襞による粘っこい愛撫と、粒によるざらざらとした痒みに似た刺激が、僕をひと擦りごとに押し上げていく。

だめだ・・・もう出る・・・!

「うぁあああ!!」

嬌声と共に、体奥から精液が噴き出していく。

「あはは!まだ四、五回しか動かしていないのにもう出ちゃいましたよ?」

注ぎ込まれた精液を、粘膜組織が蠕動しながら奥へ奥へと吸い上げていく。

「うぁああっ!ああああっ!」

体奥から搾り出している、といっても差し支えない状態だというのに、射精は止まるところを知らない。

襞状粘膜が竿を擦り、粒状粘膜が亀頭を揉み解すことでもたらされる快感が、僕を絶頂状態に押し上げ続けているからだ。

「ぁあああがぁああああっ!」

叫び声を上げながら、全身をのけぞらせる。

僕の全身を拘束する何かが少しずつ伸び、ペニスを包む器官のさらに奥へとペニスが突きたてられる。

亀頭を覆っていた粒状粘膜がカリ首のさらに下まで及び、広がった入り口付近の粘膜が、ペニスの付け根を覆う。

粒状粘膜がカリ首を揉み立て、入り口付近の粘膜が夜話や和と下腹部を揉み解す。

「もっとして欲しいんですか?」

ニヤニヤと笑みを浮かべた顔を連想させる声が響く。

「うぁああああっ!あああっ!」

「おちんちんどころかタマタマまで包まれて、もっともっと、たくさんだしたいんでしょう?」

「ひぃあああっ!ぃああああっ!」

「『あー』とか『いやー』じゃなくて、ちゃんと口に出していってくれないと分かりませんよ?ちゃんと答えないと、こうです」

「ひぅううううっ!!」

粘膜がペニス全体を強く締め付け、そのまま動きを止める。

裏筋が圧迫され、尿道が押しつぶされて射精が強引に中断される。

それでも身体の奥では射精が続いているため、どんどん体内に精液が溜まっていく。

「い、いぎぎぎぎぎ・・・!」

快感の絶頂から突然、ペニスが破裂しかねないほどの激痛に襲われ、思考が一色に塗りつぶされる。

痛い痛い痛い痛い!

「おね・・・がいです・・・」

出したい出したい出したい!

「もっと・・・すごいこと・・・して・・・」

「はい、分かりました」

あっけなく彼女が答え、ペニスを締め付ける粘膜が緩む。

対奥で溜まりに溜まっていた精液が、出口を見出す。

「ああああああっ!」

激痛、開放感、爽快感、苦痛。

精液が閉ざされていた尿道を押し広げ、それらの感覚がごちゃ混ぜになって僕を襲う。

「ああああああっ!」

ペニスが大きく脈打ち、鈴口が大きく広がる。

そして―

「ああああっ!!」

身体の中身を何もかも出してしまうかのような勢いで、精液が噴出し始める。

勢いよく噴き出した精液が、亀頭を包む粒状粘膜に叩きつけられる。

「あああっ!ああっ!」

自分でも驚くほど熱い精液が、粘膜とペニスの間に溜まっていく。

「うふふ、どんどん出てきますね・・・それじゃあ、まずは準備を・・・」

彼女の言葉と共に、僕の全身がじんわりと濡れ始めた。

いや違う。これは、僕の全身を拘束する何かが、粘液を分泌し始めたんだ。

僕を拘束していた粘膜は、全身がぬるぬるになるほど温かで甘い香りの粘液を分泌し、その拘束をほんの少しだけ緩めた。

「うふふ・・・始めますね・・・」

ペニスが揉みたてられ、それに連動するかのように玉が揉み解される。

そしてペニスを中心とするかのように、全身を覆う粘膜が波うち、指の先までが柔らかく刺激される。

「あぐぅっ!」

僕は声と共に全身を震わせ、その瞬間だけ射精の勢いを増した。

「うふふ・・・」

二度、三度と全身を粘膜の波が撫で回し、そのたびに一際強く精を放つ。

粘液にまみれた柔らかな粘膜が全身を包み込み、全身をくすぐる。

「ああっ、ああっ」

その感覚と快感に、僕は女性器に全身を挿入しているかのような錯覚に囚われ、声と共にもはや精液とは呼べないほどに薄まった体液をペニスから放っていた。

「うぁ・・・あぁ・・・」

背筋を粘液のうねりがたどっていき、肛門をくすぐって睾丸をからかい、ペニスを揉み解す。

うねりはへそから両脇のほうへ分裂し、脇腹と首筋を通り過ぎてから背筋で合流する。

僕の体の表面を、いくつもの粘膜のうねりが刺激していく。

もう全身の感覚がおかしくなり、与えられる刺激だけが感じられ、射精しているのかどうかさえ分からなくなってきた。

「ぅ・・・ぁ・・・ぅ・・・」

暗いはずの視界がちかちかと輝き、次第に意識が薄れていく。

「ぁ・・・」

小さく声を漏らすと、僕は闇の中へ沈んで言った。









「うふふふふ、いただきまーす」

完全に意識を消失し、最後の一滴さえも搾り出してしまった少年の身体に、彼女は消化液を分泌し始めた。

数日振りの精液の味は美味で、少年の反応も快いものだった。

「さて、それじゃあこの子が乗っていた船にいってみましょうか」

彼女は尾びれを操り、少年の身体が溶解する暇さえ惜しいとばかりに、船が向かっていたであろう方向に向かって進み始めた。

体内では力を失った少年の身体が、徐々に消化されている。

毛髪が溶け崩れ、皮膚が流れ落ち、赤い筋肉がむき出しになり―

「あがっ!?」

突如、彼女の全身を激痛が貫いた。

「あが・・・がっ・・・!」

背中腹部脇腹体内と、いくつもの箇所に焼け付くような痛みが生じている。

「がっ・・・ぎっ・・・!」

激痛に耐えつつ、彼女は体内に擬似女体を構成し、その目を開いた。

彼女の新たな視界に、体内にいる少年の姿が映る。

(何・・・これ・・・)

そこにあったのは、全身からさながらウニのように幾本もの槍を生やした少年の遺体であった。

眼窩から口から頭部から肘から指先から胸部から腹から腰から膝から踵から爪先から口から、まるで骨がそのまま延長したかの様に、少年は槍を生やしていた。

「ぐ・・・こんな物・・・」

短く呪文を連ね、『身体操作』の魔法を起動する。

これで顎や消化器官の粘膜を操作し、限界以上に口を広げて少年の遺体を吐き捨ててしまえばよい。

消化器官の空間が大きく広がっていき、肉に深々と突き刺さっていた槍を引き抜こうとする。が・・・

「あがぁっ!?」

引き抜こうとするだけで、刺さったときの数倍の激痛が全身を苛む。

おそらく少年の遺体から生えているのは、比喩でもなんでもなく本物の槍で、その穂先についた逆鉤が彼女の肉をえぐっているのだろう。

(く・・・このままじゃ・・・!)

激痛に尾びれを操ることもかなわず、次第に身体が沈んでいく。

それに加え、鮫の身体では常に泳ぎ続けていないと鰓で呼吸ができない。

(ここは一度・・・!)

胸鰭を大きなものに変化させ、海面目指して水をかく。

(海面に出れば・・・!)

擬似女体器官に搭載した肺を使って、空気中でも呼吸ができる。

そしてその後は、どうにかしてこの忌々しいガキの死体を吐き捨て、縄張りの外に出てでも人を喰おう。







『こちらブルームデール号、海中に投下した罠人形の起動を確認。コンロー号、ウルフデール号は当初の予定通り行動せよ』

『了解』『了解』





彼女の鼻先が海面を突き破った。

大きく口を広げ、『彼女自身』の宿った擬似女体を夜風にさらす。

「ぷはっ」

不足していた酸素を補うため、大きく息を吸い込む。

「・・・?」

吸い込んだ空気から、異臭を感じた。

腐臭とも刺激臭とも異なる、不快な匂い・・・

そこまで思い浮かべたところで、夜の闇を光が引き裂いた。

「・・・っ!!!」

爆音が彼女の全身を打ちのめし、海面上に露出している彼女の身体の表面に、更なる激痛が張り付く。

「っあああああああっ!」

眼球を含めた身体の表面の痛みに耐えかねてのた打ち回り、体内に突き刺さる槍が動いて更なる痛みを生む。

(何が・・・一体何が・・・!)

激痛の中疑問の答えを探すべく、擬似女体の目を開くが何も見えない。鮫の身体のほうも同様だ。

何かの爆発により、眼球さえも焼かれてしまったらしい。

起動しておいた『身体操作』の魔法を操り、擬似女体に新たな目を作る。

しかし、やはり何も見えない。

「・・・くっ」

熱によってただれた皮膚が、新たな目をふさいでいることに気が付くと、彼女はなんのためらいもなくその両指を額に突きたてた。

傷口を強引に広げ、新たな眼球を露出させる。

「・・・これは・・・!」

彼女の目が捕らえたのは、彼女を中心に旋回する三隻の船の姿だった。

側舷にはそれぞれ『WOLFDALE』『BLOOMDALE』『CONROE』の文字が並んでおり、いずれの船も貨物船のような無骨なつくりだった。

そして、三隻の甲板には数十人もの人間が立っており、その全てが彼女のほうを向いている。

「ぐねむぐねむ どな ぞぞぬら」

風に乗って、船上の人間達から声が届く。

決して揃っているとは言えないが、それでも聞き取る程度には整っていた。

「いげむむら いげむむら うぐろぁな ぞ」

魔法に用いる呪文の詠唱にも似ているが、違う。

しかし彼女の本能は、このままここにいることが危険であると告げていた。

「うぐっ・・・!」

激痛を堪え、胸鰭を操って海中に身を沈める。

非常にゆっくりとした速度ではあるが、鰓呼吸を行うには十分な速度だ。

それに相手は鈍重な船。浅瀬にでも逃げ込めば追っ手はこれまい。

『ぞぉすとな いぇすとな ふふむぉら』

いかなる仕組みか、人間達の声は海中でも明瞭に響いていた。

擬似女体の目を向けると、三隻の船のそれぞれから四角い箱のような物が海中に下ろされ、そこから声が放たれていることが分かった。

しかし問題は無い。

『ずすと すすと』

このまま逃げ切り、

『おぐすとろなむ』

傷を癒せば・・・!

『えぐすとらなむ』

人が食べられる、という彼女の思考は、突然膨れ上がった激痛に阻まれた。

擬似女体の視界を、赤い色が染め上げていく。

(これは・・・血・・・?)

擬似女体の身を捩じらせ、鮫の身体に目を向ける。

すると、逆鉤のついた幾本ものやりの穂先が、彼女の鮫の身体からウニかハリセンボンのように突き出ていた。

「・・・!!」

激痛に力を失っていた尾鰭が力強く動き出し、彼女の身体を進め始めた。

ただし更なる激痛を生み出しながら、海面のほう、三隻の船の中心へ向かってであるが。

(え・・・何これ・・・!?)

彼女の尾鰭、いや体の大部分が彼女の意思に従わない。

海水を伝わって届く、人間どもの言葉が脳に染み入り、彼女の肉体を操っているかのようだ。

やがて彼女の身体は、海面へと浮かび上がっていた。

『あー、こちらは人界大図書館保安部の蓑山良一だ。人似鮫、個体名イナシィル聞こえるかぁ?』

久しく誰からも呼ばれることのなかった彼女の名前が読み上げられる。

『お前には現在、人間56名及び魔術師1名の殺害容疑で、竜宮神楽 乙姫から捕獲許可が出ている。これに基づき、お前を逮捕する』

どす黒い絶望が、彼女の心を塗りつぶしていく。

『お前には淫魔及び人間の弁護士を雇う権利があり・・・』

どこかに、逃げ道は・・・

逃げ道を探そうと視線をめぐらしていたその時、彼女は船と船の隙間から、はるか遠くの海面を『歩く』人影に気が付いた。

『取調べ中は、自分に不都合な事柄についての質問には答えなくてよく・・・』

あの方だ。

しかし、どうやってあそこまで?

この身体はぼろぼろで、泳ぐ痛みにすら耐えられないだろう。

痛みに耐え切ったとしても、この人間どもが逃がしてくれるかどうか。

『拘置施設にはお前が最低限の生存ができるよう水槽も用意してあり・・・』

いっそのこと、こんな身体捨ててしまいたい・・・

・・・捨ててしまいたい?

そうだ、捨ててしまえばいいんだ。

『以上の権利がお前にはある。どうか抵抗することなく逮捕されることを願う』

彼女は、人間の言葉に大口を開いて応えた。

彼女の持ちうるすべての魔力を注ぎ、消化器官から循環器、骨格、脳までを備えた擬似女体器官を作り出した。

彼女の持ちうるすべての記憶を、思考を、その擬似女体器官の脳に注ぎ込んだ。

そして最後に、彼女の鮫の体に残る生命力をかき集め、彼女は鮫の身体から、ぼろぼろの身体から新たに作り出した身体を、あの方の元へ向けて打ち出した。









激しい衝撃により意識が目覚める。

あれほど全身を苛んでいた激痛は消え去り、視界を埋め尽くしていた忌々しい三隻の船と人間どもの姿は消えていた。

「やった・・・」

逃げ切った、という思いが口からこぼれだす。

「ほう、お前は・・・」

声をかけられ、顔を向けるとあの方が海面に立っていた。

「久しぶり、じゃな?」

穿った穴のような二つの目と、三日月上の口を動かすことなく、その面のような顔を彼女に向けて言った。

「メエズ=ギャレリオン様・・・!」

震える声で彼女は、あの方に向けて口を開く。

「どうかお助け下さい!」

「助ける・・・?お前をか?」

「はい、深海の月を喰らうべく、力をつけていたところ人間どもに襲われたのです!どうにか今は逃げおおせましたが、また襲ってくるかもしれません。どうか、今ひとたびあたしに力を・・・」

「イナシィルよ」

あの方が、静かに言葉を挟む。

「お前は・・・なぜ、そうまでして力が欲しいんじゃ?」

不意な問いに、彼女の言葉が止まる。

「なぜって・・・」

「答えよ」

「・・・乙姫を引き摺り下ろして、海の女王の座について・・・人間界や淫魔界を支配したいから・・・」

どうにか言葉を纏め上げ、口にする。

「それでは、なぜ支配したい?」

「それは・・・もっといいところに住みたいし、もっとおいしい物も食べられるし・・・」

「『もっと』か」

彼女の言葉をさえぎり、あの方がつぶやく。

「お前らはいつも『もっと』だ。

もっと欲しい、もっとたべたい、もっと生きたい、もっともっともっともっともっと」

言葉を切り、あの方は続ける。

「そうやって、お前らはいつも身を滅ぼしてきた。

やはりお前のようなやつには、あやつを任せるわけには行かぬ」

「そ、そんな・・・」

「しかし、安心しろ」

あの方は手を伸ばし、彼女の頭に手のひらを置いた。

「お前は、人間どもの手の届かないところへ連れて行ってやろう」

「ああ、ありがとうございます・・・」

与えられた微かな希望に、彼女は表情を輝かせた。

「それでは行ってくるがいい・・・『沸騰するは・・・』」

あの方の手のひらが、かすかに輝き―

「『満月』」

その言葉と共に、『彼女』は消えた。

















『インド洋 連続行方不明事件に関する報告書(抄)』

インド洋における連続行方不明事件は、行方不明者の出た船の航路及びインド洋における海棲淫魔の縄張り分布図より、人似鮫イナシィルの犯行と判明。

『銅の歯車』所属の魔術師、黒澤武弘師の犠牲により発信結晶の設置に成功。

『帝国』所属ウルフデール号、コンロー号、『銅の歯車』所属ブルームデール号、82人の魔術師、『帝国』所属の罠人形1体を用いて捕獲作戦を実行。

しかし人似鮫イナシィルは我々の包囲網を突破して逃走、数時間後にその遺体が包囲網から1.5海里南の地点で発見された。

死因は、複雑且つ高度な魔術の連続使用による神経細胞の加熱による、脳細胞の死滅によると思われる。

遺体は、遺族等の引取り人が現れなかったため、『帝国』と『銅の歯車』で分割し、研究・開発に用いられる。

以上で、今事件の報告を終了する。



『銅の歯車』所属 蓑山良一

『人界大図書館』副長 九谷二郎













「本当にこれでよいのでしょうか」

ドアのほかには窓もなく、壁際に本棚を並べ、中央に机を置いただけの殺風景な部屋で、蓑山は机についている上司に言葉を放った。

「ええ、事実そのままですから」

長めの黒髪に、黒スーツを身に纏った男、九谷は机の上の紙束を手に取り、軽く目を走らせた。

「しかし、我々が後に海底で発見した・・・」

「何も見つかっていません」

蓑山に目を向けることなく、九谷は応えた。

「我々はあの海域から、何も発見できませんでした」

「しかし、彼女らには真実を伝えて、被害を減らすべく・・・」

「一度調べて何もなかったというのに、わざわざ海底まで潜るような真似を誰がするでしょう?」

「・・・そう、ですね」

しぶしぶといった様子で、蓑山は言葉を引っ込めた。

「それではこの報告書は、私が竜宮神楽乙姫に後で提出しておきましょう」

九谷の言葉に蓑山は頭を下げ、ドアに向けて歩き始めた。

「ところで、九谷様」

ドアノブに手をかけたところで、彼はふと思い出したように口を開いた。

「イナシィルは、なぜ海底まで潜ってあれを見つけたんでしょうね?」

「さあ」

九谷は、答えた。

「偶然と、月の導きでしょうね」






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