ユダの揺籠


 

 ――いやだ!

 ――死にたくない!

 

 生への執着が、青年に活力を与えた。

 死と背中合わせの状況が、彼に聖者のごとき意志を与えたのである。

 彼は自らの意志で、感覚を閉ざしていた。

 

 ペニス先端への刺激も感じない。

 マルガレーテの声も聞こえない。

 己の中から沸き上がってくる、快感への期待も断絶した。

 そして、時間の感覚をも超越する――

 

 悠久の時に流れに身を浸す感覚。

 その中で、一時間という拷問の時も過ぎ去っていたのだった。

 

 

 

 

 

 「お、終わった……のか?」

 一瞬だけ聖者の域に達していた青年は、いつの間にか拘束が解除されていたことに気付いていた。

 もしかしたら、失神していたのかもしれない――そう思えてしまう時間。

 とにかく、自分は悪魔の拷問を耐えきったのだ!

 

 「素晴らしい……人間の意志というのも、捨てたものではありませんわね」

 マルガレーテは拷問を耐え抜かれたという悔しさも見せず、むしろ良い物を見せてもらったという表情。

 これだから、人間は面白い――これもまた、マルガレーテの悦楽なのである。

 彼女は堕ちていく人間だけでなく、苦難に耐え抜く輝かしい人間の意志をも愉しんでいるのだ。

 「こ、これで解放してくれるのか……?」

 「ええ、嘘は申しませんわ」

 柔らかな笑みを浮かべながら、マルガレーテは青年の正面に立った。

 その白魚のように細く小振りな手が、青年の顎を静かに捉える。

 最上級の淫魔が、直に触れる――

 青年は魔法にかかったように、息を呑んで動きを止めていた。

 

 「ふふ……本当に愉快な時を過ごさせて頂いたわ。

  私を愉しませてくれた礼と、そして強固な意志への祝福の印に――」

 「え――」

 マルガレーテは青年の懐に滑り込み、その顔を見上げるように上目遣いを取り――

 そして、青年の顔へと唇を近付けていく。

 

 「う、うぅぅ……」

 花びらのようなマルガレーテの唇が、自分の唇に近付いてくる。

 酔いそうなほどに蠱惑的な感情と、生理的な恐怖。

 

 ――オスを誘うカマキリ。

 ――虫を捕らえる食虫植物。

 ――獲物を丸呑みにする大蛇。

 

 それと同質のものを、青年はマルガレーテの唇から本能的に感じ取る。

 だが……そんな危険を察知しながらも、甘い誘惑の前に青年は抗えなかった。

 そして、その唇をマルガレーテに捧げてしまう――

 

 「……ッ!」

 唇が重なった瞬間、青年の両眼が見開かれた。

 体がびくんと跳ね、カタカタと小刻みに震える。

 

 舌を絡めたりはしない、唇を重ねるだけのキス。

 あまりにも甘いマルガレーテの唇。

 ふんわりとした息の香りが、鼻孔をくすぐる。

 彼女の吐息が、唇の感触が、青年の口を陵辱する。

 甘い唇が青年を蹂躙し、犯し尽くしてしまう――

 

 「ん、んんんんんんんッ……!」

 触れられてもいないペニスがびくびくと震え、どぷどぷと白濁液を吐き出した。

 彼の両手が、まるで溺れている人間のようにジタバタと宙を掴む。

 それでもなお、マルガレーテは青年の唇を離さない。

 柔らかい自身の唇をねっとりと密着させ、なぞるように舌を這わせていく――

 丹念に、唇を味わう甘いキス。

 それは、青年を壊し尽くすのに十分だった。

 

 ドクドクと垂れ流されている精液は、すでに十数回分の射精量にも達していた。

 それは足元を汚し、床に垂れ、肉槽にまで流れ込んでいく。

 「……ん、ふぅ」

 マルガレーテは唇を離し、互いの唇の間に唾液の糸が引いた。

 そしてハンカチを取り出し、口許を拭く――同時に、青年はその場にどさりと倒れてしまう。

 

 「あ、あはぁ……、はぁぁ……」

 緩んだ表情で笑いながら、どぷどぷと精を漏らし続ける青年。

 もはや彼が正気に戻ることはない。

 最上級である淫魔の接吻を受けてしまった彼は、なんとも惨めな姿となったのである。

 「ふふ、人間とはなんと脆い……あれだけ強固な意志を示していたというのに、唇を舐めてあげただけで壊れてしまうなんて」

 マルガレーテは廃人と化した青年の姿を見下ろし、微かに口の端を歪ませる。

 壊れてしまったオモチャに、もはや用などない。

 

 肉槽に満たされた『淫魔の肉』が、じゅるじゅると蠢く――それを横目に捉えながら、マルガレーテは軽く指を鳴らした。

 それは、『淫魔の肉』に対する「貪れ」という意味の合図。

 まるで触手のように肉槽から粘肉が伸び、横たわっている青年の足や腰、胴に巻き付いた。

 全く抵抗の様子も見せず、緩んだ表情で精を漏らし続ける青年――その体を、肉槽内に引きずり込んだのだ。

 

 ――どぷっ!!

 

 奇妙な粘音を立てながら、青年の身体は搾精肉槽に満たされている『淫魔の肉』に沈み込んだ。

 その乳首やアナル、玉袋やぺニスなどの性感帯に、魔性の柔肉が襲い掛かる。

 全身をねっとりと包み込まれ、青年は体の隅々までを嫐られ尽くした。

 もはや彼は、死ぬまで精液を搾り取られる有機体に過ぎない。

 もっとも、それ以前に彼の理性は壊されていたが――

 

 ぐにゅぐにゅ…… にゅちゅにゅちゃにゅちゃ……! じゅぽじゅぽ……!!

 にゅぐ…… ぐにゅぐにゅぐにゅ…… ぐちゅぐちゅ…

 うにょうにょ…… ぐちゅぐちゅぐちゅ……

 にゅる…… ぐにゅぐにゅ……

 ぐにゅぐにゅ……

 にゅぐ……

 

 

 

 

 

 激しく蠢いていた『淫魔の肉』の表面が、春の湖面のように静かになった。

 ノイエンドルフ城の地下室を、氷のような静寂が支配する。

 

 マルガレーテが指を鳴らすと、ドアを開けて女従者が入ってきた。

 彼女は、主人の前にかしづく。

 「いかがいたしましょうか、ご主人様」

 「エミリア、次の者をここへ――」

 

 

 



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