土曜の夜は




薄暗い廊下に、僕の足音だけが響いている。

壁の床付近には常夜灯が点いているが、ついさっきまで明るい光の元で仕事をしていた僕の目には、十分な明かりとはいえなかった。

真っ暗な空間に点々と光が点る廊下を、壁に手を当てつつゆっくり進む。

ふと腕時計を見ると、蛍光塗料の塗られたの針が「一時」を示していた。

不意に周囲の暗闇が広がる。エレベーターホールだ。

僕は階表示のランプを頼りにエレベーターの前にたどり着く。

そして、手探りでボタンを見つけ、押した。

遠くから、うめき声のような音が響く。

階表示が「1」からあがっていき、「12」で止まる。

ほぼ同時に扉が開き、まばゆい光が僕を照らす。

僕は身を滑り込ませ、一階と「閉」のボタンを続けざまに押した。

再びエレベーターが音を立てながら動き出す。

(とりあえず、下についたら警備員に挨拶だな)

そして、いつものように苦笑いをしながら頭を下げ、裏口を開けてもらう。

後は停めてある僕の自転車にまたがり、自宅まで帰って寝る。

明日は休みだから、目覚ましをセットする必要もない。

(その代わり、明後日は一番に出てきて会社の鍵を開けないとな)

ちん、という音を立て、エレベーターのドアが開く。

僕は一歩外へ踏み出し―

(あれ?)

何かがおかしい。なんともいえない、違和感がある。

―どん

「うおっと」

両肩を、閉じてきたエレベーターのドアにはさまれ、驚きの声とともに、さらに一歩踏み出す。

振り返った僕の目の前で、エレベーターのドアが閉じる。

そして、辺りが闇に包まれた。

「え?」

はっきりとしたおかしさに、僕は声を上げていた。

一階ならば、エレベーターを出るとちょうど正面に、ビルの出入り口のガラス戸がある。

そして、そのガラス戸を通して、薄暗いとはいえ夜の街が見えるはずなのだ。

でも、今の僕の目の前に広がるのは、闇。

非常時のための常夜灯さえ点っていない。

(間違えて地下のボタン押したのかな)

頭をかきつつ、エレベーターのボタンを探る。

―無い。

手に触れるのは、ゴムか何かのように柔らかく、生温かい素材の壁だった。

カバンを下ろして両手を突き、壁の表面をこするようにして、上下左右を探る。

しかし手のひらには、ボタンどころかエレベーターのドアの段差さえ感じられなかった。

僕が目の前にしていたのは、ただの、平坦な、柔らかく生温かい、壁。

「そ、そんな・・・」

カバンもそのままに、僕は手で壁を撫で回しつつ、右に移動する。

すり足で移動しながら、壁の表面に、床に、何か異常が無いか調べる。

一つ目の部屋の隅は、二メートルも移動しないうちに来た。

ほぼ直角の隅に沿って、探索を進める。

手のひらに感じるのは、なめらかで柔らかく、生温かい壁。

靴越しに感じるのは、壁よりも柔らかく、弾力ある床。

毛足の長いじゅうたんか、泥沼のように足にまとわりついてくる床を、難儀しながら進む。

―ずぼん

「うわっ!」

唐突に、右足が落とし穴にでもはまったかのように、床にひざまで突き刺さる。

僕はバランスを崩し、床に倒れ伏していた。

でも、体に痛みは無い。

柔らかい床が、体をやさしく受け止めてくれたからだ。しかし―

「ああっ!」

立ち上がろうと床に手をつくも、その手が床に飲み込まれる。

顔面を床に打ち付けるかと思ったが、やはり床は優しく受け止めた。

立ち上がろうと、深みから逃れようともがけばもがくほど、床は僕の体にまとわりつき、体を沈み込ませていく。

そしてとうとう、僕は床の上に顔だけをさらすのみとなった。

「だ、誰かぁー!」

『・・・ふふ・・・』

暗い部屋に、僕の叫びに答えるように小さな笑い声が響く。

思わず動きを止め、声に問いかける。

「だ、誰・・・?」

『大丈夫、もうそれ以上沈まないから、安心して』

高い声が一方的に言い放つと、体を包む床のうち、脚の辺りの部分が硬さを取り戻した。

目に見える速度で沈んでいたからだが、完全に止まる。

『驚いた?』

「だ、誰・・・?」

声の問いかけに、僕は間抜けなことに問いで返していた。

『うーん、わたしは・・・ま、見てもらったほうが早いわね』

ぱちん、と指が鳴り、暗闇を光が引き裂く。

とっさに目をつぶったが、まぶしさをこらえながら目を開く。

真っ白な光に照らされていたのは、わずか六畳ほどの空間だった。

床も天井も柔らかいクリーム色で、天井には煌々と光を放つ球体がいくつか埋め込まれていた。

視界の右端に、何か影が動いた。

「驚いた?」

そう言いながら、人影―事務員のような格好をした女が覗き込んできた。

まだ高校生といっても通じそうな童顔で、おかっぱのようなショートヘアがそれに拍車をかけていた。

「こ、これはなんなんだ!」

相手の正体より、僕は自らの状態について声を上げていた。

「なんで、こんなことを・・・それより、ここはどこなんだ!」

「ありゃー、怒ってる?」

何を言っているんだ、この女は。

犯人が彼女かどうかはわからないが、彼女の言動に、怒りがこみ上げてくる。

「とりあえず僕をここから・・・」

「とりあえず、落ち着こうか」

もぞ、と床がうごめく。

ちょうど僕の下半身、股間部分を中心に密着するように、床が動いた。

「え?」

驚きの声を上げる間に、床は僕のペニスをズボンと下着越しにつかんでいた。

人間の手よりはるかに細かい動きで、ペニスが揉まれる。

「え?え?あ、うぁ・・・」

その細やかな動きに、僕の下半身は素直に反応し、ペニスが充血していく。

床の一部がズボンのジッパーをつまんで下ろし、下着の穴からペニスを取り出す。

ペニスが直に、柔らかい床に包まれる。

「ひぃあ・・・うあ・・・」

すべすべとした生温かい素材は、僕のペニスを包んで圧迫と弛緩を繰り返した。

「どう?落ち着いたかな?」

女が床にひざを着いて、僕に問いかける。

「それじゃ、君の質問に答えるね」

手を掲げ、指を一本立てる。

「まず、君を包んでいる床は、わたしの体の一部」

「あふぅっ!」

床がペニスを締め上げ、快感が脳に届く。

「『なんで』については、食事するため。『どこ』は・・・まぁ予想がついてると思うけど、君が働いてるビルの地下三階、でいいかな」

地下三階?このビルには地下二階までしかなかったはず。

「ちか・・・さん・・・あぅ!」

床が波打つように震え、『地下三階なんてない』という言葉が中断される。

「あれ?わたしの名前知ってるの?」

「・・・?」

「わたし、智香っていうの。もともとは東北のほうに住んでいたんだけどね、一度飢え死にしちゃったの」

「ひゃ・・・あ・・・ひぃ・・・」

股間への甘い快感に、僕は次第に思考能力を失っていく。

「そしたらね、親切な人がわたしを建材としてよみがえらせて、建設途中だったこのビルに混ぜてくれたの」

「あぁ・・・くぅ・・・」

射精に一歩及ばない快感に、僕は歯がゆさを覚えていた。

もう彼女の話なんてどうでもいい。射精したい。

「それで、食事には困らなくなったんだけど・・・って、聞いてる?」

「ぃやぁ・・・くぅ・・・」

「聞いてないね。ま、いいや」

彼女は僕の顔を両手で挟み、上に向かせた。

「出させてあげる」

床が突然、激しくうねる。

「ひゃぁぁあああ!?」

与えられた刺激に、僕は叫びを上げて射精していた。

噴き出した精液が亀頭に絡みつき、そのまま床に吸い込まれていったのかなくなる。

「ふふっ、可愛い顔」

「君は―」

呆然とした僕の口から、言葉がもれ出る。

「君は―何?」

「わたし?わたしは、ハウス娘。迷い家の・・・成れの果て」

一瞬彼女の表情が、異様に曇ったかに見えた。

しかし、彼女の表情は明るいものに変わる。

「さ、続けよ」

「え・・・ああ!やめ・・・いひぃぃぃいい!」

床の表面が亀頭をつかむように圧迫し、カウパーや精液の残滓を潤滑液に回転する。

「だめ!だめ!うぁあああ!」

射精して間もないペニスをなぶられ、半ば苦痛と化した快感が脳内を駆け巡っている。

「ふふっ、そんなに大きな声出して・・・もっとすごいコトしてあげる」

彼女がそう言うと同時に、彼女の姿が床に沈み込んでいく。

僕が沈んだのより速い速度で、頭までが完全に床の中に隠れる。

「くひぃいいい・・・あ・・・?」

亀頭への刺激が、唐突に止んだ。

そして代わりに、床とは違う柔らかいものが、ペニスを挟み込んだ。

表面が軽く湿っていて、なんとなく人の皮膚に似た感触の・・・

『そう、わたしのおっぱい』

どこからともなく、彼女の声が響く。

『んで、これがわたしの舌』

「あひぃっ!?」

ちろ、と亀頭を柔らかく濡れた物体がくすぐる。

『そして、わたしの手、脚、胴体、唇』

睾丸をつかまれ、腹に巻きつき、背中に寄り添うように当て、乳首を吸われる。

まさに、そうとしか言いようのない感触が全身に生じた。

『じゃあ、始めるね』

胸がペニスを圧迫し、舌が亀頭と鈴口を舐め、指が睾丸を転がし、ほどよい肉付きの脚が胴を締め付け、胴体が背中に押し当てられ、唇が乳首を吸う。

「あああああー!?」

一度に与えられるいくつもの刺激に、僕は悲鳴を上げていた。

まるで、何人もの女性から奉仕されているような気分だ。

でも、今の僕にはその気分を味わう余裕はなかった。

彼女の体の各パーツが、僕の全身を嬲っていた。

『どう?気持ちいいでしょ』

「は・・・はい・・・」

『よし、もっと気持ちよくしてあげよう』

言葉とともに、胸が舌が指が脚が唇が、さらにその動きを増す。

「ひぃああああ!」

強引に押し上げられるようにして、僕は二度目の射精を迎えた。

唇の感触が乳首から離れ、亀頭に移動する。

唇は亀頭に吸い付き、精液を余すところなく吸い上げていった。

『うん、二度目なのに結構出たね。感心感心』

「はぁはぁはぁ・・・」

僕は全身を弛緩させ、床に身をゆだねていた。

『最後は・・・こんなのはどうかな?』

床が動き始め、僕を持ち上げていく。

床に埋まっていた体が、押し出されるようにして床から吐き出されていく。

数秒後、僕はズボンを下ろしワイシャツをはだけた情けない格好で、床の上に座り込んでいた。

首を左右に振る。

ドアどころか、換気口のようなものさえ見つからなかった。

と、天井から幾本もの、クリーム色のロープのようなものが垂れ下がり、僕の手足にまきつく。

そしてそのまま、体を持ち上げて宙吊りにした。

「え?何だ?え?」

『触手だよ』

彼女の声がし、天井どころか壁や床から何本もの触手が生えてくる。

『巻きつけるね』

言葉と同時に、触手が僕の全身を覆うように巻きついてくる。

いや、覆っていない場所があった。ペニスと、顔だ。

ぐぐ、と触手の巻きつく力が増し、全身を圧迫する。

さっきまで床の中に沈んでいたときとは違う、全身を拘束された状態での圧迫だ。

「あ・・・ひゃ・・・あふ・・・」

細かく強弱を変えながら締め付ける触手の感触に、僕は声を上げながらペニスを勃起させていた。

『よしよし、元気になったね。ところで・・・見える?』

天井から生えた触手を掻き分け、僕の太ももほどはあろうかという触手が目の前に現れる。

切り落としたかのように平らな先端部の中央に、女性器に似た形のモノがついていた。

『最後はねぇ、そこで出させてあげる』

穴が大きく開き、透明な粘液が糸を引いて僕の顔に垂れる。

粘液を透かして、複雑に波打つクリーム色の内壁が目に入った。

(入れたい・・・)

粘液の発するほのかに甘い香りに、僕のペニスが小さく跳ねる。

『ふふ、君の体は正直だねえ』

おかしさをこらえるような調子の彼女の声も、まったく気にならない。

ただ、あの穴にペニスを入れたい、という思いだけが頭を支配していく。

『んじゃ、いくね』

太い触手が目の前から離れ、触手の群れの中へ姿を消す。

数瞬の後、亀頭に柔らかいものが触れ、一気にペニスが飲み込まれる。

粘液にぬめる内壁が、さらにペニスを奥に飲み込もうと蠕動する。

波打つ内壁が、ペニスの幹を裏筋をカリを亀頭を通り過ぎていく。

「かっ・・・」

僕は、その刺激にもはや声さえ上げられなくなっていた。

『うわ、熱くて固いねー君のおちんちん』

彼女が、驚いたような声を上げる。

『それに、今即興で作った性器なのに・・・なかなか気持ちいいよ、これ』

「ぁ・・・っか・・・!」

『動かしたら・・・どうなるんだろ・・・』

ペニスが穴から半分ほど引き抜かれ、また挿し込まれた。

粘液まみれの内壁が、ペニスを逃すまいと表面にまとわりつく。

うねる内壁が、ペニスを飲み込もうと複雑に波打つ。

たった一回の抜き挿しで、彼女の性器の中ではそれだけのことが起こった。

『うぁ・・・君のおちんちん・・・すごく気持ちいい』

ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・

ペニスと女性器が、濡れた音を立てる。

「ひっ・・・」

『ああ・・・気持ちいい・・・気持ちいいよ・・・これ・・・』

ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・

彼女はうわごとのように気持ちいいを繰り返しながら、触手を上下に動かした。

抜き挿しのたびに、内壁がペニスに絡み、纏わりつき、僕の背筋を快感が駆け上っていく。

『いい・・・いいいよぉ・・・気持ち・・・いいよぉ・・・』

ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・ぢゅぶ・・・

「っ・・・くひっ・・・ぁぅ・・・!」

目に涙が滲み、視界が曇る。

口を大きく開き、舌を突き出して声にならないうめきを上げる。

あっという間に絶頂に上り詰めそうな刺激に、彼のペニスは射精することなく、大きく脈打つのみ。

すでに二度の射精と、今日の残業によって疲労していたおかげで、すぐには射精できそうにない。

彼女の嬌声を耳にしながら、彼は半ば苦痛と化した快感に、僕は身を悶えさせていた。

『ほらぁ・・・君も・・・気持ち・・・いいんでしょ・・・声ぐらい・・・だしなさいよぉ・・・』

「・・・がはっ!?」

半ば動きが止まっていた、体に巻きついた触手が、突然体を締め上げる。

そして、触手全体が蠕動を始めた。

柔らかな触手の動きに、まるで全身を女性器に飲み込まれてしまったかのような錯覚を覚える。

ペニスを女性器がしごき、手足を触手が嬲っていく。

まさに、全身を犯されるような刺激に、僕は次第に追い詰められていく。

『あ・・・?出るの・・・?精液・・・出るの・・・?』

途切れ途切れの彼女の言葉に応ずるかのように、僕のペニスが一際大きく脈打つ。

『いっぱい出して・・・わたしの中に・・・いっぱい・・・出して・・・!』

ペニスが深々と女性器に挿し込まれ、内壁が絡みつく。

触手がいっせいに僕を締め上げ、全身に快い痛みが走る。

「っぁぁぁあああああ!!」

腰の奥から駆け上ってきた精液が、鈴口から吹き出る。

精液が吹き出るたびに、僕は背中を反らせ、小さく痙攣していた。

女性器が蠕動し、ペニスから搾り取った精液を奥へと吸い上げていった。



『・・・ふぅ・・・』

射精が収まり、触手から開放されて、心地よい疲労に身をゆだねる僕の耳に、彼女の声が届く。

『気持ちよくて、おいしかったよ・・・ありがと・・・』

不意に頭が何かやわらかいものに持ち上げられ、ほどよい高さになる。

まばゆい光を何かがさえぎり、別な何かが僕の頭を軽くなでた。

「ゆっくり・・・休んでね・・・」

彼女の声が、すぐそばから聞こえたような気がしたが、僕はいつの間にか閉じていた目を開かなかった。

僕は、ただただ眠りたかった。

意識が、深く、沈む・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・





休日を明日に迎えた今日、僕はいつものように残業を終え、会社のドアに鍵をかけた。

そして常夜灯の点る廊下を進み、待っていたかのように開いていたエレベーターに身を滑り込ませる。



あの後、僕はビルの一階の男子トイレで、洋式便器に腰掛けた状態で目を覚ました。

すでに時刻は午前十一時。

とりあえず身なりを整えて、何食わぬ顔でビルを後にした。

あれは、地下三階にいた彼女は、僕がトイレで見た夢だったのだろうか?

いや、違う。

トイレで寝ていたのならば、なぜ警備員に見つからなかったのだろうか。

ただの夢ならば、この生々しい記憶はなんだろうか。

そして、家に帰ってから気が付いた、スーツのポケットに入れられた一枚の名刺。

表には『近野 智香』の名前だけが印刷されていた。

裏にはこうあった。

『もし、またわたしに会いたいのなら、一人でエレベーターに乗ったときに、「地下二階」のボタンを三回押してね』



エレベーターのドアが閉まるなり、僕は『地下二階』のボタンを三回押した。

しばしの間を挟み、軽快な電子音とともにドアが開く。

テレビに、箪笥に、ちゃぶ台が置かれた、アパートの一室が目に飛び込む。

「お帰りー」

エプロンを身にまとった彼女が、笑顔で迎え、僕に抱きつく。

「ただいま」

「お疲れ様」

言葉を交わし、唇を重ねる。

あの後、僕は何度も彼女の元に通うようになった。

そのうち僕は、このビル宛に自分のアパートの家具を一つずつ送り、彼女と暮らすようになった。

もう、この数ヶ月、アパートには戻っていない。

(明日、久しぶりに郵便物を見に戻らないとな)

彼女の体を、服越しにまさぐる。

彼女も興奮してきたのか、床から生えてきた触手が僕のスーツを脱がそうとする。

明日は休日。

たっぷり、二人で楽しもう。






この娘さんに搾られてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。




アナザー一覧に戻る