妖魔の城


 

 「ねぇねぇ、遊ぼう――」

 そう呼び掛けてくる少女の細い首筋を、ナイフの刃がひゅっと一閃した。

 「え……?」

 首筋に深い裂傷が入り、そこから血がぶしゅっと溢れ出す。

 自らの首から噴き出した鮮血――少女は、信じられないものでも見るかのように目を白黒させていた。

 「そんな外見で、俺が油断するとでも思ったか? 化け物が……」

 俺はそのまま少女の体を足元に引き倒し、銃口を突き付ける。

 そしてアサルトライフルの引き金を引き、フルオートでの銃撃を浴びせ掛けていた。

 1秒に15発もの速度で発射された弾丸が、少女の体を引き裂き、穿ち、破壊していく。

 2秒も叩き込めば、少女だか何だか分からない肉塊の完成だ。

 

 「……ったく、こいつも雑魚か」

 マガジン内の銃弾を撃ち尽くした頃、足元に転がる少女は血の池の中で絶命していた。

 空になったマガジンを取り替え、周囲に仲間がいないか索敵する――

 『おい、どうした? 何かあったのか?』

 そんな俺の頭の中に、またしてもウェステンラの声が響いた。

 また気の乱れとやらを感じたのだろう、いちいち過保護なヤツだ。

 「雑魚を一匹片付けた。瞬殺だ、問題ない」

 『そうか。やれやれ、相変わらず容赦ないな……妖魔に何か恨みでもあるのか?』

 「……恨みも何もなく、こんなことが出来るとでも思ってるのか?」

 『――すまん、失言だった』

 やけにしおらしいウェステンラの態度。

 確かに先の俺の口調は、余りにも暗く濁った憎悪がこもっていたようだ。

 あいつなりに、気も遣うか。

 「……それで、そっちはどうなんだ? 大丈夫なのか?」

 俺は、なるべく平静を志した声で尋ねていた。

 『貴様と同じだな、雑魚を一匹片付けたところだ』

 「そうか……とにかく合流を急ごう。俺の位置は分かってるのか?」

 『ああ、ちゃんと把握している。どうやら我は、貴様のいる場所よりさらに進んだ位置にいるようだ。

  そのまま道なりに進むがよい』

 「了解……っと」

 話もまとまり、俺はウェステンラとの念話を打ち切っていた。

 あまり長い時間会話を続けていれば、敵にも察知されるという話だ。

 淫魔にのみ感じ取れる、電波のようなものが発信されているのだろう。

 

 「さて……」

 当面はウェステンラと合流すべく、敵を片付けながら城の奥深くへ侵入するのみ。

 今のところ、迷宮のような構造になっていないのが幸いである。

 そして俺は、ノイエンドルフ城中央部に向かって歩を進めたのだった。

 

 

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