妖魔の城


 

 「思えば……馬鹿正直に、当主の間で主が待っているとは限らなかったな……」

 「うむ、確かに……」

 俺とウェステンラが立ち尽くしているのは、目的地だった当主の間――

 しかし赤カーペットの先に君臨する玉座には、主の姿などない。

 この当主の間は、全くの無人だったのだ。

 これでは、拍子抜けもいいところである。

 

 「……じゃあ、マルガレーテはどこに行ったんだ?」

 「おそらく……この当主の間のさらに奥。ノイエンドルフ城の最上階にある、星見の間だろうな」

 「星見の間、か……」

 そこに、マルガレーテがいる――この城の主人である淫魔が。

 配下のエミリアやメリアヴィスタですら、あれほどの化け物だったのだ。

 そいつらの主人ともなると、いったいどれほどなのか――

 

 「……じゃあ、行くか……」

 「……待て、啓。少しばかり、この部屋で確かめておきたいことがあるのだが」

 「確かめておきたいこと……?」

 「ああ……以前に、貴様にも言ったな。

  我がこの城に戻ってきたのは、姉上を倒すため――そして、あの日に何があったのかを知るためだと」

 「ああ……そう聞いているな」

 あの日――ウェステンラの母親が、マルガレーテに殺された日のことだ。

 ウェステンラにとっては、悪夢のような日であるはず。

 「しかし……後から思い返してみれば、色々と不自然な点がある。

  何よりおかしなことは――そもそも、姉上に母上を殺す必要などなかったということだ」

 「殺す必要って……当主の母を殺して、実権を奪ったんじゃなかったのか……?」

 「……実権など、とうに姉上の方にあったのさ」

 ウェステンラは、静かに告げた。

 「なぜかは知らんが――あの頃、すでに母上は隠居状態だった。

  ノイエンドルフ家当主たる実務は全て姉上がこなし――外部では、姉上が現在のノイエンドルフ家当主だと思われていたほどだ。

  すでに母上が在命だった頃から、姉上がノイエンドルフ城を動かしていた」

 「すると、確かに妙だな……」

 そうだとすると、わざわざ母殺しの汚名を被る意味など全くない。

 母とマルガレーテの意見が対立していたという話も――そんな状況なのなら、マルガレーテは我を通せたはずだろう。

 「そもそも、なぜ母上は隠居状態だったのか……決して、老いる年齢ではなかったはずだ。

  にも関わらず、なぜか母上は衰弱していたようなのだ――」

 「……なるほど」

 合点がいかないのも頷ける。

 確かに、真相を確かめたくなっても無理はない。

 「ちょうどこの場に、姉上がおらんのは好都合だ。

  あの日、この当主の間で何があったのか――我が魔術で、ここに残った記憶を辿るとしよう」

 場に残った記憶――つまり、二百年前にここで起きた出来事を再生すると言うことか。

 「……大丈夫なのか、ウェステンラ?」

 俺は、ウェステンラの肩が微かに震えているのを見逃さなかった。

 実の母親が殺される光景――そんなものを、好きこのんで見たがる奴などいない。

 それでもこいつは、ここで何が起きたかを知りたいのだろうが――

 「ああ……心の準備はしてきた」

 「俺がいてもいいのか? 席を外しても構わないが……」

 当然、他人に見て欲しい光景でもないだろう。

 「……いや、側にいてくれ。お前がいてくれるから、我も真実と戦う決意ができたのだ」

 「……分かった」

 俺は静かにその場で腕を組み、ただ静かに立っていた。

 すると、ウェステンラはおもむろに何かを唱え始め――

 

 「――過去の虚像よ、今まさに我の前に有れ」

 ――そして、そう命じたのである。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 唐突に、目の前の風景が深夜に変わった。

 「こ、これは……」

 当主の間の光景そのものに大きな変化はない――が、何か色々と違和感がある。

 また、この場の空気は異様に冷たい――やはり俺達は、さっきまでとは別の場所にいるのだ。

 「これが二百年前……空気までリアルに感じ取れるが、あくまで過去の虚像に過ぎん」

 俺の横に立っているウェステンラは、静かに呟いた。

 「なるほど……」

 俺達は、二百年前――悪夢の日の夜、当主の間に立っていたのである。

 そして、あの玉座に腰を下ろしている美しい女性こそが――

 「母様……」

 震えた声で、ウェステンラは呟いた。

 当然、その声が向こうに届くはずがない。

 これは過去の虚像であり、ビデオを再生しているのと本質的には変わらないのだ。

 

 「……」

 ウェステンラの母は、ただ静かに玉座へと座っていた。

 まるで、何かを待っているかのように――

 その姿は、息を呑むほどに美しく妖艶。

 母親だけあってウェステンラによく似た端整な顔と、金色の瞳。

 その金色の髪は床に着くほど長く、顔の左半分をすっぽり隠すかのように覆っていた。

 そして身に纏っているのは、細やかな刺繍の施された大きめのローブ。

 その裾は不自然なまでに長く、両手両足をすっぽり包むほどだった。

 まるで、素肌を見せたくないかのように――

 

 「ぐっ……お前は、わぁぁぁぁ……!」

 「そんな……お前が、は、反逆を――!」

 そして――不意に、分厚い扉の向こうから悲鳴が響いてきた。

 当主の間に続く長い廊下で、何者かが争っている――いや、争いにさえなっていないか。

 肉を刻む音、人体が床に転がる音。見なくても分かるほどに、一方的な展開だ。

 「うわぁぁぁぁ……!!」

 「ひ、ひぃぃぃ……!」

 激しい悲鳴、つかつかとこちらに近寄ってくる足音。

 凄まじい血の匂いと死臭、血も凍るような殺気が迫ってくる。

 何者かが護衛兵や妖魔貴族を皆殺しにしながら、この当主の間に接近してくるのが分かる――

 そしてその主は、扉の向こうで足を止めたようだ。

 いよいよ、この悪夢の舞台に二百年前のマルガレーテが現れるのだ。

 俺はまだ会ったことのないウェステンラの実姉が、この母の命を奪おうと――

 

 「失礼します――ノイエンドルフ家当主、ルーシー・ノイエンドルフ様」

 しかし――開扉と共に発せられた穏やかな声は、確かに俺の聞き覚えのあるものだった。

 これは、マルガレーテの声ではないはず。こいつは――

 「エ、エミリア……!?」

 引き吊った顔で、絶句するウェステンラ。

 そう――当主の間に現れたのは、あの女給仕エミリアだったのだ。

 

 「……」

 エミリアの全身は、返り血で真紅に染まっていた。

 紺のワンピースも、白のエプロンドレスも、全て朱で染め上げられている。

 そしてその右手には、一目で業物と分かる日本刀が携えられていた。

 大量の血が刀身から滴る、使用したばかりの刀――さっき、扉の向こうで淫魔達を斬ったのも彼女だったのだ。

 血塗られたメイド服に日本刀、そして顔色一つ変えない端整な顔――それはまさに、異様な光景だった。

 ここに至るまでに、いったい何人の淫魔を片付けてきたのか――

 

 「おのれ、エミリア……!」

 「マルガレーテ殿下の従者たるお前が、なぜこんな――」

 エミリアの背後――開け放たれた扉から、十人ほどの淫魔が突入してきた。

 その手に槍を持った護衛兵や、サーベルを携えた妖魔貴族――

 そんな連中が、当主の間に乗り込んだ不届き者を排除しようと駆け込んできたのだ。

 「答えよ、エミリア! なぜ、このような蛮行を――」

 「……」

 ふ……と、エミリアが冷たく微笑んだ気がした。

 そして――その体が、すっと消え失せる。

 「な……!?」

 思わず、声を上げてしまう俺――

 次の瞬間、妖魔貴族の右肩から鮮血が迸った。

 続けて、隣に立っていた護衛兵の上半身と下半身が分断される。

 「そんな――」

 一瞬だけ、神速で刀を振るうエミリアの姿が見えた気がした。

 さらに――

 「うあっ!」

 「ぐぅっ……!」

 後方から、胸を一突きにする――

 右肩から、胴部を袈裟斬りにする――

 そんな、エミリアの姿がコマ落としのように映る。

 あまりの速度に、残像しか追い切れないのだ。

 「こ、こんな――」

 「あぐっ!」

 反撃どころか、相手の動きさえ追いきれないまま斃されていく淫魔達。

 エミリアはまるで疾風のように、淫魔達の間を駆けながら撫で斬りにしていく。

 そして、瞬く間に――その場にいた淫魔は、全て屍となって床に転がっていた。

 「……嘘だろ、おい……」

 恐るべき手腕に、俺はただ戦慄するばかり。

 あの淫魔達の中に俺がいたとして、結果はいささかも変わらない。

 その他大勢の雑魚と同じく、反応もできないまま斬られて終わりだろう。

 「……」

 エミリアは刀を鞘に収め、そして玉座に君臨する当主――ルーシー・ノイエンドルフを見据えたのだった。

 

 「……いつかは、こんな日が来ると思っていたわ」

 血塗られた来客――エミリアを見据え、当主ルーシーは玉座から腰を上げる。

 エミリアはその姿を感情の読めない瞳で捉えながら、歩を進めていった。

 一歩一歩、静かに赤絨毯を踏みしめながら――

 「一つだけ、お伺いしたいことがあります……ルーシー様」

 ひたひたと歩を進めながら、エミリアはおもむろに口にした。

 「『淫魔狩りのマリー』は、強かったですか……?」

 「ええ……」

 ルーシーは静かに頷き、顔の左半分を隠していた髪を掻き上げる。

 そこから覗いたのは――ずたずたに痛み、筋肉や骨が露出した左顔。

 ルーシーの顔の左側半分は、無数の傷跡が刻まれ、醜く焼けただれていたのである。

 そればかりではない。ローブから僅かに覗く左腕や左脚も――そして、右脚にも激しい損傷が見られる。

 厚いローブで包まれたルーシーの肉体は、見る影もないほどに痛んでいたのだ。

 「か、母様……!? そんな――」

 ウェステンラは、口を押さえたまま絶句していた。

 しかし、ウェステンラの混乱とは関わりなく、目の前のヴィジョンは進行していく。

 二百年前の虚像であるルーシーとエミリアにとっては、俺達こそ二百年後の虚像なのだ。

 

 「この私の、醜い姿を見れば分かるでしょう……? 『淫魔狩りのマリー』は強かったわ」

 なぜか誇らしささえ感じさせる素振りで、ルーシーは傷ついた自らの傷ついた姿をさらす。

 エミリアの方が、逆に気圧されている様子だ。

 「その命と引き替えに、女王七淫魔の私をここまでにするなんて――凄まじい強さだったわ」

 ルーシーは笑みさえ浮かべ、やや尻込みしているエミリアの姿を見定めた。

 「そして、今度は――マリーの娘である貴女が、この私を殺しに来た」

 「その通りです、ルーシー様。今こそ、お命を頂きます……」

 おもむろに足を止め、刀を中段に構えるエミリア――それだけで、傍観者に過ぎない俺でさえ心臓が凍り付く思いがした。

 それほどまでに、洗練された殺意が周囲に張り詰める。

 「……では、殺しなさい。言ったでしょう? こんな日が来ると思っていたと――」

 エミリアの殺意にさらされながら、ルーシーは平然と告げた。

 まるで、自らに刃を突きつけるエミリアを挑発するかのように――

 「……私、は……」

 「殺せない……と? 今になって……? 私を殺すためだけに、腕を磨いてきたのでしょう……ねぇ、エミリア」

 まるで――自分を殺すのを促しているかのように、ルーシーは告げる。

 それに対しエミリアは、明らかに腰が引けている様子だ。

 「……ルーシー様、私は……」

 「あなたの母親は――マリーは、最後まで泣き言を言わなかったわ。

  最後の最後まで運命と戦い抜き――そして、この私と戦って散っていった。誇るべき、あなたの母の姿よ」

 「……わ、私は……」

 「さあ、エミリア……! 私を殺しなさい! マリーがそうしようとしたように――!」

 「私は――」

 次の瞬間、エミリアの手にしていた刀が一閃した。

 神速の刃は、ルーシーの胴部を無慈悲に寸断し――

 

 「か、母様ぁぁぁぁ……!!」

 この場に響き渡るウェステンラの悲鳴。

 それさえ、ここでは何の意味も持ちはしない。

 

 「そう……それでいいの……」

 ルーシーの下半身から、ずるり……と上半身が滑り落ちる。

 そのままルーシーは、大量の血を撒き散らしながら玉座の前に倒れ伏した。

 周囲に飛び散った鮮血が、ぴちゃぴちゃと玉座をも濡らしていく。

 「ル、ルーシー様……! わ、私は――!」

 我に返ったように、エミリアはルーシーの上半身へとすがりついていた。

 「これでいいのよ……エミリア……」

 ルーシーは息も絶え絶えのまま、その右腕で優しくエミリアの頬を撫でる。

 「これは、運命……ノイエンドルフ家の姉妹は、相争う宿命……

  だから、私と妹……マリーも……醜く争って……呪われた宿命を……」

 「ルーシー様……わたし、は……」

 エミリアの瞳に、大粒の涙が浮かぶ。

 「エミリア……どうか……私の娘達には……マルガレーテとウェステンラには……

  あんな、呪われた宿命を歩ませないで……こんな事は、この私で終わりにして……」

 「分かりました……ルーシー様……」

 ぽたり……と、エミリアの涙がルーシーの傷ついた左頬に落ちる。

 そして、最後に――ルーシーは、穏やかな笑みを浮かべた。

 「我が妹、マリー……あなたの残した仕事は、あなたの娘がやってくれたわ……

  私も、ようやく……そっちへ――」

 そして、後の言葉は続かなかった。

 ルーシーの命は、ここに果ててしまったのだ。

 

 「……」

 まるで、時が凍り付いたかのような沈黙。

 この舞台には、ルーシーの屍にすがるエミリアのみが残される。

 いや――いつの間にか、出演者がもう一人。

 「辛かったわね、エミリア……」

 「……マルガレーテ様……」

 エミリアが目を上げた先には――いつの間にか、マルガレーテが静かに立っていた。

 今より二百年前――当主だった母親にクーデターを起こしたという、ウェステンラの実の姉。

 しかし、これでは――

 事の真相は、いったい――

 

 「……全て終わりました、マルガレーテ様。後は、お心のままに……」

 涙を拭わないままに、エミリアは静かに腰を上げた。

 そんな従者に、マルガレーテは感情の読めない視線を投げ掛ける。

 「……これでもう、誰をもはばかることはないわ、エミリア。

  これからは、本来の名を取り戻しなさい――エミリア・ノイエンドルフ」

 「いえ、私は――」

 エミリアは静かに涙をぬぐい――そして、表情のない顔に戻っていた。

 「私はまだ、ただの『エミリア』でいたいのです――あなた様の従者として」

 「そう……それが、あなた自身の望みならば」

 マルガレーテは、そう言いながら玉座へと腰を下ろした。

 ほんの少し前まで、母親のものであったその席に――いかにも無造作に、まるで腰を休めるように。

 玉座に降り懸かったルーシーの血は、マルガレーテのドレスにもべっとりと付着する。

 そのまま、マルガレーテは物憂げな表情で扉の方に視線をやった。

 「全ては終わり――そして始まる。

  母上……やはり貴女は愚かしいわ。そう簡単に断ち切れないからこそ、宿命と言うのよ」

 「……」

 不意に、エミリアの表情が険しくなった。

 扉の向こうで、廊下を駆ける小さな足音。

 そして、扉を開けて飛び込んできたのは――

 

 「か、母様……!? こ、これは――」

 

 ――それは、二百年前のウェステンラだった。

 

 「姉様……あなたが……! よくも、母様を――」

 

 「そう――宿命は断ち切れない」

 マルガレーテは、静かに呟いた。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 二百年前の光景は煙のように消え失せ――

 そして、視界は現在の当主の間に戻っていた。

 この場に立っているのは――俺と、目を伏せたまま肩を震わせているウェステンラのみ。

 

 「……なんなのだ、これは……いったい、どういう……」

 ウェステンラは完全に混乱しきった様子で、呆然と立ち竦んでいた。

 そして――よろよろと、危ない足取りで後ずさる。

 「お、おい……!」

 慌てて駆け寄った俺は、ウェステンラを背後から抱き留める形になった。

 じんわりと、柔らかな温もりが伝わってくる。

 「……」

 つい、俺は――震える肩を静かに抱き締めていた。

 その腕に、ウェステンラの小さな掌が添えられる。

 「……母様は、姉上に殺されたものだと思っていた。しかし、今のは――」

 「……」

 手を下したのは、確かにエミリアだった。

 決して彼女の独断ではなかったようだし、どうもルーシーもそれを望んでいたようだ。

 それに『淫魔狩りのマリー』とやら、その娘だったエミリア。姉妹が争う宿命――

 「我は何も知らない……母様の真意も、あの日のことも……そして、エミリアのことも――」

 肩を震わせるウェステンラの小さな体を、俺はぎゅっと抱き締めた――その時だった。

 

 「――知る必要はありません、ウェステンラ様」

 不意に、当主の間へと現れた影。

 気配を悟らせず、扉から現れたのは――なんと、エミリアだった。

 二百年前の虚像ではない――紛れもなく、今現在のエミリアである。

 

 「ぐっ、まずいな……!!」

 「エミリア……貴様、いったい……」

 素早く戦闘態勢に入る俺と、戸惑うウェステンラ。

 そんな俺達の前へと、エミリアは静かに立った。

 「ウェステンラ様、あなたはマルガレーテ様の元に戻って下さいませ。

  そして――そちらの男性は、私が排除させていただきます。今度は、全力で――」

 「全力だと……? 前にやり合った時は、全力じゃなかったと言いたいのか……?」

 「あの時は……主人の目を盗み、なおかつ人間のあなたに遠慮した上での、武器を持たない全力。

  しかし今は、マルガレーテ様からの御命令を承っております。全力で、貴方を滅ぼせ――と」

 「なん、だと――」

 その次の瞬間――俺は、血も凍るようなものを目にした。

 日本刀――どこからか取り出したその武器を、エミリアはいつの間にか腰に帯びていたのだ。

 「ッ――」

 あの二百年前のヴィジョンで見たエミリアの刀さばきが、ありありと俺の中で蘇る。

 ほとんど残像しか見えなかった剣閃と、悪魔のような手腕。

 以前に素手で交戦したことなど、ほとんどただの余興。

 刀を持ってこそが、エミリアの全力――

 

 「参ります――」

 静かに腰を落とし、居合いの体勢を取るエミリア。

 「――」

 それだけで、俺の心臓は凍り付いていた。

 肉体が、死を悟ったとでも言うべきだろうか。

 もう駄目だ。絶対に助からない――そう思えるだけの殺意を、エミリアは示していたのだ。

 

 「ぐ……逃げるぞ、ウェステンラ!」

 「な、何を……! まだ戦わんうちから――」

 「馬鹿を言うな! こいつは、まともに戦える相手なんかじゃない!」

 ――そして、逃がしてくれる相手でもない。

 そう……俺は、悟ってしまったたのだ。

 本気のエミリアを前にした以上、俺はもう助からない――と。

 

 

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