蝿の王は 高き館に 蛆




八畳一間のアパートの一室に、四人の人影があった。

三十代前半ほどの三人の男たちと、壁際の椅子に座る二十二、三ほどの若い女だった。

男たちは部屋の中央に置かれたテーブルに着き、一心不乱にぼろぼろの古い本のページをめくりながら、手元のノートの何かを書き記していた。

リリリリリリリリ

甲高い電子音が室内に響き、女が受話器を持ち上げる。

「はい、田辺発条店です。・・・はい・・・はい・・・かしこまりました、代わります・・・腰眼様」

受話器の口の方をふさいで、彼女は声を上げた。

「どうした?」

「六ヶ月調査会から依頼だそうです」

「わかった」

腰眼は席を立ち、女と電話を代わる。

「はい代わりました、腰眼です。ええ・・・はい・・・はい・・・」

テーブルについていた二人も手を止め、腰眼に目を向ける。

「はい・・・数量超過で・・・滞在許可が・・・はぁ、なるほど」

電話台の上のメモ帳に、何事かを記しながら言葉を交わす。

「はい・・・ええ、できます・・・では資料は・・・はい、かしこまりました。それでは」

受話器を下ろし、彼は後ろに向き直った。

「喜べ、仕事が入った」

「何!?」「ホントですか!?」

足泉と髄柱が立ち上がり、椅子が倒れて音を立てる。

「内容は?」

「うむ、とある淫魔が規定人数を超えて吸精行為をしているため、滞在許可が取り消しになったそうだ」

「それで、その淫魔を捕まえればいいのか?」

「ああ、そうだ。三ヶ月ほど謹慎処分を受けるらしい」

「資料はいつものところですよね?」

「待て、今回は私たち三人では仕事をしない」

「え?じゃあ、誰が?」

「彼女だ」

腰眼の指は、椅子に腰掛けている女を示していた。

「ええっ!?ほんのこの間、従属契約を結んだばかりなのに」

「結んだからこそ、だ」

「ま、実験としてはいいんじゃねえの?一応俺たちも、バックアップとして待機できるぐらいには暇だし」

「まあ、それなら」

足泉が示した解決案に、髄柱が納得する。

「それではバアル・ゼブブ、頼んだぞ」

「はい、かしこまりました」

赤い眼球の女が、一つ頷いた。











彼はその日、ただ合コンに参加しただけだった。

居酒屋での歓談の後、女性陣を送るということになり、彼はアメリカからの留学生、という彼女を送ることになった。

しかしみんなと別れた後、彼女は急に帰りたくないと言い出したのだ。

無論彼はアパートにつれて帰り、ベッドを彼女に明け渡して、床で寝ることにしたのだが・・・。

「ねえ・・・しよ?」

ブラウンの髪に白い肌、胸はともかく整った顔立ちの、彼女の言葉を断りきれる男がいるだろうか、いやいない。

かくして、彼は彼女と行為に及ぶことになったのだが―







「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

ベッドの上に仰向けになり、彼女がその上で腰を振る。

彼のペニスを咥えこんだ女陰は複雑に蠕動し、彼に甘い快感を与えていた。

「ほらほら、まだ三回目でしょ?」

言葉とともに肉洞が狭まり、彼のペニスを吸い上げた。

「ああっ・・・!」

彼は声を上げて、精液を放っていた。

「うふ・・・おいし・・・」

彼女は口の端を持ち上げ、体内に放たれる精液の感触を味わっていた。

やがて射精が収まり、彼は全身を弛緩させる。

「ちょ・・・ちょっと、休ませて・・・」

「何言ってんの。さ、もう一回―」

キィ

玄関からの、何かがきしむ音に彼女は彼の上から飛び上がり、床の上に立った。

全裸のまま、秘部から男女の交わりの証が垂れるがまま、拳法の構えのようなものを取る。

ドアに取り付けられた新聞受けが、かすかに開いていた。

「誰っ!」

ぶぅううううううううううううううううん!

彼女の誰何の声に応えたのは、虫の羽音だった。

何千、いや何万もの羽虫が、新聞受けの隙間から室内に流れ込んでくる。

羽虫たちは黒煙のように玄関付近に固まり、群れを成していた。

と、黒煙を突き破り、人影が飛び出る。

「誰?」

彼女は、羽虫の中から飛び出た人影に向けて声を上げた。

それは、女だった。

胸に海賊旗のような髑髏と骨がプリントされたTシャツを、豊かな乳房が押し上げ、すらりと長い脚は濃い色のジーンズに包まれていた。

ショートヘアに、整った鼻と口。

目元はサングラスに覆われて見えなかった。

(あれ?虫は?)

ふと彼は、ついさっきまで耳をふさぐほどであった虫の羽音が、止んでいるのに気が付いた。

「あたしはバアル・ゼブブ―そう、敵ね」

「敵・・・?」

怪訝そうな顔の彼女に、女は続けた。

「そう、敵。それで十分じゃない」

「ふん、誰に向かって口聞いていると思う・・・?」

一瞬、彼女を真っ黒な雲のようなものが包み、すぐに消え去る。

すると、彼女はいつの間にかボンテージ・コスチュームに身を包み、羽と尻尾を生やしていた。

「私はサキュバス、メルリアル家のサティアだ!」

彼女―サティアが、吼える。

突然の彼女の変貌に、彼はただ呆然と見つめるしかなかった。

彼女は床を蹴り、背中を窓ガラスに叩きつけた。

「くっ!?」

割れるかと思ったが、不思議なことに窓は彼女の体当たりに耐えた。

強く背中を打ちつけた彼女は、床の上に転げ落ちた。

「ごめんね、ここからの出入りは禁止にしたの」

サティアは女を睨みつけながら立ち上がり、両手を胸の前で向かい合わせるように構える。

「カウスフェル・バルカナゴ!」

全く意味のわからない言葉が発せられ、両手のひらの間に赤い火の玉が生じた。

「いっけぇぇええええ!」

叫びとともに、手のひらを女に向けると、火の玉は一直線に女の元に飛んでいった。

そして、女の胴体に着弾する。

火の玉は胴体に大穴を開け、そのまま直進して廊下側の窓にぶつかり、ガラスの表面に波紋を残して消えていった。

「・・・ふふ、やるじゃない」

女―バアル・ゼブブは腹に大きな穴を開け、向こう側の景色を覗かせたまま、平然と笑みを浮かべた。

「う・・・嘘・・・」

穴の縁が、もぞもぞと蠢きながら縮んでいく様子を見て、サティアが青ざめる。

「じゃあ、今度はこっちね」

胴体どころかTシャツの穴さえもふさがり、先ほどと変わらぬ様子の女が床を蹴り、一気にサティアとの距離を詰める。

サティアは、緩く指を曲げた右手が高く掲げられるのを見て、とっさに左手をかざした。

バアル・ゼブブの右手が振り下ろされ、サティアの左腕を掴んだ。

「っああああぁぁぁぁあああああ!?」

サティアの表情が一変し、痛みにこらえるような絶叫を上げる。

「は、放せぇ!」

バアル・ゼブブの体を蹴り、懸命にもがきながら彼女が叫ぶ。

しかしバアル・ゼブブは、彼女の抵抗に動じることなく、彼女の腕を掴み続けていた。

「ほらほら、あんまり暴れないで」

「あぁぁぁあああああああ!はぁなぁせ―っ!?」

そして突然サティアの体が、支えを失くしたかのように、床の上に転げる。

「ほら、あんまり暴れるもんだから、千切れちゃった」

彼女の左腕の、掴まれていたところより先の部分が千切れていた。

どす黒く変色した断面に、白い米粒ほどの何かがいくつかくっついている。

バアル・ゼブブが、手の中の千切れた左手を弄びながら、愕然とした表情のサティアに視線を向けた。

「貴女、逃げるなら今のうち、よ?」

「い・・・くっ」

サティアは悲鳴を飲み込んで、右手を左ひじに振り下ろした。

音も、出血もなく、ひじから先が床の上に落ちた。

「がぁあああああ!!」

叫びを上げながら、サティアが身を翻し、再び体を窓ガラスに叩きつける。

ばりぃぃぃぃぃんっ!

窓枠ごとガラスが割られ、サティアの姿が夜の闇へと消えていった。





「あ、あんたら・・・」

完全に麻痺していた彼の思考が復活し、半ば自動的に言葉が口からあふれ出る。

「あんたら・・・何なんだ・・・」

「ん?ありゃ、目撃者がいたの」

バアル・ゼブブが、驚いたような声を上げる。

「あー、やっぱりサングラスは失敗ねぇ。もうちょっといいもの見つけなきゃ・・・」

「あんた、何なんだ?」

もう一度、彼は強く問いかけた。

バアル・ゼブブは表情を消し、彼のほうに顔を向けた。

「あたしはバアル・ゼブブ」

そして、サングラスに手をかけ、外す。

「―ひっ!?」

サングラスの下にあったのは、人間の目ではなかった。

白目も黒目もない真っ赤な眼球に、細く縦に裂けた虹彩。

外したサングラスが、彼女の手の中に飲み込まれていき、ジーンズの色がどす黒いものに変化する。

「ひ・・・ひぃ・・・」

彼の見ている前でバアル・ゼブブの足が六本に裂け、臀部が肥大化し、Tシャツが裂けて背中側に捲れる。

数秒後、部屋の中にいたのは女性の上半身を持つ、巨大なハエだった。

「そして、これが本当の姿のひとつ。それで、あなたとさっきまで一緒にいた女の子は、サキュバスって言ってね、ま、あたしの餌ね」

彼女は上半身を曲げ、床に転がる左腕の残骸を拾い上げた。

すでに持っていた左手も、落ちていた残骸も色がどす黒く変色し、白い何かが無数にへばりついていた。

「よし、量は十分ね・・・」

バアル・ゼブブがそう言うなり、彼女の口が大きく開き、手にした残骸を飲み込んだ。

と同時にハエの腹部の先端が大きく開いて、粘液にまみれた無数の白い粒が床にぶちまけられる。

「う・・・」

それはウジだった。

無数のウジが、粘液にまみれもぞもぞと蠢いている。

そのウジを掻き分けるように手が生えた。

手はあたりを探り、床に手のひらをつくなり、人が水溜りからあがってくるような要領で、ウジの中から体を引き上げた。

ウジの群れが急速に縮み、代わりに異形の影が現れる。

「ぷはっ」

ショートヘアの、あどけない顔つきの少女が大きく息をついた。

バアル・ゼブブと同じように赤い眼球をしているが、下半身はぶよぶよと肥満したウジのもので、乳房は小ぶりでわき腹には肋骨が浮かんでいた。

「気分はどう?」

「あ、問題ないです」

バアル・ゼブブの問いに、少女は即座に答えた。

「それじゃ、あたしはあのサキュバスを追うから」

「はい、ここはやっておきます」

少女の言葉を聞き終えると同時に、バアルゼブブの体が炸裂し、無数のハエと化す。

そして、窓の割れ目からハエたちが夜の闇へ飛び出していった。





「びっくりしたでしょう?」

少女が、彼に向けて声をかける。

彼は唐突な彼女の問いに、数度首を振って答えた。

「すみませんね、あたしが淫魔狩りに慣れていなくて・・・」

「え?『あたし』?」

思わず声が出る。

「ああ一応あたしも、さっき出て行ったバアル・ゼブブの一部分なんですよ」

「・・・」

別の生物なのに、一部分?

いまいち彼には理解できない。

「ま、難しいことは置いといてですね、『あたし』はあなたを驚かせてしまったお詫びをしたいんです」

彼女は両腕を操って、ベッドの上に這い上がった。

ふと、彼は今まで一糸まとわぬ姿でいたことに気が付き、とりあえず枕を手に取り、ペニスを隠した。

「あ、そのままで結構ですよ。『そういうこと』でお詫びするように命令されていますから」

「いや・・・でも・・・」

ベッドの上の、彼女の下半身に目をやる。

白くぶよぶよと膨れ上がった皮膚に、ひくひくと蠢く小さな気門。

彼女の赤い眼球に目をつぶるとしても、下半身は生理的に受け付けそうになかった。

「あたしの下半身が、嫌なんですか?」

「ああ、まぁ・・・」

「ふふっ、すぐに気にならなくなると思いますけどね」

シーツの上を這って、彼の手から枕を取り上げる。

力を失い、うなだれたペニスが二人の目に入った。

「それでは、お口でさせてもらいます」

彼女は目を閉じ、彼のペニスを咥えた。

「・・・うおっ」

ペニスへの異様な感覚に、彼は声を上げた。

粒々した何かが、彼のペニスを撫で回しているのだ。

それは彼女の舌に生えた、細かい突起によるものだった。

柔らかい突起が、彼の裏筋やカリを的確に刺激する。

下半身に血液が集まり、ペニスが勃起していく。

「うぅ・・・あぁ・・・」

勃起しきったペニスに、彼女は黙々と舌を絡め続ける。

裏筋を粒々とした感触がなぞり続け、彼の意識を次第に追い詰めていく。

そして―

「くっ・・・出る・・・!」

三度射精したにもかかわらず、彼は射精した。

「んっ!?・・・んっ・・・んむ・・・ん・・・」

のどの奥にペニスから吐き出される精液を、彼女は一滴もこぼさぬよう、口をすぼめて飲み干していた。

舌をペニスに這わせ、幹のほうへと流れていった精液を舐め取る。

そして、仕上げとばかりに鈴口に唇を当て、尿道に残る精液を啜り取った。

「ひぅっ!?」

「・・・あれ?そんなに気持ちよかったんですか、あたしの『お掃除』?」

彼女が顔を上げ、思わず声を上げてしまった彼に問いかけるように言う。

「『お掃除』なんて普通、女の人はしませんからね―ところで、お兄さん」

ウジの下半身の先端部をもたげ、軽く左右に振りながら彼女は続けた。

「おちんちん、まだ元気ですね」

「え?」

視線を下腹部に下ろすと、唾液にまみれて光を反射するペニスが、そそり立っていた。

「よかったら、ここに入れてみません?」

ウジの先端部を手元まで引き寄せ、彼女は己のすぼまった穴に指を挿し込んだ。

力を込めて穴が広げられ、甘い香りが立ち上る。

穴の中は、不健康に生白いウジの体とは対照的に、健康的なピンク色をしていた。

「・・・」

無言で見つめる彼の目の前で、空気にさらされたからか透明な液体が分泌され、粘膜が波を打つ。

(入れてみたい・・・)

「どうですか?気持ちよさそうでしょ?」

彼女の言葉に合わせるように、穴全体が彼を誘うようにうねる。

彼は、吸い寄せられるように彼女の側ににじり寄り、そのウジの下半身に手を伸ばした。

ぶよぶよとした、異常に柔らかい腐肉のような感触が手に触れる。

「あ、入れるんですね」

彼女が手を離し、穴がすぼまって粘液の一部があふれ出す。

だが彼は、その穴が、巨大化したウジの体のものということも忘れたかのように、ペニスの先端を穴の入り口にあてがった。

腰に力を込める。

ぢゅぶ ぢゅぶぶぶぶぶぶ・・・

「ぐっ・・・」

穴は、粘液質な音を立てながら彼のペニスを受け入れた。

ただ、彼女が広げて見せた時の印象より、ペニスへの締め付けは強かった。

ペニスへの圧迫感に、彼は小さく声を漏らした。

「ふふ、気持ちよすぎて動けないんですかー?」

彼女が笑みを含んだ声で、彼に問いかける。

「・・・」

彼は無言で、ゆっくりと腰を前後に振り始めた。

穴とペニスが、粘液により淫猥な音を立てる。

「あれ?かなりゆっくりですねー。もしかして、もう出そうなんですか?」

図星だった。

ただ粘液ですべりがよく、きつく締め付けてくるだけの穴にペニスを出し挿れするだけなのに、彼のペニスは激しく脈打っていた。

「それじゃあ―」

懸命に射精を堪える彼の腰に、彼女が両手を回す。

彼女はがっしりと腰を押さえ、彼の動きをペニスが深く入ったところで抑えた。

「一回出してください」

「!?」

ペニスの根元から亀頭の方へ、穴の粘膜が扱き上げるように波打つ。

その刺激に、ペニスから電流が彼の脳へと駆け上り、彼は射精していた。

ペニスが大きく脈打ち、精液が穴の奥へと打ち出される。

その量は先ほどよりも多く、射精の時間も長かった。

「ぅあ・・・ぁぁ・・・」

「ほら、遠慮せずどんどん出して下さーい」

粘膜を、ペニスから精液を搾り取るかのように波打たせながら、彼女が言葉を放つ。

「ひぃ・・・もう・・・や・・・」

ペニスは彼の意思とは裏腹に、粘膜の動きに身を震わせながら、精液を吐き出し続けた。

「ぐ・・・ぅう・・・はぁ・・・はぁ・・・」

永遠に続くかと思われた射精が、ようやく終わった。

彼女が腰から手を離し、穴から粘液の糸を引きながらペニスが引き抜かれる。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

何の刺激も与えられていない状態に、彼は荒く息をつきながら安堵感を覚えていた。

「うわー、結構いっぱい出ましたねー」

ウジの下半身を撫でながら、彼女が言った。

「もうちょっとかかるかと思ったけど、これなら十分ですね」

荒く息をつきながら彼が視線を上げると、ウジの下半身が膨れ上がっていた。

人一人隠れられそうなサイズにまで膨張し、先端の、先ほどペニスを出し挿れした穴から粘液が滴りだす。

「・・・それじゃ、出します・・・ん!」

彼女がいきみ、穴が大きく開いた。

流れ出る粘液がベッドのシーツを濡らし、床へと流れ落ちる。

そして穴の奥から、手を折り曲げた人の姿が出てきた。

短い髪に、白いうなじ。そして、かなり細くなっているとはいえ、十分に巨大なウジの下半身。

上半身を持ち上げ、額に張り付いた髪の奥から、赤い眼球が覗く。

生まれたのは、彼女だった。

手を伸ばし、粘液にまみれた体を彼の側に這わせた。

彼の皮膚に粘液が密着し、甘い香りが彼の鼻腔をくすぐった。

「あれ、まだ食事しなくていいんですか、『あたし』?」

彼女の問いに、生まれたばかりの彼女は首を縦に振る。

「なら、もう一回あたしがいただきますねー」

再び、彼女はウジの体の先端部の穴を広げ、彼のペニスをその中に収めた。

粘膜がうねり、甘い感覚がペニスに走る。

「くっ・・・!」

思わず声を上げていた彼の頬を、粘液まみれの手が挟む。

「こっち・・・向いて・・・」

「何を・・・んむ!?」

強引に唇を重ねられ、ほのかに甘い風味が口内に広がる。

「ん・・・んむ・・・」

彼女は、彼と唇を重ねたまま体をくねらせ、ウジの下半身を彼の上半身に巻きつけた。

ぶよぶよと柔らかい皮膚が、彼の皮膚に密着する。

そして、ウジの対表面が波打ち始めた。

「ん・・・!ん、んむ〜!」

粘液越しに腹やわき腹を這いまわる未知の感覚に、彼はくぐもった声を上げていた。

しかし彼女の舌が挿し込まれ、舌の動きを押さえ込む。

「うふふ・・・『あたし』に巻きつかれて、気持ちよさそうですね」

体内の粘膜をうねらせて、ペニスを弄びながら少女が口を開く。

「ぬるぬるのウジの体を巻きつけられて・・・ぐちょぐちょって揉まれて・・・気持ちいいんですよね?」

ウジの体と、ペニスを包む粘膜が力を込めて締め上げる。

「ぶよぶよに太ったウジの、得体の知れない穴におちんちん突っ込んで・・・」

粘膜の動きに、穴の縁とペニスの隙間から粘液があふれ出しベッドに垂れる。

「どろどろの粘液まみれの、でっかいウジに体締め付けられて・・・」

表皮が波打ち、彼女と彼の体が湿った音を立てる。

「気持ちいいんですよね?」

きゅうっ、と穴がすぼまり、粘膜がペニスを締め付ける。

その感覚に彼は顔をしかめて、小さくうめきをあげていた。

「ふふ、声まで出しちゃって」

唇をふさがれていたのに、彼女は彼のうめきを聞きつけ、小さく笑みを浮かべていた。

「そろそろ、三回目出させてあげますね」

穴の縁がすぼまり、粘膜がうねる。

ウジの体が蠢動し、全身をくすぐる。

今までよりも、ほんのちょっとだけ強いだけの刺激だが、彼のペニスは精液を吐き出していた。

「ん!ん!んんーっ!」

貪るように舌を、ペニスから噴き出す精液を彼女たちは啜っていく。

「うふふ・・・またこんなに一杯・・・」

ペニスが穴から引き抜かれ、口を開放される。

「っはぁ・・・はぁ・・・はあ・・・」

「ちょっと待ってくださいねー、また出しますから」

大きく息をつく彼の目に、再びウジの腹を膨らませた彼女の姿が映っていた。

ぢゅぶ・・・

かすかな音を立て、体に巻きついていたウジの体が徐々に下半身のほうへ下りていく。

「こんど・・・あたし・・・」

体を巻きつけていたほうの少女が、たどたどしく声を発する。

「ちょっと・・・休憩・・・させて・・・」

「・・・だめ・・・」

鎌首をもたげたウジの体の先端部が、いまだ固さを保ち続けるペニスに当てられる。

「ん・・・出ます・・・んはぁっ!」

声とともに、最初に現れたほうの少女が三番目の『彼女』を産み落とす。

三番目の彼女は粘液にまみれた顔を、最初の彼女に向けた。

「じゃあ、あなたは下をお願い」

「・・・はい・・・」

最初の彼女の声に小さく答え、ウジの体を右足に巻きつけ始めた。

「んじゃ、あたしはお口を担当しますねー。それじゃみんな、始め!」

「ま、待って・・・んぶ!」

再び唇がふさがれ、舌を深く挿し込まれる。

穴が押し付けられ、ペニスが粘膜の奥へ飲み込まれる。

股間に顔を寄せられ、玉を口に含まれる。

「ん!んん!」

うめき声を上げて手足を動かすが、疲労しきった彼には彼女たちを撥ね退ける力はなかった。

なめらかな舌が彼の舌を嬲り、狭い肉穴が彼のペニスを締め付け、粒々の生じた口内が彼の玉を弄んでいた。

「んぐ!んっ!」

全身を三匹のウジに巻かれ、蠢動する表皮の愛撫を受け、彼の興奮が徐々に高まっていく。

そして、止めとばかりに三者の責めが一段と強くなった。

「んぶっ!んん〜〜〜っ!」

腰が跳ね上がり、ウジの体内に精液を噴射する。

射精の勢いが次第に収まり、彼女らからしばし解放される。

「んあっ・・・くっ・・・」

「どうでした?」

膨れ上がったウジの体を抱え、うめきを上げる二番目を尻目に、最初の彼女が問いかける。

無論彼には答えられるはずもない。

次第に多くなっていく責めの数と、連続した射精により疲労しきっているからだ。

「それにしても―」

彼女は視線を彼の下腹部へ向ける。

そこには、いまだ屹立しているペニスがあった。

「淫魔の能力、なかなかのものですねぇ」

「あっ・・・ああっ・・・んあっ!」

大量の粘液とともに、『彼女』が生まれる。

彼女は視線を彼のほうへ戻し、ささやいた。

「それでは、五人で楽しみましょうか」







何十分経ったろうか。

彼が一度射精するたびに、ウジの下半身を持った少女たちは一人増えていく。

そして『彼女ら』を最初の彼女が統率し、責めが再開される。

「うあ・・・ああ・・・」

彼は今、十数人にまで増えた彼女たちによって弄ばれていた。

両手両足を『出産』によって拡張されたウジの体内に納められ、

ペニスと玉を一つずつ、『出産』していないウジの体内に飲み込まれ、

胴を、胸を、幾多ものウジの体によって、何重にも包まれていた。

上半身に近い者は彼の顔に舌を這わせ、離れている者は互いの口を吸いあっていた。

「あ・・・ああ・・・」

全身を女性器に包まれたような感触に、彼は射精していた。

衰えることのない勢いで、精液が少女の体内に注がれる。

ぢゅぶ・・・

穴から固さを保ったペニスが引き抜かれ、順番を待っていた新たなウジの穴が、ペニスを飲み込む。

「ひゃああ・・・もう・・・ゆるして・・・」

「どうしてです?」

彼の頬に舌を這わせていた少女が、舌を止めて問いかける。

「あなた、見ちゃったんですよ。淫魔と人外の戦い」

いつの間にか、他の少女たちも動きを止めていた。

「あれを見た後では、まず普通の生活には戻れませんよ?」

彼の耳に言葉は届いていたが、彼にはもう理解することはできなかった。

それでも彼女は続ける。

「普通ならただ殺すだけらしいんですけど、『あたし』はあなたを悦ばせて、夢心地のまま死なせてあげなさいと命令したんです」

小さく、なんともいえない音が響く。

何かをつぶすような、

何かを突き破るような、

そんな音が響く。

「ですから、あたしはあなたを解放するわけにはいかないんです」

いつの間にか、彼女以外の少女たちの体が、互いに癒着し、肉の塊になりつつあった。

肉の塊は、形を成し、表皮を作り―

「それじゃあ最後に、あたしの中を楽しんでくださいね」

まるで巨大なウジの尻の穴に、肩まで飲み込まれたような状態の彼に、彼女は声をかけた。

首の周りに触れる穴の縁が、大きく広がって彼の頭を飲み込んだ。

柔らかい粘膜に包まれ、圧迫され、彼は自然と胎児のように丸まった姿勢をとっていた。

粘液が体を包み、小さな何かが彼の皮膚に触れる。

それらは、彼の全身を這い回った。

ペニスを小さい粒に包まれ、粒による細やかな刺激を与えられる。

(ぅあ・・・)

彼は反射的に射精していた。

粘液に熱い精液が混ざるが、不思議と不快感はなかった。

射精している間にも、粒々が体を覆っていく。

粒々が彼の指を、足を、背を、腹を、首筋を、頭を包む。

そして粒々が彼の口から、鼻から、耳から、尻から、へそから体内にもぐりこんでいく。

なおも射精は続き、しびれるような感覚が頭を支配する。

もう、彼の体で刺激を与えられていない場所はなかった。

やさしい、包まれるような感触が、彼の体表面どころか粒々がもぐりこんだ体内からも発せられていた。

腹の中を安堵感が満たしていく。

ペニスから噴き出る精液にも粒々が混じり始める。

粒々が細い尿道を通り、心地よさを与える。

手足の感覚はない。どこへ行ったのだろう?

射精している感覚もいつの間にかなくなっていたが、絶頂の心地よさはあった。

(ねむ・・・い・・・)

少しずつ、暗くなっていく。

なにが?なにかが。

くらくくらく、しずんでいって・・・

・・・・・・

・・・











「ふぅ」

彼女は自分の体内から、完全に『異物』がなくなったことを確認した。

ウジの先から、頭のてっぺんまで彼女自身。

軽く伸びをし、徐々に明るくなりつつある窓の外に目を向ける。

(『あたし』は成功したのかな?)

ふと疑問が浮かぶが、首を振って打ち消した。

『あたし』が、たかが淫魔に負けるはずがない。

彼女は小さく伸びをし、その体を数十万のハエに変えた。

ハエたちは奔流となって、窓の割れ目から飛び出していく。

彼女たちの姿が消え、無人の部屋だけが残った。





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