妖魔の城


 

 「く、この……!!」

 沙亜羅の眼前に迫る、ネメシアの胴にぱっくりと開いた亀裂。

 今にも、拘束した沙亜羅の体を呑み込んでしまおうと――

 

 「沙亜羅、これを……!!」

 僕は手持ちのグレネードランチャーを、沙亜羅へと投げた。

 「ありがと、優!!」

 沙亜羅は自由な右手でグレネードランチャーをキャッチし、その発射口をネメシアの体内にずぶりとねじ込む。

 「食らえ、化け物……!!」

 ネメシアの捕食器官内奥――つまり体内に向けて、容赦なく榴弾を撃ち込む沙亜羅。

 次の瞬間、体内に榴弾の直撃を受けたネメシアの体は一瞬で飛散した。

 まるで砕けたスイカのように、周囲に手足や内臓などの無惨な肉片が飛び散る。

 「きゃっ……!!」

 沙亜羅の体は空中に投げ出されたものの、本体を失った触手の拘束は緩んでいた。

 そのまま胴や手足に絡む触手を剥ぎ取り、華麗に着地する。

 どうやら沙亜羅に怪我はなく、ネメシアもなんとか倒せたようだ。

 

 「……とんでもない化け物だったな」

 その場に転がるネメシアの下半身を見据え、僕は呟いていた。

 腰部から上はまとめて吹き飛ばされ、その断裂面からは内臓が覗いている。

 周囲には血や肉片が飛び散り、とんでもない惨状だ。

 「とんでもないモノ作るわね、ヴェロニカの連中……」

 そう言いながら、軽く息を吐く沙亜羅。

 その安堵した表情は、みるみる強張っていった。

 「え……!? なに、これ……!」

 「ッ――!!」

 絶句していたのは、僕も同じ。

 なんと周囲に散らばったネメシアの肉片が、みるみる下半身への元へと集まり始めたのだ。

 それらの体組織は、じゅるじゅると一箇所に集まり――そして、みるみる人の形をなしていった。

 そしてわずか10秒の後には、ネメシアの体は完全に再生していたのだ。

 綺麗な顔も、長い黒髪も、そして拘束服までがすっかり元通りに。

 

 「……逃げるぞ、沙亜羅」

 「でも……!!」

 反論しようとする沙亜羅を、僕は制した。

 「あれじゃ、持久戦にもなりやしない。手持ちの火器を使い果たして、その後は一巻の終わりだろ!」

 そう言っている間にも、完全に再生したネメシアはゆっくりとにじりよってくる。

 その両腕の触手が、こちらへしゅるしゅると伸び――

 「でも、のこのこ逃げるなんて……!」

 「グダグダ言ってる場合か! この場から離れるぞ!!」

 こちらへ迫ってくる触手を、僕はマシンガンで粉砕する。

 同時に沙亜羅の手を引き、その場から一目散に走り出した。

 「……」

 感情の読めない表情のまま、追撃してくるネメシア――しかし触手の動きはともかく、彼女自身の動作は鈍重。

 一歩一歩、重々しく床を踏みしめながら追ってくるのだ。

 僕達が歩いているのと、ほとんど同じくらいのスピード。

 パワーも生命力も化け物レベルだが、幸いにも速度だけは遅いらしい。

 

 「よし、これだと引き離せるな……!」

 沙亜羅もようやく撤退に納得したらしく、引っ張らなくてもついて来る。

 そのままネメシアから距離を開け、露天通路を駆ける僕達。

 目の前には城内への門が見え、僕と沙亜羅はその中へと駆け込んでいった。

 そんな僕達の前方に立ち塞がる、メイド服姿の妖艶な女性。

 美しくカールした赤毛に、なんとも色っぽい顔付き――おそらく、門番であろうサキュバス。

 しかし、こんなところで足を止めているヒマはない。

 後方からは、ネメシアという化け物が追ってきているのだ……!

 「ふふ……ノイエンドルフ城へようこそ。私はベルミンク姉妹が妹、アルビーネ・ベルミンク――」

 「うるさい、邪魔!!」

 沙亜羅は走りながら拳銃を構え、アルビーネとかいうサキュバスに銃撃を見舞った。

 「あら、なんと野蛮な――」

 ひらりと身を翻して銃弾を避けるアルビーネ――その脇を、僕と沙亜羅はそのまま駆け抜けてしまう。

 そのまま、僕達は城内へと駆け込んだ。

 「ちょっと、無視する気――!?」

 そんな声が後ろから聞こえてくるが、それこそ無視だ。

 僕達は赤絨毯の上を必死で走り、城内の階段を一気に駆け上がった。

 ネメシアなどという化け物、まともに相手をしていては命がいくつあっても足りやしない。

 「はぁはぁ……流石に振り切ったか?」

 かなりの距離を一気に駆け抜け、僕と沙亜羅はようやく足を緩めた。

 「そうみたいね……さっきの門番みたいなサキュバスに、足止め食らってるんじゃない……?」

 沙亜羅も足を緩め、息を切らせながらそう呟く。

 いつしか僕達は、成り行きとはいえノイエンドルフ城に踏み込んでいた。

 ここから先は、侵入者を防ぐサキュバスが大勢うろついているだろう。

 搾精トラップとやらも数多く、さらにネメシアなどという化け物まで追い掛けてきているのだ。

 あの怪物も、おそらくH-ウィルスによって造られたのだろう。

 ターゲットは、僕と沙亜羅――H-ウィルスの特性からいって、僕だけという可能性もある。

 「追跡者、か……連中、H-ウィルスを使ってあんなものを造ったなんて……」

 沙亜羅は、そう呟いていた。

 待ち受けているであろうサキュバス達に加え、ゆっくりと迫ってくる華奢な追跡者。

 とてつもない脅威を感じながら、僕と沙亜羅は一歩を踏み出していた。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 「ちょっと、無視する気――!?」

 自分の横をすり抜け、そのまま城内へと駆け込んでいった男女の侵入者。

 その後を追おうとした瞬間、アルビーネは別の気配を感じ取る。

 「……どういうこと? 侵入者がもう一人……?」

 報告と違う事態に、アルビーネは若干戸惑っていた。

 露天通路の方から歩み寄ってきたのは、非常に華奢な体格の女性。

 ゆっくりとした速度で、一歩一歩を踏みしめながら進んでいる。

 

 「そう何人も、ここを通すわけにはいかないわ……」

 アルビーネは、拘束服姿の華奢な女性の前に立ち塞がった。

 スローモーに通路を進みながら、無表情でさっきの男女を追いかけている様子の女。

 その整った顔は、サキュバスであるアルビーネから見ても十分に合格点。

 少し痩せ過ぎの傾向はあれど、プロポーションも合格。

 愛想はない。全然ない。

 まるでセンスの欠片もない服装もマイナスポイント。

 だが、綺麗な黒髪と端整な顔付きだけでも並みの獲物以上――

 ネメシアの姿を艶かしい視線で吟味し、アルビーネは淫靡な笑みを浮かべた。

 「ふふ……なんて綺麗。じっくりいたぶって、可愛がってあげる……」

 「……」

 一方、そんなアルビーネの存在など目に映っていないかのようなネメシア。

 彼女は足を止めようともせず、そのまま通路を突き進もうとする。

 「たまに勘違いしている人がいるみたいね。女性に対しては、サキュバスは全くの無力だと――」

 アルビーネは目を細め、魔力を集中しながら呪文を唱えた。

 その瞬間、ネメシアの足元に魔方陣が展開し始め――そして、その華奢な体に起きる異変。

 ネメシアの拘束服の下――陰部のクリトリスがむくりと隆起し、みるみる膨張していったのだ。

 陰核は棒のごとくそびえ、そしてエラが張り、先端に第二の尿道が開き――それは、もはやペニスそのものであった。

 高位の淫魔ともなると、対象の女性に魔力でペニスを精製することすら可能なのである。

 「……?」

 唐突に自らの股間に出現した肉棒に、ネメシアも無表情のまま足を止める。

 目の前の存在は、自分の行動を邪魔する障害――そう認識したのかもしれない。

 

 「男の快感、味あわせてあげる……」

 アルビーネの背から、ばさりとコウモリの翼が広がった。

 次の瞬間アルビーネは翼をはためかせて飛翔し、ネメシアの背後に回りこむ――そして、その華奢な背中にふわりと抱きついた。

 そのまま拘束服を巧みに緩め、ネメシアの下半身をはだけさせる。

 非常に華奢な曲線で構成されたネメシアの陰部――そのクリトリスの位置には、到底似合わない男性器がそそり立っていた。

 「たっぷり触ってあげるから……なるべく我慢してね」

 そんなネメシアのペニスに、アルビーネは艶かしく両手指を絡めた。

 左手はサオを優しく握り、カリの部分には右手親指と人差し指の輪がまとわりつく。

 「男の人は、こうしてあげるとたちまち漏らしてしまうの……ふふ、貴女はどうかしら?」

 しゅ、しゅ、しゅ……と、アルビーネはネメシアのペニスを扱き始める。

 それは、まさにサキュバスの魔技。

 サオを締め付け、カリを嫐り、亀頭を撫で回す変幻自在の手技――

 「……」

 しかしネメシアは、並の男なら恍惚状態になるであろう魔技を受けながら眉一つ動かさなかった。

 ただ視線を落とし、自らの股間で巧みに蠢くアルビーネの手技をじっと見詰めている。

 まるで、その技を習得しているかのように――

 

 「……どういうこと?」

 熟練したサキュバスであるアルビーネは、たちまち異常を察知した。

 ネメシアは悶えるどころか、まるで反応が見られないのだ。

 これだけの手コキを受けて声一つ漏らさないのは、絶対に考えられない――

 不意に、アルビーネが密着しているネメシアの背中がにゅるりと蠢いた。

 いつしか拘束服がはだけ、ネメシアは素肌をさらしていたのだ。

 「こ、これは……!?」

 アルビーネの余裕は、たちまち煙のように消え失せてしまう――それも無理はなかった。

 背中全体がじゅるじゅると軟体状になってうねり、その柔らかい粘膜から無数の触手が突き出てきたのだ。

 さらにネメシアの10本の手指までが触手と化し、背面にしがみついているアルビーネへと迫る。

 「な……! 何なの、これは――!!」

 翼をはためかせ、いったんネメシアの背中から離れようとするアルビーネ――

 しかし彼女はサキュバスとしては上位だが、決して並外れた反射神経を持っているわけではなかった。

 その全身にしゅるしゅると無数の触手が巻き付き、動きを封じられる。

 手足や羽は触手でがんじ絡めにされ、完全に自由を奪われてしまったのだ。

 「は、離しなさい……!」

 そのままアルビーネは、ざわざわと皮膚全体が蠕動しているネメシアの背中に引き寄せられていく。

 その背中にぐぱぁ……と口のような器官が開き、触手や肉の軟体がうじゅうじゅと這い出てきた。

 「ひ、ひぃ……!!」

 アルビーネの身体は、そのままぐにゃりとネメシアの背中に沈み込んでしまった。

 その華奢な背中からはじゅるじゅると軟体と化した肉が盛り上がり、アメーバのようにアルビーネの体を包み込んでいくのだ。

 背中に開いた亀裂の内部全体が胃壁のような捕食器官と化し、底なし沼のようにアルビーネを沈み込ませていく。

 「あ、ああああぁぁぁぁぁぁ……!!」

 そしてアルビーネが感じていたのは、電撃のような快感だった。

 全身を触手に巻き付かれ、羽や手足は逃げられないようにがんじ絡めにされ、ぐにゅぐにゅと波打つ背中に包まれ――

 快感には耐性があるはずのサキュバスが、全身が蕩けるかのような快感に悶えていたのだ。

 「あっ、あっ、あああぁぁ……!」

 ネメシアの触手と化した指の一本が、にゅるにゅるとアルビーネの膣内へと潜り込む。

 何百人もの男の精を吸い尽くした魔性の穴、その内部の感触を確かめるかのように、うねうねと触手が蠢いた。

 「は、はぁぁぁぁ……ン!」

 内奥をにゅるにゅると掻き回され、甘い声で悶えるアルビーネ。

 快感で身をよじってはいるが、もはや逃げようとする意志など微塵もない。

 その目に陶酔の色を浮かべ、サキュバスはびくびくと快感に震えるのみ。

 

 「はぁぁぁ……」

 アルビーネの身体はずぶずぶとネメシアに取り込まれ、ゆっくりと呑み込まれていった。

 下半身はすでにどっぷりとネメシアの中に沈み込み、上半身にも捕食軟体がじわじわと押し包んできたのだ。

 幾多の男の精を搾った手が、何人もの男のペニスを挟んだ乳房が、数え切れないほどの男の肉棒を弄んだ口が――

 「ン……あ……」

 じゅるじゅると全身がネメシアの体組織に侵食されていき、そして恍惚に満ちた頭部までがじゅるりと呑み込まれてしまった。

 口腔のような捕食器官はみっちりと閉じ、肉の渦がアルビーネの全身を包み溶かし、そしてぐにゅぐにゅと咀嚼する。

 人間大のものを呑み込んだネメシアの背部はぷっくりと膨れ上がり、内部のものを揉み溶かすように蠢いていた。

 しかし、それもすぐに収まり――アルビーネの身体は、ネメシアによって完全に取り込まれてしまったのだった。

 

 ネメシアの背中から這い出ていた触手や軟体がするすると引っ込み、その口のような亀裂も閉じていく。

 その数秒後には、彼女の背中は女性特有の艶かしいラインへと戻ってしまった。

 アルビーネの魔力によって形成されたペニスも消え失せ、非常に形のよい女性器の外見を取り戻す。

 月光の下、華奢で無表情の女性が何事もなかったかのようにたたずんでいた。

 その異形の肉体で淫魔一人を取り込んだことなど、微塵も感じさせない細い体――

 

 「……」

 ネメシアの背から拘束服を突き破り、コウモリのような翼が突き出る。

 それは、アルビーネの背から生えていた羽そのもの――その翼をはためかせ、ネメシアの華奢な体がふわりと飛翔した。

 ターゲットは、深山優という男。ネメシアは名前など把握していないが、その匂いははっきりと覚えている。

 そしてネメシアはアルビーネを取り込んだことにより、男性を嫐るという行為をも覚えたのだった――

 翼を大きくはためかせ、ネメシアはノイエンドルフ城内へと突っ込んでいった。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

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