ラスト・シーン






「………お前と、形は変わっても、一緒に居たい」

イムを一人にさせたくなかった俺は、スライムに転生する道を選んだ。自分ではなくなる感覚。だが、永遠の孤独とどちらが恐ろしいだろうか?俺は後者だと考えている。

しかし――返事がない。イムから一言もないのを不思議に思った俺が、イムの方を向くと――



イムは、涙を流していた。



「――本当に、いいの――?お兄さんがお兄さんじゃなくなるんだよ――?それでも――むぐっ!」



何度も確認するイムの唇を、俺は自ら塞いだ。そのまま舌を絡ませ、唾液を塗り付けていく。そのまま、俺は彼女を押し倒した。

「………っぷはぁ」

幽かに赤くうるんだイムの瞳を見つめ、彼女の背中に腕を回しながら、俺は呟いた。



「イムには、寂しい思いをさせたくないから………」



「!!!!!!!!!!」

その言葉がイムに届いたのだろう。大きく目を見開いた彼女は、そのまま体を震わせ始めた。そして……彼女も俺の背中に腕を回し始めた。

体格差がある俺と彼女だが、彼女の腕が俺の背中で交差しているのは、スライム化した腕を伸ばしているからだろう。

そのまま――イムは俺の顔に自分の顔を近付け、キスを交した。

今度は俺が責められる番だ。口の中で幾つも枝分かれした舌が、俺の舌を包み込んだ後で一体化し、まるでポンプのように蠢いた。

粘体によって鈍いながらも動かされていく俺の舌。まるで淫らな格好をする娼婦のように怪しく形を変えていくのが分かる。

同時に、口内全体を覆ったスライムは、俺の唾液を吸収しながら成長し、自身の領土を拡張していく………。

―――と。

「ん………?」

俺はいきなり、腹に違和感を覚えた。まるで、何かが圧力を増して俺の中に入ってこようとしているような――。

疑問は、あっさり解決した。

イムのお臍から出た管、それが俺の臍を溶かしながら体と融合しているからなのだ。

痛みは全くなく、それどころかじわじわと、どこか安らぐような感覚が俺の中に現れてくる。

とくん………とくん………

管を通じて、イムの鼓動が俺に伝わっていく。優しく、どこか力強い鼓動。いつしか俺の鼓動は、イムの鼓動と一体化していた。

「んんっ……………」

既に口から食道にかけて粘体が塞いでおり、息が出来なくなっている筈である。なのに不思議と、苦しくは無かった。それはここが精神世界だからだろうか……?

ぼんやりとそのような事を頭に浮かべていると――。



くちゅ。



「――――!」



俺の逸物が、何か弾力を持った不定形のものに飲み込まれた。それだけではない。周辺の皮膚も、その中に吸い込まれるかのように、ぴったりと吸い付かれている――。

逸物を飲み込んだそれは、確かな肉の感触――それも、一度触れてしまえばどこまでも沈み込んでしまうような、底無し沼を思わせる感触を俺の下腹部に伝えてきた。イムの接吻(キス)があるから下の様子はよく見えないが、底無し肉の中では、無数の襞が、各々が独立して俺の逸物全体を扱いているようだ。皮の裏に入り込んだ粘体がカリを執拗に擽り、亀頭に張り付いたそれが、鈴口の中へとその体を潜り込ませようと体を震わせ、棹にまとわりつくそれが、緩やかなバイブレーションと一緒に、上下に扱いていく――。

特別激しいわけでもない。寧ろ子供を扱うように優しい刺激。それに反応して、俺の息子はぴく、ぴくと震え始めた。その一方で、俺の意識に、何か空白のようなものが出来始めた。何かが、少しずつ抜け落ちていくような――。

その時。

何故か、お尻の方がむず痒くなり始めた。何かが、俺の尻から出ようとしている。だが、耐えようにも、体に力が入らなくなっていて、どうしようもない。

何も出来ないまま、その何かは俺の尻から、ぷぴゅ、と言う音と共にゆっくりと顔を出してきた。

それは、イムの体であった。つまり、俺の口から肛門までの通りは、全てイムが支配してしまったのだ。だが、俺はそんな屈辱的な状況を、何とも思っていなかった。

正面を向くと、イムの顔が、先程よりも桃色になっている。まるで、恥ずかしがっているように――。

俺の体を貫通し、肛門から出てきたイムの体は、そのまま俺の尻を覆い、徐々に背中や脚を覆い始めた。

イムの輪郭が、俺の前で崩れ始めた。そのまま俺の顔――頭全体を覆っていく。みるみるうちに、俺の体は、イムの体に包み込まれてしまった。



「んん………」

俺を覆うスライムは、俺の体全体を優しく愛撫しながら揉み上げていく。背中、首筋、胸、脚、腕、アナル、そして陰茎――。

とくんっ………とくんっ………

イムと繋がった臍からは、彼女の体液が俺の中へと送り込まれていく。そして――。

一つ脈動する度に、俺の中から何かが抜け落ちていく――。

俺が、空白だらけの何かに変わっていく。その変化が――どこか堪らなく気持良く感じる。

その感覚だけが、俺の空白を埋めていく――!

いよいよ、視界に霞がかかり出した。俺の中で抜け落ちたものが、尿道へと向かっていくのが分かる。既に、俺の思考は止まり、ただ快感だけが頭にあった。それすら――徐々に抜け落ちて、砲台へと充填されていく。



引金は、イムの手によってあっさりと引かれた。



どびゅるるるるるぅぅ〜〜〜〜〜っ!



「――――!!!!!!!!!!」



全身の性感帯を一気に刺激され、声にならない叫びをあげながら、俺は全てをイムに明け渡した――。







「Zzz.......ふふっ………」

イムは、夢の中で男と共に過ごしていた。

かつて夢見ていた、幸せな未来予想図。だが、それは叶わぬ夢となった。

だが――。





「お兄さん――ううん、アナタ………」





臨月を迎えたように膨らんだお腹を無意識に摩りながら、イムは夢の中でまどろんでいた――。





――数ヶ月後。

『ゲノシデ』達に伝わったのは、耳を疑いたくなるような知らせだった。

数日前から『ゲノシデ』の下部組織を潰している二人組を目の敵にしていた事から仕向けた特殊部隊が、瞬く間に全滅してしまったのだ。

死ぬ直前の部下の報告には、こんな一節があったと言う。



『斬っても、突いても、払っても死なねぇ。これじゃまるで(以降は血痕がついて読めない)』

『人間じゃない!奴らはスライム!それも高位の――』























イムがいた洞窟には、ひっそりとお墓が建てられていた。

イムは自分の分身をその墓の近くに置き、守らせていた。

ガードスライム。

『主に従い、主が死ねばその敵を討ち、主を死後も守る』事を信条とする種族である。





fin.





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