序 『妖魔の城』〜『淫魔大戦』
「無事でいてくれ、夕霧……義父さん……」
息子を抱えながら、白夜は屋敷の庭を一直線に突っ切った。
屋敷の外れにある大きな蔵――その奥に、村の外へと脱出する隠し通路があるのだ。
「ふぇ……ふぇーん……」
父に抱かれながら、啓は泣きじゃくる。
「大丈夫だ、啓。父さんがいるからな――」
啓をあやしながら、なんとか蔵の前に辿り着いた――その時だった。
「……どこへ逃げるつもりだ、須藤白夜」
若い女の声が、須藤を呼び止めた。
軍帽を深く被った若い女軍人が、白夜の前へと立ったのだ。
「お前は――カーネル・ガブリエラ」
白夜は僅かに目を見開いていた。
「……何のつもりだ? なぜ、お前がこんな事を――」
そう問い掛けながら、白夜は蔵の大きな扉を開け――そして、啓だけをその中に入れる。
「お、お父さん……?」
息子を中に入れたまま、蔵の扉を閉じてしまう白夜。
この大きな扉は、子供の力では開きそうもない――
「なぜ……だと? それはこちらの台詞だ」
女軍人――カーネル・ガブリエラは、正面の白夜を睨む。
「魔を狩ることを生業としている貴様が――なぜ、このような村に潜んでいる?
ここは、妖魔の隠れ里。本来なら、一番に貴様が滅ぼしているはずだろう――」
「……私の事情は、お前になど関係ない」
白夜は懐から符を抜き出し、カーネル・ガブリエラを真っ直ぐに見据えた。
その射すくめるような視線を受け――女軍人は、目を見開いて笑い出す。
「ふ……ははははは……!! そうか……もはや、どうでもいいことだ。
今はただ、貴様と戦ってみたい。東洋最強の退魔師と称される、須藤白夜とな――」
「戦闘狂が――お前には、情も何もないようだな」
カーネル・ガブリエラと対峙し、呼吸を整える白夜。
「そう言えば――ひとつ、お前に聞きたいことがあった。
なぜ、人間でもない者が『化け物狩り』組織の長をやっているのか――」
「私に勝てたら教えてやろう――須藤白夜!」
ゆらり……と、カーネル・ガブリエラは不気味な雰囲気を滲ませる。
「起呪滅魔――魔の女、闇に滅せ」
白夜の手にしている符に、めらめらと炎が宿った。
「行くぞ、白夜ぁ!」
「滅――!」
そして二人は――同時に地面を蹴っていた。
「うぇ〜ん……ひっく、ひっく……」
暗い蔵に閉じこめられ、ひたすらに泣きじゃくる啓。
その重い扉を叩いても、開くはずはない。
さらに、外の音さえ遮断されて聞こえないのだ。
完全に、ひとりぼっちの状態――それは、まだ幼い少年にとっては最大の苦痛だった。
「おかあさん……おとうさん……おじいちゃん……」
重く苦しい静寂の中で、啓は膝を抱えて泣くのみ。
それから、どれだけの時間が経っただろうか。
涙が涸れるほどに泣き果てた頃――
不意に、外から凄まじい爆音が響いた。
そして――蔵の扉が開く。
ぱっと光が差し込み、啓は弾かれたように立ち上がった。
「け、啓……」
扉の向こうから、ゆらりと現れる人影。
「お、おとうさん……!」
蔵に入ってきた父に、飛びつこうとする啓――
しかし――父の方が先に、啓の小さな体へと覆い被さってきた。
「お、おとうさん……?」
父の大きな体が、血にまみれているのが分かる。
ほとんど半死半生の状態――
いや、徐々に体温を失い、生命が抜けていくのが啓にもはっきりと分かった。
さっきの呻きが、父の最期の声だったのだ――
「お、とう……さん……」
最後の瞬間まで、啓を守ろうとした父――
その胸の中で、啓は震えるのみ。
もはや彼は、涙も出ないほどに泣き尽くしていたのだ。
「う、ぐ――」
そして、蔵の中へとにじり寄ってくるもう一つの影。
「まさか……百八姫、の……私に……ここ、まで……」
ふらふらと、蔵の中に入ってくる軍服の女性――
その姿は、絶命した父よりもいっそう無惨なものだった。
左腕は根本から失われ、右脇腹は大きくえぐられている。
その体は血まみれで、人間ならばとうに死んでいるほど深刻な状態だ。
「ひぃ……!」
父の亡骸の下で、啓はただ震えるのみ。
「貴様が……! 貴様が、白夜の――!!」
瀕死のカーネル・ガブリエラは、啓の前に立つ。
そして、両目から涙のように流れ出ている血を拭った。
「殺すか……いや……」
彼女の手が、震える啓の額へと触れる。
「あ――!」
その瞬間に、電流のようなものが啓の全身を走り――そのまま彼は、意識を失ってしまった。
それから数時間後、ヘリの中――
応急処置を済ませたカーネル・ガブリエラは、啓が横たわる簡易ベッドの横に立った。
「カーネル・ガブリエラ。その子は、いったい……?」
部下の一人が、おずおずと声を掛ける。
「『生存者』――といったところか」
そう呟きながら、カーネル・ガブリエラは啓の頭の上に手を置いた。
その魔力で、彼の記憶は書き換えられていく。
頭に刻まれた、余りにも鮮明な惨劇の光景――これを完全に打ち消すことは難しい。
ならば、刻まれたヴィジョンに別の意味を持たせ、その持つ意味を改竄するまで。
「う、うぅぅ……」
しばらくして――啓は弱々しく唸り、そしてぱっちりと目を覚ました。
その虚ろな目を、傍らのカーネル・ガブリエラへと向ける。
記憶を改竄された少年の目には、カーネル・ガブリエラ達は救援者に見えているはずだ。
妖魔達に襲われた村に、颯爽と現れた正義の味方として――
「少年よ。お前の父も母も、村人達も――全て、襲撃してきた化け物に殺された」
「ぐ……!」
少年は表情を歪ませ――布団を握り込んで、身を震わせた。
「選ぶがいい、少年。何もかも忘れ、都会の施設で孤児として生きるか――」
絶望に打ちひしがれる少年に、カーネル・ガブリエラは選択を投げ掛ける。
彼の生き方を決定する、あまりにも重い問いを――
「それとも――我々の仲間となり、人外の者どもから人間を守るか」
「……殺したい、です」
そう呟き、カーネル・ガブリエラを見上げた少年の顔――そこには、悪鬼が宿っていた。
悲惨な境遇を憎み、バケモノを憎み、自らの無力をも憎んだ復讐鬼が――
「バケモノなんて……みんな、殺してやりたいです……」
※ ※ ※
そして――霧花村の過去の虚像は、煙のように消え去った。
そこに残ったのは、惨劇のままにうち崩れた家々の残骸と――そして、放心する俺。
「あ、ぁぁ……」
掌が、肩が、がくがくと震える。
体から血の気が引き、歯がガチガチと鳴るのが分かる。
九条さつきもメリアヴィスタも、神妙な顔付きのまま言葉を発さなかった。
「おれ、は――」
あの天狗が、祖父。
血走った目で俺を見下ろし、大声で叫んでいた――
俺の身を守れ、と。安全な場所へ運べ――と。
あの雪女が、母。
俺を守るために戦った、あの姿――
村人達は、バケモノの方。
それを皆殺しにし、村を壊滅させたのは――人間。
そして俺自身も、半分は人間ではない――バケモノ。
「ちが……お、おれ……は……」
眼前にかざした両掌が、ガクガクと震える。
今まで、何をやってきた……?
仇と憎んで、いったいどれだけのバケモノを殺してきた?
最初から人間などではない、この俺が――
本当の仇である連中に騙され、命じられるがまま――
この手を、バケモノの血で赤く赤く染めて――
「……啓サマ……」
俺の肩に手を置こうとするメリアヴィスタ――
その手首を、思わず俺はぎゅっと掴んでいた。
「……ッ!」
表情を歪めるメリアヴィスタ――その手首を、俺はぱっと離す。
「すまない……少し、一人にしてくれないか……?」
なんとか、たったそれだけの言葉を絞り出していた。
「でも、啓サマ――」
何か言おうとしたメリアヴィスタの腕を、九条さつきは静かに引く。
「今は、一人にしてあげましょう……」
「そ、そうですね……」
そう言って、メリアヴィスタは俺をじっと見据えた。
「啓サマ……私は、何があっても啓サマの味方ですから」
「では……少し離れていますので」
そう言い残して、二人はこの場を後にしたのである。
「……」
空虚感、虚無感の後に襲ってきたのは――この全身を、灰になるまで燃やし尽くすほどの憎悪。
行き場のない憎しみが、殺意が、黒く煮えたぎって沸騰していく。
全身の血液が逆流しているかのような憤怒。
この体の全てを引き裂いてしまいたいような憎悪。
そんな感情が、俺の心をドス黒く染めていく。
まるで黒い炎のように、燃えたぎり――
この身も心も、黒く、黒く、黒く――
俺は、何者だ――?
少なくとも、人間ではない。
この血も、この身も、この心も――もはや、人間のものではない。
そして、バケモノでもない。
人外の同胞を、何百匹も殺してきた――そんな俺が、バケモノであるはずがない。
あれだけ屍の山を築いてきて、今さらバケモノを同胞などと呼べるものか。
だとしたら、俺は何なんだ――?
俺は、何者だ――?
俺は――
※ ※ ※
「それっきり、啓サマは……私達が戻ってきたときには、どこにもいなくて……」
ぐすっ、ぐすっ……と、鼻を赤くして泣きじゃくるメリアヴィスタ。
ここは、須藤啓のアパート――何やら僕がイタリアにいる間、随分と面倒な事になったようだ。
部屋の中央に敷かれた座布団の上に、僕。
そして部屋の四隅には、なぜか女性四人が陣取っていた。
さらに正面には――新たに仲間になったという学生服の少女、九条さつき。
僕は五方向から人外女性に囲まれているという、奇妙な状態だった。
「それから必死で探したのですが、どこにも見当たらず――」
うわーんと泣き崩れるメリアヴィスタに替わって、九条さつきは告げた。
「むぅ……」
そしてウェステンラはというと、苦い顔で腕組みをしている。
「妙だな……我の魔力による探査でも引っ掛からん。いったい、どこへ行ってしまったのだ……?」
「でも、それ……なんかムカつく話だよね……」
噴飯やるせない様子の沙亜羅が、腕を組んで呟く。
「本当の仇の手先にされて、同胞を狩らされてたって事でしょ……なんてムカつく連中なのよ」
「とにかく、みんなで探しに行きましょうよ!」
そう言って立ち上がったメリアヴィスタを、制止したのはウェステンラだった。
「まあ待て……啓は、自らの意志で姿を消したのだ。
無理矢理に見つけるというのも、その意志を無視した行為だろう」
「でも――帰ってこなかったら、どうするんですか!?」
「我は信じている。啓は、絶対に帰ってくるさ。
自身の過去と向き合い、そして再び戦うと――我は啓を信じている」
ウェステンラは、静かに断言していた。
「ええ……私はこの中で、啓との付き合いが い ち ば ん 長いですが……」
お茶を啜りながら、おもむろに口を開いたのは九条さつき。
いちばん、のところをやけに強調している。
「あの人は絶対に戻ってくると、私は確信しています。
この私が、この中で い ち ば ん あの人の勇姿を目にしているのですからね――」
ずずず……とお茶を啜り、そう告げる九条さつき。
奥ゆかしい美少女のような風貌でありながら、やはり一癖も二癖もある人物のようだ。
「そ……そんなコト言われたら……私だけが、啓サマを信じていないみたいじゃないですか……」
メリアヴィスタは立ったり座ったりを繰り返した後――
「わ、私だって信じてますから! 啓サマは絶対に、私の元に帰ってきますから!」
そう宣言し、どっしりと座布団の上に腰を下ろしたのだった。
「ところで、メリアヴィスタよ――傷は大丈夫か?」
ウェステンラは、メリアヴィスタの左手首に巻かれた包帯に視線をやった。
その有様は何とも痛々しく、今もまだ血が滲んでいるようだ。
「……私の頑丈な体でも、骨がバッキバキです。人間の体なら、腕が千切れていましたね……」
メリアヴィスタは、そう呟いた。
聞いた話では――ショックを受けている須藤啓の肩に手を置き、その手首を握り返された時に受けた傷らしい。
「……妖魔の骨を一瞬で圧壊させ、未だに治癒できないほどです。ここまでの事を、人間の力では――」
表情を曇らせ、メリアヴィスタは溜め息混じりに呟く。
「私は十代後半まで人として暮らし、そして淫魔に覚醒した身なのですが――」
おもむろに口を開いたのは、アルラウネの仲間なのだという九条さつきだった。
「私が淫魔の力や肉体を覚醒させたきっかけは、自分が人間ではないという事実を知ったこと。
母が残した手紙を読んで、自分が妖魔であることを知り――そして私は、激しいショックを受けました。
その衝撃が、まるで内に眠っていた力を呼び覚ますように――私は、アルラウネとなっていたのです」
「……」
この場を、重苦しい沈黙が支配する。
今、須藤啓はどこで何をしているのか――
「しかし――啓の父親が、東洋最強の退魔師と呼ばれる須藤白夜だったとはな。
まったく……どこが関西最強の手品師オーロラ鈴木だ、ドアホめ」
重い雰囲気を払拭するように、ウェステンラはメリアヴィスタに文句を言った。
何やら僕のいない間に、またメリアヴィスタは妙なことを言ったらしい。
「でも……言葉の雰囲気は似てるじゃないですか。
啓サマのお父様だけあって、実に素敵な方でした。御在命の時に、挨拶に伺いたかったです……」
「ふむ……それほどの実力者が故人だとは口惜しい。あと一人、変態神父カミカゼだが――」
「へ、変態神父カミカゼ……?」
その珍妙な名前に、僕は目を丸くした。
変態でも神父は務まるが、カミカゼはまずい。自殺は教義に反している。
「ああ、人界でも二本の指に入る猛者なのだという。バチカンの手先である貴様なら、なにか心当たりはないか……?」
「知らないなぁ……そんな恥ずかしい名前の人間、一度聞いたら忘れられないだろうし」
「九条さつき――貴様は、心当たりはあるか?」
「いえ、全く……そのような名の方とは、あまりお付き合いしたいとも思えませんし――」
九条さつきは、もっともなことを言った。
「ネメシアは――って、貴様なんぞに聞いても無駄だな」
「……」
ネメシアは、ほんの僅かにむっとしたような目つきをした。
その細身に拘束服の体を、じゅるじゅると触手が包み込み――それが引いたとき、黒装束の美女に入れ替わっていたのだ。
「お前は……五条すばる?」
その姿に、僕は思わず驚きの声を上げた。
ノイエンドルフ城で、ネメシアに取り込まれたくのいち――まさか、このような形で再び会うことになるとは。
「ふ……久しぶりだな」
五条すばるは僕を見据え、僅かに口許を緩ませた。
「お前……死んだはずじゃ……?」
「このネメシアに取り込まれたが、命を失ったわけではない。
こうして、本体の都合で気ままに外へ出されるのもあまり愉快ではないがな――」
そう呟いた後、五条すばるは一同を見回す。
「お主達が話題に上げている人物とは、機甲神父ゲオルグ・フランケンシュタインのことではないだろうか?」
「え――?」
思わぬところで出てきた名前に、僕は思わず顔を引き釣らせてしまう。
「あっ……! そうですよ!!」
メリアヴィスタは、ぱんと両手を叩いて立ち上がった。
「すみません……記憶が不確かでした、てへっ♪」
「何が、変態神父カミカゼだ! まるで違うだろうが、ドアホが!」
ウェステンラはそう吐き捨て、そして腕を組んだ。
「まあ、名前が判明したのは僥倖だ。さっそく、そいつを探し出して――」
「いや……機甲神父ゲオルグは、もうこの世にはいない。数年前に死んだよ」
僕は、おもむろに告げた。
機甲神父ゲオルグ・フランケンシュタインは、すでに死んでいる。
彼は――
師父は――
――僕が、殺したのだから。
「なんと……その男まで故人なのか!?」
「あれあれ〜。残念です……」
ウェステンラとメリアヴィスタは、揃って肩を落とした。
「ふむ……結果的に、私は役には立てなかったようだ。ともかく、これで退くとしよう」
五条すばるは息を吐き、そして僕に視線をやった。
「では、また出てくる機会があれば――アウグスト・グリエルミ、達者でな」
「ああ、またね……」
そして――五条すばるは、ネメシアの中へと引っ込んでいく。
彼女が去り、ネメシアは元の姿に戻り――そして沙亜羅は、にっこりと笑った。
「ねぇ……アウグストなんとかって何……?」
「えっと……僕の、本名だけど……」
「へぇ……私でも知らない優の本名を、なんであのキレイなヒトが知ってるのかな……?」
まずい、すっごい笑顔だ。
間違いなく、怒っている――
「しかし、正直なところ――この面子では、私が最も見劣りがするようですね」
湯飲みを脇に置き、九条さつきは深く寂しい溜め息を吐いた。
「総合的な戦闘能力はともかく、魔力となると中級淫魔の私が劣っているのは明白。
私が皆さんの力になるには、これから相当の修練に励まないと――」
「……」
ネメシアは、九条さつきの顔をまじまじと眺めると――
その口から掌に、ぺっと何かを吐き出した。
あれは――植物の種だろうか?
「……」
そしてネメシアは、その種を九条さつきへと差し出した。
「えっと……これを、私にくれるのですか?」
「……」
こくり、とネメシアは頷く。
そして九条さつきは、その種を受け取った――
「あら……? この子、エイミじゃないですか」
メリアヴィスタは、その種をじろじろと見定めて言った。
エイミとは確か、ノイエンドルフ城にいた巨大植物淫魔――あれも、ネメシアに取り込まれたはずだ。
「ええ……この種から、凄い力を感じます。
そのエイミという方だけでなく、多くの植物淫魔が凝縮されているみたいですね」
九条さつきは、その種を制服のポケットに仕舞った。
「ありがとう、ネメシアさん。有効に使わせていただきます」
「あれ……? 今、食べちゃわないの?」
目を丸くする沙亜羅に、九条さつきは自嘲するような笑みを返す。
「ええ……この種には、魔界の植物淫魔達の力が凝縮されています。
恥ずかしいですが、今の私では――逆に取り込まれかねません。この種一粒よりも、今の私の力は劣っているのですよ」
「ふむ……己の力を弁えるのは良いことだ。それは成長の糧となろう」
神よりも偉そうに、ウェステンラは頷く。
かく言う彼女の肉体――ノイエンドルフ城でのやり取りを見るに、今のはスペアらしい。
本当の肉体は、傷付いて治っていないというような事を言っていたが――どういう事なのだろうか。
「啓の奴、どこで何をしておるやら……早く帰ってくればよいものを……」
ウェステンラは、窓の外を見上げて呟くのだった。
※ ※ ※
「ほらほら……どう? 私に吸われているのよ……?」
「あ、あぅぅぅ……あぅぅぅぅぅぅ――!」
誰も立ち寄らないような廃ビルに、女性の艶めかしい声と少年の悲鳴が響いていた。
十年ほど前に営業は停止し、様々な事情で放置されているホテル。
そこはいつしか、低級な女吸血鬼の住処となっていたのだ。
「オチンチン気持ちいいでしょう。もっともっと、ドプドプ出して良いのよ……」
「ひぁ……! あぁぁぁぁぁぁ――!!」
美しい女吸血鬼に騎乗位で犯されながら、少年は身を震わせた。
その人外の蜜壺は、少年の経験皆無な肉棒を徹底的にいたぶっている。
締め上げ、絡み付き、吸い上げ――
ほんの前まで童貞だった少年のモノに強制的な快感を与えているのだ。
「あ、あひぃ……!」
そして――女吸血鬼の中で、どぷっと濃厚な精液が弾けた。
これで五度目となる膣内射精に、少年は身をわななかせる。
「あ、あぁぁ……!」
「ふふ……言ったわよねぇ。ボウヤの命を、こうやっておまんこで吸っているの。
ボウヤがきもちよ〜く出している精液は、全部あなたの命……
それを全部私に飲まれてしまったら――死んじゃうのよ、ふふっ……」
「ああぁ……いやだ、いやだぁ……」
少年は、涙目で快感に抗いながらも――
結局は、すぐに艶めかしい感触に身を委ねてしまうのだ。
「あ、あ……! あぅぅぅ――!!」
そして――またも、女吸血鬼の膣内で精液がびゅるびゅると溢れてしまった。
「漏れちゃったわねぇ……命を削って得られる快感は、極上でしょう……」
「あひぃ……いやだ……たす、けて……」
「助かりたかったら、射精をこらえることね――」
そう言いながらも、女吸血鬼の蜜壺は無慈悲に青年を追い詰めていく。
柔肉できゅうきゅうと締め上げ、亀頭全体ににゅるにゅるとヒダが絡みつき――
「ひぁぁぁぁ……!」
その快感に耐えることもできず、ドクドクと精液を女吸血鬼の膣内へと注ぎ込んでしまった。
「ふふ……諦めて、快感に身を委ねてしまいなさい。私の下のお口で、生命を全て吸われてしまうの。
とっても気持ちよくて、夢のような気分で逝けるわよ……」
「あ、あぅぅぅぅぅ……」
少年はすでに、津波のような快感に屈服しかかっていた。
耐える気力も失われていき、このまま女吸血鬼に吸われ尽くしたいという欲求が高まっていく――
「さあ……あなたの生命を、全部飲ませて……
じゅるじゅる啜り尽くして、最高に気持ちよく逝かせてあげるから……」
「は、はい……」
とうとう少年は屈服し、快感に身を任せた。
その途端――吸血鬼の蜜壺が甘く蠕動し、少年をたちまち快楽の世界に導いていく。
「ふぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
まるで尿のように、じょぼじょぼと溢れ出していく精液。
排出に伴う凄まじい快感で、少年は身を反らして喘いだ。
「あ……! あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
「ほぉら、ドプドプ溢れているわ……ボウヤの命が……」
「あひ、あひぃぃぃぃ……」
それはまるで、女吸血鬼の下の口で捕食されているかのようだった。
いや、それはまさに捕食そのもの。
吸血生物が獲物の血を吸い尽くすかのように、彼女の膣は少年の生命を一気に吸い上げているのだ。
「ぁ……ぁ……」
そして――少年は、見る間に衰弱していった。
女吸血鬼の下で、その体が枯れ木のようにやせ細っていく。
どぷどぷと精液を漏らし続けながら、ミイラのような外見と化していく。
そして――
「ふふっ、ごちそうさま……」
少年を吸い終え、女吸血鬼は妖艶な笑みを浮かべた。
その体の下で、哀れな少年はとうに乾いた骸と化している。
サキュバスや吸血鬼に吸われ果てた者の、哀れな末路――しかしその屍は、愉悦の笑みを浮かべていた。
男として最高の快楽を味わいながら、果ててしまう――それは幸せなことなのかもしれない。
「さて、今日はもう一人くらい――」
そう呟きながら、女吸血鬼が腰を上げたその時だった。
「……何? 誰か、私の家に侵入した――」
何か――得体の知れない人間が、この廃ビルに入り込んできたようだ。
それも、四人――どうやら、普通の人間ではない。
「もしかして――化け物狩り……!?」
色香はともかく、腕にはさっぱり自信のない下級の女吸血鬼。
空さえ飛べない彼女は、ただビル内を逃げ回ることしかできなかった。
この娘さんに搾られてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。