妖魔の城
※ ※ ※
「はぁ、はぁ……」
アステーラは息を切らせながら、ノイエンドルフ城内の階段を駆け降りていた。
特に、行き先のあてがあったわけでもない。
ただ、あの恐ろしい男が階上に行ったから、その逆方向に向かっているに過ぎないのだ。
ひたすらに階段を駆け下り、とうとう一階――彼女の足は、城内の医務室の方へと向かっていた。
あの男に負わされた全身火傷が、ひりひりと痛んでいるのだ。
もう二度と、こんな目には遭いたくない――それこそ、まさに火遊びそのもの。
あんな危険な男に、興味本位で関わるのではなかった――アステーラは、心から悔いていたのだった。
「はぁ、はぁ……なんで、私が……こんな……」
一階まで降り、城門前の廊下を駆ける。
大ホールに通じる西側通路を進み、突き当たりがメイド用の医務室だ。
その扉を乱暴に開け、中に駆け込み――
独特の薬品臭と同時に、凄まじい血の匂いが押し寄せてきた。
「……ひぃっ!?」
医務室に飛び込んだアステーラが目にしたのは――ベッドに並んで横たえられた、ボロクズのような遺体。
損傷が激しく、生前の面影すらない――大きいものと小さいもの、二体の屍である。
死体が並んで寝かされたベッドの周囲を、十名ほどの医療淫魔が忙しそうに駆け回っていた。
「あ……アステーラ様!?」
「お体は大丈夫ですか!? お怪我は!?」
白衣の医療淫魔達は、その場に現れたアステーラの姿を前にして手を止める。
「いえ……私に治療は必要ないわ。そちらの処置を続けなさい」
「は、はい……」
その言葉を受け、医療淫魔達は元の作業へと戻る。
アステーラとて全身火傷を負わされた身だが、それでも一日程度で自然治癒は可能。
しかし、ここのベッドで寝かされている二体は、そんな程度のダメージではないのだ。
「うぇーん、うぇーん……ひぃなのカラダ〜!」
アステーラは、泣き喚く妖女の声を聞いていた。
二体の屍のうち片方――小さい方の遺体に、ランドセルのような物体が取りすがっているのだ。
そいつはぴょんぴょんと飛び跳ねつつ、幼女の声でしくしくと泣きじゃくっている。
「うぇーん……ひぃなの体、なんとかしてよぉ〜」
あのランドセルが――今のひぃなか。
本体を破壊され、ランドセルの方に魂を移し換えたのだろう。
変わり果てた姿のひぃなに、医療淫魔の一人が優しく話し掛ける。
「……ひぃなちゃん、もう泣かないの。
あなたはまだ魂が残っているんだから、肉体さえ再生したら元に戻れるけれど……」
「ええ……こっちは魂ごとやられているから、元のようになるには百年以上の再生期間が必要ね……」
医療淫魔達が視線をやったのは、これまた損傷のひどいもう一つの遺体――
こちらは、門番アルメールのものか。
ひぃなもアルメールも、侵入者に肉体を破壊されてしまったのだ。
「侵入者が……こんな……」
無惨な肉塊と化した同胞の姿を見ても、アステーラには怒りも憤りも沸いてこなかった。
ただ、自分がこうならなくて良かったという安堵のみである。
「……え?」
不意にアステーラは、廊下から医務室に駆け寄ってくる何者かの気配を感じ取っていた。
そして――出入り口の扉が乱暴に開かれる。
「……ひっ!?」
思わず、アステーラは身を竦ませていた。
あの男と交戦して以来、彼女はもはや恐怖の虜となっていたのだ。
しかし医務室に現れたのは、当然ながらあの男のはずがなかった。
少々生意気そうな顔付きに、小さな体――地下庭園にて下等搾精生物の世話を担当している、シルフィだった。
しかし今の彼女は顔面を蒼白にして、何やら怯えきっている様子だ。
「……どうしたの、シルフィ? あなたの持ち場は?」
「ア、アステーラ姉様……! た、大変なんです……! 地下が……地下庭園が……」
怯えきった様子で、シルフィはふらふらと医務室内に足を進めた。
「地下がどうしたの、シルフィ!? いったい、何が――」
「しょ、触手のバケモノみたいなのがいっぱい浸食してきて……大きな植物が根を張っていくみたいに……
そのまま、みんなを呑み込んで……私の世話している子達も……他の区画の人達も……エイミンも、みんな……」
シルフィは、とうとうひっくひっくと泣きじゃくり始める。
「触手のバケモノ……? それは、いったい……」
そうだ――侵入者は、人間のグループだけではない。
正体のよく分からない、謎の生物も城内に侵入しているのだ。
「地下庭園を、そいつが占拠したというの……?」
千里眼の魔術を用いて、アステーラは階下を探索してみる――
そして捉えたのは、信じがたい光景だった。
「なに、これ……そんな……!」
それは、地下庭園を占拠するというレベルではない。
ノイエンドルフ城の地下部分全体が、そっくりそのまま呑み込まれているといってもよかった。
そいつはまるで大樹のように異常増殖し、根を張りながら城を包み込んでいるのだ。
おそらく、その過程で多くの淫魔を取り込みながら――
「な、なんてこと……! ただちに、マルガレーテ様に……!」
そこで、アステーラは恐ろしい事実に気がついてしまった。
目の前のシルフィ――彼女一人が、こんな状態でどうやって逃げてきたのか。
報告一つなく地下フロアが全滅。そんな中、少女淫魔一人が無傷で逃げ延びる――ありえない。
「シルフィ……あなた、どうやって――」
「どうもこうも……私も、食べられちゃったんだもん……♪」
泣きじゃくっていたシルフィは、一転して無邪気な笑みを浮かべ――
そして、その体がバラバラと触手状になって解けていった。
その触手の渦は、医務室全体を覆い包む勢いで一気に増殖していく。
「ひ、ひぃぃぃぃ……!」
「これは……きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然の惨禍に、たちまち医務室はパニックに包まれた。
そんな室内に無数の触手が乱舞し、生ける者に次々と巻き付いて取り込んでいく。
「こんな……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
逃げようと背中を向けたアステーラも――
「やだよぉ……やだぁぁぁぁ……!」
ランドセルの姿となったひぃなも――
「こ、こんなぁ……!」
「お助け下さい、マルガレーテ様ぁぁぁ……!」
医療淫魔達も、ひぃなやアルメールの屍さえも――この異常な生物に呑み込まれていった。
ノイエンドルフ城の地下を丸ごと呑み込んでしまったネメシアは、なおも浸食を続ける。
近くにいる者は、淫魔も何もかも区別なく取り込み――それを己が力としながら、爆発的な増殖を起こしていた。
地下のみならず、ノイエンドルフ城全体を呑み込んでしまうかのように――
いよいよネメシアの浸食は、城の外観にまで広がりつつあった。
力を欲したネメシアが選んだのは――全てを、己に取り込んでしまうという道だったのだ。
※ ※ ※
「うぁ……や、やめ……」
「何も、取って喰おうというわけじゃないわ。少し、養分を頂くだけよ――」
じゅぷじゅぷと音を立て……怪しい粘液が僕の下半身を包んでいく。
そのにゅるにゅるした異様な感触と、心地よい温かさ。
アレクサンドラの足下から滴った大量のスライムは、僕の腰から下をすっかり覆ってしまった。
そしてズボンを剥ぎ取りつつ、股間にもじゅるじゅると絡みついてくる――
「あ、あぅぅ……」
肉棒をねっとりと覆っていく、妖しい温もり。
じゅるじゅる蠢く流動感は、男を快楽に導くためのものだった。
完全に勃起してしまった肉棒に、アレクサンドラの粘液はみっちり取り付いてしまったのだ。
そのにゅるにゅるした独特の感覚に、僕は身を震わせるしかなかった。
「ふふ……相変わらず、感じやすいのね。さあ、私に馳走なさい……」
「うぁぁ……や、やめ……」
くにゅくにゅくにゅ……と、股間を包むスライムが蠢いた。
まるでペニスを扱くような、締め付けるような、独特の刺激――
アレクサンドラが、粘液を用いて僕のモノを揉みしだいているのだ。
それはたちまちにして、深い快感をもたらした。
「あぅぅぅぅ……」
さらに――もちもちした感触に、ネバネバ感が加わる。
まるで生きた水飴が、自分の意志を持って肉棒に絡みついてくるかのようだ。
尿道口や裏筋にねちゃねちゃと粘り着かれ、僕は立ったまま身悶えした。
「な、なんで……こんな、ところ……で……」
ここは、敵陣の真ん中――当主の間も目前の場所だ。
こんなことをしている余裕などないはずなのに――
「ええ……確かに、その通り。あまり、貴方を楽しませてあげる時間の余裕はないの。
可哀想だけれど、粘肉ですぐに射精させてしまうわ――」
不意に、アレクサンドラの顔が僕の眼前にまで近付いてきた。
成熟した沙亜羅そのものの、驚くほど綺麗な顔が――
思わず僕は、息を呑んでしまう。
「その代わり――私の唇を感じながら、果てさせてあげる」
「んぐ……!」
快楽に震える僕の口を、柔らかなアレクサンドラの唇が塞いでしまった。
とろけそうな柔らかさ、そして唇の甘い味――僕は、たちまちにしてアレクサンドラとのキスの感触に酔いしれてしまう。
股間では、スライムが僕のモノをにゅぐにゅぐと刺激し続けているのだ。
このまま、イかされてしまう――それが分かっていながら、僕はアレクサンドラのキスに身を委ねてしまう。
「んん……」
「あら……もう、文句は言わないの?」
唇を交え、僕の眼前にまで密着しているアレクサンドラの顔――
その綺麗な瞳は、間近の僕の顔をじっと観察しているようにも思えた。
快感に悶える、僕の顔を――
「ん、んんん……っ!」
「あら……こんな近くで見られて、感じているの……? 可愛い子ね……」
唇を重ねたまま、アレクサンドラは囁きかけてくる。
それと同時に、股間でのスライムの蠢きはどんどん激しくなっていった。
にゅるにゅるぐちゅぐちゅと流動し、締め付け、うねり、揉みしだき――
まるで、ペニスが粘体生物に貪られているかのようだ。
いつしか尿道からは先走り汁が溢れ、それもスライムに吸い取られていた。
「カウパーの量が多くなってきたわ。そろそろ、限界なのね……
では、女王が命令するわ。さあ、射精しなさい――」
「ん、んんんん〜〜!」
女王の命令と同時に、スライムの蠢きがねちっこくなった。
ぐちゅぐちゅと渦を巻き、まるでペニスから中身を搾り出すかのようだ。
「んん……んんんん……!!」
あまりの快感に、頭の中が真っ白に染まっていく。
股間をねっとりと刺激され、恍惚に誘われていく。
唇を重ねたまま、僕の顔を凝視していたアレクサンドラの目――それが、にぃっと妖艶に笑った。
男を射精させる瞬間の、優越感に満ちた目――そんなものを前にして、僕が我慢できるはずもなかった。
「んぐ……んんんんんんん――!!」
スライムの中で、ペニスがどくっどくっと脈動する。
心地よく脈打つたびに、大量の精液がドクドクと尿道から溢れ出る。
快楽のままに漏れ出した白濁は、アレクサンドラの肉体へと吸い取られていった。
「ん、んんん……」
「ふふ……美味しい精液ね。上出来よ」
アレクサンドラはようやく唇を離し――僕の唇との間で、ねっとりと唾液の糸が引いた。
僕はアレクサンドラにキスされたまま、恍惚に満ちた射精を味わったのである。
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