妖魔の城


 

 「見え見えなんだよ――」

 俺はエミリアの懐に飛び込むなんてことはせず、逆に距離を取った。

 そして壁面に背中を当て、エミリア目掛け拳銃を乱射する。

 「……」

 その弾丸を避けながら、疾風のごとくこちらへ疾走してくるエミリア。

 こんな弾丸、避けられない相手じゃない――つまり、遠距離戦は無駄。

 そして魔術が使えないエミリアからしても、接近戦を挑むほかにないのだ。

 結局は至近距離での戦いになるのは、もはや自明の理。

 

 「食らえッ!」

 俺は距離を見計らい、調度品の壷をエミリア目掛けて蹴りつけていた。

 「……!」

 唐突に眼前へと迫ってきた壷目掛けて、とっさに拳を振るうエミリア。

 その一撃で、壷は粉々に砕け散った――

 

 ――もらった。

 

 先程のようなフェイクじゃなく、意図的にねじ込んだ本物の隙。

 俺は壷を蹴りつけると共に、一直線にエミリアへと接近していたのだ。

 周囲に飛び散る壷の破片――それをかいくぐるように俺はエミリアの至近に立ち、銃口を向ける。

 その向かう先は、息を呑むほどに端整な顔――エミリアの頭部。

 そして、俺は容赦なく引き金を引いた――

 

 「……ッ!」

 微かに、表情を歪めるエミリア。

 次の瞬間、俺の放った必殺の銃弾はあえなく弾かれていた。

 彼女の耳の少し上の部分から小さな羽根が伸び、弾丸の軌道を変えてしまったのだ。

 

 「な――」

 驚く俺の足に、間髪入れないエミリアの足払いが迫る。

 なんとか横に飛び退き、それを避ける俺。

 しかし下段の攻防に集中していた俺に、エミリアの次の一手はかわしきれなかった。

 彼女はそのまま左腕で俺の腰を抱え込み、そして上半身は後方にぐっと反らされる。

 まるで、エミリアとダンスを踊っているかのような動作、さらに彼女は右腕を俺の顎に添え――

 そして真上を向いた俺の頭部に、エミリアの端整な顔が迫ってきた。

 「な、何を――」

 そう言い掛けた次の瞬間、エミリアの唇が俺の口を塞いでしまったのだ。

 「ん、んぐっ……」

 エミリアは、ねっとりと俺の口を吸い嫐る。

 柔らかい舌が俺の口内へと流れ込み、丹念に貪り尽くす。

 「ん、ん……!」

 あまりにも甘く優しい、とろけるほどに官能的なキス。

 まるで心がドロドロに溶かされ、全てがエミリアのものとなってしまいそうな粘膜の接触。

 たちまち全身から力が抜け、頭に甘いモヤが掛かる――

 唾液の糸と共に彼女の唇が離れた時には、俺はその場にずしゃりと倒れ伏していた。

 

 「う、うう……」

 これが、サキュバスの接吻。

 全身がぬるま湯のような恍惚感に浸され、指一本動かすことができない。

 俺は床に這ったまま、その狂おしい余韻に酔わされていた。

 「……」

 軽くハンカチで口許の唾液をぬぐいながら、そんな俺を見下ろすエミリア――

 もはや、この娘には逆らえない――そんな感情が刻印されてしまったような妙な気分。

 「……誠に感服いたしました。その洗練された武技、人のものとは思えません。

  貴方をマルガレーテ様に会わせなくて良かった――」

 彼女はしゅるりと尻尾を伸ばし、その三角状の先端部を掌に乗せる。

 三角形の頂点、矢印の先端の部分がぐにゃりと開き、オナホールのような内奥が示された。

 「あ、ああ……!」

 あの奇怪で魅惑的な器官で、命尽きるまで精を搾られる――俺は、自らの辿る運命を悟る。

 これが、サキュバスと戦って敗れた者の運命なのだ。

 こうして俺は、エミリアの餌食に――

 

 「あらあらぁ? いーのかなぁ?」

 次の瞬間、場違いとも思えるような若い女の声が響いていた。

 「……う、うう?」

 なんとか顔を上げた俺。

 その視線の先に映ったのは、やはりメイド服姿の美しいサキュバス。

 非常に美しい金髪はくるくるとドリル状にカールし、唇は花びらのよう。

 鼻はつんと高く、まつげは長い。そして、やや釣り目。

 その容姿と態度は、いかにも高慢そうな雰囲気を醸し出していた。

 ただしその高慢さは不快感を伴うものではなく、可愛いお嬢様タイプという表現がぴったり。

 そんな新手のサキュバスが、いつの間にかこの場に現れたのだ。

 「いいのかなぁ? エミリアさんともあろうものが、独断で侵入者を始末しちゃうなんて。

  こんな美味しそうな男の人なのに、マルガレーテ様に判断を仰がずに消しちゃうんですかぁ?」

 いかにも嫌味そうな口調だが、この女性が言えばどこか可愛げすら感じてしまう。

 しかし、いくら可愛くてもしょせんは化け物なのだが。

 「いいのかなー、そんなことしちゃって。マルガレーテ様への忠誠が疑われる話ですよねー?」

 そのサキュバスは、人差し指を唇に当てて小首を傾げていた。

 「……」

 エミリアは無表情のまま、俺から新手のサキュバスへと視線を移す。

 「……では、この侵入者の処分はメリアヴィスタに委ねます」

 「あれ、いいんですか? そんなつもりじゃなかったのになぁ……」

 新手のサキュバス――メリアヴィスタは微かに顔を傾け、にっこりと笑みを浮かべた。

 「じゃあ私は、もちろんマルガレーテ様に判断を委ねますけどね。

  このメリアヴィスタは、常にあの方の忠実な僕なんですから」

 くすり……と笑い、メリアヴィスタとやらは床に這う俺を見下ろした。

 その魅惑的な視線に、俺は射竦められてしまう。

 「……」

 一方のエミリアは、くるりと背中を見せた。

 「なるべく早めに仕事に戻りなさい、メリアヴィスタ。今晩は諸侯の晩餐があるのを忘れないように。

  我々給仕の粗相は、すなわちマルガレーテ様の粗相となりますので」

 「はぁ〜い! 分かっておりま〜す!」

 メリアヴィスタは、しゅたっと右腕を上げる。

 「……」

 そのままエミリアは、こちらを一瞥もせず歩み去ってしまった。

 

 「べ〜、だ」

 そんなエミリアの後ろ姿に向けて、軽く舌を出すメリアヴィスタ。

 エミリアが完全にこの場から離れ、彼女は俺に視線を戻した。

 「やーな人ですよねぇ。いつも仕事のことばっかり、面白みのない女。

  マルガレーテ様に気に入られてるからって、勝手なことばっかり……」

 そう呟くメリアヴィスタは、職場の上司の愚痴を言うOLそのものだった。

 「私がどれだけ頑張ってマルガレーテ様に尽くしても、いっつも2番扱い。

  私のどこが、あの女に劣ってるのかしらねぇ……?」

 「その性格じゃないか……? 男からの一方的な評価で悪いが、お前のような女は願い下げだ……」

 俺は、意識的に憎まれ口を叩いていた。

 この不和に乗じて、どこか状況打開の糸口があるかもしれない。

 メリアヴィスタは、挑発的な目で俺を見下ろしてきた。

 「そんな減らず口、永久に叩けないようにしてあげようか?

  身も心も、私にメロメロにさせるくらい簡単なんだけどなぁー」

 「それでお前は、メロメロになった俺をマルガレーテ様とやらに捧げるのか?」

 それはできないことなど、分かりきっている。

 マルガレーテに判断を仰ぐという名目で、エミリアから奪い取った俺の身柄。

 そう簡単には手を出せるはずがない――とは言うが、結局はメリアヴィスタの胸先三寸。

 とにかく不和を煽りながら、この状況から逃れなければ。

 体が全く動かない今、付け込む隙は向こうのいざこざにしかない――

 

 「とにかくアナタ、いったん私の預かりになっちゃいましたー♪

  マルガレーテ様に処遇を伺う前に、弱らせておかないといけないよね?」

 「え……?」

 にっこりと、意地悪げな表情を浮かべるメリアヴィスタ。

 彼女はおもむろに両足のシューズを脱ぎ捨てると――

 俺の股間が、むにゅっ、と踏みつけられていた。

 ズボン越しに、黒のストッキングで覆われた細い右足が乗せられたのだ。

 「ふふ……弱らせて、あ・げ・る♪」

 おもむろにメリアヴィスタは、ぐにぐにと足裏で股間を刺激してきた。

 まるで足でマッサージするかのように、くにゅくにゅとズボン越しにペニスをいじり回す。

 「ほらほら……どぉ?」

 「あ、ああああぁぁぁぁ……!」

 その、余りにも甘美な屈辱。

 メリアヴィスタは口許にあざ笑うような笑みを浮かべ、ぐりぐりと股間を踏みつけてくる。

 ペニスが足裏にぎゅっと圧迫され、ちょうど裏筋の部分が執拗に擦り立てられた。

 柔らかな足裏で刺激される快感と、ペニスを足で弄ばれる屈辱。

 たちまち俺のペニスは、最大限にまで固さを増していた。

 「ほらほら。踏まれて元気になっちゃう恥ずかしいおちんちん、白いミルクが漏れちゃうまで踏んであげる」

 「や、やめろ……!」

 そう力なく呟きつつも、俺はメリアヴィスタの細い足すら振り払えなかった。

 エミリアのキスによる全身の虚脱状態はまだ回復していない。

 それでなくとも、この快感から抗えるかは怪しい。

 痛みを感じない程度にぎゅっと踏みつけられ、そして緩められ――

 圧迫と緩みが交互に襲ってくる、緩急のある刺激。

 メリアヴィスタの柔らかい足裏はペニスの裏側をぐりぐりと圧迫し、甘い刺激を与え続けているのだ。

 「あ、あ、あぁ……」

 メリアヴィスタの足の下で、俺は快感の喘ぎを漏らしていた。

 じんわりと熱いものが股間に渦巻き、それがゆっくりと肉棒を駆け上がろうとする。

 「ふふ……そろそろ出ちゃう?」

 くすくす笑いながら、不意に足の動きを変えてくるメリアヴィスタ。

 まるで円を動くような動きで、ぐにぐにと足を動かしてきたのだ。

 ぐにゅ、ぐにゅ、ぐにゅ……

 「あ、あぐ……! う……!」

 「ほーら、ほーら……もう漏れちゃいそう? もう、ガマンできなくなっちゃった?」

 にやにやと意地悪い笑みを浮かべながら、メリアヴィスタは悶える俺を見下ろす。

 肉棒は執拗にこねくり回され、そして俺はあっけなく限界を迎えてしまった。

 「あ、あ、おぁぁぁぁぁ……!」

 体をビクビクと震わせ、股間を足蹴にされたまま絶頂してしまう。

 ズボンの下でペニスが脈動し、下着の中へと精液を撒き散らす――

 「あらら……? おちんちん、びくん、びくんってしてますよ……?」

 くすくす笑いながら、なおもぐにぐにと足裏で股間をこね回すメリアヴィスタ。

 「あ、あ、ああぁぁぁぁぁ――!!」

 射精中のペニスに与えられる執拗な刺激に、俺は体をのけぞらせて悶えていた。

 芋虫のように体を蠢かせながら、最後の一滴まで足で搾り出される快感。

 足で踏みつけられ、下着を精液で濡らしてしまうという最悪の屈辱。

 メリアヴィスタは愉悦の表情を浮かべながら、そんな俺を見下ろしていた。

 

 「どう? 良かったでしょ。メロメロになった……?」

 くすくすと笑いながら、メリアヴィスタは告げる。

 「誰が、お前なんかに……」

 床に這ったまま、まるで子供のような言葉を並べる俺。

 「まだ、そんなこと言うんだ。意地っ張り〜」

 メリアヴィスタは、べぇ〜と舌を出した。

 その仕草は幼児めいていたが、ピンク色の妖艶な舌に思わず目を奪われてしまう。

 「……あれぇ?」

 すかさずメリアヴィスタは、俺の視線を察していた。

 「もしかして、この舌で舐められたい、とか思ってる……?」

 「だ、誰が――」

 「ふふ……」

 メリアヴィスタは舌を引っ込ませ、口を微かに動かした。

 そして再び、べぇ〜と舌を出す。

 その舌は唾液でドロドロ、べちょべちょにぬめり、妖しく泡立っていた。

 唾液が舌の表面を滑り、たらり……と糸を引いて床に落ちるさまに目を奪われる。

 あの舌で舐められたら――そんな事を、俺は考えてしまっていた。

 「ほら、やっぱり。よだれ地獄、味わってみる……?」

 あどけない顔に妖艶な笑みを浮かべ、メリアヴィスタは俺のズボンに手を掛けてくる。

 「や、やめろ……!」

 「だぁめ。漏らしちゃったから、パンツ気持ちわるいでしょ?」

 さらにメリアヴィスタは、俺の下着までも脱がせてしまった。

 一度の射精を経てなお、ペニスは怒張したまま反り返っている。

 「……ん、良い精の匂い。でもああ言ってエミリアさんから横取った手前、

  私が搾っちゃうわけにもいかないんだよね。残念、あんまりイジめてあげられないの」

 そう言いながらメリアヴィスタは、不敵な笑みを浮かべていた。

 「それでも、アナタをこのままマルガレーテ様の元に引き出すわけにはいかないから。

  何か企んでるんでしょ? 変なことしでかさないように、たっぷり弱らせないとね……♪」

 そのままメリアヴィスタは、俺の両足をぐいっと持ち上げていた。

 そして俺の股の間に割って入り、上げさせた両足をそれぞれ自身の両腋の下にしっかりと挟む。

 ペニスの上には、またしてもメリアヴィスタの足がぎゅむっと乗せられ――

 「じゃあ、すっごいことしてあげる……」

 「ま、まさか――!?」

 「ふふ……電気あんま♪」

 そしてメリアヴィスタは、俺の股間を踏みつけている右足を小刻みに震わせてきた。

 ぎゅっと踏みつけては緩め、ぐにぐにと踏みつけ、また緩め――

 サオが狂おしく震わされ、みるみる力が抜けていく。

 「あ、あぐッ! おぁぁぁぁぁぁッ……!!」

 男を狂わせるその刺激に、俺は悶絶していた。

 ペニスを襲うバイブレーション、それは余りにも強烈な快感だった。

 下半身が痺れ、全身ががくがくと震え出す。

 もがこうにも両足はしっかり押さえ込まれており、両腕を意味もなくバタつかせるしかない。

 「ああああああ!! あが、あああああぁぁぁぁぁぁ……!!」

 「ほ〜ら、ほ〜ら。漏らしちゃえ〜♪」

 ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに……!

 右足を震わせる妖しいバイブレーションにさらされ、俺の快感はあっけなく爆発していた。

 「あぐ、ぐあ……! おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」

 踏みつけのペニスの先端から、びゅくびゅくと溢れ出す精液。

 電気あんまで射精に導かれる、その快感と屈辱感。

 「あは、出た出た……♪」

 しかし、メリアヴィスタの足の動きは全く緩まる気配を見せない。

 いや、それどころか――

 

 ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに……!

 「あ、おぁぁぁぁぁ!! あが、あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 それどころか、足の動きはますます激しくなっていく。

 その凄まじいバイブレーションに、ペニスを通じて全身までが震えだしていた。

 強制的に与えられる、狂いそうな快感。

 ペニスに足での振動を与えられながら、俺はあられもなく悶え狂った。

 「だんだん激しくなっていきますよ〜♪ ほらほらほ〜ら♪」

 「や、やめ……! あ、がああああぁぁぁぁぁぁ……!!」

 容赦ない刺激で、またもや絶頂に導かれてしまう。

 サオをこねくり回し、振動を与え、射精させる――

 電気あんまでの連続射精に、俺は全身をびくつかせて絶叫するのみ。

 「お、おぁぁぁぁぁぁっ!! あ、ああああああぁぁぁぁ――!!」

 「ふふ……もっともっと弱らせてあげる」

 快感に悶える俺を見下ろし、メリアヴィスタは明らかに楽しんでいた。

 絶えず股間を襲い続けるバイブレーションに、俺の目からは涙がこぼれてしまう。

 「あは、泣いちゃった♪ ほらほら〜♪ イっちゃえイっちゃえ〜♪」

 そうあざ笑いながら、足の動きを止めないメリアヴィスタ。

 黒ストッキングに覆われた彼女の足は、俺の吐き出した精液でねっとりと汚れている。

 「あぁぁぁ! ああぁぁぁぁぁぁ!!」

 射精している最中のペニスを嫐り立てられ、俺は絶叫し続けるのみ。

 漏らさせられた次の瞬間には、また高みに押し上げられるという悪夢のような連続絶頂。

 弱らせる、というメリアヴィスタの言葉の意味を俺は悟っていた。

 

 「うりうり〜♪ 気持ちいいでしょ? おしっこ漏らしてもいいよ〜♪」

 「あがぁぁぁぁ!! あ、あ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに……!

 どれだけ射精しても容赦せず、電気あんまは続けられる。

 俺はメリアヴィスタの足の下で、ビクビクと体を痙攣させるだけの状態。

 彼女の足に陵辱され、数え切れないほど射精させられ――

 黒のストッキングを白く染め上げた頃、、俺は意識を失ったのだった。

 

 「これだけ弱らせれば大丈夫。じゃあ――」

 メリアヴィスタの無邪気な声が、薄れ行く意識にまで届いていた。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 「……お帰りなさい、エミリア」

 自室で読書中だったマルガレーテは、帰還したエミリアを横目で仰ぎ見た。

 「随分と苦戦したみたいじゃない、貴方ともあろう者が――」

 視線は本にやりながら、くすりと笑うマルガレーテ。

 やはり主人にはお見通しだったことを、エミリアは思い知っていた。

 「――差し出がましい真似を、申し訳ありません」

 「侵入者を捕らえた者は、飼うなり吸い尽くすなり好きになさい、と言ったはず。

  貴女も例外じゃなくてよ、エミリア」

 「……」

 それでも無言で、エミリアはマルガレーテに頭を下げていた。

 「頭を上げなさい、エミリア。それでは他愛ない世間話もできはしない――」

 マルガレーテは本をぱたんと閉じると、エミリアに視線をやる。

 その表情は、いつもと全く変わらないように見えるが――

 「気分を害しているようね。メリアヴィスタに対してかしら?」

 くすり……とマルガレーテは笑った。

 この城の主は、あの場で起こったことなど当然のように知っているのだ。

 「気に入らなかったのなら、あの場で殺してしまえばよかったのに。

  可愛い貴女の判断なら、私は何も言わないけれど……?」

 「メリアヴィスタが私を過度に敵視するのは、マルガレーテ様に対する忠誠の裏返し。

  心からマルガレーテ様を慕う者を、討つ気などありません」

 静かにそう告げるエミリア。

 そこへ、伝令役のまだ年若いサキュバスが姿を見せた。

 「マルガレーテ様。“メリアヴィスタ様が”侵入者の男を捕らえたそうです。

  この獲物、ぜひマルガレーテ様に献上したいとのことですが……?」

 「あらまぁ、メリアヴィスタが……?」

 その報告に接し、マルガレーテはくすくすと笑う。

 「どうしようかしら、エミリア? はいそうですか、と貰ってしまうわけにもいかないわよねぇ。

  せっかく、誰かさんが私に会わせまいと尽力した獲物なのだから」

 「……私のことは、どうかお気になさらず」

 エミリアは、静かに控えながらぼそりと告げた。

 そしてマルガレーテは、伝令に視線を戻す。

 「じゃあその侵入者――私の元に引き立てる必要はありません。

  優れた精の持ち主ならば、今宵の諸侯の晩餐に。それに相応しくない輩なら――好きに処分しなさい」

 「了解いたしました。失礼します……」

 伝令役のサキュバスは、頭を下げて部屋から出て行く。

 部屋には、主と従者の二人のみが残されていた。

 「……これでいいかしら、エミリア?」

 「お心遣い、ありがとうございます」

 エミリアは、主人に対し深々と頭を下げる。

 その場に現れたのは、先程とは別の伝令。

 「申し上げます。アステーラ様が侵入者の女を捕らえたので、ぜひ献上したいと――」

 「あらあら、こっちも……?」

 マルガレーテは、にこやかに目を細めていた。

 わざわざ自分の城に乗り込んできた侵入者、それも年若い少女。

 ぜひ、言葉を交わしてみたい――マルガレーテの好奇心は、接触を欲していた。

 「では、ありがたく頂くとしましょうか。さっそく謁見の間に連れてきなさい」

 

 

 第五話へ

 



この娘さんに搾られてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。




『妖魔の城』ホームへ