妖魔貴族に花束を 第一話




「う……?」

城島 整一(16)は重い目蓋をゆっくりと開けた。

確か学校から出ていつものように通学路を通って帰宅していた筈だ。

―事故りでもしたか……?

ぼんやりとした頭で思考し、周囲を見回す。

そこで整一はやっと、どうやら立っているらしいと認識した。

次に自分が豪奢な部屋にいるということ、体は拘束され動けないことを理解する。

手錠やベルトで拘束され狭苦しい棺桶のようなモノに押し込まれているのだ。

しかも全裸。

ンな阿呆な。

事故った上、追剥にでも遭って、死んだと誤解されて、挙句の果てに火葬されそうになっているのか?

最近の火葬は死体を拘束するのか?

そんなくだらない思考をつらつらとしているうちに意識がはっきりしてくる。

そして視界に入った人影。

「!」

それは女性だった。

美しくもあり、可愛らしくもあるドレスの少女。

それに付き従う侍女らしき可憐な女性。

「な…あぁ!」

見た瞬間、彼女らがマトモではないと分かった。

この女性達は、自分より―いや、人間より生物として上位の存在である事を。

その女性は整一の様子を楽しそうに観察している。

どう見ても助けてくれそうにはない。

「目覚めたようですね」

ドレスの少女が微笑みを浮かべて言う。

「初めまして。私は誇り高きノイエンドルフ家当主、マルガレーテ。貴方の運命を手折る者」

謳うように女性が言う。

「をいをい、日本どころか北朝鮮ですらないのかよ……」

なんだかドイツの軍艦の名前のようだ…と暢気に考える。

さて、最初からここが日本では無いことは分かっていた。

どんなに控えめに見ても素晴らしいと形容できる内装。

高価であるのだろうが、成金特有の下品さの無い調度品。

そして窓が一切無い地下室だか密室だか。

日本の城とは根本的に違う。

拉致といえば北朝鮮だが、そもそも北にこんな建物は無さそうだ。

「それで、マルガレーテだったか?拉致監禁は日本を始め法律を制定している国家では犯罪なんだが?」

意外と落ち着いた様子で言う整一。

それに対してマルガレーテと名乗った少女はクスクスと微笑む。

「それは私が人間なら通用する言葉ですわね」

「……マジか」

薄々気付いてはいたが、こいつらやっぱり人間じゃない。

いやいや待て待て城島 整一、クールになれ。

この科学文明社会にて人間じゃない存在なんて寝物語にしかならない。

異星人なら可能性は無きにしも非ずだが、もしそうなら服はドレスやメイド服ではなく宇宙服だろうし場所は西洋城ではなく宇宙船の中になる。

残念。

今更ながら冷や汗が流れてきた。

「……俺はどうされちゃうのかね…?」

恐る恐るといった体で聞く整一。

「拷問にかけて差し上げます。甘美な快楽の拷問に……」

フフ、と妖艶に微笑むマルガレーテとは対照的に整一の顔色は急降下。

マルガレーテの言葉はとてもじゃないが冗談には聞こえないし、状況が状況だ。

「エミリア、あなたはもう下がっていいわ」

「かしこまりました。失礼いたします」

エミリアと呼ばれたメイドはうやうやしく頭を下げると退出し、部屋には整一とマルガレーテのみとなった。

「さて…始めましょうか」

悠然と歩み寄るマルガレーテに恐怖心しか沸かない整一。

悲鳴を上げないだけマシだ、と冷や汗を流しながら考える。

ではなにを恐がっている?

目の前の少女か?

整一が思考している間に箱の蓋に手をかけ、整一を覗き込むマルガレーテ。

「貴方が入っているそれはアイアン・メイデン。名前くらいは聞いたことがあるでしょう?」

知っているも何も整一の趣味は歴史鑑賞(とでも言えばいいか)である。

日本近代史が専攻ではあるが、世界史だって触り程度には調べている。

結果中世ヨーロッパであった有名な事件はある程度知っているのだ。

そして拷問の方法も……。

「まさか自分がくらうとは……」

予想外DETHE。

しかし恐怖の正体は分かった。

「あら?覚悟は出来ているみたいですね」

「冗談。恐くて今すぐ逃げたいね」

もし体が自由なら肩の一つでも竦めている。

竦められないから逃げられないのですがネ。

「あらそう。でも、これには刃なんて無粋なものは付いていませんから安心してください」

「何されるか分からないので余計恐いですな」

正直な気持ちではあったし、声も震えている。

正直整一はもういっぱいいっぱいだ。

それを見て笑みを深めるマルガレーテ。

ゆっくりと蓋の裏を整一の見える位置まで動かす。

整一からも蓋の裏が見えた……。

「……あの……」

「なにかしら?」

「激しく気持ち悪いのですが……」

肌色の軟体がみっしりと張り付き、なんか蠢いているのだ。

『静丘』か『警報』にでも敵キャラとして出てきそうな物体だ。

「これは『搾夢淫肉』と呼ばれる意思を持つ肉床。この肉床は貴方のおちんちんを包み込み、精液を吸い尽くすのです。気持ちよさそうでしょう?」

しかし、当の整一は……。

「正直これに萌えられたらある意味英雄だな」

うへぇ、という表情で『搾夢肉床』を眺める。

よく見ると蓋の裏には顔の高さの部分には小窓が付いていて、蓋を閉めた後もそこから獲物の顔が見えるようになっている。

あそこから獲物が悶える様を観察しようということか……。

「この蓋を閉めれば貴方の全身にこの『搾夢肉床』がにゅるにゅると密着し、たちまち貴方はおちんちんを膨らませてしまいますわ。すると『搾夢肉床』は貴方の大きくなったおちんちんにねっとりと絡み付いてくるのです。搾夢肉床はおちんちんだけじゃなくあらゆる性感帯を包み込んで愛撫してきます。ぐにゅぐにゅと全身を揉み立て、天国を味あわせてもらえますよ。おちんちんは特に優しく可愛がられ、たちまち貴方は絶頂へと導かれるでしょうね」

「聞いてると新手のプレイにしか聞こえないけど……つまり搾り尽くされるってことかい?」

「理解が早くて助かります。そういうことですわ」

洒落にもならん。

整一の顔には呆れと恐怖が8:2の割合で浮かんでいる。

詰まる所この少女、マルガレーテの趣味なのだろうコレ(拷問)。

「この『搾夢肉床』は、『鉄の処女(アイアン・メイデン)』にちなんで処女――男の精を搾ったことのない下級淫魔から精製されたものなのですよ。知っているでしょう?サキュバスくらい」

「まさか本当にいるとは思わなかったけどな」

「フフ……そのサキュバスに貴方はこれから吸い尽くされるのです。ゾクゾクするでしょう?」

「恐怖でね」

やれやれ、と唯一自由に動く首を振る。

「そう言う割には落ち着いていますね」

「まあね。どうやって逃げ出すか考えるには落ち着かないと」

ヌケヌケと言う整一に、マルガレーテは笑い声を上げる。

「ふふふふ♪お好きにどうぞ」

この男がどんな顔で悶えるか、マルガレーテは深く興味を覚えた。

「では、参ります」

マルガレーテは蓋に手を添え、ゆっくりとそれを閉じていく。

「うぅ……」

整一は恐怖に呻く。

「ふふ……ふふふ♪」

マルガレーテはじわじわと蓋を閉じ、恐怖を煽っていく。

「さあ、その命尽きるまで……悶えなさい」



びちゃり―



粘性な音をたて、アイアン・メイデンの蓋は完全に閉じられてしまった。

どういう仕組みか、蓋が閉じられた瞬間に革ベルトなどの拘束が解かれる……と同時に……。

「うぐぅぅぅぅぅぅぅっ」

ぐちゅ…ぐちゃ…にゅぐにゅぐ…。

『搾夢肉床』は即座に整一の体を包み込んで、ねっとりと責め始めたのだ。

完全に勃起しきった陰茎に『搾夢肉床』が絡みつき、凄まじい快楽を送り込んでくる。

「ふふ……気持ちいいでしょう。逃げられますか?そこから」

快楽に顔を歪める整一を小窓から眺め、マルガレーテは妖艶に微笑む。

「くっ……かはっ…!」

どくんどくん……。

きつ過ぎる快楽にすぐに射精してしまう整一。

ペニスの先から噴き出した精液は、『搾夢肉床』にじゅるじゅると吸い上げられていく。

射精中のペニスにも肉壁が絡んで揉み込み、最後の一滴までを絞り出す。

その感覚に身悶えしてしまう。

「もう漏らしてしまいましたの?」

整一の情けない表情を眺め、蔑むように話しかけるマルガレーテ。

そして頭部の小窓から手を伸ばし、青年の頬を白く冷たい手で優しく撫で擦る。

「ぬぁっ!?」

撫ぜる手からの方が『搾夢肉床』より数段上の快楽を整一に与える。

これが女王級淫魔……。

その間にも陰茎は『搾夢肉床』に深く飲み込まれる。

下半身に向かって肉塊が侵攻を開始したのだ。

ぐにゅぐにゅ…ぐにょぐにょ…。

亀頭が『搾夢肉床』にぐにゅぐにゅと包まれ、鈴口を嫐り回される。

「ぐぁぁ……くぅぅぅぅぅ……!!!」

二度目の爆発が合間を空けずに迫り、痙攣するように悶える整一。

「もう二度目かしら?堪え性が無いのですね」

小窓から見下ろすマルガレーテが言う。

「いいですわよ、出しなさい」

「ぐあっ……!」

優しげに命令するマルガレーテの声を聞き、射精してしまう。

「射精している貴方の顔、可愛らしいですよ」

「こ……この……」

屈辱と快感に整一は呻く。

「後はアイアン・メイデンに可愛がってもらいなさい。それではさようなら。屍になった後、出してあげますわ」

マルガレーテは満足げに微笑むと、小窓を閉めた。

彼女の足音が徐々に遠ざかっていく。

「ぬおあっ!?おいこら待て!!せめて窓は開け…おぁああっ!」

整一は快感に悶えながらも力の限り叫ぶ。

しかしマルガレーテは、ジタバタと喚く整一の入っているアイアン・メイデンに一瞥もくれずに地下室を出ていった……。

バタン……と扉が閉まる音が響くと、後には静寂だけが残された……。

「この野朗!開けろぉ!本当にぶち破るぞ!いいんだな!」

喘ぎながら叫ぶ整一に答える者はいない。

「ひぅっ!く……、俺は本気だからな……!」

整一は射精しながらもスッと目を瞑り、集中する。

『搾夢肉床』の嬲りはそれでも続き、なかなか集中しきれない。

そろそろまずい……という時、整一の生への執着が普段でも稀なほど神経を研ぎ澄ましてくれた。

「っ」

ゴッ!!!!

狭く不安定な場所から放たれた整一の拳はしかし棺の蓋の弱い場所を確実に突き、粉砕した。

あまりに的確なダメージは『搾夢肉床』の生命活動まで停止させていた。

「イジェクト(離脱)成功だぜ……」

フ、と不敵な笑みを浮かべる整一。

しかし、あまりにも精を吸われ過ぎて体にまともに力が入らない。

結果、床とキスする羽目になった。

薄れていく意識の中、誰かが近付いてくる気配を感じた……。



「この人間、なかなかすごいじゃない」

棺の前で失神している整一を見て微笑みを深くするマルガレーテ。

「エミリア、この人間を回復させて揺籠の部屋に運んで頂戴」

マルガレーテは後ろに控えるメイドに命令する。

「了解しました」

エミリアは不平一つ言うことなくそれに従った……。



※  ※  ※



「う……ん?」

目を覚ました整一は、天井から下がっている鎖に腕、革ベルトには胸を拘束されていた。

しかも床から足が1メートルほど離れている

もちろん全裸だ。

「チッ」

その瞬間自分が脱出に失敗したことを悟った。

「また会いましたね」

それを見上げながら、マルガレーテが言う。

「遭った……って感じだな、俺には」

整一は苦虫を百匹まとめて噛み潰したように表情を歪めた。

「そんな顔をなさっては折角の男前が台無しですわよ」

「はいはい、お前も美人だヨー」

マルガレーテのからかいを受け流し、おざなりに返す。

「……」

しかし、マルガレーテは少し面食らったような表情を浮かべた。

今まで遊んできた玩具は自分に恐怖するか憎悪を向けるばかりだったが、この少年にはそういうモノが無い。

いや、恐怖はあるのだが拷問に対するモノばかりでマルガレーテ自身に対する恐怖が他と比べて薄いのだ。

この少年は、マルガレーテの実力を正確に把握しているのに…だ…。

アイアン・メイデンで責めた時からだが、どこか調子を狂わされる。

「それで?今回はなんなんだ?」

「!」

整一の声で我に返るマルガレーテ。

「……あなたの健闘を祝して自由にするチャンスを与えて差し上げようと思いましたの」

喋っているうちに調子が戻り、いつもの酷薄な笑みを浮かべる。

「!?本当かよ?」

「ノイエンドルフ家の名にかけて」

「よし、バッチ来い!」

あまりにも素直に気合をいれる整一に疑問を抱くマルガレーテ。

「私は嘘を言っているかもしれませんよ?」

「んな嘘ついてあんたになんの得があんのさ?あれだろ、希望をちらつかせて必死になるのを見て楽しむんだろうけどそういう希望は本物の方が効果的だ。違うか?」

「よく分かっていらっしゃる」

不敵に笑う整一ににっこりと微笑み返すマルガレーテ。

「では、説明を始めます」

マルガレーテが軽く指を鳴らすと、整一から1メートルほど後方の位置の大理石の床が開いて、台のようなものがせり上がってきた。

「これより、その台に貴方の足を固定します。体の力をお抜きなさい」

「……やっぱり嫌な予感してきた」

「今更ですね」

整一の弱音を、小馬鹿にするように笑う。

マルガレーテが再度指を鳴らすと、吊り下げられている整一の足が台まで引っ張られていく。

所謂魔術というヤツだろう。

台からしゅるりと革ベルトが伸び、整一の両つま先や足首を固定する。

体が斜め45°くらいに前傾する。

「では、そのまま腰を引きなさい。後方に逸らすのです」

「……至極情けない格好だな……」

くの字になり、溜め息をつく整一。

「一時間その姿勢を保つのが、今回の拷問です」

「……後でシップくれるんだろうな?」

マルガレーテは整一の言葉を無視して言葉を続ける。

「ただし、その姿勢が保てなくなってしまえばこの中に……」

整一の吊るされている部分の真下から前方までの床が開き、人間なら軽く十人は入れる巨大なバスタブのようなものが姿を現した。

もはや小規模のプールといっても過言ではない。

ただ、普通のプールと違うのは、その中でにゅるにゅると動く奇妙な肌色の軟体で満たされていることだ。

「おい、これって……」

「ふふ…そう、これは搾精肉槽です。そしてこの中に満たされている搾精淫肉は、『淫魔の肉』とも呼ばれる極上品。先程の『搾夢肉床』とはレベルが違いますわ」

整一の額に冷や汗と脂汗が同時に浮かぶ。

しかし、体はあの快楽を思い出し反応してしまう。

それを見てマルガレーテは楽しげな笑みを浮かべる。

「分かっていると思いますが、この『淫魔の肉』におちんちんを浸してしまえば全ての精液を搾り取られてしまうのです天上の快楽を味わいながら、その命が尽きるまで―」。

「アレよりレベル上かよ」

本当に趣味悪いな、とマルガレーテを見る整一。

「さらに詳しく説明して差し上げましょう。『淫魔の肉』とは、上級の女性淫魔から精製された肉床。ちゃんと高等な意思があり、この子は年若い少女の精神を持っているのですよ。ふふ…」

「中身がそうだとしても外見がコレじゃ無理」

「そんなことを言っていられるのも今のうちだけですよ?貴方のおちんちんをそこに浸せば、やわやわと揉み込まれながら絡み付いてもらえます。きっと天国が味わえますよ」

そう言われても……としかめっ面を浮かべる整一。

「安心なさって下さいね。『淫魔の肉』はおちんちんの先をくすぐる程度しかしませんから」

ん?と整一は首を傾げる。

「どう云う意味だ?」

「つまり貴方が自らの意思でおちんちんを『淫魔の肉』に浸さない限り、絶対に射精はできません。これで、遊戯のルールは全て終わりですわね。理解なされたかしら?」

「それなんて焦らしプレイ?」

整一はその恐ろしさが如実に想像出来てしまった。

「ふふふ、さぁ準備はよろしいですね?では、腰を引いたままでいて下さい」

マルガレーテが指を鳴らすと搾精肉槽がじょじょにせり上がって、膝の高さから腰の高さまで……整一の陰茎を呑み込もうとする距離まで、搾精肉槽は近付いてきた。

「う……」

精一杯に腰を引いてその搾精肉槽から逃れようとする……が、鈴口に『淫魔の肉』に触れた。

「う…あぁぁぁぁぁ……」

途端、鈴口や亀頭をくすぐられ腰が砕けそうになる……が、すぐに持ち直す。

それでも『淫魔の肉』は、整一の鈴口部をくすぐり続けている。

「あら、流石ですわ」

その姿を見て賞賛の言葉を発するマルガレーテ。

「そいつはどうも。美人に誉められるとやる気が増すねェ」

苦しげに笑いながら、そんなことを言う整一。

「……………」

見下すような笑みを浮かべているマルガレーテだが、やはり心のどこかに困惑が残る。

「―では、快楽の拷問を始めましょう」

調子を取り戻そうと少し強めに宣言し、懐中時計を取り出す。

「今はちょうど11時。0時まで耐え切れば、約束通り貴方を解放して差し上げます」

こうして二回目の拷問が始まった。



「は……う、あくぅぅぅぅ……」

『淫魔の肉』は、整一の先端に絡み付いて執拗に責め嫐ってくる。

その感触に整一は喘ぐ。

「あらあら、そんな声を出して……。腰の力を抜くだけで楽になれますよ?」

「お断り……いィっ!」

ビクッと腰が跳ね、危うく落ちそうになる。

「優しく亀頭に絡まれて……ねっとりと包み込まれて……甘い蠢きとともに何度も射精させられる―。平凡に生きていては絶対に味わえない快感。己の命と引き替えにしてでも男の方なら味わってみたいのではなくて?」

クスクスと笑いながら囁くように整一に言うマルガレーテ。

「死ぬのは……ちょっとね」

「……」

やはり恐怖でも憎悪でもなく、闘志を燃やすばかりの整一。

やはりナニカに心を掻き乱されるマルガレーテだった……。



「おーい、後どの位だ?」

平気そうに見えて、全く平気そうじゃない整一の声。

簡単に言うと電子音かと思うほど抑揚が無いのだ。

「もう、終わりですわ。流石ですわね」

マルガレーテは拷問を耐え抜かれたという悔しさも見せず、むしろ良い物を見せてもらったという表情を浮かべている。

整一は自分の期待を裏切らず、『淫魔の肉』の責めを耐え切った。

それがたまらなく愉悦だった。

「これで帰れるんだろうな?」

床に降り、腰を擦りながら整一は言った。

「えぇ、勿論」

柔らかな笑みを浮かべながら、マルガレーテは整一の正面に立つ。

その白魚のように細く小振りな手が、整一の顎を静かに捉えた。

「!」

「ふふ……貴方には本当に愉快な時を過ごさせて頂いたわ。私を愉しませてくれた礼と、そしてその強固な意志への祝福に……」

マルガレーテは整一の懐に滑り込み、その顔を見上げるように上目遣いを取って唇を近付けていく。

「っ!待て!」

「!?」

ガシッ!と両肩を掴まれ、困惑するマルガレーテ。

「そういうコトは本当に大切なヒトにしなさい」

「…………」

マルガレーテは驚き半分、呆れ半分で整一を見上げた。

淫気に流されぬ確たる意思と、ここまでされながらも相手を気遣うその精神。

「フフ、本当に気に入りましたわ」

「!」

愉悦の笑みを浮かべながら強引に唇を合わせるマルガレーテ。

唇が重なった瞬間、整一の両眼が見開かれ体がびくんと跳ねる。

小刻みな震えが止まらない。

舌を絡めたりはしない、唇を重ねるだけのキス。

あまりにも甘いマルガレーテの唇。

整一も例に漏れず、それだけで射精してしまう。

マルガレーテはそんな整一の姿を楽しみながら、キスを続ける。

柔らかい自身の唇をねっとりと密着させ、なぞるように舌を這わせていく。

そして……。



「……ん」

マルガレーテは、ゆっくりと唇を離した。

同時に、整一はその場にどさりと倒れた……。

「あ…あぁ……あおぉ……」

弛緩しきった表情で、整一はどぷどぷと精を漏らし続ける。

最上級である淫魔の接吻を受けてしまった整一は、なんとも惨めな姿となった。

「人間とはなんと脆い……あれだけ強固な意志を示していたというのに、唇を舐めただけで壊れてしまうなんて」

呟くように言うマルガレーテの表情は、あまり優れていない。

彼なら自分のキスを受けても飄々とした態度を見せてくれるのではないか……と心の何処かで思っていたのだ。

しかし……。

肉槽に満たされた『淫魔の肉』がじゅるじゅると蠢く―

それを横目に捉えマルガレーテは一瞬躊躇したが、軽く指を鳴らした。

いつものように、肉槽から粘肉が伸び、横たわっている男の足や腰、胴に巻き付いた。

全く抵抗の様子も見せず、緩んだ表情で精を漏らし続ける整一の体を、肉槽内に引きずり込んだ。



―ドプン―



奇妙な粘音を立てながら、整一の身体は『淫魔の肉』に沈み込む。

全身をねっとりと包み込まれ、は体の隅々まで嫐り尽くされていく。

もはや整一は、死ぬまで精液を搾り取られる有機体に過ぎない。

もっとも、それ以前に彼の理性は壊されているだろうが……。



激しく蠢いていた『淫魔の肉』の表面が、春の湖面のように静かになった。

ノイエンドルフ城の地下室を、氷のような静寂が支配する。



マルガレーテが指を鳴らすと、ドアを開けてエミリアが入ってきて、主人の前にかしづく。

「いかがいたしましょうか、ご主人様」

「エミリア、次の者で遊ぶわ。水槽の部屋を用意して―」







続く








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