幼魔Final






結局その日、僕は大学を休んだ。

あれから後背位で優美ちゃんと交わり、何度も精液を放ってしまった。

後ろから責めていたはずなのに、例の素晴らしい膣の感触にすっかり僕は骨抜きにされ、

優美ちゃんが膣内を妖しく締めてきた途端、なすすべも無く絶頂してしまったのだ。

それでも僕は、何度も優美ちゃんを求めた。

優美ちゃんの制止も振り払って、がむしゃらに優美ちゃんを犯した。

いや、それは形の上だけで、結局は僕が犯されていたのだろうけど。

そして今。

僕はぐったりと力無く横たわっていた。

サキュバスに精を搾り尽くされた男の末路そのものだ。

優美ちゃんはそんな僕に心底呆れた様子で、これ見よがしに溜息をつく。



「……お兄さん。サキュバスの肉体を生命の保証付きで味わえるなんて幸運、普通はないんですよ?

 普通は餌として吸い尽くされるだとか、ペットとして弄ばれるだとか、大体そんな末路なんですから。

 なのにわざわざ助かるところを、自分から死にそうになるほど求めないでくださいよ。

 重々承知しておいてもらいたいんですけど、基本的に吸い尽くすよりも加減する方が難しいんですから、

 うっかり死んでしまうかもしれないんですからね? ……うっかり腹上死だなんて、嫌でしょう?」



確かにそれは嫌だ。

死因がそんなだと言うのも、『うっかり』で死んでしまうのも、どう考えても笑えない。

実際、精をごっそり抜き取られて、今こうして動けなくなっているわけだし。

優美ちゃんはそんなつもりは無いと言うが、僕自身も注意しておく必要はあるようだった。



「まあ、わからなくは無いですけどね、その気持ち。

 私達は全身が男性を狂わせるように出来てますし、そうして相手を誘惑するわけですからね……。

 でも、今はもうこの口も胸も手も足も、へそもお尻も髪も尻尾も、

 当然アソコも、全身全てがお兄さんの所有物なんですから。

 ―――ふふ、じっくり時間をかけて味わってください。私はどこへも行きませんよ」



……あ、やばい。

そう言ってくる優美ちゃんの笑顔が、たまらなく魅力的なものに思えてくる。

―――ああ、駄目だ。これは本当に後戻りなんて出来ない。

もはや満足に動けないのに、僕の心も身体も、優美ちゃんの温もりを求めてしまう。

なんて僕は節操が無いんだろう。今まさに、釘を刺されたばかりだと言うのに。



「……って、お兄さん、今の私の話、まったく理解してないんですか?

 今これ以上私に吸い取られたら、ほんとに命が危ないんですよ?

 折角さっき永遠に愛し合おうと誓ったばかりなのに、早速勝手にいなくならないでくださいよ」



「うう……そうは言ったって……」



「―――仕方が無いですね」



優美ちゃんは起き上がると、僕の頭の方に移動した。

そしてちょこんと正座すると、僕の頭をその膝の上に持ち上げた。

膝枕の体勢だ。後頭部に感じる体温と柔らかさに、えもいわれぬ安心感を抱く。



「しばらくこうしていましょう。私の身体に触れているだけでも、それなりに気持ちはいいでしょう?

 ……少し眠ってください。一眠りすれば、ある程度身体の方も持ち直すでしょう。

 ほら、お休みなさい、―――私の可愛い旦那様」



「う、うん………」



優しく僕の髪を梳いて来るたおやかな指。

ふんわりと甘く漂う優美ちゃんの香り。

幼児に戻ったかのような安心感と安らぎの中で、いつしか僕は眠りに落ちていた。









夕方になって、ようやく僕は目を覚ました。

実感は薄かったが、やはり身体の方にかなりの負担がかかっていたらしい。

無理も無い。昨日の晩から今日の午前中の12時間にかけて、一体僕は何度優美ちゃんと交わっていたのか。

それでも、これが若さと言うのか、今までに無い大量の射精を連続でしている割に、身体はもう回復しているようだった。

……僕、変な薬とか食べさせられてないよな? 魔界のそういう系統の妖しい改造とか、施されてないよな?

確認のしようもないので、今度それとなく聞いてみようと決意した瞬間だった。



ふと気がつくと、家の中に香ばしい香りが立ち込めていた。今夜は焼き魚のようだ。

しかし、魚―――冷蔵庫の中にそんな食材は無かったはずだけど。

……もしかしなくとも、優美ちゃん、僕の財布、勝手に漁ったのね。

まああえて文句は言うまい。昨日今日の食事で、優美ちゃんの腕前は認めている。

僕の為においしい料理を作ってくれるのだから、何も言わないのがいいだろう。

空腹を訴える腹を押さえて、台所へ向かう。

暖簾をかき分けて、優美ちゃんに声を掛けようとして―――またしても、僕は硬直した。



とんとんとん、じゅーじゅーじゅーと、小気味いい音を立てて料理をこなす優美ちゃん。

何故か、裸エプロンだった。

しかも今度は、黒のニーソックスに履き替えていたりした。

ふりふりと踊る尻尾とぱたぱたとはためく羽根が可愛らしい。

しかし一体、僕はどんな性癖の持ち主だと思われているのだろう。

問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。



「あら、起きましたか。もう少しで出来上がりますから、お皿持って行ってもらえます?」

「ああ、うん。ところで優美ちゃん、その格好は?」

「男のロマン・新婚編ですが。何か?」

「いやー! 『男のロマン』はもっと格好良い言葉のはずなのに!」

「ご不満ですか。一応、学生編も準備してあるんですけど」

「……想像つくけど、教えて?」

「体操服とスクール水着です。あ、ブルマもしっかり持ってますよ?

 水着もちゃんと旧式を揃えてありますから、ご安心を」

「そんな胸を張られても!」



どうしよう。これから使用する気満々だ。

そしてその流れを止められそうにない自分が悲しかった。

どっとはらい。







夕食後。僕は一人、湯船に浸かっていた。

心も身体も一新されるような心地よさ。風呂は日本人の命である。

流石に魅了され尽くした僕とはいえ、それこそ寝食を忘れて優美ちゃんを求めるわけにはいかない。

むしろ、普段の生活習慣をしっかり保っていなければ、これから先、体力が持たない。ていうか、死ぬ。

しっかり寝て、しっかり食べて、疲れをとる―――。

これこそが、サキュバスと平和かつ安全に過ごすための絶対条件だと思う。

……もっとも、最初の条件だけは、あまり十分にならない気はするけど。



しかし、風呂である。

ここまできっちりベタなラブコメ展開を踏襲してきた優美ちゃんのこと、何となく今後の展開も予想がつく。

加えて、僕に入浴を勧めた際の、含みのある微笑……。

これで何も起こらなかったら詐欺だろう。



さて。

かくして期待通り、優美ちゃんが洗面所に入ってきた気配がする。

元々服は着ていなかったので(だって裸エプロンだし)、すぐに僕に声を掛けてきた。



「お兄さん、入りますよ? お背中、流しましょう」



生まれたままの姿で浴室に這入ってくる優美ちゃん。

何度も見た裸体であるはずなのに、天使のような美しい姿には心を奪われる。

とはいえ天使ならば、蝙蝠の羽根と尻尾、男を狂わせるような濃密な色気なんて持ち合わせてはいないだろう。

この姿を見れば、別にロリコンでなくとも欲情してしまうに違いない。



「う、うん。じゃあ、お願いするよ……」



浴槽から出て腰掛に座る。

早くも期待感から、言いようの無い興奮がこみ上げてくる。

優美ちゃんは僕の後ろに膝立ちになって、両手に乳白色のボディソープを垂らす。



「お兄さん。私が持参したボディソープ、使ってあげますね。

 『乳溺の色香』って言うんですけど……これ、乳魔の母乳入りなんです。

 凄くヌルヌルして、とっても感じちゃうようになるんですよ?

 高級品なんですから、ちゃんと感じてください―――ふふ」



「ひゃっ!?」



ひやりと冷たくぬめる乳白色の液体が、僕の背中に塗りつけられた。

くすぐったさに思わず声が出るが、優美ちゃんの手はお構いなしに僕の身体を滑っていく。

背中から腋を通って腕の先まで、ぬるぬるとした液体に覆われる。

全身を撫でるように滑らかに手が這い、あっという間に上半身がぬるぬるにされてしまう。

不意に、ぬるぬるに包まれた部分が、一斉に熱を持って疼き始める。

優美ちゃんの言っていた媚薬効果が作用し始めたのだ。

僕の反応から効き目を読み取ったのか、撫でるだけだった両手の動きが、明らかに愛撫のそれに変わる。

白魚のような指がへそに差し込まれ、やわやわと穿られる。

硬く尖ってしまった乳首を、くりくりと弄られ、ぎゅっとつままれる。

指の一本一本をペニスに見立てて、根元から爪の先まで扱きあげられる。

僕のペニスはもう完全に勃起してしまい、先走りを垂れ流している。



「おや、どうかしましたか? 息が荒いですよ。のぼせてしまったんですか?」



わかっているくせに、優美ちゃんはそんなことを言う。

どれだけ気持ちよくたって、ペニスに直接的な刺激が加えられなければ、射精には至らない。

上半身から垂れた液体がペニスの根元にまで達する。

それだけの刺激でも、僕はたまったもんじゃない。

僕は涙目になって、優美ちゃんに哀願してしまう。



「ゆみちゃん……お願い、もっと下の方も……」

「下? ここですか?」

「ひっ!? そ、そこは違、ううぅっ!」



お尻をさすっていた優美ちゃんの指が、するりと僕のアナルに這入り込む。

括約筋の抵抗を、たっぷりとぬめりを帯びた指がたやすくすり抜け、何度も出し入れされる。

優美ちゃんが指を往復させる度、何度も悲鳴を上げる僕のペニス。

そういう責めがあることは知っているが、実際にされるのは初めてだ……!



「ぬ、抜いて、抜いてぇっ! そこじゃない、そこじゃないよぉ!」



「違うんですか。なら、どこを洗って欲しいんですか?

 ちゃんと言葉に出してもらえないと、相手には伝わりませんよ?」



「うう……、僕の、お、……おちんちんを、さ、……触ってください」



羞恥で顔が熱くなる。

こんな小さな少女に屈服して、責めを懇願までさせられて―――。

それでも、嫌な気は起こらない。それだけ僕が、優美ちゃんに篭絡されてしまったと言うことなのか。



「ふふ、このぬるぬるの手で、そんなに硬くなってしまったおちんちんを慰めて欲しいんですね?

 わかりました。―――しっかりと綺麗にして差し上げましょう」



上半身への愛撫を止めて、僕の正面に優美ちゃんは回りこんだ。

追加のソープが僕のペニスに振りかけられ、たちまちペニスの表面が覆い隠されてしまう。

亀頭に液が触れた瞬間、ひやりとする感触に、ペニスがびくんと大きく跳ねたが、歯を食いしばってそこでの暴発はなんとか免れる。

しかし、すぐに液の媚薬効果が牙を剥いた。

上半身を襲っていた疼きが、瞬く間にペニスの内側から燃え盛る。

痛みとも痒みともとれるような熱に、限界を越えてビキビキと脈打つ僕のぺニス。

それだけでも、本当にいつ射精してもおかしくはなかった。

それをぎりぎりで押しとどめていたのは、僅かに残った僕の男としての矜持だろうか。

だが。

その僅かばかりの抵抗も、小さな淫魔の手技によって、呆気なく瓦解した。



「ひ、あ、あ、あああぁぁぁっ!」



ソープのぬめりをローション代わりにして、親指と人差し指で作ったリングを、

根元から亀頭の括れまでゆっくりと往復させる。

最初はゆっくりだったその動きが、2往復目、3往復目になるに従い、徐々に加速していく。

更に更にその動きは速くなっていき、ほとんど上下動が見えなくなるほどまでなっていく。

摩擦係数を限りなくゼロにしてしまうソープのぬめりが、平生ならば痛いくらいの動きを愛撫として成立させていた。



「このまま出していいですよ? かけて下さい、私の顔に―――」

「くあッ! ああああ―――ッ!」



もう堪えきれなかった。

渦巻いていた射精欲が、輸精管を奔流となってほとばしる。

白濁が優美ちゃんの端正な顔に飛び散った。

僕を虜にする美しい黒髪にも真っ赤な唇にも、満遍なく精液が降り注ぐ。

激しく脈打ち精液を放出するペニスを、優美ちゃんはなおも責め立てる。

射精の脈動に合わせ下から上へと扱き上げ、睾丸を揉み込み、射精を中々終わらせてくれない。

全身を震わせ、口の端から涎を垂れ流して、僕は悶える。

真後ろに仰け反り、倒れこもうとして―――それが出来ないことに気付く。

いつの間にか、優美ちゃんの尻尾が伸びて、僕の身体に巻きついて支えていた。

否、支えているだけではない。

不意に、尻尾がしゅるしゅると僕のソープに塗れた身体を這い回った。

腋、首筋、背中、胸と、僕が感じるところを的確になぞっていく。

股間からの快楽に加え、神経をむき出しにされたように敏感になってしまった身体を、淫魔の尻尾が蹂躙する。

後方への逃げ道を絶たれた僕は、優美ちゃんにしがみつくしかなかった。

あまりの快感に声を出すことも出来ず、精液が噴きあがるたび、僕の肉体は脳の制御を失って震える。

優美ちゃんは僕のペニスの角度を調節して、顔だけでなく、薄い胸元でも精液を受け止めていた。

ひとしきり精液を浴びて、ようやく優美ちゃんは僕のペニスを解放した。

最後に二、三度震えた後、やっと射精は止まった。

僕はもう、息も絶え絶えといった有様である。

一週間分くらいは今ので搾り取られたのではないかと思えるほど、強烈な搾精だった。

しかも、実際使っているのはほとんど手だけ。

胸や口、膣といった、性交における主要な部位はほとんど用いられなかった。

これが人間の女性とサキュバスの差なのか、それとも優美ちゃんが、サキュバスの中でも上位の存在なのか―――?

いずれにせよ、本当に獲物として狙われていたら、一日で全精力を奪われてしまいそうな責めだったのは確かだった。

………本当に危なかったんだな、僕。もし優美ちゃんの好みから外れていたらと思うとぞっとする。





顔や身体にかかった精液を、優美ちゃんは指で掬って口に含んでいく。

じっくりと時間をかけて全身の精液を舐めとっていく様を僕は眺める。

優美ちゃんの姿は本当に淫靡で堪らないものなのだが、流石にもう、

完全に魅了されてしまっている僕でも、これ以上は限界だとわかる。それこそ腹上死ものだ。

股の間の優美ちゃんを尻目にシャワーを頭から浴びる。

淫魔製の媚薬ソープが水流に流され、ようやく僕の地肌が現れる。

正直まだ身体は敏感なままで、お湯が身体を流れていくだけでもかなりきつかったのだが、

先程の大量射精が利いたようで、なんとか全てを洗い流すことが出来た。

……しかし、もう浴槽には浸かれそうに無いな。





「ではお兄さん、今度は私の身体も洗ってくれませんか?

 大丈夫、もうこれ以上は吸い取ったりしませんよ。……ふふ、お兄さんからも、私をもっと愛してください」



促され、優美ちゃんと場所を入れ替わる。

後ろから見る優美ちゃんのうなじにくらりとするが、ここはしっかり自分を抑えて、優美ちゃんを感じさせてあげようと思う。

僕ごときの愛撫で百戦錬磨のサキュバスが感じてくれるかどうかは自信が無いが、大丈夫、このソープだってある。

優美ちゃんだって使用前に言っていたじゃないか、『感じてしまうようになる』と。

つまりそれは『感じてしまった』経験があるということ。

裏を返せば、この『乳溺の色香』には、サキュバスでさえ感じさせる効果があるとも言えるだろう。

意を決して、乳白色の液体を手に垂らそうとして―――不意に、容器に書かれた売り文句に目が移った。



『保湿効果A-・感度上昇効果A+・豊胸効果S。これを使えば、貴方のバストも大増量!』



豊胸効果S。バスト大増量。

優美ちゃん……実はかなり気にしてる?



「……お兄さん。貴方今、物凄く不埒なことを考えませんでしたか?」



うっかり流れた僕のしんみりとした空気を敏感に読み取ったのか、優美ちゃんはじっとりと僕を睨んできた。

怒気をはらんで無言のまま、優美ちゃんは僕の股間に尻尾をぎゅるぎゅると巻きつかせてきた。

会陰部から玉袋、陰茎にかけ、しゅるしゅるとくすぐっていく。

荒淫によって力を失っていたペニスが、またしても起ちあがる。

これ以上は危険だと、優美ちゃんも言っていたし、自分でも感じているのに。

やはり男は、淫魔の誘惑には抗えないらしい。



「気が変わりました。失礼な人にはお仕置きです。……限界ギリギリまで、搾ってあげましょうか?」



その覇気に圧され、思わずソープを取りこぼす。

そしてその口は、狙ったように僕の股間へ―――。

媚薬を再び浴びてしまった僕のペニスは、力を取り戻したかのように天を衝く。

そこに今度は、股間だけを狙った滑らかな尻尾が激しく絡みつく。

一気に絶頂まで持ち上げられて、優美ちゃんの背中に精液を飛び散らせた。

それからまた意識を失ってしまうまで、僕は延々と浴室の中で精を搾り取られた。

触らぬ神に祟り無し―――。

その言葉は淫魔にも言えるんだなあと思いつつ、僕の意識は闇に落ちていった。





一日目・終。




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