砂糖菓子の牢獄
「Trick or Treat?」
「はいはい、じゃあお菓子渡すから、順番にな」
「いやっほーっ! 早く早くー!」
「こらこら押すな押すな、しっかり並びな」
10月もそろそろ終わりを迎えるという日、俺は家を訪れた子供達に菓子を手渡していた。
今日はハロウィンの日、俺の住む地域の町内会では、仮装した子供達が家々を巡り、
お菓子を貰っていくという催しが毎年この時期になると行われるのである。
今年はこの地域の家々が担当なので、俺は町内会から支給された菓子袋を持って、子供達を待っていたのだった。
「ありがとー! じゃーね、おじさん!」
「おじ……ッ!? テメェら、俺はまだ25だ!」
「わー、怒ったー! 逃げろ逃げろー!」
そうして、慌しく子供達は駆けて行った。
また賑やかな声が、隣の山村の爺さんの家の方から聞こえてくる。
あの中に、昔は俺もいたんだな……。
無邪気な子供達の喧騒を聞きながら、しみじみと溜息を吐く。
からっぽになった菓子袋を片手に、居間へ戻ろうとする。
と、そのとき、インターホンが鳴り響いた。
「Trick or Treat?」
玄関の扉を開けて家の中に入ってきたのは、見たこともない子供だった。
魔女の杖とカンテラを持った可愛らしい顔立ちの、小学校4,5年生くらいの金髪の少女。
先程去っていった子供達から遅れること二分。
こんな髪と見た目だ、もしかして子供達に仲間外れにでもされたのか?
だからこうして、遅れて家々を巡ってるのか―――?
特に疑いも無くそんな風に思う俺を、少女はじいっと見ていた。
正確には、俺が手にするからっぽの菓子袋を、だ。
「ゴメンな、もう何も残ってないんだ」
「……そう」
か細い声でそれだけ言って、少女は俯いてしまう。
その姿にかなりの罪悪感が渦巻くが、無いものはどうしようもない。
折角のイベントだ、楽しんでもらいたいのは山々だったが、生憎男の一人暮らし、菓子の買い置きなんて無い。
気まずい思いを抱えたまま、頬を掻く俺。
不意に少女は顔を上げ、薄い笑みを浮かべた。
「じゃあ、貴方に悪戯させていただくわね」
少女の目が妖しく光ったかと思うと、俺は突然に激しい眠気に襲われ、
そして―――意識を失った。
気がついたら、俺は見知らぬ部屋の天井を見上げていた。
ベッドから起き上がって、頭を振る。何故か俺は、服を着ていなかった。
どうしてこんなところにいるのか、記憶が欠落していて、状況が掴めない。
確か俺は、家で子供達に菓子を配って、それから―――。
「あら、お目覚めかしら」
―――この少女に出会ったのだ。
辺りを見回すと、童話の物語のように、一面に広がる文字通りのお菓子の山が目に入った。
よくコンビニやスーパーで見かけるものから、飴細工の彫刻などが乱雑に置かれた部屋。
大量の菓子が甘ったるい空気をかもし出し、胸焼けしそうな雰囲気だ。
混乱する俺に、魔女の格好をした少女は名乗る。
「私はローレット。一般には、淫魔……サキュバスと呼ばれているわね。知ってるかしら?」
サキュバス―――名前くらいは知っていた。
夜な夜な男の元を訪れ、その精を奪う魔物。
襲われた獲物は、精を吸い尽くされ、死んでしまうという―――。
「や、やめてくれ! 俺なんかどうせ、美味くなんてないぞ!」
ベッドの上で後ずさりし、目の前の少女から距離をとる。
逃げ道を探すが、扉は少女の向こう側だし、第一この部屋から逃げたって、元の世界に帰れる保証なんて無かった。
つい、と舐め回すように俺の裸体を観賞するローレット。
品定めするようなその視線に、自分の顔が羞恥で赤くなるのを意識する。
「心配しなくてもいいわ。別に貴方を死なせる気はないし。
―――とっても気持ちのいいことをしてあげるんだから、むしろ喜んで受け入れなさい」
ローレットは床に散らばる雑多な菓子類の中から、おもむろに一つのガムを拾い上げた。
銀紙を外していくつか口に放り込み、くちゅくちゅと咀嚼する。
それを一度大きく膨らませ、破裂させ、もう一度口に含む。
咀嚼を続けながら、ローレットは悠然とベッドで震える俺に歩み寄る。
恐怖に縮み上がった俺のペニスを一瞥すると、ローレットは目だけで笑い、
ぷっ!
「うあッ!?」
股間目掛けて、ガムを吐き捨ててきた。べちゃりと少女の唾液に塗れたガムが亀頭に貼り付く。
突然の暴挙に、屈辱と怒りが湧き上がる。
しかしその感情も、次の瞬間には驚愕で塗り潰されることとなった。
張り付いたガムが、ぐにゅぐにゅと拡がり、亀頭を包み込んでしまったのだ。
「な、なんだこれ……!」
亀頭を完全に覆ってしまったガムが、ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅと蠢き始めた。
淫魔の唾液のぬめりとガム自体の粘りが、ペニスを優しく責める。
そして侵食の範囲は、竿の部分にまで到達しようとする。
その快感に俺の海綿体は膨張を始め、たまらず引き剥がそうと手を伸ばす。
しかしガムは信じられないほど伸縮し、引きちぎることが出来ない。
それどころか、手に付着したガムの一部が、同じように手を覆い始めた。
「どうかしら? 私の魔法は、糖を媒介とする搾精魔法。
この部屋に散らばるお菓子は全て私の手足となって、貴方を犯してくれるの」
手に付いたガムは、爆発的に増殖すると、瞬く間に俺の両腕を束縛し、十字に磔にしてしまった。
抵抗を封じられた俺の股間を、ガムの本体がじんわりと勃起を締め付ける。
ガムが包み込む部分も陰嚢にまで拡がり、股間全体がガムに包み込まれてしまう。
貼り付き、ぬめり、粘りつき―――。
その甘美な感触に、俺は静かに絶頂に追い上げられていった。
「うあ、あ、ああああ……!」
どくん、どくん、どくどくどく……
股間に貼り付くガムの中に、俺は射精してしまっていた。
射精の最中もガムは優しくペニスを刺激し、俺は恍惚としたまま、精液を漏らしてしまう。
快感に歪む俺の顔を、ローレットは傍らで微笑んで眺めている。
薄く笑いながら、射精の瞬間の表情も、射精後の放心した表情も、余すところ無く少女は見続けた。
「ふふ、いい顔をしていたわね。さて、次は何のお菓子がいいかしら」
視線を部屋中に彷徨わせ、ローレットはお菓子を物色する。
その視線が、ある一点に固定された。そこにあるのは、冷蔵庫。
ローレットは冷蔵庫の中身を確認し、その中から1つを取り出した。
それは、ヨーグルト―――徳用の、Lサイズのプレーンヨーグルトだった。
「ヨーグルト。貴方のおちんちん、この中で掻き回してあげる」
ローレットはヨーグルトを開封すると、ベッドに固定された俺に手をかざした。
するとどれだけもがいても離れなかった股間のガムが、一瞬で引き剥がされる。
やっと刺激から解放されたが、いまだかつて無い可愛らしい少女に『お菓子』で犯されるというこの状況に、
形容し難い興奮を感じ始めてしまった俺の愚息は、ローレットの与えてくれるだろう快楽への期待に震えていた。
「浅ましいわね。こんな風に犯されようとしているというのに、節操のないこと……」
ローレットが容器を軽く振ると、中のヨーグルトもぷるぷると震える。
淫魔の魔力が通ったアレが、どれだけの快感をもたらしてくれるのか―――。
今までただの乳製品としか意識のしようがなかったその食品に、俺の期待は高まっていく。
ローレットは俺のペニスをそのカップの中に浸らせた。
冷たく柔らかいヨーグルトの中にペニスが埋没し、身体がビクンと震える。
容器の底は深く、勃起全てを呑み込んでも、底に先端は届かない。
ローレットがカップをゆっくりと円運動させると、中のヨーグルトも遅れて動き出す。
カップが小刻みに振るわせられると、それに伴いヨーグルトもざわざわと波打つ。
じゅるじゅると意思を持つように、ヨーグルトは勃起に絡みつく。
勃起全体を、ヨーグルトが柔らかく包み込んでは撫で回す。
ガムの責めよりも、さらに刺激としては弱いものだったが、異様な状況における興奮が、俺の射精感を後押しする。
徐々に徐々にと近づく限界を、ローレットは容易く見抜いた。
「さ、射精なさい」
言葉と同時、カップが激しくシェイクされる。
円運動、振動に上下動が加わり、更に淫らに絡みつくヨーグルト。
特に亀頭の先端部を集中的に責められ、とろけそうな恍惚感を味わいながら、俺は二度目の精液を放っていた。
びゅる、びゅるびゅる………
「はあ、は、あああ……」
射精の脈動を終えたペニスから、静かにカップが外される。
下腹部はヨーグルトと精液が交じり合った白いもので覆われ、肌色の部分が見えなくなってしまっている。
二度の絶頂を迎え、流石に力を失った勃起に、ローレットは顔を近づけ、れろっとしゃくりあげた。
「っ……! あ、あうう……」
そのままローレットは、俺の目の前に跪き、ペニスのあちこちに舌を這わせ、付着した白濁を舐め取っていく。
形の上では金髪の美少女に口で奉仕させているというものなのだが、実際はまったく逆。
身動きできない俺をローレットは弄び、自らの食事を進めているだけ。
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てるようにしながら、白く汚れたペニスを舐め清めていくローレット。
淫魔の舌先がペニスをなぞるたび、腰が震え、勃起が力を取り戻してしまう。
ペニスがもどかしげに震えるたび、寄せられた端整な顔に、白濁が飛び散る。
ローレットが下腹部全てを舐め清め、顔を離したときには、俺の勃起は完全に力を取り戻していた。
「ふうん、味は中々と言ったところね。ただ、少し我慢が足りないのが難点……。なら、今度はこういう趣向にしましょう」
ローレットは床に落ちていた箱からリングドーナツを選び出すと、唾液と砂糖でべたべたのペニスにその輪を通す。
だがドーナツは何の変哲も無く、ペニスがその輪を通っているだけで、特に俺を気持ち良くしようとする風にはならない。
怪訝に思う俺に含み笑いを残して、ローレットは部屋から出て行ってしまう。
数分後、ローレットは部屋に戻ってきた。水の入ったコップと、いくつかの絵筆を携えて―――。
絵筆を片手に、少女は淫靡に微笑む。
そして筆先を水に浸し、濡れた筆先で、俺の左の乳首をついっと撫ぜた。
「ひっ!」
そのくすぐったさに、思わず身を捩るが、やはりガムの拘束は外れない。
ローレットは筆先を小刻みに震わせて、執拗に乳首をくすぐる。
乳輪の外周を、触れるか触れないかと言うギリギリのところで滑る筆。
その後には水の後が薄く残る。これもただの水ではない、ローレットの魔力が通った砂糖水―――。
くすぐられた部分が、じんじんと熱を帯び始める。
感度が上昇し、空気の動きでさえも快感として感受し、熱い疼きとなって俺を責める。
筆の責めの対象が、今度は反対の乳首に移る。
二つの乳首を往復しながら、じっくりとローレットは俺の性感を高めていく。
乳首はもう完全に硬くしこっていて、そこからでも射精できそうな程に甘く疼き、痺れている。
当然、ペニスはギンギンにいきり立っていて、先走りが根元にまでこぼれ、ドーナツを濡らしていた。
「さ、触って……。下の方も、ふ、筆で……!」
「駄目よ。しばらく我慢なさい」
両手に一本ずつ筆を持ち、全身へとくすぐりの対象を移すローレット。
体中を、糖分のべたべたとした感触を残しながら筆先が這う。
腋の窪みや肋骨、鎖骨の間、首筋と、何度も何度も筆を洗いながら、砂糖水を塗り込む。
耳の穴やへそと言った場所へも、容赦なく淫魔は責め手を伸ばす。
その度に俺の身体は感度を上げられ、短く悲鳴を上げながら、くすぐったさと甘い疼きに翻弄される。
敏感になった部分にローレットの甘い吐息が吹き付けられ、その度ペニスは先走りを飛ばす。
もはや俺は一切の抵抗を捨てて、少女の与える快感に震えてしまっている。
「声も無いのね。では、そろそろこっちも可愛がってあげる」
悪魔の筆先が、とうとうペニスへと向けられる。
砂糖水と先走りが混じり、かなりの粘りを持った液体となり、
尖った筆先がその液体を拡げながら、ペニスを優しく愛撫する。
亀頭、カリ首、裏筋と、二本の筆が這わせられる度、背筋を快感の電流が突き抜け、下腹部のわだかまりの解放を求めてくる。
ローレットはとっくにそれを看破しているのだろうが、責めを加速することは無い。
次から次へと湧き出す先走りと砂糖水を絡めながら、陰嚢や会陰部、肛門のすぼまりまで、じっくりと筆を這わす。
「や、やめて……焦らさないで……!」
「そう。なら、強くしてあげる。いつ出してもいいわよ」
二本の筆が、亀頭を集中して襲った。
文字通り縦横無尽に、尿道口や裏筋を蹂躙する筆先。
脳天を突き抜ける快感と共に、射精欲が一気にこみ上げ、輸精管を駆け上る。
だが、その刹那。
ペニスの根元がギチィ! と強烈に締め付けられ、精液の出口が塞がれた。
言いようのない衝撃に、一瞬思考が停止する。
しかしその直後には、絶頂を中断させられたもやもやが激しく脳裏に去来した。
俺の射精を封じたもの―――それは、今まで何ら変哲も無くそこに被せられていた、リングドーナツ。
そのドーナツが、射精の瞬間にぎゅっと収縮し、輸精管を遮断してしまったのだ。
「は、外してッ! 頼む、外してくれぇッ!」
「何を言っているの? これはただおちんちんに被せてあげているだけでしょう?
貴方のお願いを聞いて、強めに弄ってあげていると言うのに、我が侭な人ね」
苦悶の表情を浮かべる俺の顔をくすくすと楽しそうに眺めながらも、ローレットの愛撫は止まない。
射精できないまま、びくびくと震えるペニスを、なおも筆でくすぐり続ける。
容赦の無いその責めは、通常ならば何度でも絶頂へと押し上げられてしまう類の愛撫。
だが男に天国を味わわせるようなその責めも、射精の出来ない俺にとっては単なる地獄の責め苦でしかない。
本能的に、少女が何を求めているのかを悟る。
それは形だけの無抵抗、従順さではない、はっきりと屈服の言葉を吐かせ、俺を心底犯しぬくこと―――。
ローレットと俺の視線が交差する。その目は明らかに、俺の堕ちる様を楽しんでいる。
恥も外聞も、俺はもう、捨て去ってしまっていた。
「お願い、します……っ、射精させてください、ロー、レット……様ぁっ!」
「あら、様付け? 貴方、そこまでして射精したいの? ふふ、分かったわ。もう苛めるのは終わりにしましょう」
そう言って、ローレットはペニスの根元、ドーナツに指を突き付けた。
少女が二言三言つぶやくと、あれだけキツく根元を締め付けていたドーナツがばらりと爆ぜる。
ようやく与えられた開放感に安堵を覚え、思わず息を吐いた俺を見上げ、ローレットはまたしても床から何かを拾い上げる。
棒の付いた、ビー玉くらいの大きさの飴玉。色から察するに、コーラ味か。
包みを剥がし、ローレットはそれを口に含み、もごもごと口の中で味わう。
ほんの十秒ほどしてから、少女は口中から棒を引き抜いた。
―――そこに、既に飴玉は無かった。たった十秒のうちに、ローレットは全てを舐め溶かしてしまったのだ。
あまりの光景に声を失う俺を見上げ、ローレットは淫靡に笑う。
直後、ローレットはペニスの先端をくわえ込んだ。そうして、一気に吸い上げる―――!
「さあ、射精なさい。貴方の精、私の舌で、すべて味わってあげるから―――」
口にペニスを含んだまま、器用に話すローレット。
亀頭に舌が密着し、その感触に俺の身体は一度震え、―――次の瞬間、ペニスから全ての感覚が消え失せた。
ローレットの舌が亀頭に触れたかと思うと、淫魔の舌は、瞬く間に亀頭全体をに絡みついた。
十秒足らずで飴玉を舐め溶かした舌技、それが俺のペニスに浴びせられる。
舌が亀頭を這っていたかと思うと、ほぼ同時に裏筋にも激しい快感が突きぬけ、更には先端の亀裂を尖った舌先が滑り―――。
淫魔の口内で、自由自在に翻弄されるペニス。
まるで舌が何枚もあるかのように、信じられないほどのスピードと精度で俺を蹂躙していく悪魔の舌。
我慢など、出来るはずが無かった。
「ああっ! あああ――――ッ!」
びゅううっ! びゅくん、びゅくんっ!
凄まじい勢いで駆け抜けていく精液、間違いなく今までで最高の絶頂。
ローレットは可愛らしい顔を淫猥に歪めながら、噴き出す精液を受け止め、飲み込んでいく。
焦らしに焦らされていただけ、精液の絶対量も半端ではない。
それを更に増加させる、ローレットの文字通り魔性の口技。
三度目にして、ありえない量の精液を吐き出すペニスに、ローレットの容赦の無い責めが迫る。
頬の粘膜に亀頭をこすりつけて、端整な顔の頬にペニスの型を浮き上がらせる。
喉奥にまで飲み込んで、根元から竿までを締め付ける。
口内が真空になるほどのバキュームフェラで、一気に精を啜り上げる……!
止まらない口内射精に、俺は白目を剥きながら絶叫する。
目の前に白く火花が飛び散る、このままこれを続けられたら、間違いなく狂い死ぬ―――!
突然、ちゅぽん、と音を立てて、ローレットがペニスから口を離した。
天国のような地獄から開放され、一、二度大きく震えて精液を吐き出し、ようやく射精は治まった。
荒く息をついて呼吸を整えようとする俺を尻目に、ローレットはどこか考え込んでいる様子。
「ふう……不思議、貴方の精、私の身体によく染み渡ってくる。
そこまで上質とは言えないのに……もしかして私達、相性がいいのかしら」
不意に、全身べたべたで脱力する俺に、ローレットは擦り寄ってきた。
そうして俺の上になると、唐突に、その紅く瑞々しい唇を重ねた。
淫魔らしくない、ただ触れ合うだけのキス。
恍惚としたまま、俺は少女の目を見上げる。それはどこか今までと違う、慈愛のこもった目。
少ししてから唇を離し、俺を見下ろしたまま、ローレットは言う。
「―――私が娯楽で一番悲しいのは、どんなに素晴らしいものでも、
どんなに夢中になったものでも、それでもいつか、『飽きて』しまうこと」
ローレットは歌うように続ける。
「食事だって同じ。どれだけ上等な食事でも……いえ、なればこそ、飽きるのもまた早い。
でも、そうね。貴方は上質な獲物とは言えないけれど―――私は、貴方の精をたまらなく心地良く感じているの」
そう言ってくるローレットの顔は、まるで恋する乙女のようなそれ。
男を喰らう淫魔にしては、あまりに似つかわしくない笑みを浮かべ、ローレットは告げる。
しかしそれは、俺にとっては死刑宣告に等しいものだった。
「ふふ、決めた。喜びなさい、貴方を私のものにしてあげる。―――砂糖菓子の揺りかごで、貴方をいっぱい愛してあげる」
そう言うと、ローレットはベッドから降り、部屋の隅にあった棚へと向かう。
その棚にあるのは、ジャムやマーマレードなどといったものの瓶詰め。
その中から透明な中身の入った瓶を選ぶと、スプーンを持って少女は再びベッドに登る。
瓶の中身はかなり粘度の高い透明な液体。少女が選んだのは水飴だった。
蓋を外し、スプーンで水飴を掬って口に含むローレット。
そして、それを含んだまま―――少女は俺に口付けてきた。
「ん、んん……!」
唇がこじ開けられ、淫魔の甘い唾液と共に、どろりとした水飴が口内に侵入する。
口中に広がるその煮詰めたような強烈さの甘みは、明らかにこれが毒であることを示していた。
ローレットの舌が水飴と二人の唾液とを攪拌し、その度水飴は粘度を下げる。
吐き出そうにも、口は少女によってふさがれているため、飲み込むしかない。
全てを飲み込んでしまうと、ローレットはまた水飴を口に運び、口移しで俺に与える。
喉、食道を水飴が流れ落ちる度、体内で灼熱が渦巻く。
魔力の通った水飴と、淫魔の唾液。
それぞれに強力な媚薬作用を持った二つの液体が、俺の身体を隅々まで犯していく。
そうして丸々一瓶分の水飴を飲み込まされてしまった時、俺の身体はまたしても肉欲に狂っていた。
「……そろそろ頃合いかしらね」
口周りにこぼれた水飴を舐め取りながら、ローレットは膝立ちになった。
既に三度射精しているというのに、俺のペニスはまるで萎えていない。
渦巻く射精欲求に従い、俺は懇願の視線をローレットに向けていた。
不意に、今までずっと俺を束縛していたガムが剥がれ、両腕が解放される。
起き上がった俺の何故、という疑問に答えるように、ローレットは俺に何かを手渡す。
ビニールに入った、コンビニでよく見かけるチョココロネ。
こんなものを手渡してきて、一体何をしようというのだ―――?
「言ったでしょう? 貴方を私のものにすると。これはそのための儀式。
―――貴方自身の手で、そのチョココロネに精液を吐き出しなさい」
「な、な……!?」
淫魔の言葉に、思わず凍りつく。
渡されたのは、見る限り本当に何の変哲も無いチョココロネ。
ビニール越しであるのだから、ローレットの魔力すら通っていないだろう菓子パン。
こんなものでオナニーしろなどと、目の前の少女はふざけているのか?
「は、い。わかりました、ローレット様」
――――!?
俺は今、何を言った?
拒絶の言葉を吐こうとしたのに、出てきた言葉は従順なる屈服の言葉。
そのときの俺の顔は、きっと驚愕に凍りついていただろう。
「射精したいのでしょう? だから、それを使わせてあげる。
さ、いいわよ。見ててあげるから、思う存分―――貴方の欲望をぶちまけなさい」
「ありがとうございます、ローレット様」
まただ。また俺の意思を無視した言葉が、他でもない俺の口から発せられる。
だが、それは言葉だけではなかった。
右手が勝手に動き、逆さに持ったチョココロネの頭を、いきり立った肉棒に近づけてしまう。
止めようとしても、何故か身体に力が入らない。
そもそも自分の右手が、チョココロネを持っている感覚すら定かではない―――!
得体の知れない恐怖におののく俺に、ローレットは笑いかける。
「これも最初に言ったはず。私は糖を操る魔法使い。貴方の身体の中に、糖に関して、何か心当たりは無い?」
糖。糖を操る。人間の、身体。まさか、まさか―――!?
「思い当たったみたいね。そう―――『血糖』。私の奥義、『血糖支配』。
貴方は私の唾液も魔力のこもった水飴も、いっぱい呑み込んでしまっている。
そしてそれは、既に身体の中で吸収されつつある。……ふふ、もう逃げられないわ」
その瞬間、とうとう俺の右手は、自身のペニスをチョココロネの中に迎え入れてしまっていた。
ぐちゅり、と内部に詰まったチョコレートを押し退けながら、ペニスの全てが菓子パンの内部に収まってしまう。
その奇妙な粘りに、理性はその刺激を不快なものと判断した。
だが本能は、ペニスを包み込んだものは『キモチイイモノ』だという判断を下したらしい。
そして既に肉体の統制は主人の意思を離れ、目の前のローレットに帰属してしまっている。
皮肉なことに、右手は俺の肉欲の高まりを誰より何より正確に理解している。
下腹部を襲う射精欲を解き放つべく、右手は動き出す。
チョココロネをオナホール代わりにして、上下に激しく扱き上げる。
チョコレートの粘りが潤滑液となり、亀頭に妖しく絡みつかせながら、一心不乱に自慰に耽る。
「ふふ、いい顔。それには私の魔力なんて、欠片も通っていないのに。それはただの市販の菓子パンでしかないのに。
そんなもので自慰に耽って声を出しちゃうだなんて、みっともないと思わないのかしら?」
ローレットの人を見下した笑い声が、俺の興奮を加速する。
これで射精したら、もう二度と『人間』には戻れない。そんな危機感が頭をよぎる。
しかし、もうどうしようもなかった。
淫魔の毒に蝕まれ、身体の自由までも完全に奪われ、俺は目の前の少女に完全に屈服してしまっていた。
本能の命じるままに、俺は自らの意思で右手を動かしていた。
両手でチョココロネを包み込み、激しく振りたくる。
チョコレートと先走りが交じり合い、連結部から茶色く泡だって流れ落ちる。
完全に自分に隷属した俺の頭を、ローレットは優しく抱きかかえ、囁いた。
「大丈夫、貴方を捨てたりはしない。優しく甘く、揺りかごの中で微睡ませてあげるから。だからもう、楽になりなさい?」
その瞬間、全てが弾けた。
「あ、が、あああ――――っ!」
びゅくっ! びゅく、びゅくっ!
我慢も誇りも尊厳も、全てを菓子パンの中にぶちまける。
またしても、大量の精液が輸精管を駆け上った。
ペニスを覆うチョコレートに精液が混じり、滑らかに滑るようになる。
その混合物が隙間から垂れ、茶色と白のコントラストが股間を彩る。
気持ちいい、きもちいい、キモチイイ――――。
もはやまともな思考力を失った俺は、ただただ白濁を撒き散らすだけの存在となっていた。
ローレットはそんな俺の股間に指を突きつけると、また何かをつぶやいた。
すると、内部の感触が突如変化する。
ただ付着しているだけだったチョコレートが、意思を持ったように亀頭を覆い始めたのだ。
ヨーグルトよりもずっと粘ついてくる感触に、俺は更に精を噴き上げる。
快楽に溺れる俺に、ローレットはまた囁く。
「これからずっと可愛がってあげる。永遠に、永遠に―――」
それから―――。
俺はベッドに仰向けになったまま、顔面に騎乗するローレットの無毛の秘部に舌を這わせていた。
一本の筋から湧き出してくる愛液はむせ返りそうなくらい甘いのに、いつまでも飲んでいたくなるような中毒性を秘めていた。
俺に奉仕をさせながら、ローレットは新製品の菓子のカタログを読んでいる。
勃起したペニスに生クリームを塗りたくってから、ずっとローレットはこんな感じで、俺を射精に導こうとはしてくれない。
その生クリームもただの製品ではないらしく、乳魔とやらの母乳入りだとわざわざ説明してくれた。
そんな媚薬効果溢れる生クリームでデコレートされたペニスは既に限界で、大量の先走りを吐き出している。
ローレット曰く、『先走りで生クリームをすべて流し終えたらイかせてあげる』―――。
そんな無茶な注文をつけ、自分はずっと人にクンニをさせているのだ。
「なんだ、まだ半分なの? 早くしてくれないと、私の方が先に欲求不満になってしまうでしょう」
そして、そんな素敵な発言をかましてくれるのである。
こうして俺は、ローレットのオモチャ兼恋人となってしまった。
いつまでも淫魔の快楽を享受できるのは、幸せと言えるのだろうか。
代償として、もう人間の暮らしに戻ることは出来なくなってしまったが―――。
それでも、やはり俺は『幸運』なのだろう。
そんな風に思いながら、一心に俺はローレットの秘部に舌を這わせ続けるのだった。
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