蝿の王は 高き館に 蝿




灯が消え、夜の中に沈んでいる家々の上を、サティア・メルリアルは飛んでいた。

露出の多いボンテージ・コスチュームに、背と尻から伸びる羽と尻尾。

彼女は人間ではなく、サキュバスだった。

風に踊るブラウンの髪の毛の下、おびえた目が背後を見やる。

(逃げ切った・・・?)

少なくとも、追跡者の気配はない。

彼女は徐々に速度を落とし、住宅地の中にある、小さな公園に着陸した。

遊具もほとんどない、小さな公園だ。

呼吸を落ち着け、右手で握り締めていた左ひじに目を落とす。

腕はなく、代わりに赤い断面があった。

「・・・」

サティアが小さく呪文を唱えると断面がふさがり、新たな腕がゆっくりと生えてきた。

彼女は周囲を見回し、申し訳程度に置かれているベンチを見つけて、そこに腰を下ろした。

「ふぅ・・・」

傷を魔法でふさぐ際の、あの特徴的な違和感を左手に感じながら、彼女はついさっきのことを思い出していた。

いつものように合コン中の男女の記憶を操作して紛れ込み、好みの男を誘惑した。

そしていつもなら、ほどほどのところまで楽しんでから、相手の記憶を消して帰る手筈なのだが・・・。

「何なの・・・あれ・・・」

突然部屋に乱入した女。

結界を張り、火炎球を受けても平然とし、あまつさえ触れるだけで彼女の左腕を腐らせた。

しかも腐敗は触れたところだけでなく、確実に範囲を広げていた。

(もし、切り落とさなかったら―)

形を成しつつある左手に触れながら、彼女は恐ろしい可能性に身を震わせた。

(でも、逃げられてよかった)

彼女はほっと息をついた。

「・・・あれ?」

ふと胸中に、違和感が湧く。

今となっては没落したとはいえ、彼女は中級サキュバスの家系の出だ。

彼女より圧倒的に強いサキュバスなど、いくらでも知っている。

おそらくあの女も、そんなサキュバスの一人だろう。

話によると、ある程度の実力を持つサキュバスは、己の魔力を隠すことができるらしい。

しかし、魔法を使っている間も、自分の魔力を隠すことは可能なのだろうか?

「・・・」

彼女は思い返すが、結界を這っている間も、あの女からは大きな魔力が一切感じられなかった。

触れられたときも、何の魔力も感じなかった。

あの女は、いったい・・・。

(いけない、いけない)

首を振って思考を中断する。

左手を見ると、さっきまでと寸分違わない手が生えていた。

手を握り、開いて感覚を確かめる。

問題ない。

「よし、帰るとしましょうか」

声を上げながら立ち上がる。

もうあの女のことは忘れてしまおう。

「もう会うこともないだろうし」

「あら、そうかしら?」

背後からの声に、弾かれたように身をねじる。

彼女の座っていたベンチの後ろに、あの女が立っていた。

ショートの黒髪に、目元を覆うサングラス。

髑髏と交差した骨のプリントされたTシャツに、どこでも売っているようなジーンズ。

サティアの腕を腐らせた女が立っていた。

「うふふ、また会ったわね、お嬢ちゃん?」

「・・・くっ・・・!」

身を翻し、出口に向けて駆け出す。

ここは飛ぶより、入り組んだ町の中を走り回ったほうがいい。

短く、俊足の魔法の呪文を唱えて、彼女は速度を増した。

公園を囲むフェンスの切れ目、公園の出入り口が迫る。

だが公園から出ようとした瞬間、彼女の全身を衝撃が襲い、土の上に倒れ伏してしまった。

「結界、張らせてもらったわよ」

女が声を上げながら、一歩ずつ歩み寄ってくる。

全くの無防備、油断しきった状態の女―

サティアは跳ね起きた。

「ダウエルファレル・バルカナゴ!」

両手を構え、呪文を唱える。

目の前の景色が揺らぎ、女のいるあたり一帯が球状の火炎に包まれる。

あたりをまばゆく照らす火炎が、十数秒間指定した空間を炙りつづけた。

やがて火炎が消え、その場に女の姿がないことを確認する。

「・・・よし」

「え?何がよしなの?」

顔を横に向けると、女が彼女と同じ方を眺めていた。

「そんな・・・」

「魔法も使わずに、逃げられるはずがないって?」

面白そうに、女は笑いながら言った。

その通り、逃げられるはずがない。

あの火炎球は、女を中心とする領域の縁から発生し、女めがけて拡大させたものだ。

何らかの魔法で中和するか、消火するかしないと無傷でいられるわけがない。

「それであなた、逃げなくていいの?」

女の言葉に、サティアはわれに返って駆け出した。

いや、駆け出そうとして、転倒していた。

女が足を引っ掛けたのだ。

「ふふ、逃がしはしないわよ」

女が手を伸ばし、右足首を掴む。

瞬間、灼熱感にも似た痛みが足首を襲う。

「ああああああっ!?」

「えーと、サティア・メルリアル・・・」

激痛に叫ぶ彼女をそのままに、女はどこから取り出したのか紙束に目を向けていた。

「罪状『週間吸精人数の超過』、『記憶操作魔術の乱用』、『淫魔管理局への出頭命令無視』・・・」

不意に右足が軽くなる。

顔を向けると、涙に滲む視界に、千切れた右足が転がっているのが入った。

(逃げないと・・・)

しかし思いが膨れ上がるばかりで、体は凍りついたように動かなかった。

「『なお、当人が激しく抵抗する場合は、交戦等による対象の無力化を認める』、と・・・」

女が、顔を書類から彼女のほうへ、サングラスをはずしながら向けた。

「以上の条件によりわたくし、バアル・ゼブブが、対象サティア・メルリアルを無力化・逮捕します、っと」

女―バアル・ゼブブは、縦に瞳孔が裂けた赤い眼球を向けながら、彼女にそう言った。





「あ・・・あなた・・・何・・・」

声を震わせながら、サティアが言う。

「・・・ま、見たほうが早いわね」

バアル・ゼブブの言葉とともに、Tシャツが裂けて背中にめくれ、ジーンズが黒く変色し、足が六本に裂ける。

数秒後、そこには女性の上半身を持ったハエの姿があった。

「あなた・・・ハエ娘・・・」

まれに高い魔力を持つことがあるハエ娘ならば、自分が負けたことも納得がいく。

「・・・なら、それでいいわ」

バアル・ゼブブはなぜか不満げにそう言って、手を彼女に伸ばした。

頭に指が触れる。

「ひっ―」

「大丈夫、今は解除してるわ」

彼女の言葉どおり、サティアの頭が腐ることはなかった。

彼女はサティアを抱えあげ、しげしげと顔を見つめた。

そして顔を寄せ、唇を重ねた。

「!んんんん!」

舌がサティアの口内に挿し込まれ、大量の唾液が注ぎ込まれる。

吐き出そうにも、頭を掴まれているのでままならない。

仕方なく彼女は、唾液を嚥下した。

「んっ・・・んっ・・・」

のどを小さな粒のようなものが混じった唾液が、通り過ぎていく。

「っはぁ」

ようやく唇を開放され、彼女は大きく息を吸った。

「ふふ、飲んだわね・・・?」

「え?」

「すぐにわかるわ」

意味深な言葉を、バアル・ゼブブが言い放った。

そしてその言葉どおり、サティアは相手が何をしたのかを悟った。

(なんか、暑い・・・)

体が微妙に汗ばみ、体温と呼吸の回数が上がる。

まるで、サキュバスの体液効果で発情した男のような症状だ。

「ふふっ、ちょっと変な気分になってきたでしょう?」

顔を振って否定する。

「じゃああなた、何で太ももをこすり合わせているの?」

「あ・・・」

無意識のうちに、彼女は太ももをこすり合わせていた。

まるで、以前戯れに発情させた、女のように・・・

「違う!これは・・・」

脳内で、自分が発情などしていないことを叫ぶ。

サキュバスの自分が、体液効果などで発情するわけがない。

「そうね、あなたはまだまともよ」

バアル・ゼブブは、笑みを浮かべながら続けた。

「でも、あとどのぐらいの間、あなたはまともでいられるかしら?」

彼女はサティアを抱きかかえ、その場に腰を下ろした。

抵抗しようにも、彼女の四肢に力がこもらなかった。

女が彼女の耳元に唇を寄せ、ささやく。

「さあ『従い』、『動け』」

サティアの体内で、何かが蠢きだす。

蠢きは次第に彼女の体内をめぐり、下半身に集中していく。

そして下腹部が熱を持ち、かきむしりたくなるようなむず痒さが股間に生じた。

「うふふ・・・」

女が、彼女の下半身を覆う、コスチュームのパンティー部分に手をかけた。

女の指に力がこもり、サティアの性器があらわになる。

彼女の性器はだらしなく開いて、愛液をよだれのように垂らしていた。

「あらあら、こんなにぐちょぐちょ」

「ち、ちがう・・・」

「違うって?確かにそうよねぇ、天下の淫魔サマが、一回のハエ娘にキスさせられて、耳元で囁かれたぐらいで発情するなんてことないわよね」

「や・・・やぁ・・・」

バアル・ゼブブの言葉に、彼女は弱々しく首を振る。

「分かってるわ、これは違うの。今のこれは、そう、夢ね」

「夢・・・?」

「ええ、夢。ただの悪夢」

悪夢ならば、覚めてほしい。

「でもね、せっかくの夢なんだから、楽しんだら?」

彼女は言葉とともに、サティアの性器に指を伸ばし、軽く挿し込んだ。

柔らかい粘膜が、彼女の指を受け入れ、懸命に絡みつく。

痺れるような心地よさが、股間から広がる。

(そうだ・・・これは夢なんだ・・・)

「あ・・・あぁ・・・」

サティアは、『夢』のリアルな感覚に素直に身を任せ、声を上げていた。

「ふふ、素直になったわね」

バアル・ゼブブはさらに数度サティアの性器をかき回してから、指を抜いた。

「あ、もっと・・・」

サティアは、名残惜しげに腰を持ち上げて、声を無意識の内に発していた。

「ちょっと待ってね、もっといいことしてあげるから」

彼女は言葉とともにサティアの、充血して大きくなったクリトリスを指でつまんだ。

「ひぅっ!」

短く悲鳴を上げるサティアをそのままに、親指と人差し指でやさしくクリトリスを揉み、刺激する。

すると、サティアの体に奇妙な変化が起こった。

クリトリスの表皮一枚下に、何かできもののようなものが生じた。

できものの上に、さらにできものが生じ、クリトリス全体が肥大化していく。

「え・・・?え・・・?」

股間の異様な灼熱感に、サティアは声を上げ、バアル・ゼブブが指を離す。

だが、クリトリスの膨張はなおも続く。

クリトリスに生じたできものは、表皮の下を移動し、クリトリスの形を変えていく。

そして―

「でーきた」

彼女の股間には、よく見慣れた男性の性器、つまりはペニスが生えていた。

「な・・・何・・・これ・・・」

「おちんちんよ、あなたのね」

生白く、ピンク色の亀頭をしたペニスが、サティアの鼓動にあわせて跳ねていた。

バアル・ゼブブは手を伸ばし、無造作にペニスを掴んで軽く上下に扱く。

「ひゃあっ!?」

「ふふふ・・・、神経への接続は十分みたいね」

ペニスへの刺激に叫ぶサティアを見ながら、彼女は手の動きを加速させる。

ペニスの表皮がカリを擦り、強い快感を生み出す。

尿道からあふれ出した液体が、彼女の手を濡らしすべりをよくする。

「ひぃ!いぃ!ひゃうっ!」

手が上下するたびにサティアは声を上げていた。

そのうち、ペニスの脈動が大きくなってきた。

(もうそろそろかしら・・・?)

彼女は手を離し、上半身をかがめてペニスを咥えた。

舌を絡みつかせ、唇をすぼめて吸う。

「ひぃあああぁぁぁあああああっ!?」

突然の感触の変化と舌と唇の責めに、彼女の脳内が真っ白になる。

勝手に腰が跳ね、熱い何かがペニスの中を上っていく。

そして彼女は異様な開放感と、微かな喪失感を感じながら射精していた。

「んっ・・・んぶ・・・んっ・・・」

バアル・ゼブブののどを、生臭さとかすかな塩味の混ざった粘液が叩く。

紛れもない精液の味だ。

彼女は口内に放出された精液を飲み干し、ペニスを開放した。

「機能は・・・十分ね」

「うぅ・・・あぅ・・・」

射精の快感にうわごとを言うサティアを見ながら、彼女は続けた。

「経口進入させた『あたし』を使って作ったペニス・・・、の割には馴染んでいるみたいね」

サティアの股間では、未だ勃起したままのペニスが脈打っている。

バアル・ゼブブは全身を弛緩させたサティアを地面に横たえ、おもむろに立ち上がった。

足を操り、肥大化したハエの下半身をサティアに向ける。

「さあ、楽しみなさい」

腹部の先端、すぼまっていた穴が大きく広がり、大量の白い粘液が吐き出された。

「・・・え・・・んぶぅっ!?」

顔面どころか全身に粘液を浴びて、サティアの意識が回復する。

「いやぁ・・・」

力の入らない腕を懸命に持ち上げ、顔をぬぐう。

粘液の発する、すさまじいまでの甘い香りに頭がくらくらした。

「もう・・・いや・・・ぁ?」

ふと彼女は、自分の全身にかけられた粘液がかすかに動いていることに気が付いた。

よく見ると、体にかかっているのは白い粘液ではなく、透明な粘液と大量の白い何かだった。

白く、細長く、米粒ほどの大きさのこれは―

「ウジよ」

粘液にまみれたウジが、何かを探すように頭を振りながら、彼女のなめらかな肌の上を這っている。

「ひっ―」

怖気を催すくすぐったさに、彼女は引きつった声を上げた。

ウジたちは彼女に構うことなく肌の上を這い続け、ペニスにたどり着くと動きを止めた。

後から後からウジたちが、互いの体を乗り越えながらペニスに這い登り続ける。

やがて、彼女のペニスはウジたちに覆われた。

「気分はどうかしら?」

「やぁ・・・はずしてぇ・・・」

涙目になって声を上げるサティア。

「だーめ、これからがすごいんだから」

そう言いながら、バアル・ゼブブは指を鳴らした。

「ひぁうっ!?」

突如ペニスを覆ったウジたちが蠢き始め、ペニスに刺激を与える。

ウジたちの表皮や小さな尾部が、カリを、亀頭をくすぐり彼女に快感を与える。

幹や根元を包むウジたちも、統率の取れた動きでうねり、彼女に肉の穴にペニスを挿入しているかのような錯覚を覚えさせていた。

「ひぃぃやぁぁぁぁ!だめぇぇぇええええ!やめてぇぇぇえええっ!!」

力の入らなくなった手足を懸命に震わせ、絶叫する。

だが、その声にバアル・ゼブブはますます器を浴したように口の端を吊り上げていた。

ペニスを覆うウジたちがいっせいに全身を蠢動させ、擬似肉穴を蠕動させる。

その刺激の変化に、彼女の意識がはじけた。

「ぁぁぁあああああああぁっ!!」

口を大きく開き、絶叫とともに精液を放つ。

ウジを巻き込みながら中に舞った精液が、しばしの滞空の後彼女の全身に降り注いだ。

「あーあ、全身にかけちゃって・・・サキュバスってそんなに精液が好きなの?」

己の白濁にまみれ、荒く息をつくサティアを嘲るように、バアル・ゼブブが言い放つ。

しかし放心している彼女に、その言葉は届いていなかった。

「まあ、いいわ」

サティアの腹に目を向けると、取り残されたウジが、精液に身をくねらせながら懸命に群がっているのが目に入った。

体が膨れ上がったウジが、、尾部の先端から新たなウジを産み出していた。

サティアの精液をすすり、、ウジたちの数が増えていく。

そして精液がなくなるころには、ウジの数は数倍に増していた。

「『動け』『搾れ』」

バアル・ゼブブの言葉に、ウジたちがいっせいに動き出した。

「・・・ぁ・・・ぁあ・・・ああっ!?」

体表を這いずる異様な感覚に、再び意識を取り戻すサティア。

彼女が目にしたのは、

ペニスに群がり、さらに厚くペニスを包むウジたち、

腹を腕を覆い、撫で擦るように身を伸縮させるウジたち、

腋に入り込み、彼女がかいていた汗をすするウジたちの姿であった。

「ぃいい・・・いやぁ・・・やめてぇ・・・」

ウジたちの与える刺激に、サティアは涙を滲ませながら言っていた。

彼女たちサキュバスにとって、一方的に与えられる快感はただの屈辱。

ましてや、相手が家柄も何もないと思われるモンスター娘ならばなおのことだ。

だがウジたちは情け容赦なく体を伸縮させ、彼女の体を刺激し続けている。

「ふふっ、楽しいでしょ?いつもあなたが男の人にやっていることよ」

「・・・いゃぁ・・・こんなの・・・ぃひぃっ!?」

弱々しい拒絶の言葉が、ウジたちの蠢動によって生じた刺激にかき消される。

「だめぇぇぇえええ!でるっ、でるっ!!」

体をウジに覆われ、与えられる刺激に声を上げて身を震わせる彼女の姿は、もはやサキュバスとは言い難かった。

大きく広げられた口の端から、叫びとともによだれが垂れ流されている。

ペニスが加速する彼女の脈拍に合わせて、大きく跳ねだす。

(もう・・・だめ・・・!出る・・・!)

彼女が屈辱の射精を覚悟したその時、ウジの動きが止まった。

(え・・・?)

興奮が次第に落ち着き、ペニスの脈動が収まっていく。

そして、射精に達しなかったという、かすかな感情のよどみだけが残った。

「ん?射精できなくて、残念だったのかしら?」

「ち、ちが・・・」

サティアの表情を読んでか、バアル・ゼブブはくすくすと笑いながら言った。

「いいのよそれで、『残念だ』って思えるまで、何回でもしてあげる。さあ、『動け』」

「くひぃっ!?」

ウジがペニスの表面を這い、嬲り回されるような刺激に彼女は腰を跳ね上げていた。

体の各所に張り付いたウジたちも動きを再開し、ペニスどころか乳首が、腋が、腿が、二の腕が、脇腹が、へそがとろけるような刺激にさらされる。

「いぃぃぃひぃぃぃぃぃいいいいいっ!!」

先ほどとは段違いの刺激に、抵抗の意思さえ甘く、溶かされる。

彼女の股間から、甘い感覚が沸きあがり―

「『止まれ』」

ウジの動きが止み、射精の予兆が霧散していく。

「くはっ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「・・・『動け』」

「ぁぁああああああっ!!」

ウジによる数度目かのペニスへの刺激に、サティアは脱力した全身を捩じらせ、声を上げた。

あっという間に追い詰められ、ペニスが脈打つ。

(で、出る・・・!)

「『止まれ』」

射精の予兆を察したのか、バアル・ゼブブがウジを止めた。

(また・・・)

彼女は荒く息をつきながら、バアル・ゼブブのほうを見ていた。

「・・・『動け』」

ペニスを包むウジたちが動き出し、ペニスが撹拌される。

声を上げて体を震わせ、ペニスを脈動させる。

そして、ウジの動きが止まり、かすかな感情のよどみが残る。

それが、何度も繰り返された。

停止と再開の間隔が次第に短くなり、サティアの思考が溶かされていく。

次第に、射精できなかった事への不満感が膨れ上がっていく。

そして何度、いや何十度目だったろうか。

「『止まれ』」

「ぃや・・・」

小さく上がったサティアの声に、バアル・ゼブブは顔を彼女のほうへ向けた。

「ん?なんて言ったの?」

「・・・」

笑みを浮かべながら顔を近づける彼女から、サティアは目をそらした。

「ちゃんと言ってくれないと、放置するわよ?」

「もっと…」

「もっと?」

「もっと…ながく…おちんちんいじって…」

サティアは、声を絞り出した。

「よく言えました・・・『動け』」

バアル・ゼブブは嬉々とした表情で、ウジに命じる。

手足や腹、そしてペニスを柔らかく、それでいて強い刺激が包む。

ペニスの根元から、リング状の圧迫感が先端へ上っていく。

裏筋をなぞるように、上下にウジたちが蠢動する。

あふれ出す先走りを求めて、ウジたちが亀頭に吸い付き胴をくねらせる。

「ひぁっ・・・ひぃっ・・・!」

彼女は与えられる快感に、ただただ声を上げながらしがみついた。

彼女の耳の奥に、血液の流れるゴウゴウという轟音だけが響く。

彼女の閉じた目の中で、激しく明滅する光が見える。

そして、ペニスが大きく脈打ち始め、腹の奥で何かが渦巻きだす。

(で、でる・・・でる・・・!)

射精の予感が訪れたそのとき、ペニスを包むウジたちがいっせいに身をくねらせ、一際大きい刺激を彼女に与えた。

脳の奥が真っ白な光に包まれ、全身がこわばった。

「ひぃぃぃぁぁぁぁああああああっ!!」

腰を突き上げ、ペニスの先端から精液が噴出する。

ウジたちのうねりに、己の脈動に合わせるように、精液が断続的に噴出し続ける。

「ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!」

こわばった手足、快感に歪んだ顔に、噴出した精液が降り注ぐ。

そして精液にまみれ、輪姦を受けた後のような彼女の肢体を、ウジたちが包んでいく。

「あああぁぁぁっ!やべでぇ!ずわないでぇ!」

皮膚についた精液をすすり、舐め取られる感触に、彼女は首を振りながら声を上げる。

しかし彼女のかすかに残った意思と裏腹に、ペニスは屹立し、なおも射精を続けていた。

「おでがいでずぅ!ぼうおぢんぢん、どべてぇぇぇ!!」

「止めてほしい?だめよ。『出させてほしい』って言ったの、あなたじゃない」

バアル・ゼブブは、サティアの願いを聞き入れなかった。

「ぃやぁ!ぼうやらぁ!」

精液を撒き散らしながら涙を流す彼女を、少しずつウジたちが覆っていく。

サティアの精液をすすり、また増えつつあるのだ。

降り注ぐ精液を求めてウジたちが身悶えし、その皮膚をなでる刺激に、彼女のペニスは精を放っていた。

「ぃぃぃぃいいいいいいああああああああっ!」

首筋をウジたちが這い登る。

太ももをウジたちが這い進む。

両腕をウジたちが覆っていく。

ウジ一匹一匹の、蠕動する柔かな体節が、彼女の皮膚を優しく撫で上げる。

「ああああああああ、んっ!!」

頭を振り、懸命に気を紛らわせて射精を収めようとする彼女の口に、ウジたちがいっせいに雪崩れ込む。

鼻を、強く閉じられた目を、地面に広がった髪を、そして地面に接していない全身を、ウジたちが覆い尽くしていく。

そして、その場には白濁した粘液を噴出する、ウジの塊が現れた。

ウジたちの内部で、サティアは全身を愛撫されていた。

ペニスや胸、女性器や肛門はもちろんのこと、手首、脇、背中、とにかくウジに触れられているところから、彼女は快感を覚えていた。

「んんーっ!んんっ!」

ウジに包まれ、与えられる刺激に精液を漏らしながら、彼女がうめき声を上げる。

しかしその声が外にいるバアル・ゼブブに届くはずも無く、届いたとしても何の意味も無かったろう。

「ん・・・んっ!?」

肛門と女性器の表面を這いまわっていたウジたちが、そこからあふれ出る彼女の体液を求めてか、身をねじ込んできた。

肛門と女性器が広がり、粒々とした感覚が体内に侵入する。

「ん、んーっ!!んぶっ!!」

口内に留まっていたウジたちも、彼女ののどの奥へと行進を始めた。

体内の粘膜をウジに刺激され、まさに漏れるようだった射精が勢いを取り戻す。

「・・・!・・・!!」

もはやうめき声さえも出ない状態で、彼女はウジに包まれ、人間の男のように精液を放ちながら身をくねらせる。

『これは夢よ』

もはや理性の消失したサティアの脳裏に、女の言葉が浮かぶ。

(これ・・・夢・・・)

『ええ、夢。ただの悪夢』

夢ならば、サキュバスの彼女が犯されても、問題は無い。

これは夢・・・

ただの夢・・・

ゆ・・・め・・・

・・・・・・

・・・









「『止まれ』『離れよ』」

バアル・ゼブブは、目の前で蠢くウジの塊に、短く二つ命じた。

ウジの蠢動が治まり、流れていくように離れていく。

後にはうつろな表情で横たわる、サティアの姿があった。

その股間ではペニスがなおもそそり立っていた。

「『解除』」

彼女の声にあわせ、ペニスの脈動がとまり、数百匹のウジへと崩れ落ちる。

「『逮捕の際、当人は激しく抵抗。そのため当人の手足を切断し、当人に回復させることで魔力を消費させた』・・・と」

ウジたちの形作る円の中、サティアの胸が小さく上下していた。

生きてはいる。しかしサキュバスとしての活動に必要な魔力は、一滴も残っていなかった。

バアル・ゼブブの作ったペニスによって、魔力を精液に変え、放出させたからだ。

「これで安全に『逮捕』できるわね」

彼女の六本の足が二本にまとまり、巨大なハエの胴体が萎縮していく。

そして人間形態になった彼女は、ジーンズのポケットから携帯電話を取り出した。

「もしもし、バアル・ゼブブです・・・」

電話回線の向こう、彼女の主人たちに向けて、彼女は報告をする。

「はい、逮捕しました・・・いえ、残念ながら男性はすでに死亡していました・・・ええ、遺体は当人が破壊してしまいました・・・」

しばらく言葉を交わし、サティアの回収を主人に頼む。

「ええ、それではお願いします」

彼女が通話を切ると、微かなハエの羽音が耳をくすぐった。

(あっちも無事、始末したみたいね)

彼女めがけてやってくるハエの大群を見ながら、胸中でつぶやく。

「『飛びたて』『紛れよ』」

足元のウジたちに命じ、ハエに変化させる。

飛び立った一群は、やってきた一群と混ざり合い、しばしの後に四方八方に散って行った。

「これで、全部おしまい」

バアル・ゼブブは小さくつぶやき、ひとつ伸びをする。

東の空から、太陽が顔を出していた。





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