愛情の果て




「ねぇ、言ってごらんなさいよ。誰と食事してたの?それから昨日の晩、誰かと電話してたでしょう?隠すつもり?・・・言わないと、また捧げることになるわよ」



麻巳はそう言いながら、さらにきつく締めあげてきた。今夜はいつもよりも、心なしか激しく責められているような気がする。



     ☆  ☆  ☆



・・・付き合い始めてもう4年になる。僕にとっては最初の恋人だ。そして恐らく最後の恋人になるのではないかと思っている。どうしてそんなことがわかるのかって?それは僕にもよくわからない。彼女を愛しているからかもしれないし、あるいはもう、彼女から逃れることができないからかもしれない。



付き合い始めて2年くらい経った頃からだろうか。麻巳は僕の行動をいちいち気にするようになった。自分の知らないところで僕が、他の女の子と共にいることを許さないようになった。束縛は日増しにエスカレートし、しまいには僕が友達と遊びにいくことにすら、激しく怒るようになった。



麻巳の体の変化に気付いたのは、それからしばらくしてからのこと・・・



その夜も麻巳は怒り狂っていた。これさえなければ誰よりも幸せな夜を過ごせるのに。



「どうして電話に出なかったの?」

「誰と一緒にいたのよ!」



麻巳は激しく問い詰めてきた。偶然鉢合わせた大学の友だち(それも女の子)と一緒にいたとも言えず、かといって嘘をつくのも気が引ける。困っている僕に麻巳はさらに詰め寄る。いつもならば僕に至福の時を味あわせてくれる、その蛇のようなしなやかな肢体は、激しく僕を責める鞭となる。そして・・・



「許さない・・・私から逃げようなんて、許さない・・・」



そう言うと同時に麻巳の体が浮いたのだ。いや、浮いたのではない。驚くべきことに、腰から下が大蛇となり、高く鎌首を持ち上げたコブラのごとく僕を見下ろしているのだ。



恐ろしさのあまり何も出来ない僕に、麻巳はその長い体を巻き付ける。熱にうなされたかのように、逃がさない、逃がさない、と言いながら。



それは非常に苦痛を伴うものだった。絞め殺されてしまうのではないかと思った。それは同時に快感を伴うものだった。絶望的な気持ちになった。



僕は、それでも麻巳は美しい、と思った。それでも麻巳が好きだ、と思った。変わり果てた姿になった麻巳を愛し抜こう、と思った。とぐろの中から必死に両手を伸ばし、その胴体をきつく抱きしめた。麻巳は泣いていた。僕が悪いんだ。ふと、そう思った。僕の誠意が見えないから、麻巳は僕を束縛するのだろう。束縛する気持ちが強くなり過ぎて、このような姿になってしまったのだ。全部、僕が悪いんだ。



翌朝、彼女の体が元通りに戻っているのを見た時には、安心したものだった。やっぱり夢だったのか。



しかし、夜になったらまた蛇になっていた。疑われるようなことは何もしていないのに。

すると、麻巳は前日とは打って変わって、蛇の胴体を僕にやさしく擦り付けてきた。まさかこのまま・・・



「ひ、、、ひぃぃぃ、、、はぁぁぁっっっ」



とてつもない快感に、思わず叫んでしまった。叫ぶと同時に精子が飛び散った。体が裂けてしまうかと思った。長い体によって、全身が同時に刺激される。全身の性感帯が全て刺激される感じだ。快感のあまり死んでしまうのではないか。本気でそう思った。

僕の両足の間に挟まった胴体がまた、ヌラリと滑る。あっという間に興奮のメーターが上がり始めた。もうどうにでもなれ。目を閉じると、覚えのある感触が僕を包んだ。



「ごめんね・・・」



麻巳の声だ。麻巳の体感だ。上半身は麻巳のままだ。



「どうしてこうなっちゃったのか・・・私にもわからないの・・・」

「僕が悪いんだ」

「そんなこと・・・あぁぁぁぁっっっ」



突然、麻巳の体が震え始め、麻巳は僕に激しく抱きついてきた。僕も麻巳をきつく抱きしめた。



「体が・・・止められないの・・・」

「え?」

「入れて・・・」



僕の腕の中にいた麻巳の体がするりと抜けた。麻巳の体が持ち上がっていく。目の前に麻巳の胸が来た。へそがきた。その下には・・・

そう、その辺りに、一筋の線があった。



「ここに・・・入ってきて・・・」



僕は、麻巳の新たな口にキスをした。麻巳の体がピクンと動いた。そのままその口に舌を入れた。何も変わらない、麻巳の味だ。

僕は麻巳の上半身を目指した。いつものように。麻巳の体を愛撫した。いつものように。

そしていつものように、重なり、ひとつになった。その瞬間・・・



「!!!!!!!!!!!!!!!」



何が起ったのかはわからない。ただ、射精が止まらないのだ。体が全て液状化して麻巳の体に流れ込んでしまうのではないかと思った。それでいいと思った。



僕は気絶していたらしい。翌朝、人間の麻巳が横ですやすやと寝息を立てているのを見ていたら、なぜか涙が溢れてきた。



この夜から、僕は麻巳という蛇と夜を共に過ごすことになった。極上の快感に酔わされる夜もあれば、激しい責め苦に遭う夜もあった。どちらにしても、翌朝の疲れは尋常ではなかった。それも全てひっくるめて僕は幸せだった。



     ☆  ☆  ☆



しかし、今夜は何かが違う。責められていることには変わりないのだが、それだけでは終わりそうにない、何かを感じるのだ。



いつもならば、気絶するまで締め上げる(その間にも僕は快感のあまり何度も射精してしまう)だけなのだが、今夜の締め付け方はどこか違う。いつもよりも激しい、と言えば確かにそうなのだが、それだけではない。

そう思う間にも、麻巳はヌメヌメととぐろを動かし、その中でまた僕は達してしまった。

しかし何度達しても麻巳は攻撃の手を緩めない。



「言いなさいよ!隠せると思ってるの?ねぇ!」



麻巳の声は次第にうわずってくる。息が荒くなってきているのがわかった。



「言いなさいよ・・・ねぇ・・・言いなさいよ・・・」



声がだんだん震えてくる。胴体にも震えが伝わってくる。

そして・・・



「グワッ、グワッ」



突然、聞いたことも無い声を出し始めたのだ。何が起こっているのかはよくわからないが、本能的にまずいと思った。



僕を束縛していたとぐろが突然ほどけた。放り出された僕は、信じられない光景を目にした。



ずるっ、、ずるるっ、、



麻巳の中から、麻巳が出てきた!

いや、違う。

脱皮だ。麻巳が、脱皮しているのだ。



どうなってしまうのだろうか。僕は腰を抜かして見ているよりほかはない。



・・・「脱皮」が終わったようだ。

中から出てきた新たな麻巳はみずみずしく、前にも増して美しいように感じられる。しかし、ぬめった肌は前にも増して鈍く輝き、また一歩蛇に近付いたようにも思える。



蛇に近付いたのは肌だけではないようだ。

麻巳は、にぃっ、と笑った。口が耳まで裂けているのが見えた。先が2つに分かれている舌が見え隠れした。

麻巳はまた僕の体を巻き取りながら言った。



「もういいのよ。言わなくたって。あなたは永遠に私のもの。もう逃げることはできないの」



告げると同時にとぐろをうねうねと動かし始めた。全身を陰部に包まれて引き込まれていくような感触、と言ってわかってもらえるだろうか。全身から射精をするような感覚、と言ってわかってもらえるだろうか。



「・・・・たい・・・」



麻巳の声がかすかに聞こえた。よく聞こえなかった。しかし、聞き返す余裕はなかった。



もう何度達したか覚えていない。麻巳のとぐろの中で、されるがままになっている。体に力が入らない。力を入れようと思うことすらできないのだ。もう麻巳に体を委ねるしかない・・・







また気絶していたようだ。麻巳の腕の中で目が覚めた。



麻巳の顔が近付いてきた。そして耳元でそっとつぶやいた。



「・・・他の誰にも渡さない」



麻巳の顔が正面に来た。



麻巳の細い指が、僕の首筋をなぞって、そのまま顔を少し持ち上げた。



麻巳の唇が僕の唇と合わさった。



長い間、僕たちはキスをした。



僕は夢見心地で目をつぶっていた。



ふいに麻巳の唇が僕から離れ、震えながらささやいた。



「・・・ごめんね」



僕はゆっくり目を開いた。



目の前には、グワッと開いた巨大な口があり、銀の唾液が糸を引き、その向こうには深い闇があった。

麻巳は両手で僕の頭をつかんで、口の中に押し込んだ。

僕の頭が麻巳の口にやっと収まった。

とぐろがゆっくりと動いて、僕の体をさらに口の中に導く。



麻巳に食べられている。これ以上幸せなことがあるだろうか。

麻巳の舌が、食道が、体内の柔らかな感触が、僕の全身に伝わってくる。ああ、これから消化されるんだ。麻巳の一部になるんだ。心も体も、絶頂を迎え続けて、とどまることを知らない。



僕は目を閉じた。



(終)






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