魔を喰らいし者






 内側から力ずくで蓋をこじ開ける、という手段も考えたが、これがそう簡単に壊せる造りとは思えない。ならば別の方法を考えるしかない。何かないか?

(考えろ、考えるんだ……!)

 必死に快感を堪えながら、頭をフル回転させる。きっと何か方法があるはずだ。

「くっ……うぁぁっ……」

(何か方法は……方法は……)

「あぅぅ……ひうっ!? くっ、はうっ!?」

(何か……って、こんな状況でまともなアイデアが思いつけるか!)

 人が考え事をしている最中だというのに、搾夢肉床はお構い無しに俺の性感帯を責め立てる。おかげでさっぱりいいアイデアが浮かばない。

「くっ、うああ……ぐぅっ、はぁぁっ……うあっ!?」

 そうこうする内に、また射精感が込み上げてきた。我慢しようとするが耐え切れず、そのまま精液を迸らせる。

「うっ……うああああ――――っ!?」

 イった直後も、搾夢肉床は責める手を緩めない。そして三度精液を放出したというのに、俺のモノは再び硬度を取り戻しつつあった。

(やばい、このままじゃ……)

 今すぐくたばるという事は無いだろうが、このままではいずれ精を搾り取られて死ぬことになるだろうと予測できる。何とかして脱出したいところだが、その案は全く思いつかない。

(せめて、コレが無ければ……っ!)

 そう胸中で呻いた瞬間、ある一つの考えが頭に浮かんだ。

(待てよ、ひょっとしたら……いや、しかし……)

 その手段を実行した場合に考えられるリスクを想像し、一瞬躊躇する。だが、迷ってる場合ではなかった。搾夢肉床はその動きを激しくし、今も俺の体を嬲り続けていたからだ。

(くっ……ここは少々危険でも、やるしかない!)

 そして、俺は考えた手段を実行に移した。







 ――それから一時間後……。

「……おかしいわね」

「どうかなさいましたか、御主人様?」

 怪訝そうな表情をしている主がそう呟いたのに気付き、エミリアは尋ねた。

「大したことではないかもしれないのだけど……少し前からあの男の悲鳴が聞こえなくなったのよ」

「……確かに、そのようですね。見て参りましょうか?」

「いいわ。私が見に行くから」

 そう言って席を立つと、マルガレーテは地下の拷問部屋へと足を向けた。その後ろからエミリアも付いていく。

「……別に、貴女まで付いて来なくてもいいのよ?」

「いえ、万一の事があってはいけませんから」

「そう? ありがとう……ふふっ」

 エミリアの言葉に、にこりと微笑むマルガレーテ。そして二人は地下室へ向かった。

「……しかし、一体どうして悲鳴が聞こえなくなったのかしら? いくらなんでも、そんなに早く死ぬような事は無いはずなのだけど……」

「内側から蓋をこじ開けて、逃げ出したのでは?」

「それはまず無いわ。逃げ出そうとしても、その前に搾夢肉床に捕らわれて身動きが出来なくなるでしょうし……まあ、貴女くらいの力があれば別でしょうけど」

 一般的に、サキュバスは人間より高い身体能力を持つ者が多い。また、自身の魔力によって筋力を一時的に上げる事もできる。あの男は人間の中ではかなり高い身体能力の持ち主のようだったが、エミリアや自分のような高位のサキュバスの前では、それも赤子同然の力に過ぎない。銃火器の類で武装しているならともかく、素手であるならば恐れる必要などない。

 だが、マルガレーテは何故か妙な胸騒ぎを覚えていた。まるで、あの男が自分にとって脅威であるかのような……。

(多分……考えすぎ、でしょうね)

 そう結論付けて自分を納得させる。気が付けばすぐ目の前に拷問部屋の扉があった。扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。

「……どうやら、逃げたわけではないようですね」

 アイアン・メイデンの蓋はしっかりと閉じられていた。小窓を開けると、中にはあの男の顔があった。男はまるで眠っているかのように目を閉じていた。マルガレーテが小窓を閉めようとしたその時、男の目がかっと見開かれる。

「……えっ!?」

「御主人様、危ない!」

 そう叫び、エミリアがマルガレーテの体を後方へと引き戻した瞬間……アイアン・メイデンの蓋が内側から弾け飛ぶ。

「なっ……! 貴方、それは……」

「よう、お久しぶり。一時間ぶりくらいか?」

 軽口を叩きながら、男はニヤリと笑う。

 ――その背中には、蝙蝠のような黒い翼が生えていた……。                                           (魔を喰らいし者2へ続く)




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