妖魔の城
「啓サマ、しばらくお休みをもらってきましたよー♪」
ずいぶんとお腹が大きくなった妻――メリアヴィスタは、帰宅するなり言い放った。
「そうか……しばらく、ゆっくりできるな」
俺は読んでいた本を閉じ、机の上に置く。
メリアヴィスタは、どうやら妖魔貴族の城に給仕として務めているらしい。
しかし出産も近づき、めでたく産休となったようだ。
「ほ〜ら、啓サマ……♪ おなか、なでてなでて〜♪」
ゴロゴロ喉を鳴らしながら、メリアヴィスタがすり寄ってくる。
俺は苦笑しつつ、メイド服の上から膨らんだお腹を優しく撫でた。
サキュバスの妊娠期間は短く、あと一週間ほどで産まれてしまうらしい。
そのため、万全を期して産休を取ったのである。
「これで、啓サマとラブラブな日々を送れますね♪」
「ああ、そうだな……まあ、控え目にな。妊婦なんだから――」
はしゃいでいるメリアヴィスタを前に、俺は苦笑するしかなかった。
俺は――この魔界に迷い込む以前の記憶を失っている。
メリアヴィスタの話では、時に人間界と魔界の間で偶発的に次元の裂け目ができてしまうという。
それに呑み込まれ、魔界に人間が迷い込んでしまうということが稀に起きるのだとか。
俺もそういう事情で魔界に来てしまったらしく、そのショックで記憶を失ってしまったのである。
このメリアヴィスタという娘に保護されなければ、いったいどうなっていたか身の毛もよだつ。
そして――俺は、この命の恩人である娘と結ばれてしまったというわけだ。
しかし、当然ながら悪い気はしない。
メリアヴィスタは自由気ままでわがままなところはあるが、綺麗で良くできた女性なのだ。
本当に、この娘と出会って良かった――
『――違う。そいつは――』
「う……」
ずきりと頭が痛み、俺は身を屈めていた。
「け、啓サマ……!? 大丈夫ですか……!?」
「ああ……大丈夫だ……」
時折――なぜか一瞬だけ、頭が痛むことがある。
これも、魔界に投げ出されてしまったことによるショックなのだろうか。
「また、昔のことを……?」
メリアヴィスタは、心配そうに表情を曇らせている。
「ああ……記憶は、まだ戻らないみたいだ」
俺がさっきまで読んでいた本は、人間界における世界名所の紹介本。
確かに知っている場所がほとんどで、行ったことがある場所も多いようだが――
いつ行ったのか、何をしに行ったのかは全く思い出せない。
「構いませんよ……記憶が戻ったら、離ればなれになっちゃうかもしれませんしね」
そう言いながら、メリアヴィスタは俺の上にのしかかってくる。
「それより啓サマ、えっちなコトしましょうよ〜♪」
「……あと一週間だろ。体に負担がかかるじゃないか」
「サキュバスだから、大丈夫ですって。それでも気になるのなら、こういうのはどうですか?」
メリアヴィスタは自らの下半身をはだけると同時に、俺のズボンも下着も奪い去った。
そして俺の肉棒を握り、すっかり大きくなったお腹に押し当てる。
そのまま、すりすりすり……と、ペニスを膨らんだお腹に擦りつけてきた。
「ほらほら……どう?」
「あ、気持ちいい……気持ちいい、けど……」
妊婦の膨らんだお腹に、ペニスを擦りつけてしまうという背徳感。
しかしその柔らかな感触が、不思議なほどに心地良い。
メリアヴィスタは滑らかな動きで、お腹へとペニスを擦りつけ続けた。
「ふふっ……こんなやり方は、今しかできないんですから……たっぷり堪能して下さいね」
「あ、あぁぁぁぁぁ……」
先端からは先走りが溢れ始め、メリアヴィスタの膨らんだお腹をぬらぬらと汚し始めた。
その様子を見てにんまり笑いながら、メリアヴィスタはお腹に肉棒をぎゅっと押しつける。
ふくよかに膨らんだお腹に、むにゅっと密着する感触がたまらない――
「や、やめろ……そろそろ、出そう……」
「じゃあ、お腹に浴びせて下さい。胎教にも良いんですよ♪」
「そ、そんなわけあるか……あうっ……!」
裏筋に柔らかな肌がぐりぐりと擦れ、俺はあっけなく限界を迎えた。
メリアヴィスタの大きなお腹に、ドクドクと精液が撒き散らされていく。
「あ、あぅぅぅぅ……」
妊婦のお腹を白濁で汚す――それは、あまりにも背徳的な快感だった。
「あは……中の娘も喜んでいますよ」
お腹に撒き散らされた精液は、たちまちメリアヴィスタに吸収されていく。
サキュバスは、皮膚からでも精液を吸収できるらしい。
「今もらった精は、中の赤ちゃんに与えてあげますね。
産まれる前から、パパの精液の味を覚えちゃうなんて……ふふっ」
「……ははは」
俺はただ、苦笑するのみだった。
――あれから、早くも一年が過ぎた。
サキュバスの乳児時代は非常に短いらしく、幼児にまではあっという間に育つ。
うちの娘も、少し前までは揺りかごの中にいたのだが――
「こらこら、マリクィーン。あんまり走り回るな。お母さんに怒られるぞ」
ペンを机の上に置き、俺は娘を注意した。
ぱたぱたと室内を走り回っていた娘は、たちまち大人しくなる。
そして、文机に腰掛ける俺の横にちょこんと座り、まん丸な瞳でじっと見上げてきた。
頭には猫そのものの可愛らしい耳が備わり、尻尾もまだ隠れていない。
幼い猫科のサキュバスは、まさに子猫のような態度でじっと俺の様子をうかがっている。
「……よしよし」
「……ふにゃぁ……」
頭を撫でると、マリクィーンは目を細めて腕にじゃれついてきた。
その外見は、メリアヴィスタと瓜二つ――そのまま幼くなったような感じだ。
しばらく撫でられるがまま目を細めていたマリクィーンは――おもむろに、ぴょんと俺の膝の上に飛び乗ってきた。
「……うおっ!」
数ヶ月前までは猫ほどの大きさだったマリクィーンも、いつしか幼女なみのサイズになっている。
いきなり膝に乗られると、かなり厳しいところだ。
「ふにゃ……」
「おい、膝の上で丸まるな……!」
マリクィーンの両脇に手を通し、ひょいと持ち上げた時だった。
「ただいまですー♪」
そこへ、メリアヴィスタが帰ってきたのだ。
「ん、お帰り……」
「はぁぃ……マリクィーンも、ただいま♪」
「にゃあ♪」
足下にまとわりつくマリクィーンを撫でながら、メリアヴィスタは荷物を下ろす。
そして、文机の上に広げてある原稿に視線をやった。
「啓サマ、今日も執筆を……?」
「ああ、そうだけど……俺はいちおう、売れっ子作家なんだからな。何か問題でも?」
「い、いえ……意外だなぁ、と思って」
メリアヴィスタは、ぽりぽりと額を掻く。
「なにか啓サマって、あんまりマトモには生きられないタイプだと思っていましたので……」
「あのなぁ……俺はアウトローか」
「いぇいぇ。私の知らない面を見せてくれる啓サマが、とっても素敵です……♪」
「おい、娘が――」
マリクィーンの見ている前で、メリアヴィスタは俺に抱き付いてきたのだった。
半年ほど前――このままではメリアヴィスタのヒモ状態だと思い立った俺は、思い切って挑戦したのが文筆。
人間界の怪異・怪談話などをまとめた第一作が、意外なことに魔界で好調な売れ行きを示したのである。
人間界に棲んでいる同胞達が、人間達とどう関わっているのか――魔界の住人達は、けっこう興味があるらしい。
「今日は、遠野に伝わる怪異歎をまとめてみたんだが――」
しかし、なぜ俺は各地に伝わる民話や怪異歎などに詳しいのか。
幼い頃、誰かに教えてもらったのだろうが――
『ねぇ、お父さん。今日は何のお話を聞かせてくれるの……?』
『そうだな。今日は遠野の妖怪の話でも――』
「……ッ、頭が痛いな……」
「大丈夫ですか、啓サマ……!?」
頭を抱える俺の脇、わたわたと慌てるメリアヴィスタ。
「……にゃ」
マリクィーンも、心配そうに見上げてくる。
「ああ、大丈夫だ……」
しかし、いつも頭痛はすぐに収まる。
一瞬だけ何かがフラッシュバックし、そしてすぐに消え失せてしまうのだ。
「もう、驚かせないで下さいよ。それじゃあ、ゴハンにしますね……♪」
「ああ……」
文机から腰を上げ、キッチンテーブルに着く俺。
マリクィーンも、専用のお子様椅子の上にちょんと座る。
そして、今日も夕食の団欒が始まるのだった。
「……美味しいか、マリクィーン?」
「にゃぁ♪」
温めたししゃもをモグモグがじっていたマリクィーンは、にぱっと笑顔を見せる。
「しかしこいつ……なかなか言葉を覚えないな。大丈夫なのか?」
「まだ、一歳にもなっていないんですよ。サキュバスの肉体的成長は、性的に成熟するまですぐなんですが――
学習の方は、そう簡単にはいかないんです。啓サマも、いっぱい話し掛けてあげて下さいね。
猫科の妖魔は、育て方を間違えちゃうと……語尾に「にゃ」を付けて話すイタい子になっちゃうんですから」
「……にゃ!」
「分かった分かった……」
溜め息を吐きながら、俺はマリクィーンの頭を撫でたのだった。
ごろごろ喉を鳴らす可愛らしい娘の姿を見て、俺は――
『バケモノは――』
「――死ねッ!」
俺の視界は、不意に真っ赤な血の色へと染まった。
フォークを手に取り、逆手に持って立ち上がる。
その鋭利な先端を、この小さなバケモノの喉元へと――
「……ぐ!」
右手に衝撃が走り、握っていたフォークが宙を舞った。
ずしゃり、と床に倒れる椅子の音。
メリアヴィスタが素早く立ち上がり、目にも留まらないスピードで俺の右手を弾いたのだ――
「……」
そして彼女は、落ちてくるフォークを静かにキャッチする。
視線をテーブルに落としたまま、とても切なそうな顔で――
「え……?」
我に返った俺は、呆然と立ち竦んでしまった。
ほんの僅かに、あの頭痛が頭を軋ませる。
いったい、俺は何を――
「お、俺は……今、何かしたのか……?」
「いえ、何も――」
ぽかんと口を開けているマリクィーンの頭を撫で、メリアヴィスタはフォークを机の上に置く。
「ほらほら……みんな、ご飯食べましょうよ。冷めちゃいますよ……♪」
そしてメリアヴィスタは――まるで泣きそうな顔で微笑んだのだった。
そして夕食を終え――メリアヴィスタは椅子から立ち上がると、俺の口許に顔を近づけてきた。
「啓サマ、ご飯粒が着いてますよ……♪」
そのまま舌を伸ばし、俺の口許をれろり……と舐め取るメリアヴィスタ。
「ん……」
さらにメリアヴィスタは、舌を俺の唇にまで移動させていった。
「お、おい……んぐ……!」
そして――メリアヴィスタの唇が俺の唇を塞いでしまう。
「ん……ちゅ〜♪」
「ん、ん……」
メリアヴィスタとの甘いキスに酔いしれていた、その時――
不意に、ズボンのチャックが下ろされた。
そして――肉棒がやわやわと引っ張り出される。
「ん……んん?」
最初は、メリアヴィスタだと思っていたが――彼女の両手は、俺の背中へと回っているのだ。
だとすると、これは――!?
「ん……!? んん――!」
テーブルの下なので、何が起きているのか角度的に見づらい。
しかし――可愛らしくぴこぴこと動いている耳と尻尾が、少しだけ見えた。
あれは、マリクィーン……!?
「んんん……な、何を……!」
メリアヴィスタに唇を塞がれながらも、俺は驚きの声を上げた。
マリクィーンが俺の股間に潜り込み、肉棒に顔を寄せてきたのだ。
そして――俺のモノがにゅるり……と狭く生温かい空間に包まれてしまう。
「あ、あぅぅぅぅ――!」
テーブルに阻まれて見えないが、口の中に入れられたという事はすぐに分かった。
その甘美な感触に身を震わせながらも、俺は股間に顔を埋めるマリクィーンを引き剥がそうとする。
いくらなんでも、こんなのは――
「んん……やめろ、おい――」
「あん……ダメですよぉ。せっかく娘が、がんばっているんだから……♪」
俺の口を塞いでいたメリアヴィスタが、俺の両腕をも強引に押さえ込んでしまう。
こうして俺の上半身は、完全にメリアヴィスタに抱きすくめられる形となった。
そんな状態で、マリクィーンは俺のモノをむぐむぐ頬張っているのだ。
「あ、あぁぁぁぁ……」
「ふにぃ……」
ペニスはその小さな小さな口に加えられ、もぐもぐとしゃぶられている。
快感を与えているというより、まるでペニスの味を確かめているような口使いだ。
狭く小さな口の中で、ザラザラした舌が亀頭を中心にねろねろと絡みついていた。
「ん、んぐ……! んんん――!」
快感にわななき、びくびくと跳ね上がる俺の体をメリアヴィスタが押さえ付ける。
「ふふっ……マリクィーンのおしゃぶり、けっこう上手なんだ。ほーら、そのまま啓サマをイかせちゃえ……♪」
「んにゅう……」
マリクィーンは、そのまま俺のモノを容赦なく頬張り続けた。
もぐもぐと口を動かし、ぴちゃぴちゃと口内で舌を絡め――
「あぁぁぁぁ……」
口の中でむぐむぐとしゃぶり尽くされる感覚に、体からじわじわと力が抜けていく。
美味しそうに肉棒を味わうマリクィーンの口内で、俺のモノはじっくりと舐めしゃぶられ――
そして、とうとう我慢の限界が近付いてきた。
このまま、娘の口内で果ててしまうなんて――
「あぁ……出る……」
それでも俺は、こみ上げてくる射精感を抑えきれなかった。
「うにぃ……!?」
娘の口の中で、どくどくと迸る白濁液。
マリクィーンは毛を逆立てながらも、それを口内でぴちゃぴちゃと舐め始めた。
射精中のペニスの、尿道口部分にザラついた舌がまとわりつく。
「あ、あ、あぁぁ……」
俺がメリアヴィスタに上半身を抱きすくめられながら、力なく悶えるしかなかった。
そしてマリクィーンは精液を一滴残らず飲み干し、満足げな笑みを浮かべたのである。
「よくがんばったね、マリクィーン♪」
メリアヴィスタは俺の体を離し、誇らしげに目を細めるマリクィーンの頭を撫でた。
ごろごろと喉を鳴らすマリクィーンの得意げな顔を前に、俺はとても複雑な気持ちになってしまったのである。
そして、その日の夜――
「で、どうだ……? 今度の原稿なんだが――」
「ふむふむ……」
メリアヴィスタが目を通しているのは、新潟に伝わる雪女の民話。
とある男が、正体を隠した雪女を妻に迎える。
夫婦は、しばらく幸せな時を過ごしたが――
ある日、妻は自分の正体――雪女であることを夫にバラしてしまった。
夫は、人外であると知った妻を拒絶。そのまま逃げてしまう――そんな話だ。
地方によっては、様々なバリエーションがある話なのだが。
「……どうだった?」
「ええ……とっても素敵でムカつくお話です」
「まあ、そうだろうな……」
妖魔であるメリアヴィスタにとって、愉快な話であるはずがないだろう。
「……ねぇ、啓サマ」
おもむろに、メリアヴィスタは口を開いた。
「私が妖魔でも、啓サマは私をそばに置いてくれますか……?」
「……何を言っているんだ? 俺はすでに、お前が妖魔だって知ってるんだが……」
そもそもここはメリアヴィスタの家で、俺は入り婿の身なのだ。
追い出されるとしたら、俺の方だろう。
読んだばかりの民話に影響されたのか、メリアヴィスタの言うことは要領を得ない。
「そうですね、じゃあ……もし啓サマに記憶が戻っても、妖魔の私をそばに置いてくれますか……?」
「当然、お前は俺の妻なんだから――」
『当然、お前はバケモノなのだから――』
「――ずっと一緒にいるに決まっているだろ?」
『――殺すに決まっているだろう』
……なぜか、また頭痛がした。
「そう……ですよね」
メリアヴィスタは、静かに呟く。
そのまま彼女は、静かに身を寄せてきた。
「ああ……だから、下らんことを心配するな」
俺は愛する妻を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
それでも、なぜか――メリアヴィスタは、声を出さずに泣いているようだった。
−END−
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