ゼラチナスキューブ娘


 

 「あっ……ちょうどいいところに……

  ねぇ……毒消し草、分けてくれない……?」

 

 ダンジョン内でばったりと出くわした二十代ほどのお姉さんは、掠れた声でそう訴えかけてきた。

 背中に背負っているのは大きく膨らんだ道具袋、おそらく冒険商人なのだろう。

 ちょっと水商売的な雰囲気の、色っぽいお姉さんだ。

 しかしその顔色は真っ青というより紫色、足取りもフラフラ。

 その理由は明白――この人は、毒に冒されているのだ。

 

 「だ、大丈夫ですか……!? どうぞ……!」

 僕は道具袋からすかさず毒消し草を取り出し、お姉さんに差し出していた。

 「ん、んん……」

 震える手でそれを受け取り、口に含むお姉さん。

 様々な種類の毒をたちまち分解する魔法の草を、もしゃもしゃと咀嚼し――

 その効き目はみるみる現れ、お姉さんの顔色はたちまちのうちに良くなっていった。

 どうやら、軽い毒だったらしい――が、このお姉さんは毒消し草も持っていなかったのだろうか。

 道具袋がパンパンになるほど荷物を持ちながら、そんな冒険の必需品も持っていなかったなんて――

 

 「ふぅ、たすかったぁ……」

 そんな僕の疑念はさておき、お姉さんは柔らかな笑みを見せた。

 「もうちょっとで、死んじゃうところだったかも。

  ありがとね、君……よく見ると、かなり若いわね。まだ十代の真ん中じゃない?」

 「はい……十六歳です。勇者を目指して、冒険しているんです」

 「そうなの。まだまだ少年の年齢なのに、偉いわね。

  ……私は、ダンジョンでお宝を集めては売りさばく商人。

  扱う品は冒険者向けじゃなく、金持ちの貴族向けの商品が専門なのよ」

 そう言いながら、お姉さんは大きな道具袋をごそごそとまさぐった。

 「何かお礼をしたいんだけど、君の役に立ちそうなアイテムはあったかな……?

  冒険に必要な品は、最低限のものしか持ってないし……」

 「いいですよ、そんな……お礼なんて……」

 そもそも、毒消し草さえ切らしていたほどだ。

 売り物を多く持ちすぎ、冒険の必需品の方は持ち合わせが少ないのだろう。

 それに、見返りを期待して助けたわけではない。

 困っている人を助けるのも、僕が憧れる勇者の仕事の一つなのだ。

 

 「う〜ん。手持ちのアイテムは……『無駄にキラめく指輪』、『祈りの裸婦像』、『至高の胡椒』……

  どれも、冒険の役には立たない嗜好品ばっかりなのよね」

 「もらっても、困ります……」

 どうやら、本当に貴族向けの品物ばかりらしい。

 そんなもの、勇者(見習い)である僕には不用の品ばかりだ。

 「あの……お礼なんて、いらないですよ。そんなつもりじゃ……」

 「あ……『ヨウカン』があったっけ。これはどうかな?」

 お姉さんが、道具袋から取り出したのは――両掌を広げたくらいのサイズの布包みだった。

 その形状は直方体だが、中身は本当にただのヨウカンなのだろうか?

 「いたいけな少年に『ヨウカン』の味を覚えさせるのもどうかと思うけど……君が喜んでくれそうなモノって、他にないしなぁ」

 そう呟きながら、お姉さんは包みを僕に手渡してくる。

 「わっ……なんだ、これ?」

 受け取った『それ』は、予想以上にぐんにゃりとしていた。

 まるでゼリーのような触感で、見た目よりはずっしりと重い。

 「それ、ものすごく高値で売れるんだけど……君は命の恩人だから、あげるわ」

 「あ、ありがとうございます……」

 手渡された際に包みがちょっと解け、中身が少しだけ露わになった。

 そのプルプルの触感そのままの外見で、まさにヨウカンのような立方体。

 形が崩れそうで崩れない……ややブルーがかった半透明の、奇妙な物体だ。

 それに――手に持って分かったが、微かに蠢いている。まるで、生きているかのように――

 この『ヨウカン』とやらは、やはり食料の類なのだろうか。

 こんな得体の知れないモノを食べるのは、少々ながら不気味だ。

 

 「あの……これ、どうやって食べるんですか……?」

 「食べちゃダメよ。それはねぇ、男性が自分を慰めるために使うの」

 「自分を……慰める……?」

 何か大きな失敗をしでかし、落ち込んでしまった自分。

 そういう時、『がんばれ、僕』と自分自身に呼びかけながら貪り食う――

 そんな、間抜けな光景が頭に浮かんでしまう――が、絶対に違うだろう。

 「えっと……意味が分かりません」

 「……あら、分からないの? 君、オナニーしたことないの?」

 「え!? ええっ……!?」

 女性が唐突に口にした卑猥な単語に、僕は目を白黒させていた。

 この人はいきなり、何を言い出すのか――

 自分を慰めるって、そういう意味なのか……?

 「そ、そんな……オナニーなんて、僕は……」

 「これはねぇ、男が欲求不満の時に使う道具。

  この『ヨウカン』にオチンチンを突っ込んで、快感を味わう……そういう用途なの」

 「え、ええっ……!?」

 この『ヨウカン』にペニスを突っ込むだって……?

 なんていかがわしい用途のアイテムなのだろう。

 だが嫌悪感と共に、こんなものがあったのか――という微かな興味が頭をもたげてしまった。

 いや……こんなのは健全ではないはずだ。

 断じて僕は、興味など感じていないぞ。

 

 「どうしたの、黙り込んで……ところで、ゼラチナスキューブ娘って知ってる?

  ネスカ地方の洞窟深くに出現する、立方体のゼリー状モンスター。

  人間の体がすっぽり包めるサイズでね。触手を伸ばして人間の男を捕らえ、その体を中に引き込み……

  そのまま溶かして、消化してしまうのよ」

 「……上位のスライムなら、よくある生態ですね」

 「でも、ゼラチナスキューブ娘の場合は単に消化されるだけじゃなくて……その精液も、養分として搾り取られてしまうのよ。

  君も、知ってるわよねぇ。気持ちよくなったとき、おちんちんから出てくる白い液体」

 「せ、精液を餌に……?」

 その奇妙な生態にそう呟き、僕は思わず顔を赤くしてしまう。

 「ふふっ……驚いた? まだまだ少年の勇者には、刺激の強い話だったかな?

  ともかく、ゼラチナスキューブ娘はそういう生態のモンスターなの。

  そして君にあげた『ヨウカン』は、ゼラチナスキューブ娘の体の一部。

  ペニスを気持ちよくする本能はまだ生きてるから、これを使ってパラダイスに……ってことよ」

 「……」

 彼女に細かく説明され、僕は『ヨウカン』が何なのか、どうやって使うのかを知ってしまった。

 それに対する嫌悪感のようなものが、ふつふつと沸き上がってくる。

 それは、一瞬だけ抱いてしまった興味の反動なのだろうか――

 「モンスターの体の一部をそんなことに使うなんて、汚らわしいですよ……」

 「ふふっ、潔癖ねぇ。私も、こういう仕事をするようになって知ったんだけど……

  世の中には、女性モンスターを性の対象にする男もそれなりにいるのよ。

  サキュバスの尾やら、スキュラの触手やら……そういう性癖の男に、高く売れるんだから。

  モンスター娘フェチっていうのかしら? 独り身の冒険者が、たまに目覚めちゃうんだって」

 「……」

 なにやら、僕などにはうかがい知れない深遠な世界だ。

 女モンスターに劣情を抱くなんて、不潔にも限度がある。

 そんな輩にだけは、関わり合いになりたくないものだ――

 ――そう思うと同時に、その背徳的な感覚はどこか心を揺するものがあった。

 そんな邪念を振り払い、僕は意図的に嫌悪の表情を浮かべ続ける。

 「あらあら、お気に召さなかった? まあ、興味がないのなら店で換金すればいいじゃない」

 「でも、こんなの――」

 「お礼代わりなんだから、受け取ってよ。私が恩知らずみたいじゃない」

 「……はい、分かりました」

 ここで受け取らないのも、逆に相手に気を遣わせるのか。

 仕方なく、僕はその不気味なアイテム『ヨウカン』とやらを道具袋にしまった。

 「じゃあ、私はとっとと地上に脱出するわ。

  最後になったけど……私は、旅の商人ネミ。またどこかで会ったらよろしくね」

 「えっと……僕は、見習い勇者のミルです。今度は手持ちのアイテムに気をつけて下さいね」

 「ふふっ……ご心配なく、さすがに懲りたから。もう毒消し草を切らせたりはしないわ。

  君とはまた会えそうな気がするわね、命の恩人さん。それじゃあね」

 「はい……お気を付けて」

 そう言い残して、女商人ネミは階上へと上がっていった。

 そして彼女と別れた僕はというと、難なくそのダンジョンを攻略。

 目的のアイテムを手に入れ、地上へと出たのである。

 

 

 

 

 

 その日の夜――

 ダンジョンから出た僕は、近くの森で野営していた。

 ぱちぱちと燃える焚き火の前で、道具袋の中身を確認する。

 今日使ったアイテムは、たいまつ二つに聖水、翌朝に道具屋で補充しなければいけない。

 あと、毒消し草も買い足しておかなければ――

 

 「ん? これは……」

 道具袋をまさぐる手に当たったのは、ネミから貰った例の『ヨウカン』。

 すっかり存在を忘れていたが、不意に奇妙な気分になってくる。

 この静かな森に、自分一人。周囲には人間や魔物の気配はない。

 寂しさのようなものさえ感じる状況で、僕は――

 

 「ちょっとだけ……試して、みようかな……」

 決して、いかがわしい動機ではない。

 不純な気持ちではなく、純粋な好奇心なのだ――

 僕はいそいそと下半身の衣服をずり下ろし、そして道具袋から『ヨウカン』を取り出していた。

 「……」

 それはひんやりしていて、相変わらず弾力に満ちている。

 ほんの少しながら蠢き、やはり生きているようだ。

 僕はそれを布包みから出し、掌であらためて感触を確かめてみる。

 「うわ、ぷるぷるだ……」

 非常に柔らかでありながら、崩れないゼラチン状の物体。

 これが、スライム型モンスターの体の一部だという。

 まるで脈動するかのように、うねうねと蠢いているのが不気味だが――

 それなりに、気持ちよさそうでもあった。

 ちょっとだけ……使ってみようか……

 

 「これを、どうすればいいんだ……?」

 中に突っ込む……とネミは言っていたが、突っ込む穴のようなものが見当たらない。

 強引に突き入れればいいのか、どうすればいいのか――

 肝心の僕のモノも、困惑を表すように縮こまったまま。

 とりあえず僕は、自分のモノに『ヨウカン』を擦りつけることにした。

 「……」

 恐る恐るそれを股間に持っていって、ぷにぷにの表面にペニスを擦りつける。

 すると、むにゅっ……とした心地よい感触が伝わってきた。

 「うぁ……」

 ひんやりしていて、とっても気持ちがいい。

 いつの間にやら、『ヨウカン』の表面は粘液で微かにぬめっているようだ。

 そのぬめりと粘り、そしてぷにぷにの感触――それは、予想以上に気持ちよかった。

 思わぬ触感に悦び、僕のモノは皮を被ったままむくむくと大きくなっていく。

 「すごい……これ……」

 これ、気持ちいい――

 感動にも似た感覚が、僕の全身を支配する。

 肉欲の赴くまま、僕は大きくなったペニスを『ヨウカン』へと擦りつけていた。

 弾力に満ちたプニプニ感が、ペニスを押し返すような刺激に身を震わせてしまう。

 「も、もっと……」

 自分の最も弱い部分で、この感触を味わいたい――

 僕は亀頭を覆っている包皮を剥き、敏感な先端部を露出させた。

 そして、亀頭を押しつけるように『ヨウカン』へとめり込ませる。

 「ひっ――!」

 まるで、ぐにゃりと押し返してくるような弾力。

 期待通り――いや、期待以上の快感に僕は息を荒げていた。

 亀頭で味わうプニプニ感に夢中になり、さらに『ヨウカン』の表面へと押しつける。

 そんな風に、敏感な亀頭を『ヨウカン』の表面にヌルヌルと擦りつけているうち――だんだん、頭がとろけそうな気分になってきた。

 もう、限界が近付いているのだ。

 こんな得体の知れないモノでイってしまうという屈辱。

 それも頭の片隅に追いやられ、このまま果てたい欲求が膨れていく――

 「あ、あぁぁぁぁ……」

 そして――ペニスを、むにぃときつく『ヨウカン』に押しつけた時だった。

 にゅるん……と、モノが『ヨウカン』の中にめり込んでしまったのだ。

 擦りつけているだけでも気持ちいい、ぷにぷにしたゼリー状の物体。

 それが、僕のペニスを根本までいきなり包んでしまった――

 

 「あぅぅぅ〜〜っ!!」

 その思わぬ刺激に、僕は上擦った声を漏らすしかなかった。

 もちもちしたゼラチン質の感触が、ペニスに吸い付くように密着してくる。

 弾力を伴いながら肉棒を締め付け、ぷるぷると蠢き、妖しくうねる――

 頭では何が起きたのか分からないまま、僕のモノは屈服してしまった。

 あまりに心地よい感触に耐えかね、下半身は勝手に射精の指示を下したのだ。

 「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ……」

 訳が分からないまま、びくびくと心地よい脈動が始まってしまう。

 尿道口から、ドプドプと迸ってしまう白濁液――『ヨウカン』が半透明なせいで、その様子がはっきりと分かる。

 「あ、あ、あ……」

 弾力による締め付けを受けながらの射精は、魂まで抜けそうなほどの快感だった。

 射精の脈動が終わるまで、僕はとろけそうな放出感を味わったのである。

 

 「あ、あぅぅ……もれちゃった……」

 精液をたっぷりと『ヨウカン』に注ぎ終え、だらしなく脱力してしまう僕。

 しかし――快楽は、それで終わりではなかった。

 「あ、だめ……そんな……」

 どぷっと溢れた精液を吸い取った後、『ヨウカン』がまたうねりの動作を始めたのだ。

 僕のモノを包んだまま、うにうに、ぐにょぐにょと――

 「お……あ……」

 半透明の『ヨウカン』の中で、自分のペニスがゼラチン質に締め付けられているのがはっきりと分かった。

 自分のモノが、こんな気持ちいい目に遭っている――それがありありと見せ付けられる屈辱と背徳。

 両手を離してもなお股間から離れず、ぐっちゅぐっちゅと肉棒を包んだまま蠢き続ける『ヨウカン』。

 僕はいつしか地面に転がり、言葉にならない声を漏らしながら身をわななかせていた。

 「あ、あひぃぃぃぃぃぃぃ……きもちいいよぉぉ……」

 射精直後のペニスを、間断なくゼラチン質で責め上げられる快感。

 それは、気持ちいいなどというレベルではなかった。

 ここまでの快感が、この世にあったのか――

 

 「あ、あぅぅ……あ……っ……」

 僕は股間の『ヨウカン』を振り払うこともできず、身をそらして喘ぐのみ。

 肉棒がぷにぷにのゼラチン質に埋まり、締め付けられるだけでなく――

 『ヨウカン』全体がぐにょぐにょと蠢き、妖しく蠕動しているのだ。

 「あひ……だめぇ……また、でるよぉ……」

 そのプルプル感に追い詰められ、そして――瞬く間に、二度目の射精に導かれてしまった。

 「あ、あ、あぁぁぁぁ……」

 ドクドク脈動する放出感に、頭までが白く濁っていく。

 ゼラチン質の中に迸った精液を、じゅるじゅると吸い上げてしまう『ヨウカン』。

 そして息つく暇もなく、また肉棒への甘美な刺激が行われるのである――

 

 「あひっ……あ、あぁぁぁぁぁ……」

 まるで、男性器から精液を搾り取られているような感覚。

 これはオナニー道具なんかじゃなく、男に快楽を強制するアイテムだ。

 その人智を超えた快感に、性経験の全くない僕は悶え狂うしかなかった。

 「あひ……きもちぃぃぃ……」

 股間の力が緩み、またもドクドクと脈動が始まってしまう。

 放たれた精液を『ヨウカン』は貪欲に吸い尽くし、そして妖しく蠕動し――

 「あぁぁぁぁぁ……でちゃうよぉ……」

 その快感に悶え、みっともなくのたうち回る僕。

 あまりの凄さに、唾液も涙も精液も垂れ流し。

 ゼラチン質の精液ポンプに、精を吸い尽くされるような気分だ。

 「おちんちん、とけちゃうよぉ……」

 あまりの快感に、ペニスの感覚がなくなってしまいそうになるほど。

 それでも放出感は凄まじく、どぷどぷ、ドクドクと溢れ続けている。

 「ひぁぁぁぁぁ……」

 僕は仰向けに倒れ、体をビクビクと震わせるだけになってしまった。

 それでも『ヨウカン』は肉棒をみっちり包んで離してくれず――

 ようやく解放されたのは、十回以上も射精した後だった。

 

 

 

 

 

 それから一ヶ月――

 僕はサルのように、その『ヨウカン』を使い続けた。

 夜への期待を抱きながら冒険し、ダンジョンを探索。

 そして夜は、胸躍る気分で肉棒を『ヨウカン』に委ねるのだ。

 こうして精液をたっぷり搾ってもらい、素晴らしい快感を味わう――

 僕はすっかり『ヨウカン』の与えてくれる快楽の虜になってしまったのである。

 

 しかし三日前、そんな僕に悲劇と失望が訪れた。

 一ヶ月もの間、散々に僕を悦ばせてくれた『ヨウカン』が動かなくなったのである。

 あの心地よいゼラチン質は見る影もなく、石のように固まってしまった。

 そしてみるみるひび割れ、砕け散ってしまったのだ。

 あくまで『ヨウカン』は、ゼラチナスキューブ娘というモンスターの体の一部。

 本体から切り離された状態では、そう長くもたなかったのだろう。

 

 こうして『ヨウカン』を失った僕は……ひどい空疎感に襲われていた。

 そして気がついたとき……僕は、ネスカ地方の洞窟へと足を踏み入れていたのである。

 ネミの話によれば、この洞窟の奥深くにゼラチナスキューブ娘が生息しているという――

 

 いったい、僕はなぜこの洞窟に入ってしまったのか。

 正直なところ、自分でも何を望んでいるのか分からない。

 一度でいいから、あの『ヨウカン』の本体を目にしたかったのか。

 それとも、心の奥底ではそれ以上のことを望んでいるのか――

 自分でも分からないままに、僕は探索の足を進めたのだった。

 

 

 

 「なんだ? こんなところに迷い込んだのか、少年……?」

 浅い階で声を掛けてきたのは、二十歳ほどの冒険者。

 彼はこちらに近付いてくると、僕の装備に目を留めた。

 僕は、この冒険者より強力な武具を所持しているのだ。

 「いや……これは失礼した、同業者か。しかも装備からして、俺より格上のようだ」

 「いえいえ……」

 どうやら初見で、迷子の少年に間違われてしまったかのようだ。

 僕は十六歳と冒険者としては若い上に、年齢よりも幼く見えてしまうらしい。

 実力の証とも言える強力な武具がなければ、笑われていたかもしれない。

 「ふむ。君の狙いも、俺と同じくこの洞窟の奥底に眠る『安らぎの石』か。

  おっと、争う気などないよ。最奥の鉱床からは、複数取れるという話だからな」

 「あ、はい……そうです」

 思わず頷いたものの……正直なところ、そんなアイテムはどうでも良かったし初めて聞いた。

 用事があるのは、この洞窟の奥深くに棲んでいるモンスターなのだ。

 「『安らぎの石』は精神錯乱系の魔法を無効化する優れたアイテム、冒険者なら誰もが欲しがる逸品だ。

  しかし……この洞窟の深層に潜む、とあるモンスターにわざわざ会いに行く目的の奴がいるという。

  肉欲に流され、自ら破滅の道を選ぶとは……同じ男ながら、なんと情けないことか」

 「……え?」

 思わず僕は、目をまん丸にしていた。

 露骨な軽蔑を含んだ言葉に、胸がずきりと突き刺される思いだ。

 「ど、どういうことですか……?」

 「いや……君のような少年には関係のない話だ。忘れてくれ」

 腕を組み、彼はくるりと背を向けた。

 冒険者としてのレベルは僕より劣っているものの、その精神は非常に立派なようだ。

 なにやら僕は、恥ずかしい気分になってしまう。

 「とにかく、頑張れよ。まあ……君の方がレベルが高いようだし、頑張るのは俺なんだが」

 「いえ……あなたも、お気を付けて」

 互いの身を案じる言葉を交わし、そして僕たちは別れたのだった。

 冒険者というのは、こういう一期一会が常。

 この洞窟の宝物は複数あるから問題ないものの、唯一無二のアイテムも世界には多い。

 血生臭い奪い合いを防ぐためにも、出会ったばかりの冒険者同士は共に行動しないのが慣習なのだ。

 こうして僕は、さっきの彼が進んだのとは別の階段を下りていった。

 

 

 

 そして、ダンジョン探索を進めること三時間。

 あれから数フロアを下り、洞窟の最深部も近付いてきた頃――

 僕は、近くで男性の悲鳴を耳にした。

 かなり近い場所から、つんざくような悲鳴が反響してきたのだ。

 

 「な、なんだ……!?」

 誰か、モンスターに襲われているのか――?

 しかも今の声は、さっき出会った冒険者に間違いない……!

 僕はとっさに、声の方向へと駆け出していた。

 目の前には、少し開けた広場。

 当然ながらいきなりそこへ飛び出したりせず、まず岩陰に身を潜めながら様子を伺う。

 そして、そこで僕が見たものは――

 

 「あ、あれは……」

 やはり、声の主はさっきの冒険者だった。

 彼が、奇妙なモンスターと戦っていた――いや、襲われていたといっていいだろう。

 モンスターは無数の触手を伸ばし、冒険者はそれを振り払えない状態になっていたのである。

 「……あいつは?」

 その相手は、人間をすっぽり包み込めるほど大きなゼリー状の立方体。

 その上には、綺麗な女性が涼やかに腰掛けていた。

 キューブも女性の体も、おそらく半透明のゼリーで形作られているようだ。

 あれで、一つの生物――ただし、一つだけゼリー状ではない箇所があった。

 ゼリー状の女性部分の股間には、イソギンチャクのような器官が備わっている。

 そこから無数の触手が伸び、さっきの冒険者に襲い掛かっているのだ。

 「ぐうっ……うぉぉぉぉ……! あああっ……!」

 冒険者は必死で剣を振り回しているが、とても抗いきれない状態。

 もはや、触手で絡め取られてしまう寸前の窮状だった。

 間違いない、あれがゼラチナスキューブ娘。

 あんな風に触手で獲物を捕らえ、ゼリー状のキューブへと取り込み――そして、消化しまうのだ。

 その際、精液も一緒に搾り取られてしまうのだという。

 あの哀れな冒険者も、今からそんな目に――

 「う、うぅぅ……」

 当然ながら、ただちに助けなければならないシチュエーション。

 触手の動きなどを見る限り、僕のレベルならば大した強敵でもないはず。

 それなのに――なぜか僕は助けに出ることなく、岩陰から一歩も足を踏み出せなかった。

 彼とモンスターに目を奪われ、体が全く動かなかったのだ。

 

 「や、やめろ……くそっ!」

 身をよじり、全身に巻き付いてくる触手から逃れようとする冒険者。

 剣をムチャクチャに振り回し、必死で抗おうとするが――

 そんな抵抗も虚しく、とうとう触手に絡め取られてしまった。

 まず腕が封じられ、そして足にも胴にもしゅるしゅると触手が巻き付いていく。

 「あぐぅ……!」

 彼の手から剣が落ち、地面の上へと転がった。

 冒険者の窮地の前に、僕は――岩陰に身を潜めたまま、その様子を食い入るように眺めているのみ。

 これから、どんな風にされるのだろう――そう思っただけで、体が動かないのだ。

 助けなければいけないことは、分かっているというのに――

 

 いや――冒険の途中で起きたことの責任は、全て冒険者本人が負う。

 これは冒険者の間での常識だ。

 彼は決してダンジョンに迷い込んだ一般人ではない。

 覚悟を持って冒険に望んだ者なのである。

 非情なようだが――これは、彼の実力不足が招いた事態。

 居合わせた冒険者の僕にさえ、助ける責任も義務もないのである。

 そんな言い訳を心中で並べながら、僕はその様子を興味と興奮の入り交じった目で眺めていた。

 

 「くそ、やめろぉぉぉ……」

 無数の触手が冒険者の装備を剥ぎ、服までを引き裂いていく。

 そして――たちまち露わになった下半身に、触手がにゅくにゅくと巻き付いていった。

 「あうっ……!」

 そのうちの一本が、男性器にも巻き付いてしまったらしい。

 今の悲鳴には、恐怖以の感情が確かにこもっていたのだ。

 「あ、あ、あぁぁぁ……」

 悲鳴は徐々に掠れていき、喘ぎ声へと変わっていく。

 数本の触手が彼の股間にまとわりつき、肉棒を弄んでいるようだ。

 いつしか冒険者の顔は緩み、だらしなく弛緩してしまっていた。

 「しょ、触手で……されてる……」

 思わず、そう呟いてしまう僕。

 男の股間に群れ集まり、ぐにゅぐにゅと蠢く無数の触手。

 それが気持ちいいのかどうかは、彼の表情を見れば一目で分かる。

 まるで見たことがない、とろけきったような顔。

 たぶん、『ヨウカン』を使っている時の僕も同じなのだろう――そんな顔だ。

 そして――キューブの上に腰掛けながら、その様子を見て涼しげに笑うゼリー状の女性。

 あれは、あのモンスターがやっているのだ。

 獲物を取り込んでしまう前に、触手で弄んでいる――

 

 ――僕も、されてみたい。

 

 「……ッ!」

 不意に脳内に浮かんだ不穏な感情を、首を左右に振って打ち消した。

 何を考えているんだ、僕は――

 

 「あ、あぅぅぅ……」

 僕が煩悶している間にも、冒険者は触手で追い詰められていった。

 冒険者の体がガクガクと震え、その表情が恍惚に染まる――

 同時に、触手で絡まれた股間部で白い花火が吹き上がるのが分かった。

 すごく気持ちが良かったのだろう、その量は驚くほど多い。

 「ふふふ……」

 触手責めで射精する冒険者の様子を見て、ゼラチナスキューブ娘は艶やかに笑った。

 そして――とうとう、冒険者の体をゆっくりと触手で引き寄せ始める。

 彼女の腰掛けている巨大なキューブ部分、溶解と搾精の檻へと引きずり込むのだ――

 

 「あ、あぁぁぁ……やめてくれぇ……」

 弱々しく身をよじりながら、キューブの中へと引き込まれていく冒険者。

 そして、その体がにゅるり……とゼリー状のキューブにめり込む。

 まるで、不気味な生物に丸呑みされてしまうかのように――

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 そんな悲鳴さえ、キューブの中へと呑み込まれていった。

 冒険者の体はゼリーの塊に沈み込み、まるで溺れているかのように全身をバタつかせている。

 しかし彼の表情は、この上もないような快楽に染まっているのが見えた。

 キューブは半透明のため、肉棒がびくびく震えながら精液を吐き出しているのが分かる。

 あの中で、ゼラチン質に満ちた快感を与えられているのだ――

 

 「す、すごい……」

 僕はその様子を、ヨダレを垂らしそうな表情で眺めていた。

 なんて、羨ましい――

 そんな、明らかに異質な感情さえ抱いてしまう。

 思わず、ごくり……と生唾を呑み込んでしまった――

 

 「……?」

 不意に、ゼラチナスキューブ娘は僕の方を向いた。

 しまった、聞こえたか――

 「ひっ……」

 僕は息を潜め、岩陰でじっと身を潜めた。

 ここで見つかれば、自分も同じ運命に遭うのだ。

 いや、僕と相手のレベルからして、戦えばおそらく勝てるだろう――

 むしろ、捕まってみたい――

 このまま見つかって、僕も同じようにされたい――

 触手で弄ばれ、ゼリー状のキューブに沈められてみたい――

 「う、うぅぅ……」

 早くなる動悸、乱れていく呼吸。

 恐怖や戸惑い、そして破滅的な願望が沸き上がってくる。

 その次の瞬間――僕は不意に、背後から気配を感じていた。

 正面のゼラチナスキューブ娘ではなく、岩陰に潜んでいる僕のそのまた背後――

 

 「え……?」

 思わず振り返る僕――その目に映ったのは、なんともう一体のゼラチナスキューブ娘だった。

 こちらは、向こうにいる同種よりも若いらしく――ゼリー状の女性部は、少女の外見をしている。

 そして、そいつは僕に気付いていた。

 にっ……と、キューブに腰掛けた少女が妖しく笑う。

 

 「あ、あぁぁぁぁ……」

 僕はぼんやりと、しゅるしゅると自分に伸びてくる触手を眺めていた。

 「う……あ……」

 ほとんど無抵抗のまま、触手に巻き付かれていく僕。

 触手の感触はぷにぷにでヌルヌル、それが僕の体に巻き付き、じっくりと絡んできた。

 鎧も引き剥がされ、衣服も引き裂かれ――

 「あぅぅ……」

 少し前の僕ならば、それを気持ち悪いとしか感じなかっただろう。

 そして、振り払えるだけの力も持っている。

 しかし今の僕は――完全に無抵抗のまま、触手に捕らわれることを甘受していた。

 捕まえてもらって、嬉しい――そんな思いさえ抱いている状態で。

 

 「あ、ひぃぃぃ……」

 嫌がるどころか、素肌の上に触手が這い回る感触に身悶えしてしまう。

 いよいよ、このゼラチナスキューブ娘の獲物にされてしまうのだ。

 さっきの冒険者のように、まず触手で肉棒を弄んでもらえるのだろうか。

 それとも、一気にキューブの中へと引き込まれるのだろうか――

 触手に絡みついてもらいながら、僕は期待を抱きつつ次に起きることを待っていた。

 「えへへ……」

 僕の体を触手で絡め取り、少女の外見をしたゼラチナスキューブ娘は艶やかに笑う。

 そして、同時に――僕の股間へと触手が向かってきた。

 「あ、あぁぁぁぁ……」

 まずは、触手でペニスを責めてもらえるのだ。

 さっきの冒険者みたいに、この触手で肉棒をグルグル巻きにされる――

 そして、イかせてもらえる――その期待に、僕は色めき立った。

 股間に迫ってくる触手を物欲しそうな瞳で眺め、そして――

 とうとう、膨らんだ肉棒に触手がしゅるしゅると巻き付いてきた。

 

 「あひっ……!」

 その柔らかで、弾力に満ちた感触。

 それがペニスに螺旋状に絡みつき、じっくり巻き上げていく。

 その感触だけで、僕は快感に震えてしまった。

 「ひぃ……き、きもちいい……」

 まるで、肉棒にゆっくりと取り付いていくかのように――

 根本から亀頭の真ん中あたりまで触手に覆われ、亀頭の先っちょだけが露出している状態。

 螺旋状に絡まれているだけでも、たちまち漏らしてしまいそうなくらい気持ちいいのに――

 肉棒をみっちりと巻き取った触手が、不意にうにゅうにゅと収縮を始めたのだ。

 「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 それは、何十本もの指でペニス全体が揉みしだかれているような刺激。

 あまりに甘い快感にさらされ、僕は全身に巻き付く触手の中で体を弛緩させた。

 「ひぁ……あぁぁぁ……」

 ぐじゅぐじゅぐじゅと、ペニスに絡んだまま収縮する触手。

 それはカリのくびれに食い込み、傘の部分にも巻き付きながら締め付けてくる。

 まるで搾っているような、妖しく甘い蠢きだ――

 「あ、あぅぅぅぅ……」

 ペニスが触手で揉みしだかれるごとに、体から力が抜けていく。

 甘いうずきがじんわりと腰に広がり、股間からこみ上げてくる――

 「ああぁぁぁぁ……でるぅぅぅ……!」

 触手に巻き付かれたまま、どくん、どくんと脈打ちが始まった。

 ペニス全体が触手に絡まれ、亀頭の先の方しか見えない状態――その先端から、ドクドクと精液が打ち上げられる。

 「あうぅぅぅぅぅ……」

 射精の脈動に伴う快感、そしてペニスに巻き付いたままの触手の感触――

 それは、僕を甘い恍惚の世界に浸らせる。

 触手に絡まれたまま射精している僕を見据え、ゼラチナスキューブ娘はにやっと笑った。

 そして――おもむろに別の触手が伸びてきて、亀頭の先端部をにゅるりと撫で上げたのだ。

 精液をドクドク放っている鈴口を、まるで舐めるように――

 「あうっ……!」

 その刺激で、僕はビクンと身をわななかせた。

 おそらく、養分となる精液を触手表面で直に受けているのだろう。

 ペニスに巻き付いているのとは別の触手に、亀頭部をにゅるにゅると撫でられている――

 「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 それは、二本の触手による同時刺激だった。

 一本はペニスに巻き付いてうにゅうにゅと収縮し、もう一本は先端をじっくりと責め上げる。

 射精の脈動が終わってもなお、触手は肉棒にまとわりついて刺激をやめてくれない。

 「うぁぁ……また、でちゃうよぉぉ……」

 そんな僕の懇願を、聞いてくれるはずもなく――

 うねうねと蠢く触手に弄ばれ、僕はあっけなく二度目の射精に追いやられてしまった。

 

 「あぁぁぁ……」

 びゅるびゅると精液を搾り出されながら、僕は快楽に浸りきってしまう。

 触手によってイかされた――いけない遊びのような背徳感。

 そして、強烈な快感の残滓による虚脱感。

 触手に巻き取られたまま弛緩した僕に対し、ゼラチナスキューブ娘は感情の読めない視線を送った。

 そして――

 「……えへへっ」

 「……う、うぅぅ……?」

 そして――いよいよ、僕の体がゼラチナスキューブ娘の方に引き寄せられ始めた。

 触手で絡め取られた僕の体を、まるでたぐり寄せるかのように――

 「あ、あぅぅぅ……」

 それでも僕は抗うことなく、弛緩したまま――迫ってくるゼリー状のキューブを眺めていた。

 いよいよ、あのゼラチン質のキューブの中に包み込んでもらえるのだ。

 あんなに小さくても、あれだけ気持ちよかった『ヨウカン』。

 しかし今度は、肉棒だけじゃなく全身をずっぽりと包まれてしまうのだ――

 今まさに捕食されようとしている僕は、恐怖ではなく期待を感じていた。

 このまま力尽きることが分かっていても――それでも、あのゼラチンの誘惑からは逃げられなかったのだ。

 

 「あ、あぁぁぁぁぁ……」

 目の前に迫ってくる、キューブの外壁。

 そして、獲物が捕食される様子を楽しそうに見下ろす少女。

 その視線を受けながら――僕の体は、キューブの中ににゅるり……とめり込んでしまった。

 「あぅぅぅぅぅ……!!」

 それは、まさに一瞬。

 僕の全身は、ぷにぷにのゼリーにみっちりと包まれてしまう。

 視界も半透明のブルーが掛かり、柔らかな温もりが全身を覆うった。

 そう――『ヨウカン』はひんやりしていたが、ゼラチナスキューブ娘の中は人肌のように温かかったのだ。

 「あ、あぅぅ……あぁぁぁぁぁぁ……」

 そして、ゼラチン質が僕の全身をもちもちと締め付けてくる。

 ペニスもぐっちゅりと包まれ、弾力に満ちたぷにぷにの刺激を与えられ――

 「あひ……! ひぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 あまりの快感に、僕は悶えながら絶叫していた。

 キューブの中は微かに蠢き、脈動し、柔らかに流動している。

 その動きが、ゼラチン特有のプルプル感を伴いながら全身に伝わってくるのだ。

 全身にその刺激が与えられ、肉棒も同様にゼラチンで責め上げられ――

 そして、僕の肉体はあっという間に屈服してしまった。

 「あ、あうぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 キューブの中で、ドクドクと迸る精液。

 ゼラチン質の感触で絞り上げられ、一瞬で射精したのだ。

 「ふぁぁぁぁぁぁ……」

 肉棒がびくびくと脈動している間にも、ゼラチンの感触が根本から先端までを包んで締め付け続けている。

 弾力に満ちたゼラチンの壁で、ギュウギュウと搾られているような感触。

 頭上では――自身のキューブに捕らえた獲物を、少女がにこやかに見下ろしているのが見えた。

 この可愛らしくて妖艶なモンスター娘に弄ばれている――

 彼女の体内で、男のエキスを吸われている――

 「あぁぁぁ……また、もれちゃう……」

 そんな興奮の中で、またもやドクドクと精液が漏れだした。

 するとペニスを包んでいるゼラチンがくにゅくにゅと締め付け、さらなる排出を促す。

 そうやって僕を何度も何度も射精に追い込み、そして――

 「あひ、あひぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

 ぐっちゅぐっちゅとキューブ全体が流動し、僕の全身をねっとり咀嚼するような動きが加わってきた。

 そう――僕はこれから精液を搾り取られながら、消化されてしまうのだ。

 人肌の温もり、そしてプニプニのゼラチン質の感触に溶かされてしまう――

 「あ、あぁぁぁぁぁぁ……」

 獲物の精を搾り、そして消化してしまうゼラチンのキューブの中で、僕はだらしなく脱力していた。

 普通の感覚ならば、おぞましいゼリーの檻――それなのに、まるで恐怖も嫌悪もない。

 全身が生温いゼリーに浸けられた、とろけるような幸福感。

 ペニスがくにゅくにゅと締め付けられ、精液を搾り出されている放出感。

 ドロドロの感触がねっとりと全身に絡みつき、溶かされていく恍惚感。

 それらが合わさり、僕は天にも昇るような気分だったのだ。

 

 「あ、あぅぅぅ……」

 生温いゼリーに、じっくりと精液が搾られていく。

 快感と恍惚に身を委ね、僕はキューブの中でドクドクと精液を漏らし続ける。

 ――気持ちいい。

 ――とろけそうに気持ちいい。

 こんな風に溶かしてもらえるのか。

 こんなに気持ち良く捕食してもらえるのか――

 

 「ふぁ……ぁ……」

 徐々に、体がとろけてくるのが分かる。

 ゼラチナスキューブ娘の中で、全身がじっくり溶解されていく。

 僕はひたすら精液を漏らしながら、溶かされる快感さえ甘受していた。

 このまま、消化されたい――

 ゼラチナスキューブ娘に溶かされたい――

 彼女に捕らわれた者は、おそらく誰しもそう感じるだろう。

 それだけ、消化される快感は素晴らしいものだった。

 

 「ひぅ……ぅ……」

 心地よい放出感ととろけるような恍惚感がドロドロに混ざり、虚脱感も加わっていく。

 頭がぼんやりして、意識が薄れていく。

 もう、僕の体はかなり溶けてしまっているのだろう。

 それでも、生温かいゼリーに包まれている感触は味わうことができた。

 そう、最期の一瞬まで――

 

 「きもち……ぃぃよぉ……」

 生温いゼリーに混じって、僕の意識もとろけていき――

 そして、安らかな恍惚と共に果てていった。

 

 こうして僕は力尽き、ゼラチナスキューブ娘の餌食となってしまったのである。

 

 

 

 

 

 「う、ぅぅ……」

 気がつけば、僕は狭い棺桶の中にいた。

 その蓋が開かれ、覗き込んでくるシスターの心配そうな顔。

 「あ、あれ――?」

 ゆっくりと上半身を上げると、そこは最後に立ち寄った村の教会だった。

 ――そうだ。

 僕は、ダンジョン探索の途中で力尽きてしまったのだ。

 

 「おお、冒険者よ。力尽きてしまうとは情けない……蘇生費用は、300ゴールドとなりますぞ」

 「あ、ご迷惑を掛けます……」

 慌てて財布を開けると、所持金はきっかり半分になっていた。

 冒険者が力尽きた場合、持っていたお金の半分はモンスターに持っていかれてしまうのだ。

 その上で神父に300ゴールドを払い、ふらつく足取りで小さな教会を後にしたのである。

 

 「……力尽きるなんて、いつ以来だろう……」

 寂れた村の通りを進みながら、僕はぼんやりと呟いていた。

 冒険の途中で力尽きたのは、まだ駆け出しの冒険者だった頃以来のことだ。

 それも、あんな形で力尽きてしまうなんて――

 「……」

 さっきの最期を思い出すだけで、思わず下半身が疼いてしまった。

 また、あんな風に力尽きてみたい。

 あんな快感を、また味わってみたい――

 

 「う……ぼ、僕は……何を考えているんだ……」

 首を左右に振り、頭の中に沸いた雑念のようなものを振り払う僕。

 しかし僕は、あの体験で確実に目覚めてしまっていたのだ。

 モンスター娘に精液を吸われる、背徳的な魔性の快感に――

 

 「……あれ? なんか、前にもこんなことが……」

 一瞬だけ、僕の脳内に不思議な思い出がフラッシュバックした気がした。

 遙か以前――幼い頃に、似たような事があった気が……

 「なんだろ……ま、いっか」

 僕は勇者見習い、ゆくゆくは真の勇者にならなければならないのだ。

 こんなところで、変な肉欲に翻弄されている暇はない。

 邪念を振り払い、冒険者としての本分を取り戻さなければ――

 

 「よし、行くぞ!」

 そう気合いを入れつつも、あの快楽の記憶は下半身を生温く揺さぶっていた。

 人間以外の者を性の対象にする、甘美な背徳感。

 それによって得られる、素晴らしい快感。

 ちょっと前ならば、変人としか思えなかった性的嗜好――

 あの体験で、僕はそんなものを背負ってしまったのである。

 

 勇者見習いとしての僕は、ほんの少しだけ歪んでしまったのかもしれない。

 

 

 



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