序 『妖魔の城』〜『淫魔大戦』


 

 あの激しい戦いから一晩が経ち、そして翌朝――

 なぜか俺の部屋には、作戦会議という名目で珍妙な一団が顔を揃えていた。

 

 「……」

 部屋のど真ん中に、俺は座布団を敷いて座っている。

 そして、部屋の四隅には――なぜか、女性陣四人がそれぞれ一人ずつ居座っていた。

 ウェステンラ、メリアヴィスタ、沙亜羅、ネメシアの四人が――

 それぞれ四隅に座布団を敷いて座り、四方向から中央の俺をぐるりと囲んでいるのである。

 なぜ、こんな奇怪な配置になっているのか分からない。

 「……」

 四人とも黙りこくり、ただ視線のみを交えていた。

 互いに相性が悪いのか、何かは分からないが――四方人外の状態は、とにかく居心地が悪い。

 

 「……そう言えば、深山優はどこに行ったんだ?」

 沈黙に耐えかね、俺は口を開いた。

 「日帰りでイタリア旅行だって……」

 溜め息混じりに、沙亜羅が呟く。

 「そうか……」

 本人は隠しているつもりでいる法王庁に報告に戻ったのだろうが、正直羨ましい。

 俺も適当に理由を付けて、どこかに逃げたいところだ。

 周囲をぐるりと見回し――そして、俺は大きな溜め息を吐いた。

 

 「……」

 ネメシアは、部屋の隅に置いてある水槽をじっと眺めている。

 その中には、ウェステンラの飼っている熱帯魚がひらひらと泳いでいた。

 まるで獲物を狙う猫のように、ネメシアは熱帯魚を見つめているのだ。

 「……ネメシア、熱帯魚食べちゃ駄目だからね」

 すかさず、沙亜羅は注意した。

 「……」

 肩を落とした様子で、視線を落とすネメシア。

 今度は、その目が俺の方へと向く。

 さっきの熱帯魚の時のように、獲物を狙う猫のようにじっと――

 「……ヒトも食べちゃ駄目だからね、ネメシア」

 「……」

 沙亜羅に注意され、再びネメシアは視線を床に落とすのだった。

 ――こいつ、本当に野放しにしておいて大丈夫なのか?

 

 「さて、これからの事だが――」

 おもむろに、ウェステンラが話を切り出した。

 「これから大きな戦いに臨むには、まだ戦力が少し寂しい。それを、どうにかせねばならぬな……」

 「戦力が足りない……? これでか……?」

 ウェステンラ、メリアヴィスタ、沙亜羅、ネメシアの人外組に加えて、俺と深山優。

 頭数は、十分すぎるほど足りているように思えるが――

 「今から伝える事実を聞いても同じ事が言えるか、啓? 白薙真という男を知っているな?」

 「ああ、当然だ。『化け物狩り』機関、チーム・ベータの隊長。組織三強の一人だな――」

 「それって、ナギってコードネームの奴でしょ? 私でも聞いたことあるよ」

 目をぱちくりさせ、口を開く沙亜羅。

 そう言えば――この少女も、『化け物狩り』機関に所属していたのだったか。

 「その白薙真だが――先日、戦死したそうだ」

 「なんだと……!?」

 ウェステンラの思わぬ言葉に、俺は思わず目を見開いた。

 「あいつが、戦死だと……? ふざけるな、そんな事があってたまるか!」

 白薙真――ベタベタした関係ではないが、何度か任務で共闘したことがある。

 その実力は凄まじく、俺でさえ白薙真に勝てるとは思えない。

 ――もっとも、俺が白薙真に劣るとも断じて思っていないが。

 つまりは同格、互いにライバルとして意識する関係だったのだ。

 「あいつが、いったいどんな相手に――?」

 「ジェシア・アスタロトという有名な淫魔だ」

 「え……? ジェシアですって……!?」

 ウェステンラの言葉に、なぜか沙亜羅が大袈裟に反応していた。

 「……知ってるのか、お前?」

 「いや……私は全然。私の中の姉さんが驚いたみたい」

 「……」

 沙亜羅の肉体の中には、アレクサンドラとか言う姉が同居しているという。

 そいつは、何か知っているのだろうか。

 「ともかく……白薙真が、そこらの淫魔に負けるとは思えないが……」

 「ジェシア・アスタロトは、そこらの淫魔などではないと言うことだ。

  女王七淫魔の一人――つまりマルガレーテと同格の存在。

  いくら凄腕だろうが、人間の身で太刀打ちできる相手ではない」

 「マルガレーテと同格、か……」

 それなら確かに、あまりにも強大すぎる相手だ。

 つい昨日、マルガレーテの強大さを見せつけられた身としては大いに納得できる。

 「しかし……そんなとんでもない淫魔が、ほいほい人間界に現れていいのか?」

 「当然、いいわけがない。おそらく、『約束の時』が近付いている事が影響しているのだろう――」

 ウェステンラは腕を組んで溜め息を吐き、表情を曇らせた。

 「その『約束の時』というのは、何なんだ?」

 結局、話はそこに戻ってくる。

 ウェステンラはなぜか『約束の時』の脅威は強調しておきながら、具体的な説明はいっさいしないのだ。

 「『約束の時』……か。魔界に棲むほとんどの淫魔でさえ、それは伝説か、宗教上の寓話に過ぎないと思っている。

  これまで起きたのは五度、最も新しいのでさえ約6500万年前――確かに、伝説と思われても無理もないな」

 偉そうに言っているこいつ自身でさえ、昨日マルガレーテに教えられるまではおとぎ話だと思っていたのだ。

 いったい、それはどんなものなのか――

 「私も、聞いたことがありますよ〜♪」

 メリアヴィスタが、ここぞとばかりに手を挙げた。

 「えっと、確か……約6500万年前に、何とかムサシと物干しコジロウがナントカ島で決闘したんですよ。

  でも何とかムサシは『約束の時』に数時間ほど遅れて、でもそれはムサシの策略で――」

 「……違う。どこから突っ込んでいいか分からないほど違う」

 ウェステンラはすげなく一刀両断し、何事もなかったかのように話を続けた。

 「『約束の時』が控えている今、他の淫魔達の動きも活発化するだろう。

  ジェシア・アスタロトが胎動を始めたようにな――今は、少しでも多くの戦力が必要な時なのだ」

 「なるほど……『約束の時』に関しては要領を得ないが、ともかくあちこちで淫魔連中が暴れ出すと言うことか」

 「その通り。そこで、優秀な戦力をなるべく多く仲間に迎えたいのだが――」

 そう言ったきり、ウェステンラは黙り込んだ。

 当然ながら、優秀な戦力とやらがそこらに転がっているわけもない。

 「ねぇねぇ。『化け物狩り』組織からスカウトしたら? 組織三強のうち、ナギは死んじゃったけど……あと二人いるじゃない」

 そう提案したのは、沙亜羅だった。

 「確かアルファ・チームの隊長も、凄腕っていう話じゃない。

  めちゃくちゃ腕が立って、とんでもない数の化け物を始末してきたって聞くけど……そいつは、どう?」

 「それ、俺だ……」

 軽く息を吐きながら、俺はぼそりと言った。

 白薙真と並ぶ組織三強の一人――いちおう、俺もそう呼ばれる立場にあったのだ。

 「えっ……!? そうなの……?」

 そして沙亜羅は、目を丸くして驚いた様子。

 いったい、俺を何だと思っていたんだ――?

 「……では、組織三強の残る一人はどうなのだ――?」

 ウェステンラの言葉に、俺はつい眉をひそめてしまった。

 「……リチャード・エインズワースか。あいつを仲間にするのは、正直勘弁願いたいな」

 「私も、アイツ嫌い……」

 珍しく、沙亜羅とも意見が一致したようだ。

 「……むう。問題のある人物なのか?」

 「イプシロン・チームのリーダーなんだが……どこか、俺やナギとは毛色が違う。

  どこかスポーツ・ハンティング感覚で、怪物を狩るのを楽しんでいるような奴だ。

  確かに、腕は超一流なんだが……民間人を平気で巻き込んだり、命令に違反したり、色々と問題も多い」

 「なんか残酷だしさぁ……一度、狩った怪物の剥製を見せられて延々と自慢された事があるの。

  私達、怪物から人間を守るために戦ってるはずでしょ? あいつのやってるのは、なんか違うのよ」

 沙亜羅も、エインズワースを毛嫌いしているようだ。

 「……なんかそいつ、すっごくムカつく奴ですね。

  啓サマの嫌いな奴は、私も大嫌い。そいつを仲間にするのは、大反対です!」

 頬を膨らませ、噴飯やるせない様子で語るメリアヴィスタ。

 そもそも俺は、こいつを仲間にした覚えなどないのだが――

 それを言うと話がこじれそうなので、ここは黙っておく。

 

 「……ところで啓。どうでもいいが、その沙亜羅は三強に入らない半端者なのか?」

 ふとこぼれ出たウェステンラの疑問に、沙亜羅はむっとした表情を浮かべる。

 「俺が聞いたところでは――単独戦闘の腕前だけなら、三強にも並ぶという話らしい。

  その小さな肢体を生かした敏捷性と瞬発力、速度と手数で圧倒する技量は組織でも随一。

  しかし協調性が皆無、チーム戦も下手、猪突猛進で知能戦は苦手――まあ、あくまで他人から聞いた評価だがな」

 こちらを睨む沙亜羅に遠慮してそう断ったものの、俺自身も同じ評価を下さざるを得ない。

 反射神経や敏捷性などといった基礎能力には優れているが、その他の点で問題が多すぎる。

 狡猾さという点を取ってみても、あの深山優の方が十倍は上手だろう。

 「わ、私のことはどうでもいいでしょ! ともかく、『化け物狩り』組織の三強が候補から消えちゃったとなると……

  その下のメンバーに声を掛けて、引き抜いてみる?」

 「非情な言い方だが……弱者は必要ない。人間ならば、啓と同等レベルの戦闘能力を持つくらいでないと意味はないな」

 確かに、それは俺も同意見だ。

 このメンバーで行動する上で、俺や沙亜羅より戦闘能力が低いとなると――役には立たないどころか、足を引っ張られてしまう。

 チーム戦において、10に1を足したところで11にはならない。

 下手をすれば、5や6にまで総合戦力が下がってしまうことさえあるのだ。

 「そういうわけで、『化け物狩り』組織には頼れんな。他に……仲間として引き入れられそうな者は、誰かおらぬか?」

 「悪いが……心当たりはないな」

 「私も……」

 俺も沙亜羅も、首を横に振らざるを得ない。

 ネメシアの方につい視線をやってしまったが――こいつに心当たりがあるはずもない。

 そして、メリアヴィスタにも期待できない――

 「は〜い♪ 私、聞いたことがあるんですけどぉ……」

 そう思いきや、メリアヴィスタはしゅたっと右手を挙げた。

 「私達ノイエンドルフ城のメイドが人間界にお出かけする際、こいつにだけは気をつけろと常に注意されている人間が二人いるんです。

  つまり――それって、今の人間界で最強クラスの二人とも言えますよね」

 「なんと。ノイエンドルフ城でも警戒されるほどの二人――か。それが事実なら、戦力としては申し分ないな」

 ウェステンラは、随分と驚いた様子だ。

 かくいう俺とて、所属していた組織以外の対妖魔組織についてはほとんど知識がない。

 まさかメリアヴィスタから、こんな有益な情報が出てくるとは――

 「して、その二人の名前は……?」

 話をせかすウェステンラだが、それに対するメリアヴィスタの反応は何とも頼りないものだった。

 「名前……えっと、何だったかな……? もし出会ったら、逆に叩きのめしてやろうと思っていたんですけど……

  う〜ん、肝心の名前をド忘れしちゃって……」

 「おいおい……」

 少し期待した俺だが、溜め息を吐かざるを得ない。

 「えっと……一人は、ナントカ神父っていう奴だったんですよ。確か……変態神父カミカゼ……だったかな?」

 「変態神父カミカゼ……? なにか、あまり強そうな名前ではないな。もう一人は?」

 ウェステンラは首を傾げつつも、先を促す。

 「確か……ナントカ最強のナントカ師っていう、偉そうな枕詞が付いてたんですよ。

  名前は……えっと、姓か名のどっちか『オーロラ』でした。綺麗なネーミングなんで、そこは覚えていたんです」

 「まるで要領を得んな。もう少し、どうにかならんか?」

 「えっと、確か……『関西最強の手品師、オーロラ鈴木』……だったかな?」

 「……そんなインチキマジシャンみたいな名前の奴が、人間界で最強なのか……?」

 ウェステンラは、目をぱちくりさせるのみ。

 「……そんな訳ないだろう。そんな面白い二人組が最強クラスだったら、俺達人類は悲しすぎる」

 俺は、そう吐き捨てるのみだった。

 こんな適当な名前では探せないだろうし、聞き込みの際に他人の前で口に出すことさえはばかられる。

 結局メリアヴィスタの情報は、魔界において人界最強と囁かれる二人がいることしか分からないようだ――

 「う……」

 その時、俺の腹がきゅるきゅると情けない音を立てた。

 そう言えば、朝食がまだなのだ。

 

 「ところで……この人数分の食事、誰が作るんだ?」

 「……」

 ウェステンラの方を見ると――肩をすくめるのみ。こいつに料理など無理だ。

 沙亜羅はというと――露骨に目を逸らした。どう考えても、料理には向いてそうにない。

 ネメシアは――もはや問題外だ。料理という概念が存在しない。

 そして、メリアヴィスタは――

 「じゃあ、私が頑張りますね〜♪」

 すっくりと、メリアヴィスタは立ち上がっていた。

 「お前、まさか……料理ができるのか!?」

 「啓サマ、忘れてませんか……? 私、ノイエンドルフ城の副メイド長だったんですけど……」

 そのままメリアヴィスタは隣の台所へと足を運び、冷蔵庫などをチェックした。

 「さすが啓サマ、清貧とはこのようなことを言うんですね。

  あんまり大したものは出来そうにありませんが……朝ですし、サンドイッチでいいですか?」

 「……ああ、何でも構わん。適当でいい」

 台所のメリアヴィスタに告げ、俺は室内に視線を戻した。

 「そして……ここに残る三人は、只飯食らいということだな」

 「……」

 さすがに恥を知っているのか、露骨に目を逸らす沙亜羅。

 「……ははは、これは一本取られたな」

 なぜか誇らしげな大馬鹿、ウェステンラ。

 そして、ネメシアは――

 「ん……? ど、どうした……!?」

 唐突に、ネメシアの体がぶるぶると震え――その中から、小柄の少女がにゅるりと飛び出した。

 「な、なんだ……?」

 いきなりネメシアから出てきたのは、メイド服姿の可愛らしい少女。

 その小さな体格に反し、胸はやけに大きい――雰囲気からして、こいつも淫魔か?

 「ボクはメイ。お手伝いに来たよ〜♪」

 メイと名乗った少女は、そのまま台所へとてとてと駆けていく。

 「わーい♪ メリアヴィスタ姉様、メイも手伝うよ〜♪」

 「あら……? メイちゃんじゃないですか。意外と元気そうですね」

 メイは戸棚から皿を出したりと、メリアヴィスタを手伝っていそいそと動いている模様。

 「……」

 そしてネメシアも、その無表情の中に誇らしげな雰囲気が伺える。

 只飯食らいではない、ということを主張したいのか――

 

 「は〜い♪ できましたよ〜♪」

 メリアヴィスタとメイが、朝食にしては豪華すぎるサンドイッチを皿に山盛りにして運んでくる。

 「はい、ネメちゃん……♪」

 メリアヴィスタが、ネメシアにサンドイッチの皿を差し出すと――

 ネメシアは、びくっと身を竦ませて後ずさりした。

 「あら……? どうしたんですか?」

 「なんか、凄く怯えてるみたいなんだけど……ネメシアいじめたりした?」

 沙亜羅の問い掛けに、メリアヴィスタは首を傾げる。

 「いえ、そんな覚えはありませんけど……」

 そんなやり取りを挟みつつも、メリアヴィスタとメイは皿を並べ終わった。

 そして、朝食の用意が全て終わると――

 ネメシアの体から、おもむろに触手が伸びた。

 それは、メイの体にしゅるしゅると絡みついてしまい――

 「うわー」

 そのまま、再びネメシアの中へと回収されていくメイ。

 作るだけ作って、自分は食べられないなんて――思えば、不憫な娘なのかもしれない。

 

 

 

 こうして腹を膨らませ、ほっと一休み――

 いや、のんびりしている場合ではなかった。

 戦力を集めるという話は、まるでまとまっていないのだ。

 「さて、どうする……? 『化け物狩り』組織は駄目、その二人も名前が分からないと言うんじゃ――」

 「……有力な戦力となりそうな者に、一人ばかり心当たりがある」

 俺の言葉に割り込み、ウェステンラは切り出した。

 「その者は中級淫魔だが、対化け物の戦闘訓練も受けており、戦闘技能は格付けよりも格段に高いはず。

  それに啓、お前がいる限りは、チームワークも問題あるまい――」

 「何だ? 俺の知っている奴か……?」

 「ああ。お前は嫌がるかもしれんがな――」

 「おい、まさか……!?」

 俺は、思わず顔を強張らせた。

 該当者は、たった一人しかいない――

 「あいつは、お前が倒したんだろう!?」

 「数百年の封印を施した――が、我の意志でいつでも封印を解くことができる」

 「ぐ、だからと言って、あいつを……」

 マドカ――いや、九条さつき。

 あの学園での事件、そのきっかけになった黒幕。

 あいつを、再び仲間にする――ウェステンラの提案に、俺は戸惑いを隠せない。

 「……間違いなく、あいつはお前に逆らいはせん。

  人間界に多大な迷惑を掛けた贖罪のために、今度は人間のために働いてもらう――ということでどうだ?」

 「……」

 俺の頭の中を、様々な感情がぐるぐると駆け巡った。

 しかし――世界に危機が迫っているという今、俺個人の私的感情は慎むべきなのかもしれない。

 「……仕方ないな。今は、一人でも戦力を増やしたいときだ」

 マルガレーテの絶大な力を目にした以上、俺は納得するしかなかった。

 マルガレーテとの再戦は間違いないし、ナギを殺したジェシアという奴までいるのだ。

 ここから先、いったいどういう奴と戦う羽目になるか分からない――

 そうである以上、九条さつきの力もぜひ欲しいところだ。

 「むむっ……何か、微妙な雰囲気がします。過去に何か、色々とあったような――」

 メリアヴィスタは、俺とウェステンラの顔をきょろきょろと見比べる。

 「……お前には関係ない。ともかく、どうするウェステンラ? さっそく今日にでも、あの学園に出向くか?」

 「そうしたいところだが……今日は、我に予定があってな。

  少し用事があって、『化け物狩り』組織本部に出向く必要があるのだ」

 そう言えば――こいつも、なぜか『化け物狩り』組織と繋がりがあるのだ。

 組織内の三強を知らなかったりと、内情にはあまり詳しくないらしいが――上層部とコネでもあるのだろうか?

 「そうか。じゃあ、後日にするか?」

 「いや――我が直接出向く必要もなかろう」

 ウェステンラは冷蔵庫を開け、スポーツドリンクのペットボトルを取り出した。

 それを両掌でしっかりと持ち、なにやらぎゅっと念を込める。

 「……よし。この水に、あの封印を解く魔力を宿した。

  例の学園の屋上で、奴はひとひらの花に変えられたことを覚えているな? その花に、この水を与えるがいい」

 「スポーツドリンクか……ありがたみがないな」

 それを受け取り、俺は溜め息を吐いた。

 「じゃあ、俺一人で行ってくるとするか。さっそく準備を――」

 「は〜い♪ 私も一緒にいきま〜す♪」

 メリアヴィスタが、しゅたっと手を挙げる。

 「お前は来るな。邪魔だ」

 すげなく告げる俺に、メリアヴィスタはしつこく食い付いた。

 「啓サマ……デートの約束、忘れたんですか?」

 「忘れたも何も、そんな約束をした覚えはない」

 「ひど〜い……暴れますよ」

 メリアヴィスタは寝転がり、手足をじたばたと動かす。

 それだけで、グラグラとアパート全体が揺れ始めた。

 いや――地面全体が揺れ、小規模な地震となっているようだ

 「おい啓、やめさせろ……! このままでは地殻に影響が出るぞ……!」

 「分かった分かった……連れて行ってやるから、暴れるな!」

 結局、折れざるを得ない――なんて迷惑な奴だ。

 「……私も、ちょっと昼間は留守にするから。姉さんが、どこか行きたい場所があるんだって」

 おもむろに、沙亜羅は口を開いていた。

 この姉妹も、憎み合っているのか仲が良いのかよく分からない。

 すると――俺の部屋に残るのは、ネメシアだけか。

 留守番をさせるのが、これほど危なっかしい奴も世の中にそうはいない。

 

 ともかく――

 俺とメリアヴィスタは、あの学園に。

 ウェステンラは、『化け物狩り』組織本部に。

 沙亜羅は、どこかに。

 あと深山優は、イタリア旅行という名の任務報告。

 ネメシアは留守番――

 今日の昼は、それぞれ別行動となったのである。

 

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