あやかしの泉


 

 その泉に近付かないよう、大人達からは堅く言われていた。

 大吾が泉に行くと言い出した時も、平太は何度も止めたのである。

 

 大吾は決して、大人達から思われているような悪童ではなかった。

 年少の子供に暴力を振るったりもせず、むしろ面倒見も良かった。

 同い年の平太をはじめ、同年代の少年達からも一目置かれている。

 平太の弟である平次でさえ、頼りになる年長者として大吾を慕っていた。

 

 ただ大吾は、自分の肝っ玉の大きさを過剰に固辞したがる。

 大人達が禁じた事を、わざわざあからさまにやろうとする。

 子供というのは多かれ少なかれ、そんな性質を持っているものだが、

 大吾の場合はその傾向が特に強かったのだ。

 供え物の盗み食いをする、神社の境内に忍び込む等、罰当たりな振る舞いはいつもの事。

 近くの川で子供が溺れた、決して近寄ってはならない――

 そう大人に注意された時は、わざわざその川で泳ぐ。

 山で地滑りがあったとなれば、わざわざ我先にと登りに行く。

 そうした厄介な性格が、大吾を本来以上の悪童に見せていたのだ。

 

 自然、仲の良い平太は抑え役に回る。

 「そんな事はやめよう」、「見つかったら怒られる」――

 子供社会の中では意気地無しとみなされる言葉が、いつしか平太の口癖となった。

 大吾が「あやかしの泉に行こう」と言い出した時も、やはり平太は言い慣れた言葉を口にしたのだった。

 

 「駄目だよ、大吾。あやかしの泉だけは駄目だ」

 「何言ってるんだ、平太。あんなの、ただの小さな泉さ」

 「高屋の爺様が言ってたろ、泉には性悪の妖怪がいるって」

 「そんなのいやしない、お爺もお婆も出鱈目だ」

 「甚兵衛さんの息子の話、知ってるだろ?

  あの泉に遊びに行って、消えちゃったって……」

 「おおかた泉に落ちて、溺れちまったのさ。

  気の毒だけど、妖怪なんかの仕業じゃない」

 「でも……」

 「なんだ平太、怖いのか?」

 「怖いわけじゃ、ないけど……」

 子供社会の中では、度胸の有り無しが立ち位置を決める。

 意気地無しとみなされるのは、自身の地位を下げるも同然だった。

 「そんな意気地の無い事ばかり言ってると、平次からも馬鹿にされるぞ?」

 「…………………」

 弟の平次の名を出されると、たちまち平太は鈍ってしまう。

 大人しい性分の平太にとっても、意気地のない兄とみなされる事は屈辱なのだ。

 やむなく平太は、頷くしかなかった。

 こうして大吾と平太は、村外れにある「あやかしの泉」へと向かったのである――

 

 

 

 「あやかしの泉」とは、村から少し離れた山林にある小さな泉。

 村の者は、昼夜を問わず決して近寄ろうとはしない。

 誰もその水を汲もうとはしないし、魚を捕ろうともしない。

 なぜならそこは、悪しき妖魔の住処であるからだ。

 近寄った者を、水が中に引き込む――村ではそう伝えられてきた。

 そして実際、泉の近くで行方不明になった者も多い。

 最も近いものでは、農夫をしている甚兵衛の息子。

 まだ八歳の悪戯盛りであった彼は、知ってか知らずか泉に向かい――

 そして、戻ってはこなかったのである。

 それ以来、村では泉の存在そのものが禁忌とされてきた。

 子供が「あやかしの泉」の名を口にしただけでも、大人に叱責された程である。

 もちろんながら子供達にとっても、忌まわしい恐怖の地。

 しかし忌まわしければ忌まわしいほど、そこに踏み込みたくなるのも少年の性。

 そして、そこに踏み入るという偉業をなせば、村の子供社会で最高の賞賛を浴びる事も明らかだった。

 その機会を、ずっと大吾は狙っていたのである。

 

 

 

 そこは、何の変哲も無い小さな泉だった。

 妖気も瘴気も、微塵も感じられない。

 のどかといってもよい光景が、そこにはあった。

 「なんだ、普通の泉じゃないか」

 「……………………」

 大吾は意気揚々と、平太はおっかなびっくり泉に歩み寄る。

 足早に泉のほとりまで踏み込んだ大吾に対し、平太はその何歩も手前で立ち止まっていた。

 「魚も捕るなって言われても……そもそも魚なんていないじゃないかよ」

 大吾は、その澄んだ水面を覗き込む。

 しかし魚の姿どころか、芥一つ浮いてはいない。

 覗き返してきたのは、水面に反射した大吾の残念そうな顔だけだった。

 「がっかりだよな、期待してたのに……やっ!」

 大吾は手に持った木の棒で、静かな水面をすくい上げる。

 水面は柔らかに乱れ、大きな波紋を形作った。

 平太は背後から、いくぶん引け腰に様子をうかがう。

 「何もないなら、もう帰ろうよ……」

 「もうちょっと待てよ。妖怪とやらが、昼寝してるかもしれないからな……」

 大吾は手持ちの棒を振り上げ、そして水面に投げ付ける。

 しかし大きな波紋が出来たのみで、それもたちまち消え失せた。

 続けて大きめの石を拾い、泉へと投げ入れる。

 だが水面は僅かに乱れるのみで、少しすれば静かになってしまった。

 「……帰ろうか」

 大吾とて、本当に妖怪がいるなどとは思っていない。

 しかしあまりにも平凡な光景に、彼は肩すかしを食わされた気分だった。

 「うん、帰ろう!」

 一転して、平太の声は僅かに弾む。

 どれだけ平凡でも、ここは間違いなく禁忌の地なのだ。

 さっさと立ち去るのに越した事はない――

 

 「……っと、その前に」

 大吾はおもむろに、帯を解き袴を下ろした。

 下半身を露出させ、まだ小さな男茎に手を添え――

 そして、平太にとっては限りなく罰当たりな事を始めた。

 「だ、大吾! なんて事を……!」

 目を見開く平太の前で、尿がちょろちょろと水面を乱す。

 なんと大吾は、禁忌の泉に立ち小便をしているのだ。

 本当に催したのか、それとも肝っ玉の大きさを見せ付けるためか――

 「お前もションベンしろよ、平太」

 「や、やめときなよぉ……」

 半歩退きながら、大吾に対し何百回も言ったであろう台詞を改めて口にする平太。

 それも意に介さず、大吾は心地良さげに立ち小便を続け――

 ひとしきり、放尿を終えたその時だった。

 静かになったはずの水面が、ざわざわと乱れた。

 水が意志を持っているかのように蠢き、にゅるりと這い出る。

 それは、まるで泉そのものが触手を伸ばすかのようだった。

 「わぁぁっ!」

 大吾が叫ぶと同時に、泉の触手は彼の股間を捕らえていた。

 立小便の際に剥き出しになった陰茎に、にゅるにゅると絡み付く。

 その異常な様に、平太も悲鳴を上げていた。

 まるで蛸のような生物が、触手を伸ばし獲物を捕らえたかのようだ――

 

 「な、なんだこれ……離せよぉ!」

 身をよじり、大吾は叫ぶ。

 その肝っ玉ほど大きくない男性器には、泉の水で形成された触手が絡み付いている。

 そして、陰茎をくちゅくちゅ、にゅるり……と締め付け始めた。

 「や、やめろ……あ、あぁぁぁ……」

 大吾の叫び声が掠れ、弱々しくなっていく。

 彼の腰がガクガクと震えているのが、平太からも見て取れた。

 逃げようにも、平太の足はすくんでしまって動けない。

 彼はただ、男の器官を弄られる大吾の姿を眺めている事しかできなかった。

 

 くちゅ、くちゅ、くちゅ……

 水の触手は大吾の肉茎に這い回る。

 根元から先端まで絡め取られ、締められては緩められる。

 「う……ふぁ……あぁぁ……」

 大吾は息を荒げ、僅かに身をよじったが――

 自らの男茎に取り付く触手を振り払おうとはしなかった。

 「ど、どうしよう……大吾のちんちんがぁ……」

 性に全く知識のない平太は、大吾の男根が触手によって苦痛を与えられていると思った。

 男の弱点が痛めつけられ、大吾は苦痛のあまり動く事もできない――そう誤解していた。

 それでも平太は、大吾を助ける事など出来もしなかった。

 それどころか、いつの間にか尻餅をつき一歩も動けない。

 ただ目の前の怪異に怯え、大吾を凝視しつつ震えるのみだった。

 

 しかし、大吾は――

 「うぅ……あ、あぁぁ……」

 彼の脳内は、薔薇色に染まりきっていた。

 幼いとも言える男茎を触手に絡め取られ、こね回される感触。

 それは、とろけそうなほど気持ちの良いものだった。

 小便以外の使い途など、思いもしなかった少年の未熟な肉棒。

 そこに、大人でもたちまち絶頂するであろう快楽刺激が与えられたのだ。

 彼の腰に、痺れるような感覚が広がる。

 甘くとろけそうな疼きが、男根のみならず全身に侵食する――

 「はぅ……あ、漏れる……あぁぁ……」

 大吾にとっては、自らの身に起きた初めての異変。

 しかし男の体としては、当然の反応。

 肉茎は触手に弄ばれながら、どくんどくんと脈動を始める。

 同時に、とろけそうな感覚が体を貫き――

 「あ、あぁぁぁぁ……」

 

 びゅる、びゅるるっ……びゅっ、びゅっ……

 

 水の触手に絡め取られた男根から、びゅるびゅると精液が放たれる。

 どくんと脈打つごとに、粘っこい白濁が放出された。

 そのたびごとに、体の芯をこらえがたい快感が駆け巡る。

 大吾は男の悦びを味わい、放心しきっていた。

 うっとりとした表情で、半開きの口から涎を垂らしながら――

 自らの男性器を、なおも触手に嫐りたてられながら――

 

 「だ、大吾……?」

 平太には、目の前で何が起きたのか理解できなかった。

 大吾の男根から、白色の小便が断続的に撒き散らされたように見えたのだ。

 触手にちんちんをこね回され、毒か何かでおかしくなった――そう、平太は思った。

 大吾のちんちんは、泉の罰を受けて膿のようなものを撒き散らしているのだ。

 やはり、泉の妖怪を怒らせてしまった報いなのだ。

 そして泉の怒りは、大吾の次に自分にも――

 「あぁ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 平太に出来るのは、腰を抜かして震えながら謝罪の言葉を口にする事だけだった。

 一方で大吾は目を見開き、口を半開きにして涎を垂らしている。

 その体はガクガクと小刻みに震え、抵抗どころか動く事さえおぼつかない。

 そして彼の男茎は触手に締め上げられ、嫐り尽くされている。

 どんな苦痛を味わっているのか、想像するだけでも恐怖に震える平太だった。

 この次は、自分がその痛みを体験させられるかもしれないのだから――

 

 「ふぁ……ぁぁぁ……」

 平太の恐怖とは裏腹に、大吾は悦びに浸りきっていた。

 自分はいったい、この触手に何をされているのか――

 こんなに気持ち良いことが、この世にあったなんて――

 「ぁぁ……はぅぅっ!」

 水の触手がぎゅっとカリを締め付け、くちゅくちゅと亀頭をこね回す。

 それだけで、大吾の僅かな思考さえ快楽で吹き飛ばされてしまう。

 あれだけ肝っ玉を誇ろうとした悪童は、もはや弱々しい子供に過ぎなかった。

 ここで初めて味わった男の悦びに、ただ翻弄される少年に過ぎなかった。

 

 「あぅぅ、あ、あぁぁぁ……」

 甘い呻きと共に、またも大吾の肉茎から精液が迸った。

 それにもかかわらず、水の触手は男根に絡み続ける。

 徹底的に、射精を誘い――そして、精液を出し尽くさせるための動作。

 快楽のままに、男根は精液を吐き出し続ける。

 大吾は、何度も何度も天国を垣間見た。

 あまりに甘い悦びに、理性までとろけきっていた。

 さらなる怪異が彼の身に起きるなど、考える事さえできなかった。

 

 「あ、あれは……」

 異変に気付いたのは、放心した大吾よりも平太の方が先だった。

 触手が伸びていた泉の水面が、さらに妖しくざわめき――

 そして、にゅるりと水面が持ち上がる。

 半透明の水が女体を成し、泉から這い出てくる。

 妖しく両手を広げ、誘い込むかのように――

 

 「うふ、ふふふふっ……」

 

 「あ……あぁぁ……」

 大吾がようやく異変に気付いたのは、水で出来た女体の抱擁を受けた後だった。

 彼の体は、女体に抱き込まれた――いや、まるで包み込まれたかのようだ。

 平太は、もはや硬直して言葉も出ない。

 ただ、その女体の顔を見てしまった。

 女は美しく――そして、笑っていた。

 平太の恐怖とは裏腹に、怒ってなどいなかった。

 ただ、歓喜の笑みを浮かべていた。

 

 「うふふっ……さあ、いらっしゃい……」

 

 甘い甘い声――

 それは、女体から聞こえたのだろうか。

 いや、泉の中から囁かれたように思える。

 大吾は水の女体に包まれたまま、ゆっくりと泉に引き込まれていく。

 それは、強引に引き摺り込むようなものではなかった。

 甘く抱き締め、丹念に誘い込むような――

 

 「ふふふふっ……」

 

 大吾の体が、泉に沈んでいく。

 女に抱かれたまま、じっくり、ゆっくりと――

 まるで、泉が大吾の体を飲み込んでいるかのようだ。

 それでもなお彼は、恍惚の表情を浮かべていた。

 

 「さあ、とろけなさい……うふふっ……」

 

 そんな、甘い囁きと共に――

 大吾の体は、湖へと沈んでいった。

 女に優しく抱かれながら。

 まるで、泉に飲み込まれるかのように――

 平太は取り憑かれたように、ただその一部始終を眺めていた。

 大悟も水の女も、完全に泉の中に消えてしまうまで――

 

 そして、水面は静かになった。

 穏やかな、澄み渡った姿を平太に見せた。

 全て嘘だったかのように、ただ静まり返っていた。

 「あ……」

 彼が思わず息を吐いたのと、撥条細工のように起き上がったのとは同時だった。

 たちまち泉に背を向け、脱兎のように駆けていく。

 ただ恐怖から逃れるように、もつれる足を前に前にと動かす。

 帰りの道を、どのように行ったかは記憶にない。

 気付けば平太は、村に帰り着いていた。

 大吾を、あの「あやかしの泉」に置いたままで――

 

 

 

 結局、大吾は戻ってはこなかった。

 平太は村の大人達に対して口を閉ざし、何も喋ろうとはしなかった。

 決して、大吾を突き放したつもりではないが――

 喋ってしまえば、泉の何かが自分に襲い掛かってきそうで怖かったのだ。

 しかし大人達は、平太の尋常ではない様子を見、また泉へ向かう二人を目撃した者もあり、

 「あやかしの泉」で何かあったのだと察しをつけた。

 そして大人達が、「あやかしの泉」へと向かい大吾を捜索したが――

 そこで見つかったのは、水面に浮いていた大吾の服だけだった。

 大吾は見つからなかった。

 そして、大人は捜索を諦めた。

 彼は泉で溺れたものとされ、裏では妖怪に掠われたと噂された。

 「あやかしの泉」は、ますます禁忌のものとなった。

 そして平太は確信していた。

 大吾は、あの泉に溶かされてしまったのだ――

 

 

 

 平太は、大人達から怒られるような事はなかった。

 普段の所行より、大吾が平太を無理に誘った事は明らかだったからだ。

 しかしそれ以上に、平太の様子が明らかにおかしくなっていた事が大きいだろう。

 彼は、水面を恐れた。

 水たまりから目を逸らし、水桶からは逃げ、井戸には近寄らない。

 静かな水面から、あの半透明な女体が起き上がる。

 そして、平太を絡め取り水面に引き込んでしまう――

 そんな恐怖に、すっかり囚われるようになってしまったのだ。

 

 

 

 それから、数年が経った。

 平太も、表向きは平静さを取り戻していた。

 目に見えて怯えていた様子も、近頃はすっかりなりをひそめている。

 以前通りの笑みを見せ、他の少年達と遊び、畑仕事を手伝う。

 弟の平次の面倒も見、彼を引き連れ快活に野山を駆ける。

 大人達は、あの忌まわしい事件の影響も消えたと――そう、思っていた。

 

 「はぁ……はぁ……」

 人気の無い納屋で、平太は座り込んで息を荒げていた。

 己の肉茎を触り、自慰をしていたのだ。

 それ自体は、彼の年齢を考えれば当然の事である。

 しかしその際に平太が思い返すのは、あの時の出来事だった。

 男根に絡み付く、水の触手。

 大吾の体を包み込む、透明な女体。

 自分のモノに、あの触手が絡んでいるところを想像する。

 透明な触手に取り付かれ、扱きたてられ――

 大吾がされたように、自分も――

 「はぅ、うぅ……」

 性に目覚めたばかりの少年にとって、あの体験はあまりに鮮烈だった。

 快楽を与えられ、水の女体に包まれながら泉に飲まれた大吾。

 自身も、そのようにされてみたい――そう思いながら自らを慰めた事も、一度や二度ではなかった。

 自分の心の中で、恐怖よりも羨望が大きくなりつつある――

 それを、彼は自覚し始めていた。

 

 

 

 それから数ヶ月、破滅的な羨望はなおも深まった。

 あの時の大吾を自身に置き換え、平太は自慰に耽る。

 あのように男根を触手に絡め取られ、強制的に射精させられ――

 そして女体にしがみつかれ、泉の中でねっとりと溶かされる――

 なぜ自分はあの時、逃げ出してしまったのか。

 あのままあの場にいれば、次は自分の番だったのに。

 大吾のように快楽を与えられ、そして溶かしてもらえたのに――

 妄想に浸りながら、自身の手で男性器を射精に導く。

 平太の心は、完全に泉に囚われてしまったのだ。

 あの泉へ――

 あの時のように――

 

 

 

 

 

 その道を行くと、数年前の記憶が蘇る。

 恐怖が胸に広がり、息が苦しくなる。

 それと同時に、期待と羨望で胸が高鳴った。

 あの時、大吾が味わった快楽。

 それを自分も味わえるのだろうか――

 恐怖と期待、相反する感情を抱きながら平太は歩を進めた。

 

 そして彼は、数年ぶりに「あやかしの泉」へと辿り着いた。

 あの時から、時が止まったままのような光景。

 穏やかで静謐な水面。

 ここで大吾は、泉に呑まれた――

 そう考えると、あらためて恐怖が湧く。

 しかし今は、怯えとは裏腹の羨望の方が大きくなっていた。

 平太は足を震わせながら、泉のほとりに立つ。

 水面に映るのは、自身の顔。

 恐怖に強張り、口元が期待に歪んだ顔。

 何度も、引き返そう、引き返そうと思った。

 しかしこれ以上、この悶々とした疼きを抑え込めそうにない。

 平太は自ら帯を解き、下半身を露出させた。

 彼の男根は、すでに限界まで張り詰めていた。

 とは言えまだ少年、男の機能を備えたばかりの性器である。

 自身の手で与える刺激しか、まだ知らなかった。

 

 「や、やるぞ……」

 ごくりと生唾を飲み、平太は呟いた。

 そしてあの時の大吾のように、放尿を試みる。

 しかし勃起した男性器から、小便が迸る事はなかった。

 無理もない、そんな風に男の体は出来ているのだ。

 「……………………」

 戸惑っていた平太は、興奮の持っていき場所が分からなくなり――

 いつしか、自身のモノを扱きたてていた。

 思い浮かべる光景は、いつもと同じ。

 自分の男茎に絡み付く、水の触手。

 どんなものか、想像するしかない感触。

 泉が目の前とあっては、その興奮もひとしおだった。

 「はぁ、はぁっ……」

 ひときわ強く平太が息を荒げた、その時だった。

 

 ――にゅるり。

 

 妖しく波打つ水面。

 魔性の水が集まり、数本の触手を形成する。

 そして、それが自らの股間に伸びてくる――

 その時の平太の顔は、恐怖と期待で強張っていた。

 

 「あ……! あぁぁぁぁ!!」

 ぎゅるぎゅるぎゅる……と、水の触手が平太の男根に絡み付く。

 カリ首のところへ螺旋状に巻き付き、亀頭にも密集してくる。

 伸びた触手は五本、いや六本――

 その一本一本が、意志を持っているかのように男根にまとわりついてきた。

 「お、おぉぉぉ……」

 あれだけ思いを馳せ、妄想した光景が、目の前にあった。

 今まで虚しく自分の手で擦るしかなかった男の器官を、水の触手が絡め取っている。

 それは、想像を遙かに上回る快楽だった。

 いや、こんな快楽は想像できるはずもなかった。

 にゅるにゅるとした感触が、男根へくまなく絡み付く。

 粘り着くような刺激が、亀頭にまとわりつく。

 複数の触手が先端部に這い回り、巧みに刺激しているのだ。

 「うぁ……あぁぁぁ……」

 自分のモノが嫐り尽くされている――それを平太は目の当たりにしていた。

 揉みしだかれるような刺激に、ねっとりと粘り着くような感触が伴う。

 その巧緻な刺激は、男を最大限に悦ばせるもの。

 性に目覚めたばかりの少年が、長く耐えられるはずもなかった。

 「で、出る……あ、あぁぁぁぁっ!!」

 水の触手に弄ばれていた男根から、びゅるびゅると精液が放たれる。

 平太は歓喜に震えながら、己のモノが精を放つ快感に身を委ねた。

 

 にゅるにゅる……ぐちゅっ……

 

 一度放ってもなお、触手は平太の男茎に絡み続ける。

 カリ首を締め付け、絡め取ったサオや亀頭に這い回る。

 射精した後も、なおも嫐られる事を彼は先の体験で知っていた。

 うっとりした顔で、平太は水の触手に弄ばれている自らの男性器を見据える。

 ああ、ずっとこうして欲しかったんだ――

 大吾がされたように、こんな風に果てたかったんだ――

 「ああ、こんなぁ……あ、あぁぁぁぁ……」

 歓喜のままに、平太は精液を放出していた。

 触手の甘美な蠢きは、たちどころに少年を二度目の絶頂に導いたのだ。

 

 「はぅぅ……」

 精を吐き出したばかりの男根が、くちゅくちゅと揉みしだかれる。

 平太は悦びに浸り、いっさいを触手のなすがままに任せた。

 まだ未熟な男の器官を、徹底的にこね回される甘い快楽。

 彼は何度も何度も天国を垣間見、そのたびに精液を泉へと捧げた。

 触手に締め付けられ、這い回られ、扱きたてられ、搾り出され――

 「あ……はぅ……うぅ……」

 平太は悦びの呻きを漏らしながら、幾度も幾度も果て続ける。

 水の触手が彼の男根に絡み続け、何度となく絶頂に導いた。

 きゅうきゅうと締め、ぐちゅぐちゅと絡み、男の子種を搾り出し――

 身も世もない快楽を与えられ、平太はとろけきったのだった。

 

 

 

 あれから、何度絶頂を繰り返しただろうか――

 平太は、精液が涸れ果てるまで射精させられた。

 触手が絡む男根が、ひくひくと脈打つ。

 にもかかわらず、白濁が放たれる事はなかった。

 もはや、空撃ちが繰り返されるのみだったのだ――

 

 そして、平太は見た。

 泉の水面が、妖しくうねるのを。

 ねっとりと水面が起き上がり、女性の体を形作るのを。

 半透明の生々しい女体が、平太の前で確かな形を為していく。

 

 「うふ、ふふふふっ……」

 

 「あぁぁぁ……」

 囁くような、あの笑い声。

 あの時に聞いたものと、全く同じ。

 やはり、今から自分も――

 あの時の大吾のように、僕も――

 「あ、あぁぁ……」

 平太に、全く恐れがなかったとは決して言えない。

 心のどこかでは、怯え、逃げようとしている彼がいた。

 しかしそれ以上に、この時を平太は待ち望んでいたのだ――

 

 「うふふっ……さあ、いらっしゃい……」

 

 両手を広げ、女体が迫ってくる。

 その表面はにゅるにゅるとうねり、妖しく波打っていた。

 淫らな笑みを浮かべ、平太を包むように――

 「あぁぁ……」

 平太はそのまま、女体の抱擁を受け入れていた。

 彼の体を、生温く粘った感触がぎゅっと包み込む。

 まるで、抱かれただけでもとろけてしまうような感触。

 自分の体がドロドロに溶け、女体と混ざり合うかのようだった。

 

 「うふふふっ……」

 

 泉の女は、腰を平太の下腹部へと密着させる。

 勃起したままの男根が、彼女の股へと押しつけられた。

 そこに、女性器のような亀裂が備わっているのを平太は見た。

 陰唇がぱっくりと開き、そして――

 

 くちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅっ……

 

 「はぅ――」

 次の瞬間、平太は例えようもない心地を味わった。

 彼の肉棒は、水の女体に根元まで飲み込まれたのだ。

 妖しい締め付けと、波打つようなうねり。

 男根が甘く溶かされているような、そんな悦び――

 

 ぐちゅぐちゅ、にゅるるるっ……

 

 「は……あ……」

 平太の表情はとろけ、めくるめく快楽を味わった。

 それは、男に生まれた事を感謝するほどの悦びだった。

 粘液の蠕動に男茎が翻弄され、甘く淫らに溶かされる。

 平太は女体にしがみつき、腰をぶるぶると震わせ――

 

 びゅる、びゅる、びゅくっ……

 

 とろけるような快楽を味わいながら、精を放っていた。

 涸れ果てるまで触手に搾られたにもかかわらず――

 大量の白濁が、粘液の女体に注がれていく。

 「うふふっ……」

 ますます強く、女体は平太を抱き締めた。

 その女性器の中で、肉棒が狂おしくこね回される。

 「あ、はぁぁ……! あぁぁぁ……!」

 平太は快楽に悶え、呻き声を上げた。

 大吾もあの時、こんな事をされていたんだ。

 女体に抱かれただけではなく、犯されて――

 そして、天国の快楽を味わっていたんだ。

 間違いなく、人生で最期となる快楽を。

 そして、今から自分も――

 

 「さあ、いらっしゃい……うふふっ……」

 

 女体は平太を抱き締めたまま、泉の中に戻っていく。

 平太は、じわじわと泉に引き摺りこまれていく。

 粘液の女体に包まれ、ねっとりと犯されながら――

 「はぅ……あ、うぅぅっ……!」

 まったく抵抗もしないまま、粘液の女性器に精液を放出する。

 自分がどうなるのか、分かっていないわけではない。

 むしろ、十分に平太は理解していた。

 この泉に引き込まれ、溶かされてしまうという末路を――

 

 ようやく自分は、彼女のものになるのだ。

 あの光景を見て以来、恋い焦がれていたように――

 こうなる事を、ずっと待っていたのだ――

 

 「ふふふふっ……」

 女性の笑いが、今までよりも艶やかに聞こえた。

 平太の体は泉に飲み込まれ、腰まで沈んでいる。

 澄んだ水面の見た目からは、想像できなかったが――

 泉は生温く、そして粘り着くような感触だった。

 そんな中に、平太は下半身を浸しているのだ。

 「う……うぅっ……」

 もがく代わりに、彼は女体を抱き締めていた。

 甘い抱擁を受け入れ、混じり合うような感触に身を委ねきった。

 ねっとりとうねる女性器の中に、たっぷりと精液を捧げながら――

 

 「はぅぅ……」

 すでに頭まで泉に飲み込まれ、平太は身も世もない感触に浸る。

 このまま、泉に溶かされてしまう――それさえ、極上の悦びに思えていた。

 女体は甘く平太の体を抱き締め、まるで子供をあやすようだ。

 この抱擁を受けたまま、溶かしてもらえるのだ――

 

 「……………………」

 甘くとろける意識の中で、平太の視界は思わぬ人影を捕らえた。

 木の陰に、腰を抜かした年若い少年の姿を認めたのだ。

 ずっと彼は、様子をうかがっていたのか。

 あれは、弟の平次――

 

 「あ……あぁ……お、お兄ぃ……」

 平次は、かつての平太のように尻餅をついていた。

 目の前で何が起きているのか、全く理解できていない。

 ただならぬ様子の兄を追い、そしてこの怪異を目にしてしまったのだ。

 弟の目には、この光景が焼き付いてしまっただろう――

 

 ――弟も、またここに来るかも知れないな。

 

 それが、平太の心に去来した最期の思考だった。

 そんな心も、泉の中で甘くとろけていく。

 平太は泉に包まれ、快楽のままに溶けてしまった。

 それは間違いなく、彼が望んだ最期だった――

 

 

 

 

 

 これが、「あやかしの泉」に足を踏み入れた哀れな少年の末路。

 以後、泉はますます禁忌とされ、軽はずみに立ち入る者はいなくなった。

 こうして平太が、泉の最後の犠牲者となった――

 ――のかどうかは、誰にも分からない。

 

 



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