序 『妖魔の城』〜『淫魔大戦』


 

 「ふぅ……こんなものかしら」

 出入り口からH-ウィルスを散布しながら、アレクサンドラは息を吐いた。

 これでもう、研究所内は目茶苦茶の状態。

 そうなれば、あの女もすぐに何が起きているかを察知するはずだ――

 そして向こうからの接触は、アレクサンドラの予想より20秒ほど早かった。

 

 「……ようこそ、ヴェロニカ研究所本部へ」

 出入り口で蝶の羽を広げるアレクサンドラの前に、白衣の美女が立った。

 その外見は、冷徹な科学者というより線の細い令嬢。

 か弱ささえ感じさせるような外見と、悪魔の頭脳を持ち合わせた女――

 彼女こそが、ベロニカ研究所のトップ――ミス・ヴェロニカなのだ。

 「……お久しぶりね、ミス・ヴェロニカ。私のことは、覚えているかしら?」

 「ええ……」

 余裕の笑みを浮かべながら、ミス・ヴェロニカは頷いた。

 「ハイゼンベルグ教授の娘にして、H-ウィルスの共同研究者。

  クリーチャーの行動生態を始め、多くの分野で業績を残してくれたわ……」

 「ふふっ、光栄よ……」

 「くすっ……」

 本質的に似たもの同士の二人は、くすくすと笑みを交わらせる。

 そして、話を切り出したのはミス・ヴェロニカの方だった。

 「H-ウィルスを撒き散らすのはやめてもらえるかしら?

  バイオハザードの発生データは楽裏市の一件で十分に足りているの。これ以上の提供は御免被りたいわ」

 「では、交換条件ね。私の欲しいものは――」

 アレクサンドラが要件に触れる前に、ミス・ヴェロニカは懐から保存用チューブを取り出した。

 その中には、透けたブルーの肉片――いや、ゼリーのようなものが蠢いている。

 「ほしいのは、これ……J細胞でしょう?」

 「ええ。散布したH-ウィルスを浄化するのと引き替えに、もらえないかしら?

  全部とは言わないわ、ほんの一部で構わないから――」

 「……」

 ミス・ヴェロニカはアレクサンドラの顔を眺め――そして、口を開いた。

 「H-ウィルスとは、I-ウィルスと呼ばれるものをより人体に適応した形で変成させたもの。

  ではI-ウィルスとは何なのか――それは、極めて強力な遺伝変異を起こすウィルス。

  しかしその変異は激しすぎ、被験者は遺伝子崩壊を多発。私達は何度も失敗を経験したわ。

  感染させた被験者は、淫魔とは程遠い肉の塊に変異していった――やはり、ヒトの脆弱な体にI-ウィルスは適合しないのよ」

 アレクサンドラは、ミス・ヴェロニカの話を継ぐ。

 「ええ……I-ウィルスをそのまま人体に適合させるのは無理――そう、父と私は判断した。

  ゆえにI-ウィルスそのものに手を加え、より優れた人体適合型――新ウィルスの生成に成功したの」

 その新ウィルスに、I-ウィルスのアルファベットを一つずらし、H-ウィルスと命名したのはアレクサンドラ自身だった。

 そんなことは、講義されるまでもなく分かっていることだ。

 ミス・ヴェロニカは満足そうに頷き、そして言葉を続ける。

 「では、H-ウィルスの前身であったI-ウィルスとは何なのか――

  それは、J細胞と呼ばれる特殊な細胞から抽出したもの。J細胞のアルファベットを一つずらしてI-ウィルス――これは私の仕事よ」

 手に持っているチューブを軽く振りながら、ミス・ヴェロニカは言った。

 中の細胞片――J細胞は、ゼリーのようにぶるぶると震えている。

 「でも私は、このJ細胞とは何なのか、どこで手に入れたのかをどこにも発表していない。

  研究所内のデータでも、それは極秘のまま――すなわち、これがヴェロニカ研究所の最大機密。

  ではアレクサンドラ。このJ細胞の正体が何だか分かるかしら?」

 「――ジェシア・アスタロトの体組織でしょう」

 アレクサンドラは答えた。

 J細胞の「J」は――おそらく、ジェシア・アスタロトの頭文字。

 粘状淫魔の体組織、何かの機会で採取に成功した一片――それが、J細胞なのである。

 「正解よ……アレクサンドラ」

 満足そうに微笑みながら――ミス・ヴェロニカは、そのチューブをアレクサンドラに投げ渡した。

 「西暦1352年――ジェシア・アスタロトは、東欧のちっぽけな小村を壊滅させた。

  その廃墟を訪れた錬金術師が、偶然にも残っていたジェシアの体片を拾ったのよ――」

 その十四世紀の錬金術師と、ヴェロニカ研究所がどう繋がっているのかは分からない。

 興味深い話だが――アレクサンドラに、のんびりとそれを聞いている暇はなさそうだ。

 「すまないけれど、ミス・ヴェロニカ。私はすぐにここを去らなければいけないわ。

  私の中で、妹がそろそろ目を覚ましそうなのよ」

 「それは困るわねぇ。沙亜羅や深山優とやらは、私達を敵扱いしているようだから……」

 ミス・ヴェロニカは、まるで他人事のように言った。

 その二人は、世界各地でヴェロニカ研究所の支部を襲撃しているのだ。

 「そう言えば、聞きたかったのだけれど――あなた達は、何が敵で何が味方なの?

  ノイエンドルフ城とも取引をしているかと思えば、平気でネメシアを投入したり――」

 「私達に倫理も道徳も無いように、節操も無いのよ……」

 ミス・ヴェロニカは、くすくすと笑う。

 「生命を冒涜するような研究を続け、神のタブーに挑戦し続ける――それが、ヴェロニカ研究所。

  敵も味方もないの、ただ使えるものは使うだけ……」

 「政治には関与しない――科学者の鑑ね」

 皮肉も込めて、アレクサンドラは言った。

 J細胞の一部をあっさり譲ったのも、脅しに屈したからではない。

 アレクサンドラに渡せば、思わぬ研究成果が生まれるかもしれない――そう期待してのことなのだろう。

 結局、自分も利用されているのだ。

 「まあ……利害が一致している限りは、あまり私も細かいことは気にしないわ」

 そう言い放ち、アレクサンドラはJ細胞の封入されたチューブを懐に収めたのだった。

 

 

 

 

 

 東欧から東方向へ――ロシアの上空を高速飛翔するひとひらの蝶。

 その正体は、日本へと帰還するアレクサンドラだった――

 

 『ん……姉さん……?』

 アレクサンドラの中で、妹の沙亜羅が目を覚ます。

 「あら、おはよう。日本に着くまでは、大人しくしていなさい」

 寝起きの妹に、優しく告げるアレクサンドラ。

 『……誰と会っていたの?』

 「昔の馴染みよ……」

 『そう……』

 それっきり、沙亜羅は黙りこくってしまった。

 

 ――上空を飛翔する、美しい蝶の姿が一つ。

 それはひらひらとはためきながら、日本へと降り立つのだった――

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 「……以前の事件について、再調査の必要がある」

 「そ、そうですか――」

 外出着に身を包んだ俺は、私立聖志林学園の理事長室に立っていた。

 この理事長は学園を開放したとき、俺の顔を覚えていたようだ。

 そのせいで、もはや『化け物狩り』組織とは切れている俺でも話は上手く運んでいる。

 問題があるとすれば――俺の後ろで控えている、カジュアルなスーツ姿のメリアヴィスタ。

 黙ってさえいてくれれば、知的な美人秘書にも見えないことはない。

 しかし少しでも喋ってしまうと、そうしたイメージはたちまち崩れてしまうだろう。

 

 「それにしても、その格好は……いえいえ、失礼。それで……屋上ですね?」

 人の良さそうな理事長は、なにやら俺の服装を気にしている様子である。

 そんな事よりも――ともかく、あの花の咲いている屋上に向かわなければならない。

 「ああ……少し、屋上で調査しておきたいことがあるからな」

 「分かりました、案内します――」

 「いや、案内は不要だ。学内の構造も熟知している」

 銃を片手に学内を走り回ったのだ、忘れるはずがない。

 こうして俺は理事長室を出ると、メリアヴィスタを引き連れて廊下を進んだ。

 

 「うわー! 学校ですねー!」

 おもむろに、当たり前の感想を漏らすメリアヴィスタ。

 今は放課後だが、廊下には女子生徒達がたむろしている。

 しかし――その視線は、廊下を進む俺達に注がれているようだ。

 おしゃべりをしていた集団も、唐突に黙り込み、露骨に怯えた視線を送ってくる――

 「……やけに、じろじろ見られるな。

  メリアヴィスタ、やはりお前の格好は変だったんじゃないか……?」

 「いえ、私ではないと思います……啓サマ、その黒サングラスは何なんですか?」

 「なるべく、目立たないようにするためだが……」

 「それと、その上下の黒スーツは? その黒服スタイルには、何かのこだわりでもあるんですか……?」

 「いや、目立たないように――」

 「そんな服で目立たない場所は、エスポワール号の中だけだと思います……」

 「……なんだ、それは?」

 そんな不毛な会話を交わしながらも、俺達は屋上へと上がる。

 午後の日差しを受けながら、周囲を見回す俺。

 確かあの花は、西側の柵沿いにあったはず――

 「――だったんだがなぁ。……どこだ?」

 「ないですねぇ。お花ですよねぇ……?」

 メリアヴィスタと二人で辺りを見回したが、どこにも見当たらない。

 おかしな話だ。見落とすようなものではないはずだが――

 「妙だな。確かに、ここに――」

 俺がそう言い掛けた折り、階段を上がってくる足音が聞こえた。

 そして屋上の出入り口から上がってきたのは、お下げの女子生徒。

 彼女なら、何か知らないだろうか――そう思った俺は、さっそく声を掛けた。

 「……ちょっと、君。ここに、花があったのを――」

 「ひっ……マフィア!? い、いや……来ないで……!」

 女生徒は俺の姿を一目見るなり、じりじりと後ずさっていく。

 その怯えた顔を見るに付け、まるで自分が変質者になった気分だ。

 「あ……ちょっと、大丈夫ですよ。私達は、怖い人じゃありませんから――」

 ひょいとメリアヴィスタが顔を出し、女生徒の前に立つ。

 「ちょっと聞きたいんですけど……この辺に、一輪の花が咲いてたのを見ませんでしたか……?」

 「は、はい……少し前から咲いていたので、水をあげてたんですけど……

  半月くらい前に、なくなってしまって――」

 メリアヴィスタの方が上手く話を聞き出せているのが、地味にショックだ――

 ――いや、それよりも話の方が重要だ。

 「枯れたんじゃないんですよね……?」

 「いえ……確かに、丸ごとなくなっていました」

 「……どういうことだ?」

 女生徒の前で、俺とメリアヴィスタは顔を見合わせた。

 「誰かが、手折っていったとか……」

 「封印されていたとはいえ、アルラウネの花でしょう?

  そんな簡単に千切れたりしないと思いますけど……」

 そう思案していると――所在なさげに立ち尽くしていた女生徒が目に入った。

 彼女は、もう関係ない。

 「ああ……貴重な情報に感謝する。これは礼だ」

 俺は黒のサングラスを外し、女生徒へと手渡した。

 これは、もう必要ないようだ。

 「は、はい……」

 戸惑った様子でサングラスを受け取りながら、女生徒は屋上から去っていく。

 そして俺達は、途方に暮れるのみ――

 

 「そう言えば……この付近、解きたての封印の匂いがしますね」

 鼻を鳴らし、メリアヴィスタは言った。

 さすがは猫科の淫魔、けっこう鼻が利くらしい。

 「封印が解かれた――つまり、誰かがあいつを解放したということか?」

 「いえ――自力で封印を解いたのだと思います。

  外部から解かれた場合、焼けた輪ゴムような匂いがしますから……」

 俺には何の匂いもいしないが、こいつが言う以上確かなのだろう。

 それにしても、自力で封印を解いてしまったとは――

 「ウェステンラの奴……まるで当てにならんじゃないか」

 俺は、苦々しく呟くしかなかった。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 放課後の、誰もいない理科室――

 そこにある長机の上に、下半身の衣服を全て脱がされた男子が寝かされていた。

 股間では肉棒がそそり立ち、びくんびくんと揺れている。

 その横に、黒髪の綺麗な女生徒が立った。

 「く、九条先輩……」

 期待に胸を高鳴らせながら、男子は声を上擦らせる。

 その横に立つ女生徒――九条さつきは、静かに微笑んだ。

 「九条先輩、僕……い、入れたいです……」

 「ふふ……私としたいのですか?」

 九条さつきは、そう囁き――不意に、彼の股間へと顔を持って行った。

 そして――少年の肉棒に、たらりと唾を垂らす。

 「あ、あぅぅ……」

 ぬめりと温もりが肉棒を滑っていく感覚に、少年は身を震わせる。

 ほとんど誰にも触れられたことのない肉棒に、綺麗な先輩から唾を垂らされる心地――

 それは、触れられなくても果ててしまいそうな興奮だった。

 「さて、どうしましょうか……私は弄ぶ側で、セックスはさせてあげない主義なのですが……」

 そう言いながら、九条さつきは肉棒へと唾液を垂らし続ける。

 亀頭から根本まで、たっぷりと唾液を受けてヌルヌル。

 「あぁぁぁぁ……」

 ペニスを丹念に唾まみれにされながら、男子は身悶えしていた。

 触れられていないにも関わらず――このまま、精液が漏れ出てしまいそうだ。

 「ふふ……これで満足なのではないですか?

  私のよだれで、男性器をドロドロにしてもらえるだけで……」

 九条さつきは、くすくす笑いながらペニスに唾を垂らし続ける。

 触れられないまま、少年の肉棒は唾液でドロドロ。

 先端から根本まで、泡状の唾が絡みついて糸を引く状態だ。

 九条さつきの唾責めを受け、彼のペニスは今にも弾けてしまいそうな状態である。

 「い、入れたい……です……」

 唾液まみれのペニスをひくひく震わせながら、男子はそれでもなお懇願した。

 「贅沢なのですね……それでは――」

 九条さつきは清掃用のゴム手袋を取り出し、それを両手にはめる。

 そして愉悦の笑みを浮かべながら、少年の横に立った。

 「これからの責めに30秒耐えられたら――特別に、入れてあげてもいいですよ」

 「う、あぁぁ……」

 少年は歓喜の表情を浮かべる。

 しかし――九条さつきの丹念な唾責めで、その肉棒はもう果ててしまう寸前。

 その状態で直に刺激を与えられ、30秒も持つはずがなかった。

 

 「では――がんばって、射精をこらえて下さいね」

 そして――九条さつきは、唾液にまみれたペニスをゴム手袋越しに握る。

 「あ、あぁぁぁ……」

 ゴム手袋特有の感触に加え、唾液がぬるっとした摩擦感を呼び起こし――

 ペニスに、甘い快感がじんわりと広がっていった。

 「ふふ……このまま上下に動かしてあげたら、たまらないのではないですか……?」

 そのまま、両手でペニスを握り込んで軽く扱き上げる九条さつき。

 きゅ、きゅ……とゴム手袋が淫らな音を立てた。

 「ふぁ……あぁぁぁ……」

 ただでさえ絶頂間近なのに、ゴム手袋での刺激を受け――少年が耐えられるはずがなかった。

 30秒我慢したら、入れさせて貰える――そう念じて必死で我慢するも、あえなく甘い快楽に包まれていく。

 「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 そして――快楽にこらえきれず、そのままゴム手袋の中で爆発したのだった。

 「あ――あぁぁ……」

 びゅるびゅると精液が溢れ、九条さつきのゴム手袋を白く汚していく。

 唾液と精液が混じり合い、彼の股間はぐちゅぐちゅの状態になってしまった。

 「ふふ……無理でしたね……」

 くすくす笑いながら、九条さつきはゴム手袋を外す。

 「あ、う……」

 快楽による恍惚と、悔しさが入り交じった感情――

 男子生徒は、ひっくひっくと泣きじゃくり始めた。

 その哀れな有様を見て、九条さつきは溜め息を吐く。

 

 「やれやれ、仕方ないですねね……これは、特別ですよ」

 「え……?」

 おもむろに、少年の両目のところを左掌で優しく覆う九条さつき。

 そうやって目隠しした後――その右袖から、ピンク色の妖花をしゅるしゅると伸ばした。

 妖花はじゅるり……と口を開け、彼のペニスをあむっと咥え込んでしまう。

 「あひ……!?」

 思わぬ快感に、男子はがくっと身を震わせた。

 何をされているのか分からないが、ペニスがうねうねした肉穴に包まれたのだ。

 そこはぐちゅぐちゅとうねり、きゅうきゅうと締まり、夢のような快楽を与えてくる――

 「ふふ……気持ちいいですか?」

 「は、はい……あぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 童貞である少年が、人間の膣を遙かに上回る妖花の感触に耐えられるはずがない。

 入れてから、数秒も持たない射精――にもかかわらず、彼はとろけそうな絶頂感を味わっていた。

 大量にあふれ出た精液は、妖花にじゅるじゅると吸い取られてしまう――

 「……ふぅ」

 九条さつきは精液を吸い上げた後、妖花を袖の中に戻した。

 「はい、終わりです……」

 そして男子の顔から掌を離し、手早く片付けを始める九条さつき。

 「はぁ、はぁ……」

 男子は机に横たわったまま、快楽の残滓に浸り続ける。

 九条さつきはゴム手袋を処理し、飛び散った精液を拭き取り――

 

 「……おや?」

 そして――懐かしい匂いと気配を感じ、目を見開いたのだった。

 

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