恋人たち




「ご飯できたわよ〜」

声とともにドアが開き、片手にお盆を持ったクリスが入ってくる。

お盆の上には、湯気を立てるシチューが一皿。それにパンが一つ添えてある。

彼女はお盆をテーブルの上へ置き、僕が横になっているベッドに近づく。

彼は手を抱擁を求めるように、彼女のほうへ伸ばした。

腕の先の手には、指がついていなかった。

彼女は微笑みながら僕の腕の中へ入り、両手で彼の身体を抱きしめる。

彼もまた、クリスの身体を腕でしっかりと抱きしめた。

クリスが掛け声とともに彼を抱え上げ、テーブルの側のいすへと運ぶ。

彼の両足は根元からなくなっているため、彼の身体はそこまで重くなかった。

「じゃあ、いただきます」

指のない両掌をあわせ、クリスの言葉を繰り返す。

クリスはスプーンを手に取り、シチューをすくって彼の口元へ運んだ。

「はい、あーん」

言われるがままに口を開き、入れられたシチューの具を咀嚼し、飲み込む。

赤ん坊のような扱いに、彼はもう慣れてしまっていた。

もう、いつこんな身体にされてしまったのか思い出せない。

食事は一人ではできないが、彼女を抱きしめることはできる。

いつかそんなことも言っていたような気がするが、もう彼には思い出せなかった。

「はい、おしまい」

食事を終え、クリスは再び彼を抱きかかえベッドへ運ぶ。

「それじゃあ、お口を掃除しましょうね〜」

彼の身体をベッドの上に置くと同時に、クリスはそう言って彼の口をふさいだ。

舌が突きこまれ、口の中の食べかすを舐めとっていく。

無論いつものように、彼女の左手は彼の背を支え、右手は彼の股間へ当てられていた。

口内と、股間への刺激に反応し、彼のペニスが大きくなる。

口の中を十分に掃除し終え、彼女は口を離した。

唾液が糸を引き、ちぎれる。

「ふふ、今度は私を食べたい、ってわけ?」

彼女は妖しく微笑んで、彼を完全にベッドに寝かせると、彼の下腹部へ顔を向ける。

彼女は右手で竿を、左手で睾丸をやさしくつかみ、舌を腹に這わせた。

舌を左右に動かしながら、腹から腰、腰から右足の断面、断面から蟻の門渡りを抜け、左足の断面へと移動する。

舌の動きに合わせるかのように、彼はあえぎ声を上げ、クリスは上目遣いでそれを見ていた。

断面を覆っていたかさぶたは、ずっと昔にはがれたが、皮膚はまだピンク色で性器のように敏感だった。

彼女は舌を断面から離し、再び断面にあてる。

中心から縁のほうへと、螺旋を描くように舌を動かすと、彼のペニスが、クリスの手の中でびくんびくんと跳ねた。

竿と睾丸をつかみなおし、ゆっくりとしごき、揉みほぐす。

左右の断面を、交互に円を描くように舐める。

彼の体が細かく震え、快感から逃れるように腰を引こうとする。

(あ、もうすぐだな・・・)

彼女は舌を離し、彼の亀頭を咥えて、舌で軽くなでる。

「ああっ」

彼は叫びを上げ、腰を跳ね上がらせながら射精した。

ねっとりとした、生臭い粘液がクリスののどに当たる。

精液を飲み込み、尿道に残った分をすすりとって顔を上げた。

「ん・・・今日も健康ね」

精液の味から、おおむねの健康状態を推測し、彼に告げる。

彼は荒く息をしており、答えられる状態ではなさそうだった。

しかし、もはやいつものことなので、クリスは気にせずドレスをたくし上げる。

スカートの下から愛液にぬめり、てらてらと光を反射する性器が現れた。

「じゃあ今度は、ここに頂戴・・・」

指を伸ばし、性器の入り口を左右に押し開く。

赤い、まさに肉としか言いようのない襞があらわになる。

ベッドの上に膝をつき、彼の腰の上をまたぐ。

「じゃあ、いくわね・・・」

手でペニスの角度を調整し、ゆっくりと腰を下ろした。

粘液質の気泡がはじける音を立てながら、彼のペニスが女性器の中へと飲み込まれていく。

「うあ・・・ああ・・・」

己の分身が、彼女の体内に埋もれていくのに合わせるかのように、彼は顔を歪ませ、うめきを上げた。

クリスは彼の反応に笑みを浮かべ、発達した括約筋で膣内のペニスを、やさしく締め上げた。

根元から先端へ、ペニスを奥へ奥へと導くように、力の入れ方を変化させる。

びくん、とペニスが震えた。

手でしごくように、膣の圧迫位置を変化させてペニスをしごく。

愛液でぬるぬるとぬめる膣内の肉襞が、ペニスを捕らえて引き込むかのように、彼には感じられた。

快感に耐えようと、彼は頭を左右に振る。

だが、クリスが右手を足の断面へと伸ばし、表面を軽く撫でた。

爪を立てず、それでいて引っかくように彼女は撫でる。

足の断面から、冷たさを伴うなんともいえない感覚が駆け上った。

痛みに限りなく近い、快感。

「さあ、出しなさい」

断面への刺激と、彼女の言葉に押されるような形で、彼は射精していた。

ペニスが脈動し、温かいクリスの胎内に白濁が注ぎ込まれる。

「ああ・・・」

膣内へ注ぎ込まれた精液の熱さに、クリスは思わず声を上げていた。

やがて射精が止み、クリスの子宮口は注ぎ込まれた精液を一滴も残すまいと亀頭に吸い付いた。

「ひゃ・・・うぁ・・・」

尿道に残る精液を吸いだされ、彼が身もだえする。

(ああ・・・かわいい・・・)

彼女はふと思いつき、ベッドの上で身をくねらせる彼の両手に手を伸ばした。

一本も、指の生えていない彼の手のひら。

指がないのは、食事の世話をしてやりたいから、指をすべて切り落としたから。

両腕を切り落とさなかったのは、抱きしめてもらいたいから。

クリスの半分の大きさしかない手のひらに、彼女は下を伸ばした。

「・・・え?」

指の根元の断面に感じた舌の柔らかさに、彼が快楽のあまり閉じていたまぶたを薄く開く。

彼女は優しく、股の下に横たわる彼に向けて微笑み、その両手を乳房へ導いて、自らの胸を揉みしだいた。

それに合わせ、括約筋を再び引き締める。

「あっ・・・」

彼はまだ敏感なペニスに膣が絡みつく感触に、小さく声を発する。

彼女は揉みしだく手を止め、彼の上半身に自身の上半身を重ねた。

クリスが何も言わずとも、彼はその両手を彼女の背に回し、恋人同士であるかのように、がっしりと抱きしめる。

(恋人同士のように・・・?)

彼女の脳裏に、ふと疑問が浮かぶ。

(いいえ、これはもう・・・恋人以上よ)

女性器で彼のペニスを食みつつ、首筋や髪の間に指を這わせ、己の考えを打ち消す。

ただの恋人同士ならば、食事の世話をした上、食事の後にキスで相手の口を清めてやるだろうか?

舌を伸ばし、彼の首筋を濡らす汗を、彼女は舐め取る。

ただの恋人同士ならば、相手のかいた汗を、彼女がしたように舐め取ってやるだろうか?

彼の体臭を胸いっぱいに吸い込み、その香りに興奮を覚える。

ただの恋人同士ならば、相手の体臭にまで愛情を抱けるだろうか?

(ああ・・・大好き・・・)

両手で彼の頭をはさみ、唇を重ねる。

歯の間から強引に舌を差込み、彼のしたと己のそれを絡み合わせる。

彼女は舌の動きに合わせて、彼のペニスを根元から先端まで、膣で締め上げた。

彼は重ねられた唇の間から、くぐもったうめき声を上げた。

(悦んでる・・・)

先程彼の口内を清めたようにして、舌で彼の口内を蹂躙する。

もはや彼女にとって、彼女自身の食事のことなどどうでもよかった。

ただ、ここに彼女の世話を必要とする彼が居る。

そして、彼の世話を彼女がしている。

それだけで十分だった。

ベッドについた両足に力を込め、腰を持ち上げ、下ろす。

彼女の女性器から、愛液とカウパー、そしてさっき出した精液にまみれたペニスが姿を現し、また粘着質な水音を立てながら飲み込まれていく。

クリスの下で、彼の体がびくん、と震えた。

彼女は唇を離し、彼の顔を見た。

何かを訴えるような、何かを求めるような、今にも泣き出しそうな彼の表情。

彼女は慈母のように微笑み、腰を動かす。

ペニスが彼女の性器を、幾度となく出入りした。

出入りの度に、ペニスのカリ首が、血管が、裏筋が、脈打つ幹が、膣の内面をこそぎ取るように上下する。

彼は彼女の背に回していた手を戻し、いつの間にかクリスが彼を抱きしめていた。

腕の中で、彼が逃れるように身をもがく。

彼女は腕に力を込め、腰を下ろしてペニスを深く性器の奥へと飲み込んだ。

「・・・好き・・・」

顔を耳に近づけ、クリスはそっとささやく。

そして、膣でペニスを締め上げた。

ペニスの脈動が激しくなり、膣内にたたきつけるような勢いで、彼は射精した。

(出てる・・・いっぱい・・・熱いの・・・いっぱい・・・)

彼の射精が続いている間、彼女は陶酔感に包まれていた。

先ほどより早く射精は止んだが、彼女は満足だった。

足を切り落とされ、指を切り落とされ、手のひらに穴をあけられても、彼は逃げなかった。

それどころか、彼の足を奪ったクリスの世話を受け、彼女に精液まで提供してくれる。

逃げず、拒絶せず、ただ彼女のことを受け入れてくれる、彼。

(やっぱり、他の人たちと違う・・・)

彼女は疲労に目を閉じ、荒く呼吸をする彼の髪を撫でた。

(かわいい、かわいい、私の・・・恋人・・・)

もう絶対に放さない。

彼女は誓いを胸に、クリスは優しく、『恋人』と唇を重ねた。





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