毒蛾娘






無個性。それが僕の性質を一番正確に示す符号だと思う。

共働きの両親の下に生まれて、成績は中の上、運動もそこそこ、

素行面でも特に問題も無く小中高と学生生活を送ってきた平凡な少年だ。

自分で言うのも悲しいが、取り立てて自慢できることもそう無いのだからそう評すしかない。

さて。

そんな『普通』に一般人をしている僕だけれど。

今置かれている状況は、割と異常なことだった。

多分、きっと。

見知らぬ人物がそこらに倒れているのを発見してしまうなんて、そうそう無い状況だろう?

しかも、そんな不審人物が、割と可愛らしい、まだ中学にも上がっていないような少女で。

説明に困るような、世にも奇妙な格好で、文字通り『転がって』いるなんて―――。









『少女』を発見したとき、僕は思わずその場に固まった。

無理も無いと思う。学校帰りに行き倒れに遭遇だなんて、今の日本で、そうそうありえるものじゃあないだろう。

そんな状況に出くわして、ただの高校生の僕に、冷静かつ迅速な行動を求められても困る。

『行き倒れ』。

それも文字通り―――地面に突っ伏して、うつ伏せで倒れこんでいた。



(家出人?)



何にしろ、すぐに救急車でも警察でも呼べばよかったのかもしれない。

ただ、それを思いとどまらせるだけの要素が、この少女にはあったのだ。



「コスプレ……しかもこれは、虫? 悪趣味と言うか、何と言うか」



髪の間から突き出るように生えた触角。

触れると掌に粉の付く羽根。

腰から下は、着ぐるみのように柔らかいもので足先まで覆われている。

僕の知識の中に、その『コスプレ』の対象はしっかりと存在していた。

しかしその外見も感触も、コスプレと言うには少々再現度が高すぎる。

少女の衣装は……つまるところ、『蛾』だった。

蛾のコスチュームに身を包んだ行き倒れ少女A。

あらゆる意味で、ものすごく謎だった。

週刊誌やワイドショーのネタになりそうな。

……周りの人が避けるのも仕方の無いことなのかもしれなかった。



(―――どうしよう)



しかも少女は、家の門の向こう、インターホンの前に倒れていたのだった。

こんな素敵な格好で訪ねてくる知り合いは、僕の交友関係には存在しない。

かと言って、こんな愉快な少女と、自分の両親が知り合いという想像も受け入れ難い。

警察に連絡するのも気が引けた。

物凄く気乗りしなかったが、僕は少女を家の中に引っ張り込んだのだった。







コスプレ少女が目を覚ましたのは、それから一時間後のことだった。

寝ぼけ眼で頭を振る少女に、僕はとりあえず麦茶を差し出した。

ぼんやりとした様子で、くぴくぴと麦茶を飲む少女。

全部を一気に飲み終えて、ようやく意識がはっきりしたようで、少女は辺りを見回し、不思議そうに訊ねた。



「……あれ? ここどこ?」

「どこって言われても……君、ウチに用があったんじゃないのか?」

「あ、そうそう、この家は知らないけど、お兄さんに用事があったの。思い出した思い出した」

「僕に、用事?」



僕はこの少女を知らないし、特別、何かに関わるようなことをした記憶は無い。

僕に用事があるとしても、一体なんだと言うのだ?



「私、リノ。お兄さんに『お礼』をしにきたんだよ」



リノと名乗る少女の言葉に、僕はますます困惑した。

そんな名前の知り合いなんてやはりいないのだから、お礼なんてされるようなことがあるはずが無い。

そんな僕に一切構わず、少女は続ける。



「覚えてないの? 一週間前、お兄さんは食べられちゃいそうだった私を救ってくれたんだよ」

「食べ、られる?」



少女の背後で、ぱたぱたとコスプレの羽根が羽ばたく。

動くのか、中々凝った作りの衣装だな……。

一週間前と言われて、少々考え込む。

人助けなんてしたはずは覚えは無い、その日は庭の草むしりをしていて、一日中草と格闘していたのだ。

そのとき、庭の木に大量にかかっていた蜘蛛の巣を、適当に壊しまくって……。

蜘蛛……蜘蛛の巣……少女のコスチューム……蛾。

僕の頭の中で、少女の発言と記憶とをつなぎ合わせて、無理矢理一本の仮説を立ててみる。

少女=蛾の化身。蜘蛛の巣の大量除去。巣に引っかかった蛾の恩返し―――。

荒唐無稽な考えだったが、それをそのまま言ってみる。



「ええっと………あの時の、蛾?」

「わお、せいかーい! ……って、何? その可哀想な相手を見るような目は」

「いえいえ、何でもなく」



本格的に痛い人だった。

自分を蛾の化身だなんて言うなんて、どうかしているとしか思えない。

自分で家に上げといて何だが、一刻も早くご退場願いたかった。

自分用のマグカップに入れた麦茶を飲みつつ、僕は少女から視線をそらした。



「むう、信じてもらえてない。ていうか、こんなのコスプレじゃ無理でしょ?

 どうやったら羽根を自在に動かせるの? 羽根からリン粉が出るの?

 ―――それが、私が人間じゃない証明にはならないの?」



頬を膨らませて、じっとりと僕を睨むリノ。

しかしその顔が、不意に笑みを浮かべた。



「でも、そろそろだと思うんだよね」



何が?

そんな逡巡も束の間、

僕の身体が、ガクンと崩れ落ちた。



「動けないよね? さっきから私のリン粉、いっぱい吸い込んじゃってるから」



震える指からマグカップが離れる。板張りの床に落下して、僅かに角が欠けた。

指が、否、全身の筋が痺れて、力を失っている。

そんな僕を眺めて、リノは嬉しそうに笑っている。



「私の毒、遅効性なんだ。他の妖女の毒に比べたら、少し効き目は強いけど、大丈夫。命には関わらないよ」



悪戯を成功させた子供のような、無邪気な笑み。

今はそれが、肉食の猛獣が目の前で牙を剥いているような恐怖を与えてくる。

ここにきて、僕はようやく理解した。

目の前の少女は、確かに人ならざる者だと。

そして僕は、そんな彼女に目をつけられた『獲物』だということを―――!



「それにね、吸い込めば吸い込むほど、気持ちよく慣れるんだから。ね? これは恩人のお兄さんに対するお礼なんだよ。だから―――」



リノは僕を押し倒し、あどけない顔に似合わない淫靡な笑みを浮かべて、



「痺れる快感、あげるね?」



僕の唇に、自分のそれを押し付けてきた。





「ん、んんッ、んむぅ」



唇が柔らかい感触に包まれる。

ファーストキスが……。

そう思う間もなく、リノの唇が僕の上唇を啄ばみ、小さな舌で舐め回す。

外周部から唇の裏までを、唾液のぬめりをたっぷりと帯びた舌がちろちろと柔らかくくすぐっていく。

その甘美な刺激に、僕の頭の奥が熱く痺れる。

たっぷりと時間をかけて味わってから、リノは僕の下唇に舌責めの対象を移した。

同じだけの時間をかけて、僕の口周りをあふれ出た互いの唾液で汚していく。

唇がふやけ、とろけていくような快感。

電光のごとく快感が奔る、意識が舐め溶かされるような感覚。

唇を割って差し込まれた少女の舌が、歯茎、歯の一本一本に至るまでを這い回る……!

震える僕の舌を絡めとり、それを伝わせて、少女は唾液を送り込んできた。

二人の唾液が攪拌される。ちゅくちゅくという水音が、ひっきりなしに脳を揺さぶる。

ブレンドされた唾液を嚥下するたび、妖しい快感に僕の身体が更に熱く火照っていく。



「お兄さんの口、おいしいよ? ふふ、もっとぺろぺろしてあげる」



そしてキスの最中にも、リノは僕の身体の上で毒蛾の羽根を羽ばたかせる、

すると大量のリン粉が、既に全身が麻痺し動けない僕の身体に降り注ぐ……!

口をふさがれ、甘美な舌愛撫を受けて呼吸が荒くなってしまった僕は、それを鼻から大量に吸い込んでしまう。

甘い芳香を伴い、魔の淫毒が僕の体に這入り込んだ。

声を出す自由さえ奪われたまま、僕の体は蝕まれていく。



「んっ……服ジャマだから、脱がしちゃっても良いよね、お兄さん?

 その方が直接リン粉に触れられて、肌ももっともっと敏感になるもんね」



制服のカッターシャツのボタンをひとつひとつ外していくリノ。

露わにされた上半身を、少女の手と、醜悪な蛾の下半身が這い回った。

当然そのどちらにも、自身が出したリン粉が大量にまぶされている……!



「む、んむう、んんんんんッ!」



胸、乳首、首筋、脇腹、背中と、敏感な部分を撫でるように愛撫する少女。

その手が動き回るたび、僕の身体中にリン粉が塗りたくられ、全身の汗を吸って張り付く。

たまらず漏れるうめき声も、リノの舌にかき消され、言葉として空気を振るわせることは無い。

キスに翻弄され、全身をくすぐられて―――僕の抵抗は、一切封じ込まれていた。





不意に、少女は僕の口を解放した。

僕の口元も、リノの口元も、溢れこぼれた唾液でべとべとだ。

朦朧とする世界の中で、少女の底抜けに明るい声だけが妙に鮮明に響く。



「どう? 私のこと、気に入ってくれた? あ、答えてくれなくてもいいよ。

 今は満足に話せる状態じゃないだろうし、それに―――」



少女の悪戯っぽい視線が僕の下腹部に向けられる。



「この子の様子を見れば、それくらいわかるもんね」



魔性の口技と毒の影響で、僕の股間は全開の臨戦態勢だった。

夏服の薄手の生地を突き破らんばかりに勃起したペニス。

リノはその様子を見て、また嬉しそうに笑う。



「あん、窮屈で可哀想。すぐに助けてあげるからね」



少女の手がズボンに掛けられる。ベルトをしゅるしゅると外し、ジッパーを下ろしていく。

制止しようにも、舌がもつれて言葉にならない。全身の虚脱感も、先程からまったく変わらない。

とうとうその手が、僕のトランクスに掛けられる。リノは一切躊躇することなく、ズボンと共に一気に引き下げた。

ぶるん! と飛び出したペニスが少女の額を叩いた。

びくびくと小さく脈打ち、先走りを流すペニスを小さな手が掴んだ。

その刺激を受けて、ペニスはさらに歓喜の涙を零してしまう。



「じゃあこの子にも、ちゃんとリン粉、掛けてあげなくちゃいけないね。

 多分我慢できないと思うから、出しちゃっても大丈夫だよ。……私が全部、受け止めてあ・げ・る♪」



一際激しく自らの羽根を羽ばたかせ、リン粉をばら撒くリノ。

完全に露出した下半身を覆い尽くすように、きらめくリン粉が降り注ぐ。

あっという間に肌色がほとんど見えなくなり、じんじんと毒がしみ込んでくる。

全身が満遍なくコーティングされ、フライの衣に包まれたよう。

そして―――そんな哀れな食材を料理するのは、目の前で笑う毒蛾娘。

少女の手が僕のペニスをさする。

無造作に掴みとると、さらさらの粉によって摩擦を減らされた指が亀頭を撫でる。

すりすりすりすりと、指の腹が傘をなぞるように這い回る。

反り返った幹を、五本の指がやんわりと握りこみ、少しずつ揉みこむ。

精液を貯え張り詰めた睾丸を爪弾きにされ、一際大きく僕のペニスはわななく。

僕は荒い呼吸を続けて、股間から突き上げる快感に身震いを続ける。

その動きは僕を絶頂に追い込む責めでなく、あくまでその前段階で留めるに過ぎない。

だがただでさえ毒リン粉の影響を受け、疼くような熱が体内からこみ上げてくる今の状態。

リノの愛撫に懸命に耐えていた僕の我慢が、くすぶり続ける射精欲求によって徐々に突き崩される。

少女にとってはそんな我慢など、いつでも突破できる程度のものなのだろう。

それでも少女は、僕に射精を許さない。

射精に至る寸前で、狙い澄ましたかのように快感の波が去っていく。



「どうしたの? いつでも出していいんだからね、我慢なんてすることないよ?」



したって無駄だと、堕ちてしまえと少女は言外に言っている。

人外の快楽で脳髄がただれそうだった。

焦らしに焦らされ、とうとう僕の心は少女に屈服した。

満足に動かない身体の首から上だけを動かして、すがるようにリノを見る。

少女は僕の懇願の視線を受けて、陽だまりのような笑みを浮かべた。



「ふふっ。ほらほら、イッちゃえ〜!」



とどめの一撃が下された。

摩擦の抵抗も無く、ペニスを握った右手が激しく揉まれ、上下に扱かれる。

一方で、左手は陰嚢や会陰部にペニスの根元、亀頭にカリ首と、縦横無尽に責め立てる。

容赦も加減もありはしない、文字通り少女は精を『搾る』。

枷を外され、僕のペニスは精液を噴き上げた。



どくん、どくん、びゅくびゅくびゅく……



「あは、出た! ん、ん……っ」



射精中のペニスを、少女の熱い舌が舐る。

精液の吐き出される尿道口に吸い付き、舌を突き入れ、尿道の奥から精液を啜り呑む。

それがまるで甘露であるかのように、ごくりごくりと喉を鳴らして飲み込んでいく。



「う、ぐ……あ、ああぁぁぁ………!」



今までで最高の射精。

人ならぬ妖女に弄ばれ、哀願までさせられ、屈服して―――。

気付けば、僕は涙を流していた。

人間としての尊厳を傷つけられ、途方も無い敗北感が押し寄せる。

それでも、最高に最悪な射精は止まらない。

掠れた喉で嗚咽をこぼしながら、少女に精を搾り取られていく。

頬を赤らめ目を潤ませ、情熱的に精液をすすり上げる毒蛾娘。

リノは最後に一際強く吸い上げ、尿道の中の残滓までもを吸い出して、やっと僕のペニスは解放された。





「えへへ、どうだった、お兄さん。とっても気持ちよかったでしょ?」



口の端から一筋の精液をこぼして、少女は僕を見下ろし、屈託無く笑う。

本当に楽しそうで嬉しそうな、褒めてもらおうとする期待感に溢れた表情。

しかしその笑顔も、僕の頬を伝う涙を見た途端、慌てた表情に変わった。



「ご、ごめんなさい……そんなに嫌だったの?

 でも私、こんなことでしか、『お礼』なんてできないから……ホントに、ごめんなさい」

「ならもう、どこかに行ってくれよ……。頼むからこれ以上、僕を惨めにしないで……」



それはほとんど命乞いだった。

涙を拭う事も出来ないまま、僕は少女を見上げた。

心は快楽と屈辱で完全に折られて、もはやその懇願を、逆にひどく冷静な目で見てしまっている自分がいる。

自信満々、意気揚々としていたリノも、流石に僕の姿にいたたまれなくなったらしい。

沈んだ声音で、僕に告げる。



「……わかった。もう少し気持ち良くしてあげたかったけど、もう止めとくね。

 残念だけど、私はこれで―――うにゃ?」



リノは不意に、奇妙な声を上げて硬直した。

その様子を、動けないまま僕は下から観察する。すると、少女の異変はすぐに見て取れた。

少女の顔がどこか赤みを帯び、半開きになった唇の間から僅かに荒くなった呼気が漏れる。

僕の身体に圧し掛かったまま、少女は自分の身体を細い両腕で抱きかかえる。

僕とリノの視線が絡み合う。リノの目は、色っぽく潤んでいて―――。



「な、何だろ、お兄さん……私もなんか、変な感じ……。身体の奥が、熱いの……」



そう言って、リノは僕の身体にしがみついてきた。

少女の柔らかい体と、ミルクのような甘い匂いが僕を包む。

リノは息を荒げたまま、僕に顔を近づけてきて―――再び、その小さな唇を僕のそれに重ねた。

しかし今度のキスは、先程のそれとは明らかに別物。

毒蛾娘の舌が僕のささやかな抵抗を強引に打ち破り、舌を激しく絡めてくる。

水音が頭の中で淫らに響く。少女の舌が踊り、口腔内を蹂躙していく。

さっきはあれだけ時間をかけて僕の理性を舐め溶かしていったのに、打って変わってのこの情熱的なキス。

がっぽりと口と口が深く結合し、貪るように僕を求めてきている。



「あん、ああん、おにいさぁんっ! カラダが熱い、熱いよおぉっ!」

「んん! んうううぅぅっ!」



僕に抱きついたまま、少女は毒蛾の下半身を僕の下腹部に擦り付ける。

リン粉と繊毛に覆われた柔らかい肉が、僕の股間を刺激する。

ペニスはその刺激を受けて、瞬く間に復活してしまっていた。

大量に吸い込んでいる毒が、より一層強く僕を蝕んできているのかもしれない。

テクニックもへったくれもなく、互いの肉体が激しく前後に擦り合わされる。

今度は彼女も感じているらしく、小刻みに小さな肢体を震わせながら、二人は一心に交わっていた。



「来ちゃうっ! 何か、来ちゃうよぉっ!」



激しく仰け反って、リノは絶叫した。

その瞬間、ぷしゃあっ! と、生暖かい液体が僕の下半身に浴びせられる。



「あう……私、おもらししちゃったよう……」



放心したように、しまりの無い顔で少女は呟く。

僕はと言えば、突然に浴びせかけられぽたぽたと垂れる少女のおしっこに、

ここまで堕ちてしまったとはいえ、流石に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

全身に付着したリン粉が、二人の汗と少女の尿を吸って体に張り付いている。

正直、困惑していた。

『お礼』とやらを既に切り上げようとしていた少女が、突然我を忘れたように、僕を求めてきたことに。

まるで、発情期の獣が、激しく発情し、交尾するときのように―――。

―――交尾? 発情、だって?

頭の中で思い浮かべた単語に、僕は引っかかりを覚え、思考を向けようとした。

だが。

僕の理性的な思考は、ここで断ち切られた。





「あ、ああああああああぁぁぁぁぁぁァァァッ!」



絶叫。

それは、本当に突然の事態だった。

僕の全身が、火薬庫が起爆したかのように、激しく情欲の火炎に包み込まれたのだ。

心臓が激しく脈打ち、白い閃光が視界で弾ける。

マラソン後によく『心臓が飛び出しそうだ』と形容されるが、そんなものの比ではない。

全身の筋が力を失う中で、唯一ペニスだけが遥かに天を仰ぎ、射精に匹敵するほどの勢いで先走りを噴き出す。

明滅する視界の中で、先日の生物教師の授業中の雑談が脳裏をよぎる。

曰く、『雌の蛾の尿には性フェロモンが含まれ、雄の蛾の生殖本能を刺激する』と―――!

染み込んだ毒が、そのフェロモンをスイッチとして一斉に活動を始めたと言うことか。

まさに、発情。―――僕とリノの変化を表すにはうってつけの言葉だ。



リノは自分の身体に起こった突然の変化を半ば本能的に理解し、今はある程度冷静に受け止めたらしい。

上気した顔で、うっとりと呟く。



「あは……いつの間にか、私ももう、大人になってたんだ……。赤ちゃん、産めるようになったんだね……。

 ―――ねえ、お兄さん。貴方の子供、産ませてもらってもいい? ううん、ダメなんて言わせないよ」



はふはふと荒く息を吐き、嗜虐のこもった様子で少女は告げる。

毒で動けない僕の身体を押さえつけて、下腹部の先端をペニスの真上に掲げた。

角度的に見えないが、おそらくそこが、毒蛾娘の生殖孔。

ツゥ……と生殖孔から漏れ出た粘液が亀頭に降りかかった。

人外の娘と子を為してしまうという行為への背徳感と冷たい恐怖に全身が震える。



「やめ、て……それだけは、ぁ……!」

「ふふっ、聞こえな〜い! あ、もしかしてお兄さん、童貞なの? 可愛いなあ」

「う……ああ、そうだよ! 童貞なんだ! だから、もう、やめて―――」

「ホントにそうなんだ。可愛いなあ……。私がお兄さんの初めての相手になっちゃうんだね。

 じゃあお兄さん……お兄さんの精子、もらっちゃうよ?」



僕の最後の懇願も、まったく聞き入れられなかった。

そして、燃え盛る情欲に任せて、この少女と繋がりたいという願望が、僕の中で生まれているのもまた事実だった。

だが、ここまでリン粉の毒に犯されてしまっている僕だ。

僅かに残った理性も、リノが狙いを定めて腰を下ろし、生殖孔でペニスを飲み込んだ瞬間、



「ああっ! うあああ――――ッ!」



呆気なく、崩壊した。

粘液と尿に濡れたリノの生殖孔の入り口は、ペニスを迎え入れると、激しく揉みしだいてきた。

根元から先端までをぎゅぽぎゅぽと搾り、吸引し、奥へ奥へと吸い込む。

柔らかい肉が亀頭にねっとりと纏わりつき、先端がとろけそうな快感を味わわされる。

女性経験の無い僕にも、はっきりとわかる。

人間の膣では到底味わえないような孔内の蠢き。

これは、人間が関わってはいけない種類の快楽なのだと―――!



「あ、あ………」



為す術もなく、僕は少女の生殖孔に精液を放っていた。

吸い上げられるままに、激しい快楽を伴い尿道を精液が駆け抜けていく。

もはや僕は、全身の力も抵抗の意思も、それら全てを放棄して、その快楽に溺れていた。

涎をこぼして、無様に泣き叫んで、毒蛾娘の体内に精液を放つ僕。

獣のように交わる僕たちを、薄いモヤが取り巻いていた。

僕の上で激しく腰を振る少女が飛び散らせる、毒蛾のリン粉。

荒い呼吸の度、体内にそれらが取り込まれ、僕の中の獣が暴れ狂う。



ずにゅうっ! ぐちゅ、ぐちゅぐちゅ……



いつの間にか、生殖孔が拡がり、陰嚢までが生殖孔に飲み込まれていた。

ぐにゅぐにゅと睾丸を刺激されるにつれ、射精もまた勢いを増した。

もう何も考えられない。既に僕は、少女に精を奪われるだけの、ただの獲物―――。



「えへへ、子供できちゃったね。これからもヨロシクね、お兄さん―――ううん、ア・ナ・タ♪」



リノの弾んだ声を聞きながら、僕の意識は闇に落ちていった。









それから―――。

僕がソファで目覚めたとき、家の様子は普段とまったく変わっていなかった。

あれだけ撒き散らかしたはずのリン粉も体液も、その痕跡は一切無い。

全てが夢だったのではないか―――そう思った僕の目に、飛び込んできたものがある。

僅かに欠けたマグカップ。最初に僕が倒れたときの、

その破損したマグカップの存在こそが、アレが夢ではなかったことを物語っていた。







そして一ヵ月後の夜。

あの時の快楽を忘れられず、悶々とした日々を過ごしていた僕のところへ、再びリノはやってきた。

以前より少し全体的に成長し、落ち着いた大人びた雰囲気を漂わせて。

下半身がどう見ても毛虫の、リノに良く似た二人の小さな女の子を連れて―――。

驚きに硬直する僕に構わずリノは言う。



「ふふ、私達の子供だよ。これから親子共々厄介になるけど、いいよね?

 『お礼』にちゃんと気持ちよくしてあげるから……。 ほらルウ、リュネ、パパにご挨拶なさい」

「ぱぱー!」

「ぱぱー! ごはんちょうだーい!」



抱きついてきた二人の『娘』に、僕は無抵抗に押し倒されてしまっていた。

下半身を曝け出され、二人は股間に殺到する。

二人の小さな舌が、それぞれにペニスを舐め回す。

顔を寄せ合って、竿から亀頭から、あちこちと責める場所を変えながら、僕に快感を与えてくる。

二枚の舌が這いずり回るその感触、仮にも『娘』に奉仕されていると思うと、僕は激しく昂ぶった。



「あ、あ……! だめだ、出るッ!」



堪えきれず、僕の肉棒は精液を吐き出してしまう。二人の顔、髪、舌と、白濁が降りかかった。

精液の湧き出す尿道口に、二人の舌がぐりぐりとねじ込まれる。

性欲よりも食欲が優先された、幼く拙い口唇愛撫。

二人は喜色満面の笑みで、僕を責め苛み、精液を舐め取っていく。



「じゃ、私も交ぜてね。家族4人、ずっと一緒だよ!」



そう言って、リノは僕に抱きつき、毒蛾のリン粉を撒き散らした。

それを吸い込んでしまった僕の身体が、甘く痺れ始める。

リノの舌に口腔を、下半身を二人の娘に犯され、僕は恍惚として快楽を享受していた。

これから僕は、この毒蛾の親娘に愛され、『お礼』を受け取り続けるのだろう。

もしかしたら、それは孫や曾孫の代にまで及ぶのかもしれない。

こんなの、絶対『普通』の人生なんかじゃない。

しかし、それも悪くないかもしれない。

三人に犯されながら、僕はそんな風に思ってしまうようになっていたのだった。




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