呑口列車




ガタン!と電車が揺れた。よろけて、後ろの人の足を踏んでしまう。「すみません」と言おうと振り返った瞬間・・・満員の乗客の形が突然崩れ、波打つ肉襞と化したのである。



突然のことに驚いた私は、助けを求めようとドアの方に向かった。電車の壁に手が届いた。その瞬間、壁はドロリと溶け、電車全体がぬらぬらとした肉洞となったのだ。そして、襞の一枚一枚がまるで生きているかのように蠢き、私を弄び始める。

何が起こってしまったのだろう。肉の群れにされるがままになった私は、逃れようと必死にもがいた。しかし、なすすべもなく肉から肉へと運ばれてしまう。



・・・駅に着けば大丈夫なはずだ!

根拠も無くそう思った瞬間、車内放送が流れた。女性の声だ。



「まもなく、胃に到達します。」



私はすぐにはその車内放送の意味を理解できなかった。肉襞たちに運ばれていくうちに、だんだん、車内放送の意味、自分の置かれている状況がようやくわかった。



・・・今自分は、巨大な生き物の食道にいて、これから胃に入り、消化されるのではないだろうか。

いつものように通勤の電車に乗り込んだはずだった。しかし恐らくそれはエサを捕まえるための罠だったのだ。口を大きく開いて、中で舌をチラチラと動かして、魚をおびき寄せるカメを、テレビで見たことがある。今朝私が入ったドアは、巨大な生き物の口だった、ということになる。



いや、待てよ。だったら、あの車内放送は何だろう?



そう思った瞬間、目の前まで迫っていた「胃」の入り口がくぱぁ、と開き、数本の手が伸びてきて私を「胃」に引きずり込んだのだ。



手?



そう。手が伸びてきたのだ。女性の手だ、と思う。胃壁からニョキニョキと、ピンク色の、女性のような生き物が生えていて、私に迫ってきたのである。足は電車に、いや、「胃壁」に繋がっており、体全体が触手のように蠢いている。



また車内放送が流れた。



「消化します。ご注意ください」



何がご注意だ、と怒る間もなく、その「女性」たちは、ネバネバとした「肉体」を、私にこすりつけてきた。その肉体は、豊満な胸とくびれた腰で私を咀嚼する。これからどうなってしまうのだろうか。



私に触れると、「女性」たちの体からは粘液が染み出してきた。私の着ているスーツは間もなく形を無くした。時計もいつの間にか溶けてしまったようだ。きっとこの液が消化液なのだろう。自分はどうやら溶かされてしまうらしい。逃れようにも逃れられない。諦めが先行し、落ち着いたところで初めて気づいた。こんな状況にもかかわらず、私の一物は臨戦態勢に入っている。。。



次第に「女性」たちが私の周りを埋め尽くしてくる。まるで満員電車だ。ただ違うのは、周りの「乗客」が全て「女性」のような肉塊であることと、私がが全裸であること。



その「女性」たちの官能的な曲線がまとわりついてくる。満員電車の中で女性の胸やヒップが偶然私の体に触れてしまった時のような罪悪感を感じる。この期に及んで罪悪感も何もあるまい、と私の一物は存在を主張している。勃起していることが女性にバレたりでもしたら、恥ずかしいやら誤解が怖いやら・・・そんなこんなで困っていると、目の前にいる「女性」が、ヒップの割れ目のような部分を一物にこすりつけてきたのである。そして、まるで痴女のような腰つきで、ぱっくりと私をくわえこんだ。



「ああ、あああ、、、」



情けないことに私は、あまりの気持ちよさに耐え切れず、10秒もたたないうちに精を放出してしまったのである。腰を抜かしそうなほどの快感によろめいたところで、今度は真後ろの「女性」が私を支えるように胸を押し当ててくる。さらに、手を股間部分に伸ばしてきて、一仕事を終えたペニスを刺激し始める。横にいる「女性」たちは舌を伸ばしてきて私の上半身をまんべんなく舐めてくる。また射精させられてしまうのか。抵抗しようにも抵抗できない。もうどうしようもないのだ。



前から新手の「女性」が生えてきた。女陰のようなものが見える。「女性」はそれを広げながら近付いてくる。どういうことになるのかは容易に想像できた。想像通りのことが起こった。私はそれに呑み込まれ、また精子を吐き出した。

どんなに射精しても、「女性」は私を解放してくれない。それどころか、腕を伸ばして私に強烈に抱きついてくる。



もはやどうすることもできないのだから、と観念した私は、目の前にいる「女性」を強く抱きしめた。「女性」の背中に手を回すと、変わり果てた自分の手が目に入った。消化されているのだ。無表情で私から精子を搾り続ける痴女状の胃壁に消化・吸収されているのだ。



前も後ろも私を咀嚼する痴女。消化が進めば進むほど、肌への快感を直に感じるようになる。もう射精が止まらない。いや、発射されているのが精液なのかどうかもわからない。全身で私自身を放出している感じだ・・・



・・・私は・・・ほとんど形を無くし・・・



・・・神経に直に伝わる快感に・・・身を委ねるしかなく・・・



・・・最後に聞こえたのは・・・



「ご乗車、ありがとうございました・・・」




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