「ねえ、起きて。良い事しましょ」
女の声。
眠い、、、まどろむ俺の体を誰かが揺する。
「起きろ〜!」
女が俺の顔をビシバシはたく。
痛い。しかし、体はなかなか目を覚まさない。
「あ、、、」
俺の口がようやく開く。
まだ眠い。やっと開いた目に映るったのは、女。
誰だっけ?身長は170ぐらいか。不思議な色の瞳にちょっと茶色の入った髪。
胸は必要十分な大きさだが、全体にスリム。
下着か、鎧か良く分からない皮の衣装を身に着けている。かなりの美人だが、、、
「、、、えと、誰だっけ?」
思わず聞いてしまったが、不味かったかもしれない。
昨日、飲んだっけ?ナンパしたっけ?
どうも、記憶が定かでない。頭も未だぼーっとしている。
「あ、始めまして。あたしは、フィリア。フィリア・アムシクス。よろしくね☆あなたのお名前は?」
ベッドの脇から、顔を覗き込んで美女が言う。
「フジムラ、、、ショーゴ・フジムラ、、、剣士として街の守備隊をしている」
俺は起き上がろうとしているが、体が言う事を聞かない。
飲みすぎたのか?
「素敵、、、この筋肉のライン。鍛えてるのね。顔もあたし好みだし」
女の指が俺の体をまさぐる。その目は熱く、少しうるんでいる。
「初めての人が貴方で、良かった。早速始めよっか」
フィリアは楽しそうに服を脱ぎ始めた。
状況は良く分からないが、俺も脱ぐ必要があるに違いない。
俺は鎧を脱ごうとする。
指に力が入らない。留め金、、、鎧?なんで、俺は鎧のままで寝ているんだ?
昨日、、、
「どう、私の体。綺麗?」
俺の目は彼女の体に釘付けになる。綺麗だ。今まで抱いたどの女よりも。
「綺麗だ」
このチャンスに体が動かないなんて、、、
もう酒は止めよう。俺は鎧を脱ぐのに再度必死になる。
駄目だ、、、(泣)
「何してんの?」
「あ、鎧が脱げなくて、、、ちょっと待って。昨日飲み過ぎたみたいで、、、」
「そうなんだ。別に脱がなくてもできるけど?」
おお☆
って、鎧じゃ無理だろう。
「ねえ、あたしの事好き?愛してる?」
フィリアは俺の体の上に覆い被さって来た。
彼女の顔が近づいて来る。彼女は明らかに興奮している。俺も興奮してきた。
「あ、ああ。愛している」
「良かった」
彼女の顔が明るくなる。
「じゃ、あたしに永遠の隷属と絶対服従を誓って」
フィリアは魅惑的に微笑む。
「え?えと?」
聞いてない。そんな展開聞いてない。彼女そういう人ですか
「早くぅ」
彼女は悪戯っぽくおねだりする。
そ、そんな顔されても俺にはそういう趣味は無い訳で、、、
俺の目が泳ぐ。胸と顔を行ったり来たり。
惜しい、、、いや、しかし、、、
「嫌なの?ちょっと、それ失礼だし」
彼女はちょっと怒ったような、悲しそうな顔をする。
いや、失礼とか言われても。
「いや、とても君は魅力的だし、素敵なんだけど、ちょっと今、二日酔いで体が、、、」
昨日本当に飲んだっけ?
なんか、敵軍がせまって来ているから、警戒態勢を取っていたような気がする。
そうだよ!悪の魔道師ネクロン率いる軍団がこの街に迫って、、、
「、、、ネクロン、、、」
「ネクロン様、でしょ。あたしだけじゃなく、勿論ネクロン様にも永遠の隷属と絶対服従を誓ってもらうわ。でも、あなたラッキーよねぇ。あたしに選ばれたんだもん」
ネクロン様、と言う言葉に限りない不安を覚えた俺は思わず尋ねた。
「フィリア、君は一体、、、?」
「、、、」
フィリアは無言で俺の頭に手をやり、ぎぎぎっと動かす。
やっと体を動かせた俺はすぐそばで起こっていた陰惨とした光景にやっと気付く。
醜い化け物が1、2、3匹。
俺のチームの同僚を貪り食っている。血の気が引き、吐き気が起こる。
「う、うぇ、、、」
「あっちが従来のコース。グールどもに生きたまま食われて次の日には新たなアンデットの誕生よ。まさか、あっちの方が良い、なんて言わないわよねぇ?あんたひょっとして、マゾ?」
俺はぷるぷるとかぶりを振る。
い、いやだ。あんなのは絶対イヤだ。
「でしょ、でしょ、でしょ?ちゃーんと、誓ってくれれば、悪いようにはしないし。絶対気持ち良いし。あたしとしよ?」
俺は頷いた。
醜い化け物に同僚が食われていくのをこれ以上見たくなかった。
体が動かなかったのは、、、暗黒の眠り。
邪悪な魔道師の操る秘法だったのだ。自力での覚醒は不可能、、、
「じゃ、誓いの言葉、行ってみよー!」
「あ、わたくし、ショーゴ・フジムラはフィリア様とネクロン様に、、、永遠の隷属と、、、絶対服従を誓います、、、」
「あーん、良い表情。萌えー。じゃ、遠慮無く〜」
フィリア様の唇が俺の唇を塞ぐ。
軽いキスを重ねた後、舌が入ってくる。
フィリア様の舌は俺の口中を色々愛撫し始める。俺はされるがままだ。気持ちいい。
「う、、、うん。」
俺の舌が吸われる。
だんだん、強く。
その時、フィリア様の舌が俺の口からどんどん奥へと入って行く。どんどん。
「うぐ、、、げ」
苦しい。
涙が出る。
あ、顎が外れた。
激痛と情けなさで、俺は必死でフィリア様に目で合図を送るが、フィリア様はもう夢中で、、、いや、俺の反応を見てより激しく、舌を俺の中に入れてくる。
「、、、、」
激痛や嘔吐感が急速に薄れてくる。
相変わらず、フィリア様の舌が、俺の中に入って蠢いているがむしろそれが心地よい。吸われている。俺の命が吸われているのだ。気持ちいい。気持ちいい。フィリア様、、、
俺の体から血色が失われる。
土色から灰色に変わる。
変わっていく。人間以外の何かに。
ああ。あああ。
「完成〜。今からあなたはアンデット。もうご飯も食べなくってもへっちゃらだし。呼吸もしなくても大丈夫。もう、痛みを感じたり、悲しくなったりする事も永遠に無いの。よかったわね」
フィリア様の言葉に俺は深く頷く。
「じゃあ、感謝を込めてあたしとネクロン様に、今日も誓いの言葉行ってみよ〜!」
フィリア様の命令だ。
フィリア様は美しい。
フィリア様にお仕えできて俺は幸せだ。
アンデットになったお陰で永遠にお仕えする事ができるのだ。
なんて素晴らしいのだろう。俺は喜びと共に、永遠の隷属と絶対服従の言葉を口にする。
「わ、、、」
口をあけた途端に下あごが大きく下がり元に戻らない。
「もごもご、、、」
俺は上手くしゃべれない。
「あ、顎が外れてる〜!?」
フィリア様は必死に俺の顎を直そうとして下さる。
フィリア様の御手が触れる。ああ、フィリア様、、、
「馬鹿ね。アンデットの傷は直んないわよ。絶対に。」
新たな声。闇の中から現れたのは黒衣をまとったネクロン様配下の闇司祭セレナ様だ。
指名手配で見た事がある。
勿論、俺は彼女にも永遠の隷属と絶対服従をする必要があるのだ。
「あ、セレナ〜。治療の言葉を、、、」
「無理だって。アンデットだもん。もうずっとこのまま。永遠に」
ああ。そうだ。もう俺は人間ではないのだ。
「そ、そんなぁ、、、あ、そうだ 再生の呪文を掛けたらどうかな?」
なんとお優しいフィリア様。
「ネクロン様はデスの魔法がメインだし、まず無理。ってゆうかコイツごとき不死兵士には掛けないんじゃない?マジックパワーがもったいないもん」
不死兵士。
そうだ。俺は栄えあるネクロン帝国の下僕の不死兵士なのだ。
永遠にフィリア様達にお仕えするのだ。
未来永劫に渡って。
俺の心に最早恐れや迷いは無かった。
フィリア様達の命ずるままに戦い、朽ちる。
なんと素晴らしいのだろう。幸福感が俺を包む。ああ、フィリア様、、、
「アンデッドになった後もあんたがしつこく舌入れてたから、壊れちゃったんじゃない?」
フィリア様はセレナ様の言葉に頬を赤らめる。
「ごめん、フジムラ。本当にごめんね。でも、良かったよ。素敵だったし。初めての人があなたで本当に良かったし」
フィリア様が俺の為に涙を流して下さる。
フィリア様。俺は永遠の隷属と絶対の服従を、、、
「もごもご、、、」
壊れた俺の口はまともな言葉を紡げない。
ああ、なんと言う事だ。俺がこんなにもフィリア様の事を想い、フィリア様の為ならなんだってすると言う事を世界一大切なフィリア様に言葉に出して伝えられないとは。
かくんと落ちた顎から、なにかドロリとした液体がよだれのように落ちる。
茶色いしみが床に広がり腐臭を放つ。
「あ〜ん、あたしのフジムラが不細工になってるしぃ。言葉もしゃべれないしぃ」
フィリア様が俺の為に悲しんでくださる。なんてお優しいフィリア様。
俺はフィリア様を悲しませない為に必死で口を動かす。
「、、、もごもご」
「ま、良いんじゃない。こんなヤツうっちゃっといて、さっさと次に行きましょ。世界にはもっと良い男一杯いるって」
「、、、そうね。行きますか、世界グルメツアー」
ぱっと、フィリア様の顔が明るくなる。
ああ。フィリア様は本当に美しい。
「ギギィ!」
俺の元仲間達を食っていたグール達も顔をあげる。
「じゃ、フジムラ。あんたはこの町をずっと守ってなさい。永遠にね。寂しくなったら、あたしの事を思い出しなさい。浮気しちゃ駄目だし」
フィリア様の命令。
勿論です。
この身は全てあなた様のモノです。
あなたの事だけを想って。永遠に。
「もごもご、、、」
ああ。復唱もできないなんて。
申し訳ありません、フィリア様。
フィリア様、、、フィリア様に永遠の隷属と、絶対服従を、、、
「ぷっ。よく見たら、フジムラの顔っておかしー。あはは じゃあねえ。もう会わないと思うけど」
くるりとフィリア様が振り向いて、すたすたと歩き出す。
笑顔も、後姿も。サイコーです、フィリア様。
フィリア様、、、フィリア様に永遠の隷属と、絶対服従を、、、
ああ、フィリア様、、、
(おしまい)