蝿の王は、高き館に




塾からの帰り、僕はいつものようにビルとビルの間、裏通り、細い路地を縫うように歩いていた。週に一度、散歩と気分転換をかねて夜の街を歩いている。

危ないと両親は言ってるけど、今の時代街灯もあるし携帯だってある。それにこれまで危ない目におあったことも一度もない。

でも、今僕は始めて危ない目にあっているのかもしれない。

家と塾のちょうど真ん中、商店街の中央に取り残されたように存在する公園の入り口に僕はいた。

周囲の建物に光はともっていない。不景気で寂れていたところに、駅前の大型スーパーができたことで全滅してしまったからだ。いつもならゴーストタウンという設定で、スリルを味わうように走り抜けるんだけど、今日はできない。

公園にはすでに人がいた。しかも三人。

ろくに遊具も置いてない敷地の中央に、魔法使いのような服を着た人が三人、広げられた布の上の、何かの塊を囲むように立っていた。

「つどえつどえ くらうもの」「来たれ来たれ 古き神」「ばいあ いおあ うーふーふー」

声が聞こえる。

「まわれまわれ はいあがれ」「屍喰らい 現れよ」「おーぎー あーぎー うーくすふ」

「ふきでろわきでろ うずまきながら」「糞山の王 蝿の王」「あーぎーでゅー おーでゅーぎー」

何かの儀式なのだろうか?にしてはまったく調和が取れていない。

しかし三人は、完全に一致した動きで頭を下げ、あげるのを繰り返していた。。

「めぐりうずまき ふるきはえがみ」「高き館に住まう者」「おぃーで こぃーで うーでぃ」

より深く、より長く頭を下げ、しばしの沈黙が周囲を包む。

「ここにこい ばある・ぜぶぶ!」

「汝が名前は バアル・ゼブブ!」

「ぐるあでぃ ばある・ぜぶぶ!」

三人が上半身を同時に跳ね上げて、自ら作った沈黙を打ち破った。

三人の声が消え、あたりが静まり返る。

(どうしよう・・・)

迂回しようか、気がつかれないように公園の隅を行くか、悩んでいると、僕はそれに気がついた。

(あれ?)

三人の中央に置かれた何かの塊が、動いていた。

呼吸するようにふくらみ、縮む。もぞもぞと、表面のすぐ下を何かが這い回るかのように、蠢く。



ばり ぶぅぅぅうううううううう



音とともに表面が破れ、すさまじい音と真っ黒な煙が噴出る。

いや、真っ黒な煙のように見えたのは『ハエ』だった。

ハエの群れがひとかたまりになって飛び回っている。

「できた!」「できたぞ!」「やった!」

ハエの向こうから、羽音にまぎれて声が聞こえてきた。

「やっぱり牛肉だったんだ」「どうだ私の思ったとおりだろう」「いや俺の案だった」

どうやら三人は何か言い争っているらしい。

「まぁ待て、そんなことより固定するぞ」「じゃあ誰がやる?」「決まっているだろう」「死ぬな!ヨウガンまだ死ぬな!でもありがとう!」「私や僕はまだ死なんよ、まだ縁談がある」「俺もいやだ」「僕だって」

とりあえず、公園を抜けて迂回することにしよう。

ゆっくり、後ずさりをする。

「仕方ない、予定通り彼にやってもらうとするか」「バァル・ゼブブ!召喚者が命ずる」「動け!観測者は入り口だ!」

ハエの群れが動きを変える。いくつかの塊に別れ、僕のほうへと飛んできた。



ぶぅぅぅぅうううううん



羽音とともにハエが、公園の入り口をふさぐように回りこんできた。

「うわっ」

右足を何かにつかまれ、バランスを崩して倒れる。

手のひらに痛みが走った。すりむいたらしい。

でも、気にしている暇はない。

僕は首をねじり、右足に目を向けた。

すると、僕の足をつかむ腕が目に入った。

すらりとした指に、滑らかな手の甲。

そしてか弱い手首は、ほっそりとした腕につながり、その先はハエ達の中に隠れていた。

「!」

手首を何かにつかまれ、首を前に向ける。

目の前をふさいでいたハエの中から、また手が現れて、僕の手をつかんでいた。

いつの間にかハエ達は僕を包むように飛んでいて、群れの中から腕が何本も現れてくる。

腕が、僕の手を、服を、ズボンを、太ももを、わき腹を、つかみ、抱え、持ち上げる。

「うわぁ・・・んむ!?」

大声を上げようとした口を、新たに現れた手がふさぐ。

唇に、滑らかで柔らかな手のひらが触れた。

「ん!んんん!」

しばらくもがいていると、手達はゆっくりと僕を地面に下ろし、僕から離れていった。

手たちがハエの中に消え、ハエの群れが一気に遠のく。

すると、僕を中心におくようにして、さっきの三人が立っていた。

周囲を見回す。公園の中央だ。

どうやら、三人のいる所まで運ばれたらしい。

「ああ、そうおびえるな少年」

三人のうちの一人、三十代ほどの男が口を開く。声からすると、さっき「ヨウガン」とかいわれていた男だ。

「我々はただの、聖典解読・実践派の魔術団体『月を見る者』のものだ」

「魔術団体?」

「うん、カタギの団体だから安心したまえ」

(十分カタギじゃないだろ)

「カタギ、とは言ってもだ」

右側の、目つきの鋭い男が声を出す。

「お前、俺たちがやっていること、見ちまったな?」

「ソクセン!」

反対側の男が声を上げた。

「あんまり驚かすなよ」

「でも見たのは事実だろ?それとも、お前は見逃すとでも?」

「いや、僕も見逃すつもりはないよ。ただ、あんまり驚かすのはかわいそうだなーと・・・」

「ズイチュウ、ソクセン、時間がない」

ヨウガンが二人を黙らせ、屈んで僕と視線の高さを同じにした。

「実を言うとだ、君が通るのを待って儀式をしていたんだ」

ゆっくりと話し始める。

「今回の儀式、『人造淫魔製作術応用・人造神の召喚』には君のような人物が必要なんだ」

周囲を飛び交うハエたちを指し示す。

「こいつらは『バアル・ゼブブ』といって、シリアの死と再生の神、バアル神と、悪魔のベルゼブブをあわせて作ったものだ。

一応今回は召喚に成功したが、存在の固定化には人の精液が必要なんだよ」

(え、ベルゼブブ?精液・・・?)

僕の疑問を放置したまま、話は進む。

「本来なら我々が用意するべきなのだが、実はこれから三人がかりでやらなければならない仕事があってね」

「そこで坊主、俺らの代わりに、『お嬢様』の相手をしてくれ、というわけだ」

ソクセンが手を伸ばし、僕の頭を乱暴にかき回す。

「ま、お前は死んじまうかも知れんが、それに見合うだけのコトはしてもらえると思うぜ?」

「それでは、固めましょうか」

ズイチュウの言葉に、二人は姿勢を正し、三人そろって手を空に掲げた。

『固まれ、形を成せ』

何の合図もなしに、三人は同時に声を発した。

それに答えるかのように、ハエたちが現れたときのように、一ヶ所に集まっていく。

ハエたちが作り出す、黒雲のような影が次第に小さくなっていき、形を成していく。

最初に現れたのは、手。

僕を捕まえたのと同じ手が、左右一組で黒雲から突き出される。

そして手から腕、ひじ、二の腕と、両腕を突き出した人間が、出てくるようにして形ができていく。

目を閉じた、整った顔立ちの女性の顔が現れ、それに続くように首、肩、そして―

「ひゃ」

照れから僕は顔を隠してしまったが、はっきりと僕はメロンのようなサイズのおっぱいと、先っちょまで見ていた。

いや、見てから目を覆ったというべきだ。

そして、ハエの羽音が止み、

「顔、あげろ」

ソクセンの声に、期待を胸に抱きながら手を下ろした。

「・・・あぁぁぁああああああああ!!」

放心、認識、思考、確証の手順を踏んで、僕は悲鳴を上げていた。

確かに、確かにへそより上ぐらいまでは完全に、ショートヘアの美人のお姉さんだった。

でも、お姉さんの下半身は、化け物だった。

お尻の辺りから、黒くて巨大なラグビーボールに似たものが生えており、腰から生えた六本の細い脚が、地面を支えていた。

ちょうど、ハエを体長三メートルぐらいに拡大して、頭部の代わりに人間の女性の上半身をつけたような姿だ。

しかし、その女性の美しさが、細かい毛の生えたハエの下半身の醜悪さを強調していた。

「おーい!しょーねーん!」

背後からのヨウガンの声に振り返ると、三人が公園の出入り口めがけて全力で走っているのが見えた。

ヨウガンが顔を前に向け、速度を維持したまま続ける。

「後はそのねーさんにまかせとけぇぇー!」

三人が公園の門柱の間に、ほぼ同じ姿勢で滑り込む。

そしてまったく同じタイミングで叫んだ。

『閉じろ!動け!満たせ!そして、終わったならば帰ってこい!』

門柱の間から何かが、公園の木々を揺らし、僕と化け物―バアル・ゼブブの脚の間を駆け抜け、公園の奥へと走り去っていった。

それまで頬をなでていた風が止み、かすかに聞こえていた遠くの自動車の音が消える。

足の間を通り抜けて行った何かを追って、視線を前に戻すと、バアル・ゼブブが目を開いていた。

白目や黒目の違いのない、真っ赤な目玉が僕を見ていた。

「ひっ」

思わず声を上げ、身を翻して駆け出す。

「あはははははははは」

女の人の笑い声、というより女の人の笑い声にも聞こえる音が後ろから響く。

恐怖に足がもつれ、転びそうになるが持ちこたえた。

懸命に両手両足を振り、門柱を目指す。

見たところ、後ろのバアル・ゼブブは動きがのろそうだった。

ハエの群れに戻れば話は別だけど、あの巨体ならば僕でも逃げられるかもしれない。

努力の甲斐あって、僕は程なく門柱にまでたどり着いた。

(まずは人通りのあるところへ逃げて、助けを・・・)

僕の思考が固まった。

前に突き出した手が、門柱の間で止まっている。

全力で足を踏み出すけれど、腕はそれ以上前へ進まない。

あわてて手を引っ込めて、体当たりするように門柱の間に突っ込む。

でも、門柱の間に異常に弾力のある膜が張ってあるかのように、体はある程度進むとそれ以上進まなくなった。

(閉じ込められた・・・)

景色が見えているのに、公園の外が真っ黒に塗りつぶされたように感じた。

そのとき、柔らかなものが僕の後頭部に押し当てられ、細長くて白い、滑らかなものが首に巻きつく。

「つかまえた」

背後から高い、抑揚のない平坦な声が耳に入る。

「うああああああ!?」

瞬時に僕は悲鳴を上げ、バアル・ゼブブの腕を払いのけ、逃げ出そうとした。

でも、腕は予想外にがっちりと僕を捕らえていて、払うことはできなかった。

「あばれちゃ、だめよ」

耳元に口を近づけ、生暖かいく、ほのかに甘い香りの息が耳に当たる。

「それに、どこへ、にげるの?」

懸命に動かしていた手が止まる。

それもそうだ、どうせ反対側の出入り口も、公園の周りを囲むフェンスの上も、きっと出られるようにはなっていないだろう。

多分、あの三人が張った結界か何かのせいだ。

「ん、おりこうね」

脱出をあきらめ、抵抗するのをやめた僕の頭を、バアル・ゼブブがよしよしとなでる。

「それじゃあ、たのしみましょうか、ボク?」

彼女は優しく、そうささやいた。





公園のほぼ中央、三人が儀式に使っていた布の上に僕たちは移動していた。

「うふふ、こんなに、おっきくして」

バアル・ゼブブは僕の服を脱がして、固くなった僕のちんこを見てくすくすと平坦な声で笑った。

彼女が笑うのにあわせて、ぶよぶよとしたハエの下半身を含めた全身が揺れる。

けれど僕の目は、彼女のぷるぷると震える大きなおっぱいに釘付けだった。

おっぱいの先っちょの、小指の先ぐらいの大きさの乳首と、その周りの五百円玉ぐらいの大きさの乳輪(だったっけ?)が上下するのにあわせて、僕の瞳も上下していた。

ハエの体が目に入るけど、まったく気にならない。

「ん?おっぱい、さわりたいの?」

彼女は僕の視線に気が付き、自分のおっぱいを両手で抱え上げ、手を離した。

僕は激しく震えるおっぱいに合わせるように、頭を上下に振る。

「じゃ、どうぞ」

くすくすと笑い、彼女は胸が僕の目の高さにくるよう、腰を落とした。

震える手を伸ばし、触れる。

柔らかい。

馬鹿みたいな感想だけど、これ以外に言いようがなかった。

少しだけひんやりとしたおっぱいが、僕の手の中でぐにゃぐにゃと形を変える。

僕は思わずおっぱいとおっぱいの間に顔をうずめていた。

「あら、あら、あら」

バアル・ゼブブの声を聞きながら深く息を吸って、舌を出して少しだけ汗にぬれた彼女の肌をなめる。

香りも、味も、ほんのりと甘かった。

顔をおっぱいから離すとちんこがびくん、びくん、と激しく震えているのが見えた。

僕は立ち上がって、ちんこをおっぱいに押し当てたようとした。

でも、バアル・ゼブブは僕の肩に手を置いて、やんわりと制止した。

「うふふ、こっちが、さき」

ラグビーボール型のハエの胴体が曲がり、先っちょが僕の目の前に突き出される。

すると先端が大きく広がって、中からどろりとした白い液体が流れ出した。

白くにごった粘液をすかして、ピンク色の内壁が目に入った。

内壁は襞に覆われ、回転しているのかと錯覚するようにうごめいていた。

「さわって、みて」

いわれるがままに手を入れてみる。

ゆっくりと入り口が閉じ、手が生温かくて柔らかい肉に包まれた。

手のひらがねっとりとした汁にまみれ、マッサージされるように揉み解される。

「どう?」

バアル・ゼブブの問いかけと同時に、僕の手が穴から開放される。

僕は彼女に答えず、糸を引きながら地面にたれていく粘液に覆われた手を、呆然と見ていた。

「ここに、あなたのおちんちん、いれるの」

その言葉に、心臓の鼓動がいっそう大きく感じられる。

ちんこが、心臓の鼓動にあわせて激しく跳ね上がっていた。

今にも爆発してしまいそうだ。

彼女は、僕の腰の上に穴が来るように体を移動させた。

穴からたれ落ちた粘液が、腹や太ももに当たる。

「じゃあ、いれるわね」

彼女は言葉とともに、腰を下ろした。

「あ、うああああ!?」

ちんこがさっきの手とまったく同じように揉み解される。

でも、感覚としてはまったく違っていた。

ちんこに内側の粘膜がまとわりつき、粘液を塗りつけていく。

手を入れたときにはあまり感じなかった、小さな襞がちんこの表面をこすっていく。

頭の中で火花が散り、腰の奥から何かが噴き出ていく。

腰が勝手に跳ね上がって、頭が真っ白になる。

「どう?気持ちよかった?」

バアル・ゼブブの声に、僕ははっと気が付いた。

一瞬気を失っていたらしい。

うすぼけた彼女の顔に、ピントが合う。

いつの間にか僕のちんこは、彼女の穴から開放されていた。

でも粘液にまみれているだけで、さっきと同じようにびんびんに固くなっていた。

「ん?もっとしたい?」

彼女が、僕のちんこを目にして問いかける。

「・・・はい」

「いいよ、でもね・・・」

言葉とともに、彼女の体に異変が生じ始めた。

体を支える六本の脚が、細く、短くなって、腰へ飲み込まれていく。

そしてラグビーボール型の腹部は、色が薄く、白くなって、だんだんと細長い形になっていった。

全身をまばらに覆う毛が、毛穴に飲み込まれていき、皮膚の質感が、さらにぶよぶよと柔らかそうなものに変わっていく。

ハエの体が、うじ虫に変わっていく。

「はい、出来上がり」

仕上げとばかりに、うじ虫の胴体に並ぶ、大きく開いた気門からげっぷのような音を立てて空気を吐く。

甘いにおいがあたりに広がった。

「今度は、この体で楽しみましょ」

「は・・・い・・・」

彼女の言葉に、僕の体は興奮に震えていた。

白い、ぶよぶよと柔らかそうな皮膚が、公園の外灯の光をなまめかしく反射している。

彼女の呼吸に合わせるように、体の側面にあいたいくつもの気門が、収縮を繰り返している。

「さ―今度はここに入れて」

彼女はそう言って、自分の気門のひとつを指差した。

「えっ?」

僕は驚きに声を上げる。

気門って呼吸器なのに・・・大丈夫なのだろうか?

彼女は僕の意図を読んだのか、クスクスと笑った。

「ふふっ、大丈夫よ。これは半分飾りなの」

そう言って上半身をかがめ、気門に指を伸ばす。

両手の人差し指を差し込み、左右に引っ張ると、気門は驚くほど大きく広がった。

ピンク色のなめらかな粘膜が、広がった穴の奥から見えた。

「さぁ、いらっしゃい」

彼女が微笑みを浮かべ、操られるように僕はひざ立ちになっていた。

バアル・ゼブブのそばまでにじり寄り、ちんこの先を気門に当てる。

「い・・・入れます・・・」

僕は一気に、ちんこを気門に突っ込んだ。

ハエの体のときにつけてもらった粘液が、ちんこのすべりをよくしていたので、あまり抵抗はなかった。

「あ・・・」

柔らかな粘膜が、ぎゅうぎゅうにちんこを締め付けてくる。

その感触に、僕は小さく声を上げていた。

「どう?こっちもこっちで、気持ちいいでしょう?」

「は・・・はい・・・」

締め付けが急に緩み、気門の奥から空気が噴き出す。

空気が、ちんこと粘膜の間を通り抜け、気門の粘膜を細かく震わせた。

「ひゃはっ」

「ふふ・・・可愛い・・・」

突然の感触の変化に僕が反応するさまを、彼女は笑みを浮かべながら見ていた。

粘膜の震えが収まり、またちんこを締め付ける。

先から根元まで、力任せに圧迫されているだけなのに、とても気持ちよかった。

「うぁああ、ひゃっ」

再び空気が吐き出され、ちんこ全体を粘膜が震えて刺激する。

「そんなによがっちゃって、あたしはただ、息をしているだけなのよ。

ほら、吸って―」

ちんこ全体が締め上げられる。

「はいて―」

粘膜が細かく震える。

「ね?息をしているだけでしょ」

彼女の言うとおり、僕は彼女の呼吸で感じていた。

しかも、吸うと吐くが替わるたびに、情けない声を上げているのだ。

「さあ、出しなさい・・・」

言葉とともに、すさまじい力で気門が締まる。

そして、激しく震えだした。

「あ・・・ああああぁああああ!」

叫び声とともに全身が硬直し、僕は射精していた。

腰ががくがくと震え、ちんこの先から精液がすごい勢いで噴き出ているのがわかった。

「ふふ・・・こんなにいっぱい・・・」

バアル・ゼブブは、痙攣する僕を抱きとめながら、笑みを浮かべていた。



「このぐらいで十分かしら」

じゅぶ、と音を立てて、ちんこが気門から引き抜かれる。

と同時に、彼女の白いウジの体が、みしみしと音を立てながらハエの体に戻っていく。

僕は布の上にへたり込んだまま、呆然とそれを見つめていた。

「ねぇ、わかる?」

六本の足で体を支えながら、彼女は僕に向かってそう言った。

なんとなく、腹部がさっきより大きいような気が・・・

「あたしの子よ」

上半身をひねり、膨れ上がった腹部を撫でながら、彼女は愛しそうな表情を浮かべる。

それって、まさか―

「あ、あなたの子じゃないから。この中にいるのは、あたしなの」

そういえば、ハエは単性生殖で体内に自分のクローンのウジを作る、って聞いたことがある。

「それでね、あなたの協力であたしはお腹いっぱいになったんだけど、この子達にも食事させてくれるかしら?」

六本の足を器用に操り、彼女がその場で腹部をこちらに向けるように回転する。

腹部の先端が僕の前に向けられ、すぼまった穴がひくひくと震えているのが目に入った。

「え、食事って―」

「大丈夫、この子達に任せればいいのよ。

それじゃあ、出すわね―んっ」

すぼまっていた穴が大きく開き、こぶしほどの大きさの青白い何かが顔を出す。

「んっ・・・くっ・・・」

青白い何かはグネグネと身をくねらせつつ、穴から這い出ていく。

「んはぁ・・・」

ぼとん、と音を立てて僕の両足の間に、それが落ちる。

長さは三十センチぐらい。ぬるぬるとした粘液に包まれて、身をくねらせていた。

白く、柔らかそうな表皮に、横にあいたいくつもの気門。

異常なまでに大きいが、ウジだった。

「くふっ・・・ん・・・」

ぼとんぼとん、と音を立てながら、粘液の糸を引きつつ、ウジが産み落とされる。

彼女の腹部の穴は、ウジを産み出すたびに大きく広がり、内側のピンク色の粘膜をさらしていた。

産み落とされたウジたちが這い回り、僕の太ももにその表皮の柔らかさを伝える。

「んぁ・・・ん・・・ふぅ・・・」

彼女が大きく息をつき、幾分か細くなった腹部を撫でる。

「それで全部ね・・・」

僕が視線を落とすと、十数匹のウジたちが、僕の周囲を這い回っているのが目に入った。

彼女は再び体を回転させ、僕と向かい合うようにして、その場に体を下ろした。

「ふふ、あたしの可愛いあたし達・・・お腹いっぱい、食べなさい」

彼女の言葉に答えるように、ウジたちが体を震わせる。

そして、離れていたものは僕に向かって這いより、近くにいたものは僕の体をよじ登り始めた。

「うぁ・・・ひっ・・・」

ぶよぶよとした感触のウジの体が皮膚を這い回り、頭部の吸盤状の口が、手当たり次第に体に吸い付く。

「ひぁ・・・ぁあ・・・」

無数の女性に全身を吸われ、愛撫されるような感覚に、僕は声を上げていた。

「ほらほら、そこじゃないでしょ?」

バアル・ゼブブが手を伸ばし、懸命に足の親指に吸い付くウジを持ち上げた。

「あなたが吸い付くのは、ここ」

奇跡的に今までウジに吸い付かれていなかったちんこに、ウジが乗せられる。

ウジの蠕動する腹が、ちんこを粘液まみれにしてもみほぐし、口がちんこの先っちょに吸い付く。

「ひぃゃあああああ!?」

僕は全身を震わせながら、叫んでいた。

手を伸ばし、ちんこの上のウジを取ろうにも、すでに両手には別のウジが吸い付いていた。

指をしゃぶり、腕にしがみつくウジの重さによって、両腕は持ち上がらなかった。

「そ、そんな・・・ひぁっ!」

ちんこにしがみついたウジが、吸い付くだけだった口を大きく開き、ちんこの先をくわえ込む。

ぶよぶよとした外見と違って、発達した口の中の筋肉がそのままちんこを吸い込む。

ちんこから、しびれるような感覚が背骨に走った。

「そんなっ・・・だめ・・・だめっ・・・」

ウジは、ちんこを加えたまま何度も吸い込む。

少しずつ、追い詰められていくような感覚がちんこからあがっていく。

意識していないのに、情けない声が僕の口から漏れていた。

(もう・・・出る・・・)

僕の思いを読んだのか、ウジがひときわ強くちんこに吸い付き、しがみついた。

「うぁああああああ!?」

腰が勝手に跳ね、ウジの口の中に精液が迸る。

ウジは体を蠕動させ、ちんこを搾るかのようにうごめいた。

僕のちんこは、それに答えるかのように大きく震えながら、射精を繰り返していた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

射精が収まり、僕は荒く呼吸していた。

ちんこのウジは満足したのか、射精が止まると同時に離れて、今は僕の太ももにしがみついている。

「はぁ・・はぁ・・・え?」

わき腹を吸っていたうじが、ちんこに覆いかぶさり、口を開いて先っちょをくわえ込んだ。

「そんな、まだ・・・ぁひぃっ!」

半分縮んだちんこに吸い付かれ、僕は声を上げた。

もう痛いといってもいいぐらいの刺激が、脳に直接叩き込まれる。

もう、座ってなんかいられない。

「ぁぐぁあああああ!」

声を上げながら、僕は仰向けに上半身を倒した。

背中にしがみついていたウジたちがいっせいに離れ、僕の体をよける。

そして、脇や鎖骨、胸やへそなど、まだウジのいないところによじ登ってきた。

「や、やめ・・・ふひぃいいい!」

乳首を、脇を吸いたてられ、粘液にまみれた胴体が、胸を二の腕を愛撫する。

「あ、ああ・・・んぶ!?」

首元を這い回っていたウジが、頭を僕の口に突っ込んだ。

ほのかに甘い粘液が、口の中に広がる。

でも、舌は十分に粘液の味を味わう前に、ウジの口に飲み込まれた。

生温かいウジの口が、懸命に舌を吸う。

「ん、んん!んぶっ、ん〜!」

ほぼ僕の体は、ウジに覆われていた。

いたるところをぬるぬるの胴体が蠕動してもみほぐし、ところどころを口で強く吸う。

すべてのウジが、まるで一匹の生物であるかのようにうごめき、ほぼ同時に吸い付いていた。

ちんこのウジが、ひときわ強くちんこの先を吸いたてる。

その刺激に、僕はまた射精した。

「ん、んぶっ・・・ぶはぁっ」

口を開放され、ちんこのウジが離れていく。

そして、また別のウジがぶよぶよとした体で、ちんこにしがみついてきた。

「も、もうやめ・・・んぶっ!」

ウジが再び、僕の口をふさいだ。







「こんなところかしら・・・」

バアル・ゼブブは、もはや低いうめきしか上げないようになった少年を眺めながらつぶやいた。

ペニスには、彼女の分身たちが群がり、時折噴出するわずかな精液を奪い合っていた。

ぽん

軽く彼女が手を打つと、分身たちはいっせいに少年から離れた。

足を動かして少年の側により、手のひらを粘液にまみれた胸に当てる。

「・・・・・・」

かすかな脈動が、手のひらに感じられた。

彼女は少年の体を抱え上げ、腹部を曲げ先端を前に向けた。

すぼまっていた穴が大きく、大きく広がって内部を空気にさらす。

しかしそこにあったのは、少年が見たピンク色の粘膜ではなく、無数の米粒ほどの大きさのウジだった。

「はいはい、あなたたちにもあげるから」

少年の体を、大きく開いた穴の中に収める。

いっせいにウジたちが少年に群がり、広げられた穴が閉じていった。

数度腹部がうごめき、落ち着きを取り戻す。

完全に少年の体が、彼女のものになったことを確認し、彼女は空を見上げた。

藍色の空に、かすかな青が混ざっていた。

夜明けが近い。帰らなければ。

瞬間、彼女の体が炸裂し、無数のハエとなった。

周囲に控えていたウジたちも、続けて炸裂していく。

ハエたちが黒雲のように公園の上空を舞い、散り散りに飛び去っていった。

朝日が誰もいない公園を照らすのは、数分後のことだった。









アジト代わりに使っている、アパートの一室に腰眼たちは戻ってきた。

さすがに三十台半ばの体で走り回るのは、かなりつらいものがある。

「あ、敷布忘れてきた」

「別に、あれはいいでしょう。シーツとインク買えばいくらでも描けるし」

足泉のつぶやきに、髄柱が答える。

確かに、買えばいくらでも敷布は作れる。

しかし、敷布をその筋の人間に見られれば、少なくとも何を召喚したのかがばれてしまう。

「まずいな―」

「え?どうしました、腰眼?」

「敷布のことだ。我々が何を呼び出したのか、わかってしまう」

腰眼の言葉によって、ようやく気が付いたのか、二人ははっとした表情を浮かべた。

「取りに戻る―っても、固定化が完了するまで、あの一帯は出入りできねぇし」

「それじゃあ、公園の出入り口に『人払い』をかけながら待ち構えて、結界が解除されると同時に回収に行きましょう」

「では、私がバアル・ゼブブの帰りを待つとしよう」

髄柱と足泉が、今しがたくぐったドアを再び開き、夜の闇へと飛び出していく。

敷布は、絶対に取り返さなければならない。

次の学会まで、理論構築派の連中にバアル・ゼブブのことが知られては困るのだ。

「今に見ていろ・・・構築派め・・・」

腰眼は、薄暗い部屋の中、一人でそうつぶやいた。





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