カードデュエリスト渚


 

 「『ねこまた』、『月夜のレディバンパイア』に攻撃だ――」

 それでも、倒せてしまえばしめたもの――そんな甘い期待の元、僕はねこまたに攻撃を指示していた。

 なんら確証のない、思いつきに近い判断。

 そしてそれは、致命的な判断ミスでもあったのだ。

 『ふにぃ……!』

 おもむろに、女吸血鬼に飛び掛かるねこまた――

 『分からんのか、デュエリスト? 同じ事を繰り返すのみだというのに』

 『月夜のレディバンパイア』はマントを軽く翻し、まるで牛をいなす闘牛士のようにねこまたの体をマントで包んでしまった。

 そのままねこまたはマントにくるみこまれ。じたばたともがく――

 「そ、そんな……!」

 マントの中での動きはみるみる緩慢になり、そして動きはなくなり――

 ふっと、マントの中に包まれていた『ねこまた』の姿が消失した。

 マントにくるまれたままイかされ、撃破されてしまったのだ。

 『ふふ……精気に溢れたあやかしだ、美味しく吸わせてもらったぞ』

 「くっ、なんてことだ……」

 あまりにもうかつな判断ミスにより、場に残った僕のモンスターは『風刃のシルフ』のみ。

 しかし『風刃のシルフ』は、『月夜のレディバンパイア』の反撃でも撃破されなかったカードなのだ。

 普通の攻撃はほとんど効かないようだから、頼りになるはず――

 

 「これで、ターンエンドだ……」

 「ふふ、読み違えましたか……? では、ドローしますね」

 アイリスはデッキに手を伸ばし、一枚を引き――そして、くすくすと笑った。

 「切り札を引いてしまいました。これで勝負は決まりですね――」

 「え……?」

 そしてアイリスは、引き当てたばかりのカード――切り札とやらを場に出す。

 「『陶酔のウツボカズラ』、召喚です――」

 「こ、これは……!?」

 そして場に現れたのは、緑色のツボ状植物――食虫植物で有名な、ウツボカズラ。

 そのサイズは小さく、ちょうど握り拳を二つ合わせたぐらいだろうか。

 不気味な壷状ボディの中には、琥珀色の粘液が満たされているようだが――

 この奇妙なカードが、アイリスの切り札だという。

 こんな小さなサイズで、いったいどういった攻撃を繰り出してくるのだろうか。

 

 「では『陶酔のウツボカズラ』、『風刃のシルフ』を攻撃――」

 「え……?」

 そのウツボカズラはしゅるしゅると複数のツタを延ばし、たちまち無数のシルフ達を絡め取っていった。

 不思議なことに、あれだけ俊敏に空を舞っていたはずの彼女達の動きは鈍い。

 ほとんど逃げる様子もなく、シルフ達はツタに捕まっていき――

 そのまま彼女達は、次々と粘液の満たされたツボの中に引き込まれていったのだ。

 それは、なんともおぞましい光景。ツボの中に引きずり込まれたシルフは、もがく様子さえ見せていないのだ。

 そして風の精達は、次々とウツボカズラの中に消えていく――そのまま、再び姿を現わすことはなかった。

 一体残らず、シルフ達はウツボカズラに呑み込まれてしまったのだ。

 「撃破された、のか……?」

 「ふふ、溶かしてしまったんですよ……」

 アイリスは、くすくすと笑った。

 少女特有のあどけない表情とは裏腹に、その笑顔からは不気味な残酷性が伺えた。

 彼女はウツボカズラに捕えられていくシルフを眺め、愉しそうに目を細めていたのだ。

 「捕えた相手を陶酔に浸らせ、絶頂させながら溶かして、養分にしてしまうんです。

  一番最初は、小型のモンスターしか捕獲できませんが――」

 不意にウツボカズラの体が、ぐにょぐにょと蠢き始めた。

 まるで、中に閉じこめたシルフ達を咀嚼しているかのように――

 「そ、そんな……!?」

 そして蠢きが収まった次の瞬間、ウツボカズラは一回り肥大していた。

 さっきまでは握り拳二つ分の大きさだったのが、人間の胴体ほどに膨らんでしまったのだ。

 その余りのおぞましさに、身の毛がよだつ思いだった。

 ああして他のモンスターを捕え、養分にして大きくなっていくのか……?

 

 「これがレアリティAのレアカード、『陶酔のウツボカズラ』の特殊能力。

  第三段階になると、人間をも呑み込めるサイズになるのですよ……」

 くすくすと笑いながら、アイリスは目を細める。

 「最後にはお兄さんを溶かしてあげたかったのですけど……その必要もありませんね。

  もう、お兄さんを守ってくれるモンスターはいないのですから――」

 「く、くそっ……!」

 ――そうだ。

 場に出ていた唯一のこちら側モンスター、『風刃のシルフ』は『陶酔のウツボカズラ』に撃破されてしまった。

 そして、まだ『月夜のレディバンパイア』は行動していない。

 この女吸血鬼の攻撃は、もはや守るモンスターのいない僕にまで届くのだ――

 

 「ピクシーやねこまたが味わった快感を、お兄さんも楽しんで下さいね。

  『月夜のレディバンパイア』、敵プレイヤーを攻撃――」

 『了解した、マスター。この者の精を啜れば良いのだな……?』

 「ひっ……!」

 マントをはためかせ、美しい女吸血鬼が僕に迫ってきた。

 そして――僕の眼前で、ぶわっとマントが広がる。

 その内側は――ヌルヌルの粘膜のような内膜に、その表面をびっしりと覆う触手。

 一本一本の長さは大したことないが、細く細やかな大量の触手がそれぞれ別々にうねっている。

 まるで、大量のミミズがマントの裏地を埋めているかのようだ――

 「あ、あぁぁぁ……」

 それは何とも不気味な光景でありながら、不思議なまでに淫猥でもあった。

 このマントで全身をくるまれたら、どれだけ気持ちいいのだろうか――

 

 『妖精や妖猫の精気を吸い尽くした我が衣、彼女達のマスターたるお主もその身で味わうがよい。

  ただしお主が吸われるのは、精気ではなく精液だがな――』

 そのマントが、ふわりと僕の頭から被さってきた。

 そのまましゅるしゅると全身をマントに絡め取られ、強引に巻き付けられてしまう。

 たちまち遮られる視界。そして裏地にびっしりと備わった触手が、僕の全身に密着し――

 「あ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 そして僕は、頭からつま先まで壮絶な愛撫を受けていた。

 触手の一本一本が蠢き、素肌の上をじゅるじゅると這い回る。

 肩にも、胸にも、脇にも、腰にも、うなじにも、耳にも、太腿にも、背中にも、そして股間にも――

 ミミズのような細い触手が、ぬるぬるとぬめりながら肌をくすぐり、にゅるにゅると這い回ってくるのだ。

 そしてペニスにもざわざわと無数の触手が集まり、絡み付き、這い回って蹂躙の限りを尽くされていた。

 

 「ひぃ……! あ、ぐぁぁぁぁぁ……!!」

 光も遮られたマントの中で、僕は体をよじって悶える。

 しかしどれだけ体をくねらせても、マントの拘束から逃れることはできない。

 それはしっかりと全身に巻き付けられ、僕が射精するまで女吸血鬼は出してくれないのだ。

 正確に言えば、『月夜のレディバンパイア』の攻撃が持続する間――おそらく四十秒ほど耐えれば、この責めは終わる。

 しかしそんなことにも思いも至らないほどに、その全身触手愛撫は強烈だった。

 まるで、マント自体が消化器のようなもので、その中で溶かされているのではないかと思うぐらいに――

 

 「どうですか、お兄さん? 『月夜のレディバンパイア』のマントに包まれて、我慢できた方はおりません。

  そのまま、気持ちよく果てて下さいね――」

 『そういうことだ。我がマスターの前で、我に精を吸われてしまうがいい』

 「あぐ、うぁぁぁぁ……!!」

 にちゃにちゃと、粘つくような音を立てながら触手に絡み付かれる肉棒。

 その表面を這い回られ、締め付けるように巻き付かれ、亀頭をいじられる感触――

 とろけそうな快感の前に、とても我慢することなどできなかった。

 「あぁ……いく、出るぅぅぅぅ……!!」

 沸き上がってくる衝動を抑えきれず、僕は腰から力を抜いてしまった。

 マントの中で身を反らせ、そして込み上げてくる疼きを漏らしてしまったのだ。

 

 どくっ、どくどくどく……

 

 ひときわ粘っこくカリ首に触手を絡められた瞬間、僕は射精していた。

 魅惑の女吸血鬼のマントは、精を吸い尽くす魔性の衣。

 それで全身を嫐りたてられ、僕は敗北の白濁を噴き上げてしまったのである。

 

 『お主の精子、存分に吸わせて貰ったぞ……』

 満足そうに囁きながら、女吸血鬼はマントを解いて僕を解放する。

 ようやく戻ってきた視界に映ったのは、アイリスの笑顔だった。

 それは勝者の優越に満ち、どこか見下すような色さえ浮かべていた。

 「ふふ……イかされましたね、お兄さん。あなたの負けです」

 射精の恍惚に浸る僕を見据え、くすくすと笑うアイリス。

 それは、まさに堕ちていくような悦楽だったのである――

 

 

 

 

 

 そして、あの敗北から一ヶ月――

 アイリスに屈辱の敗北を喫してから、僕は一度たりとも勝つことができなかった。

 その戦いで大切なものを失ってしまった僕は、もはやデュエリストの資格を返上していた。

 それでは、今もこのF-タウンでデュエルを繰り返している僕は何者なのか――

 

 「うんうん、『魅惑のスライム』に『セクシーエルフ』、『野良ラミア』か……」

 カードショップから出て来た僕は、購入した三枚入りパックの中身を確認する。

 いずれも平凡なカードだが、これでまたデュエルを行うことはできるのだ。

 残りカード十二枚でデュエルを行えなくなっていたが、これで総数十五枚、三回負けても大丈夫なのである――

 ――こういう風に、働いて稼いだお金を、僕はひたすらカードの補充に費やしていた。

 ただ、この町でデュエルを繰り返すためだけに――

 

 「あら……お兄さん。今日もお会いしましたね」

 「必死でボク達――いや、アイリスを探し回ってたみたいだね」

 僕の姿を見付け、あの双子の姉弟はくすくすと笑っていた。

 あのカードショップの前に毎日足を運べば、三日に一度はこの二人に会えるのである。

 「デ、デュエルを……」

 「分かっていますよ、お兄さん。今日も私のカードテクニックで果てたいのでしょう?」

 「あ〜あ。もう、アイリス姉さんの虜だね」

 僕はこくこくと頷き、期待に胸を膨らませる。

 おそらく物欲しそうな視線を、アイリスに送っていただろう。

 今日の彼女は、どんなデッキを組んでいるのか。

 どんなカードで、僕を嫐ってくれるのか――

 「あらあら……お兄さん、すっかり堕ちてしまいましたね」

 「ドローンになっちゃったんだ……もう、精液吸われちゃうことしか考えられないんだね」

 ドローン――すなわち、「溺れた者」。

 このF-タウンにおいて、勝つ気もないのに快楽目当てでデュエルを繰り返す者のことだ。

 その数はかなり多く、ひたすらカードを買っては快楽目的のデュエルを繰り返している――僕もその一人。

 事実上カードを貢ぐだけの存在であり、まともなデュエリストとしては扱っても貰えないのだ。

 「では、デュエルを始めましょう。今日も、白い液体を搾り出してあげますね……」

 あの見下したような微笑みを浮かべながら、アイリスはデッキを抜いたのだった。

 

 

 

 「『月夜のレディバンパイア』、プレイヤーを攻撃……ふふ、こうしてほしかったのでしょう?」

 「あ、あぁぁぁぁぁぁ……!!」

 最初に僕を堕としたモンスターで、アイリスはとどめを刺してきた。

 あの女吸血鬼はマントを翻し、妖艶な笑みを浮かべながら僕へと迫る――

 あのマントで次々と僕の雑魚モンスターを包み込み、愛撫して撃破してしまったのだ。

 そしていよいよ、その攻撃を僕も受ける番になった――

 「頭だけは出してあげますね。お兄さんが果てる顔が見たいので――」

 「あう……! あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 以前と違い、女吸血鬼は僕の首から下をマントでくるんできた。

 みっちりとあの触手マントで包まれ、頭部だけが外部に露出している――

 そんな状態で、じゅるじゅると触手に全身を嫐られるのだ。

 消化器官に溶かされてしまうような吸精攻撃を受け、僕はマントの中で身をよじる。

 このまま、なすすべもなく精液を吸い取られてしまう――その屈辱感と、服従感。

 

 「気持ちよさそうな顔……精を吸われているのに、幸せなのですね」

 可哀想なものでも見るようなアイリスの視線が、さらに僕の興奮を煽る。

 そしてペニスを触手で嫐りたてられ、僕は耐えることもできず追い詰められていった。

 「あら、もう果てるのですか……」

 「あ、あぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」

 アイリスの冷たい視線を浴びながら、僕はびゅるびゅると女吸血鬼のマントに精液を捧げていた。

 こうして今日も精液を吸われ、屈辱に満ちた敗北を迎えた――そんな僕の浮かべている表情は、恍惚そのもの。

 デュエルで敗北し、強制的に射精させられてしまう――僕は、その屈辱感と屈服感の虜になってしまったのである。

 ドローン――「溺れた者」と呼ばれる理由が、そこにあった。

 

 

 

 ――こうして僕は、今日も敗北の味を愉しんだ。

 屈服の快楽を味わいたいがためにデュエルを重ね、カードを失っていく。

 そのカードがなくなった後は、稼いだお金をカードに変えて、それを奪われていく――快楽の代償として。

 僕はもう、奈落の底に堕ちていくしかなかった。

 デュエルで犯される快感に身も心も委ね、僕はひたすらF-タウンに溺れていくのである。

 

 

 −BAD END−

 

 



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