一人




警告

この資料はクリスティア・ハウデルフォンの記憶を元に作成したものである。

一部残酷な描写が存在するが、彼女の精神状態、および当時の状況を正確に表すためのものである。

ご理解いただきたい。

(人界大図書館 副長:九谷二郎)









「一人」







壁にしつらえられた窓から、二つの光が差し込んでいた。

一つは街の光。

その一つ一つに人を宿した、人口の光たち。

もう一つは月の光。

今が夜で、なおかつ満月であることを知らしめる、青白い光。

青年が一人、ベッドに仰向けになって、部屋の中をうすぼんやりと照らす、二つの光を眺めていた。

彼の隣には、白い肌に長い金髪の美女が横たわり、浅く寝息を立てていた。

ただそれだけならば、同衾する男女にしか見えないが、青年には右ひざから下がなかった。

赤黒いかさぶたに覆われた断面が、毛布の端から出た太ももの先にへばりついていた。

彼が右足を失ったのは昨日のこと。

隣で寝息を立てる女―クリスティア・ハウデルフォンによってだ。

彼女は、人買業者を通じて彼を購入し、彼女好みの肉体に改造するらしい。

(それは、ごめんだ・・・)

部屋の暗がりの中、目を開いたまま彼は思っていた。

彼はまだ18歳。こんな理不尽な理由で人生を定められる気はなかった。

(逃げてやる・・・)

毛布を少しめくり、少しずつ体をずらす。

音を立てぬよう、悟られぬよう、少しずつ。

まだ無事な左足を、ベッドの縁から床板に下ろす。

次は右手。

体重を手と足で支えながら左手を下ろし、尻を床につける。

数分かかって、彼はベッドから降りることができた。

与えられた寝間着に包まれた姿が、月光にさらされた。

右足がないのは不自由だが、これはもう、慣れるしかなかった。

身をうつぶせにひっくり返し、匍匐前進をするように這う。

後ろのベッドからは、ゆっくりとした寝息が聞こえていた。

ドアをくぐれば、もう大丈夫に等しい。

外に出て人を探す。

この体を見れば、きっと助けてくれるだろう。

両手に力を込め、上半身を起こし、彼はドアノブに手を―

みしり

体重の変化に、床板が軋みを立てる。

彼の全身が冷たくなり、汗が吹き出て雨にぬれたかのようになる。

ゆっくりと首をねじり、たった一つのことを願いながら振り返る。

最初に目に入ったのは、毛布の下の足。

毛布越しにもわかるなだらかなラインが、すね、ひざ、太ももと続き、腰と腹を描いている。

そして、そこから急速に盛り上がり、上体を起こしてこちらを見ている彼女と、目が合った。

顔を前に戻し、ドアノブをねじって引っ張る。

ドアが開き、隙間から回り込むようにして廊下へと倒れこんだ。

そのまま玄関と思われるドアの方向へ、四つんばいで急ぐ。

右足の断面がどうなろうと、もはや関係がなかった。

いくつか靴の並ぶ玄関に這い着き、ドアノブに手を伸ばして止まった。

ドアに、チェーンがかけてあった。

「どうして…」

背後から声が、彼の耳に届いた。

もう何かにつかまりながら、チェーンをはずしている暇はなかった。

「たすけてくれーッ!!」

こぶしを握り、全力で金属製のドアに打ちつけながら叫ぶ。

「誰かあッ!」

襟首をつかまれた、と感じると同時に視界が縦に回転して、後頭部に鈍痛が走った。

ひっくり返されたと理解するのに、彼は数瞬を要した。

「どうして…」

視界の上部から、クリスが覗き込んでいる。

彼女の頬を、ほのかに光を反射する何かが這い伝っていた。

「どうして…逃げるの…?」

かすかに声が震えていた。

泣いているんだ、と彼は妙に冷静になった意識の中、考えた。

「私が…怖いの?」

彼の両肩に、クリスが手を置く。

「私が…恐ろしいの?」

彼女の問いに、彼は小さく、小さくうなずいていた。

「そう…なら」

彼女は軽く目を閉じ…かっ、と見開いて続けた。

「お前は、もういい!」

両肩につめが食い込むほど、手に力が込められ、クリスは彼の体を引きずっていく。

彼は叫びとともに床板に爪を立てようとするが、平らなフローリングの床に爪は引っかかりもしなかった。

クリスは二、三十分前まで二人が寝ていた部屋の前を通り過ぎ、リビングルームと思しき広い部屋で止まった。

ネグリジェのスカートがめくりあがり、伸びた尾が叩きつけるようにして電灯のスイッチを入れる。

まばゆい光に、何の家具も置いていない部屋が照らし出される。

「どうして逃げようとしたの!?」

彼の腹の上に馬乗りになり、胸倉をつかんで叫ぶ。

「あなたも、あの子達みたいに私を一人にしたいの!?

あいつらみたいに私を仲間外れにしたいの!?」

もはや問いかけでもなんでもなく、一方的な詰問だった。

「昨日はあんなに喜んでたのに、心の中では迷惑だったんでしょ!?あの犬みたいに!

あんなにぐっすり私と一緒に眠っていたのに、本当は嫌だったんでしょ!?あの猫みたいに!

そして、私のことを勝手に怖がって、陰でこそこそ悪口を言うんでしょ!?あの、淫魔どもみたいに!」

もはやクリスは、彼を見ていなかった。

彼を通して、彼ではない誰か達を見ていた。

そして、その誰か達に向かって、彼女は叫んでいた。

「お前らはいつもそうだ!

変わっている者を的にして、異常な団結力で追い詰めて。

私があなたたちに何をしたって言うの!?

ただ、私が生まれるとき、お母さんが死んだってだけじゃない!」

彼は苦しさのあまり、彼女の下から逃れようともがいた。

クリスが動きを止め、口を閉ざす。

「あなたって」

彼女の目は、彼を見ていた。

「あなたってあの時のネズミみたい」

さっきまでの荒れ方が嘘のように、彼女は淡々と言葉をつむんでいく。

「私が毎日えさをあげて、お友達になろうとしていたのに、あのネズミは触らせてもくれなかった。

捕まえてみたら、私から逃げようともがいて、『逃げないで』ってお願いしたのにもがいて、指に噛み付いて…」

いったん言葉を切って、顔を一気に近づけ、彼女はささやいた。

「その後、どうしたと思う?」

彼は何も言えなかった。

彼女の瞳があまりにも、あまりにも…

「遊んで、殺して、食べてあげたの」

彼女は、童女のように純真な瞳で、微笑んだ。



「これからあなたのこと、ずっと忘れないように遊んであげる」

彼女はそう告げ、彼の頭をつかむなり、強引に唇を重ねた。

クリスの舌がねじ込まれ、唾液が流し込まれる。

抵抗しようにも頭は抑え込まれており、両手はいつの間にか彼女のひざの下に敷かれていた。

仕方なく彼は、彼女の唾液を嚥下した。

かすかな甘みを感じたのは、気のせいだったろうか。

唇が離れ、ねっとりとした唾液が糸を引いていた。

「じゃあ、はじめましょうか」

口元をぬぐいつつ、彼女は口の端を吊り上げた。

手を、彼の股間へと伸ばし、布越しにペニスをつかむ。

彼のペニスはいつの間にか、痛いほどに勃起していた。

「サキュバスの体液効果よ」

彼女は手の中で脈打つペニスを、軽く指で探る。

彼女の体液により、感度を強引に高められた彼のペニスが快感を訴える。

「ひ・・・や・・・ああ・・・」

「あーあ、ちょっと触っただけで声出して・・・」

彼女は目に喜色を湛えながら言い、手をペニスから離した。

「・・・?」

疑問符を浮かべる彼の前で、彼女は左手の人差し指を立てた。

「・・・らぅ・・・ふ・・・」

低く、不明瞭な言葉が彼女の唇から漏れると同時に、その指先に変化が起こった。

びき―びしびし―

音を立てて、人差し指の爪が伸びる。

いや爪は伸びるだけでなく、鋭く尖っていった。

そしてその人差し指の表面も、皮膚が硬質化し、灰色の装甲のように変化していく。

「うふふ・・・出来上がり」

彼女は己の指を見ながら、そうつぶやいた。

「さ・・・服を脱ぎましょうねぇ」

右手で彼の上半身を押さえつけたまま、寝巻きの襟元に伸ばした爪を差し入れる。

そして彼女が左手を下ろすと、寝巻きの生地は何の抵抗もなく左右に切り裂かれていく。

布の間から、色の白い彼の肌が覗く。

「あら?切っちゃった?」

彼が視線を下ろすと、首の根元から腹にかけて、線状に血液が盛り上がっていた。

不思議なことに痛みはない。

彼女は彼の傷から目を離し、寝巻きのズボンを切り裂く作業に取り掛かっていた。

布地に爪を立て、今度は皮膚を傷つけぬように、縫い目を切り裂く。

数秒後、ズボンとその下の下着は魚の開きのようになって、中にあった彼の下半身を外気にさらしていた。

屹立したペニスが、小さく跳ねていた。

「最初は、手でしてあげる」

彼女はそういうなり、彼の胸の間に手を当てた。

そして、先ほどできた赤い線を手でなぞり、手のひらに滲んだ血をつける。

「こんなものね・・・」

赤く濡れた手のひらを一瞥し、彼女は彼のペニスをつかみ、無造作に扱き出した。

「あ、ああ・・・!」

彼自身の血液を、ローション代わりにペニスを扱く。

理性が嫌悪感を呼び起こすが、ペニスからやってくる快感には、彼は逆らうことができなかった。

彼女の右手が軽快に上下に動き、幾分水分が蒸発して粘度が増した彼の血液が、淫猥な水音を立てていた。

「ほら・・・もうすぐ出るんでしょ・・・」

「うあ・・・あ・・・」

「我慢しなくていいのよ・・・いっぱい出しなさい・・・」

ペニスの先端からあふれ出したカウパーが、血液と混じりあい彼女の手のひらのすべりをよくする。

単調な彼女の責めに、彼は少しずつ追い詰められていった。

「もっと、声出していいのよ・・・素直になりなさい」

「ひ・・・ぃい・・・あ・・・」

「素直になれないのなら・・・」

彼女は右手を止めず、左手の爪を軽く彼の胸に当て―

「ならせて、あげる・・・!」

すぅっ、と引いた。

「ひゃあう!?」

胸に、一瞬冷たい物が当てられたかのような感触に、彼は声を上げていた。

冷たさはすぐに、ちりちりとした痒みとなり、傷口からは血が滲む。

「あはは、素直になれるじゃない」

彼女は笑みを浮かべながら、二度、三度と左手の爪で彼の皮膚をなぞる。

「ぃああっ!?はひぃっ!?」

冷たさを体が感じ、意に反して腰が跳ね上がる。

「ほらほら、あんまり暴れると刺さるわよ?」

彼女は巧みに左手を操り、跳ねる彼の体に一本、また一本と傷跡をつけていく。

爪で皮膚を撫でるたびに、彼のペニスは大きく脈打っていた。

(そろそろかしら・・・)

右手の動きを加速し、爪を彼ののどの下、鎖骨の間に当てる。

「はい、おしまい」

彼女は言葉とともに、一気に左手を引いた。

「くふぁあああああ!?」

背筋に氷の塊を押し付けられたかのような感覚に、ペニスが大きく跳ね上がり、精液を噴出する。

精液が放物線を描き、彼の胴に降りかかった。





「あはぁ・・・すっごいぐちゃぐちゃ・・・」

クリスはそう言いながら、血と精液にまみれた彼の体を撫で回した。

装甲化した左人差し指を、心持ち浮かばせながら血液と精液の混合物をかき集める。

「ああ・・・こんなに・・・」

彼女は手のひらにすくった混合物をうっとりと見つめ、唇を当てて啜った。

のどの奥を、粘度の高い、鉄と青臭さの混じった体液が流れていく。

「はぁ・・・はぁ・・・」

口元をぬぐい、床の上で荒く息をつく彼に、彼女は視線を下ろした。

「さ・・・もっと楽しみましょ・・・」

「もう・・・むり・・・しぬ・・・」

彼は息も絶え絶えに、そう言った。

ほんの数時間前に足を切断し、さっきまで流血しながら射精していたのだ。

彼の体力は限界に達していた。

「いいのよ、死んで」

「・・・え・・・?」

彼女は彼の頭を両手で挟み、顔を接近させた。

「死んでいいのよ。あなたの代わりなんて、ヒルフェレスとかに頼めばいくらでも買えるもの」

どす黒く濁った彼女の瞳に、彼の顔が映っていた。

ずぶ・・・

彼は、栗栖の指が触れている両側頭部に違和感を感じた。

「えっ?なに?」

「動かないで、脳をいじっているから」

左右あわせて十本の指が、彼の皮膚にめり込んでいた。

彼女は指先を変質させて細く長い神経線維を生成し、彼の脳の奥深くにもぐりこませる。

「これからね、すごくいいことしてあげる」

彼女の神経線維は、既存の彼の神経線維を切断し、新たな回路網を形成する。

「昔、犬や猫にしてあげたんだけどね、何の手間もかけずにやったらすぐに死んじゃったの」

「あ・・・あ・・・」

彼の意識がぼんやりとし、手足が細かく震え、目がぐるぐると回る。

「あんまりつまんないから私、何度も練習して、苦痛を感じないように精神をいじれるように努力したのよ」

明らかに彼は聞いていなかったが、彼女は話と作業を続ける。

「だから、安心して、楽しんでね」

彼女はやさしく、白目をむいて痙攣する彼に、そう告げた。





手のひらの中央がくすぐったい。

まるで、動物か何かに舐められているような感じだ。

彼は、いつの間にか閉じてしまっていた目を開いた。

まばゆい蛍光灯の光が、彼の目を刺す。

目をこすろうとするが、手が何かに押さえつけられているかのように動かない。

代わりに、手のひらのくすぐったさが少し増した。

「あら、お目覚め?」

彼女の声に、彼は目を見開く。

視界の右端に、床に直に腰を下ろしたクリスの姿があった。

「どんな気分?」

彼女は口の端を吊り上げながら、そう尋ねた。

「少し、手がくすぐったいです・・・」

得体の知れぬ恐怖に震えつつ、彼は感じたままを口にした。

「ふーん、そう。じゃ、手を見てごらんなさい」

いわれるがまま、彼女の顔から視線を引き剥がし、右手に向ける。

ゆるく指を丸め、手のひらを天井に向けた右手。

ただし、手のひらの中央から釘の尻が覗いていた。

「ひっ・・・」

悲鳴を強引に押さえ込み、顔を左に向ける。

左手も同様に、釘で床板に打ち付けられていた。

「そう、動かされたら困るから、固定したの」

彼女が淡々と告げる。

「でも、痛くないでしょ?」

右手首をつかんで、強く揺さぶる。

何かが裂けるような音がし、彼の手のひらのくすぐったさが、少し大きくなった。

確かに痛くない。

「精神を肉体からいじったから、あなたはもう痛みは感じない。それに、ちょっとした怪我ぐらいじゃ死なないようになったわ」

口だけに笑みを浮かべながら、彼女は右手を掲げる。

その指先は、一本残らず灰色の甲殻に覆われていた。

手を下ろし、左胸に指先を当てる。

「や・・・止めて・・・」

「いや」

彼女は力を込め、右手を一気に引いた。

浅く刺さった爪が、左胸から右胸に赤い五本の線を描く。

「あああああっ!」

胸に、何本もの舌で舐められるような感覚が生じる。

「あらあら、怪我したのに気持ちよさそうな声上げて・・・」

今度は腹に爪で線を描きながら、彼女は言った。

舐められる範囲が拡大し、彼は声を上げて反応する。

「これとか、どう?」

―づぶり

「ひ、ひぃいいいい!?」

へそに、人差し指が深々と突き刺さる。

しかし、彼が感じるのは痛みによる苦痛ではなく、快感の悦び。

彼女が指を回すと、爪が体内の組織を引き裂く。

「うああっ!」

しびれるような感覚が背骨を伝い脳に流れ込んだ。

指の動きが止まり、ゆっくりとへそから引き抜かれる。

「ふふ・・・こんなに真っ赤・・・」

灰色の甲殻にまとわりつく体液に、彼女は舌を伸ばした。

赤く柔らかい肉が、体液を掬い取り口へと戻る。

「・・・あぁ、美味しい・・・」

彼女は料理でも味わっているかのような感想を口にするが、彼は聞いていなかった。

「か・・・」

体内を渦巻く指の感触の余韻に、彼は完全に身を任せていた。

「中は、どうなっているのかしら」

指についた唾液を、彼の寝間着だった布切れでぬぐいながら、彼女はポツリと口にした。

「そろそろ開いてあげるわね」

ネグリジェの裾から、鋭角三角形の先端を持った尻尾が顔を出す。

尾を伸ばし、彼の鳩尾の下に先端を埋める。

そして、一気にペニスの少し上まで下ろした。

「ひぁぁああああああ!?」

のど元から下腹部へ駆け抜ける快感に彼が絶叫を上げ、ペニスの先端から精液が少しだけ飛び出る。

彼女はそれに目もくれず、指を縦一文字の傷跡に挿し込む。

その刺激に、彼は身悶えしながら悲鳴を上げるが、クリスは気にも留めずに作業を続ける。

爪を甲殻の中に引っ込め、皮を破らないように気をつけつつ、傷を左右に広げる。

「あああああああっ!」

腹部からの快感に耐え切れず、彼は腰を大きく突き上げながら射精を始めた。

彼の声をBGMに、皮膚と筋肉が剥離音を立てながら体から離れていく。

程なく彼女は作業の手を止め、指を引き抜いた。

「・・・こんなところね」

大きく口を開いた彼の腹腔を前に、彼女は小さくつぶやく。

巨大な肝臓の影でうねる腸に、蠕動を繰り返す胃袋。肋骨の影から見え隠れする、ピンク色の膜は横隔膜だろうか?

傷口から覗く彼の臓器は、まさに理科室の人体模型といったところだ。

「ああ・・・うう・・・」

射精が収まり、余韻と腹部からの快感に身をゆだねた彼が、小さなうめきを上げる。

彼女が視線を移すと、屹立した彼のペニスが目に入った。

「・・・」

甲殻に覆われた手を、無造作に彼の腹腔に突っ込む。

「ひぃ!?」

肝臓の裏側を撫で、腸をかき回し、すい臓を軽くさする。

手を動かすたびに、彼の体が跳ね、少量の精液が尿道から飛び出る。

腹腔内をまさぐりながら、視線を反対に向けると、何かを懇願するような彼の目があった。

「もっと出したいの・・・?」

臓器をもてあそぶ手を止めず、彼女が問いかける。

刺激に悦びの声を上げながら、彼は幾度となくうなずく。

「そう、なら―」

空いた手を彼の頭へと伸ばし、づぶり、と指先を頭部に埋める。

「もっと我慢しなさい」

前立腺の、射精機能だけを停止させる。

小出しとはいえ、射精を強制的に中断させられ、苦痛の声を彼は上げた。

頭部と腹腔から手を引き抜き、肋骨を持つように手を添える。

そして傷口の上端に、伸ばした尾の先端をあてがった。

「広げるわね」

鋭角三角形が、細かく上下に動く。

いつの間にか尾に生えていた細かいとげが、鋸の歯のような役割を果たし、左右の肋骨をつなぐ剣骨を切断していく。

ごり ごり ごり

骨を削る細かな振動が、背骨を伝い脳に刺激を送る。

骨ごと切断されていく皮膚が、愛撫を絶え間なく受けているような感覚を伝える。

与えられる快楽に彼は身を任せるが、ペニスは大きく脈打つばかりで射精を迎えない。

剣骨を切断し終えた尾が、今度は右肋骨を切断にかかる。

(あああああああ、出したい出したい出したい!)

切り開かれた体の内部まで、無数の舌によって嬲られているかのような感覚に、彼は心の底から射精を望んでいた。

「・・・よし、と―」

左右の肋骨を切断し終え、彼女は両手に力を込めた。

めりめりめりめりめり・・・

音を立てながら、肋骨が上に向けて開いていく。

光が、彼の心臓と肺を照らし出していた。

本来ならば横隔膜が引きちぎられ、肺の収縮が止まっているはずだが、彼の肺はなおも収縮を繰り返していた。

「簡単には、死なせてあげないわよ・・・」

低くつぶやきながら彼女は、手を彼の体内に伸ばす。

肺、心臓、胃、肝臓、腸、膀胱、と各臓器を甲殻に包まれた指がなぞっていく。

「・・・くぁ・・・か・・・」

彼は大きく口を開き、もはや声にならない喘ぎをあげていた。

彼、一人だけで。

彼女から与えられる刺激を、一人だけで楽しんで。

「・・・ふん」

「!?ひぐぁあああああ!!」

すい臓をつかみ、無造作に握りつぶす。

体内で爆発した快感に、彼は背筋をそらし、絶叫していた。

「何よ・・・」

「ひぃぃいいいい!?」

両手を腹腔内に突っ込み、内臓を遠慮なくかき回す。

「あなたも、一人だけで・・・」

「あがぁあああああ!!」

尻尾を伸ばし、先端部を手足に無造作に突き立て、ねじる。

「私を、おいて勝手に・・・」

腸が切断され、内容物が腹腔内にぶちまけられる。

左手を引き抜き、彼の頭に指を突き立てる。

脳内に張った神経線維の網に命じ、前立腺の機能を回復させる。

びくん

突如彼の下半身を襲った射精の予兆に、彼の全身が細かく痙攣する。

彼女は左手を引き抜き、腹腔内のある臓器を両手でつかんだ。

それは、心臓だった。

全身を緊張させた、彼のペニスが、彼の心臓が、大きく、激しく脈打つ。

「ひとりに、しないで」

指に力がこもり、心臓を握りつぶす。

ペニスの先端から、天井へ向けて放尿するような勢いで精液が迸った。





射精は、数分にわたって続いていた。

睾丸の中身が空になり、力を失ったペニスの先端からは、真っ赤な液体が流れ出ていた。

全身を弛緩させた彼の体のあちこちから、真っ赤な液体が流れ出ていた。

クリスは壁にもたれて、ただ彼だった物体を見ていた。

彼は行ってしまった。

彼女の母親や、彼の前に家に来た男たちと同じように、彼女一人を残して。

なぜ皆、彼女から離れていくのだろうか?

彼女が皆とは違うから?

「・・・はぁ・・・」

クリスは深く息をつき、立ち上がった。

考えていても仕方がない。

まずは片付けよう。

そして、また依頼書を出そう。

彼女の、パートナーと出会うために。

カーテンの隙間から、朝日が赤を照らし出していた。





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