ル・エカ・キ・カオ・キ・シン・ニ・ノソ




 注意:この物語はある程度がフィクションです。実在の人物等はいくらかしか関係ありません。



 最近、ネットで流れている噂がある。それはある人物の本を一定数購入すると、買った人の元に好みのタイプの相手がやってくるというものだ。

 どう考えても眉唾ものの胡散臭い話なのだが、実際にそれを体験したという人は数多くいるらしい。俺の知人も、実際にすごい美人と会えたと語っていたから驚きだ。

 聞いた話やネットで拾った話をまとめてみた所、色々と興味深い話もあった。

 まず購入数についてだが、その本を十冊買えば一日、百冊なら二週間、千冊ならば半年間、好みの異性と過ごす事が出来るそうだ。千冊以上購入した場合過ごせる期間が延ばせるのかどうかは、まだ詳しくわかっていないらしい。まあ本自体が発売されてからまだ一年経っていないそうなので、それはある意味仕方ないのかも知れない。

 また人数分本を購入すれば、複数の異性と一緒に過ごす事も可能だという。本物かどうかは知らないが、一万冊購入したという猛者の画像もネット上に出回っていた。どこにでもいそうな一人の男が、ロリな女の子から綺麗なお姉さんまで様々なタイプの女の人に囲まれている画像だったが、もしあれが本当ならうらやましいものだ。

 それから、望む相手は人に近い形でさえあれば、必ずしも人でなくても構わないとも言われている。ネットでも、不定形の女性やコウモリのような羽を生やした美少女等と一緒に撮ったという画像をいくつも見る事が出来た。

 そしてこれが肝心なのだが……その本の著者の名は『アルティ・エストランス』というらしい。

 実を言うと俺は、この著者の名前に見覚えがあった。俺がお気に入りに登録している、とあるサイト……『モンスター娘百覧』に小説を投稿している人物の一人が、全く同じ名前を名乗っているのだ。こんな名前を名乗る者が何人もいるとは思えないし、多分同一人物なのだろう。

 一応自分でも適当に検索してみた所、アルティ・エストランスが書いたという本はすぐに見つかった。というか、『アルティ・エストランス 本』でググったらあっさり見つかった。しかも、普通に通販で売ってた。おまけに、思ったより安かった。

 で、何で俺がこんな話をしているかというと……ちょうど俺の目の前にあるんだな、そのアルティ・エストランスとやらが書いたという本が十冊ばかり。いやあ、通販って便利だね。

「はぁ……何やってんだか、俺は」

 代金として消えていった樋口さんに思いを馳せながら、溜息を吐く。いくら一冊が単行本程度の値段だったとはいえ、十冊も衝動買いはどうかと思う。

(しかし、今の所好みの女の子が来そうな様子は無し……か。やっぱりガセネタなのか?)

 ひょっとしてあの噂は、アルティ・エストランスとやらが自分の本を売るために流したものなのだろうか。だとしたら、そんなのに騙されてしまった自分は馬鹿としか言いようがない。

「はぁ……まあ悔やんだ所でどうなるものでもないし、今日はもう寝るか……」

 二度目の溜息を吐き出しながら、俺はベッドへと潜り込んで目を瞑った。幸い明日は休日だ。精々遊んで今日の事は忘れるとしよう。そんな事を考えながら、俺は布団の中にもぐりこみ、そのまま眠りに付いた。







 ……むにゅっ。

(んっ……)

 ……むにゅむにゅっ。

(んんっ……何か柔らかいものが、俺の顔に……当たってる……?)

 むにゅっ、むにゅむにゅっ。

(何かよくわからない、けど……これ、すごく気持ちいい……)

「ふふっ、タロー君は寝ぼすけさんだね〜♪ ボクのおっぱい枕、そんなに寝心地いいのかな?」

(女の子の、声……? 確か俺って一人暮らしだったはず……って、おっぱい枕!?)

 耳に入ってきた魅惑的な単語に、夢見心地であった意識が現実へと引き戻される。とりあえずは現状を確認するべく、俺は目を開いた。そこにあったのは……。

「あっ、タロー君おはよっ♪」

「なっ、なななななっ!?」

 俺の頭を抱きかかえるようにしながら隣に横たわっている、とんでもなく可愛い美少女だった。赤いショートカットの髪が印象的な彼女は、その豊かな胸の上に俺の頭を載せたまま、にっこりと笑って挨拶をする。身に着けていた黒いボンデージのような衣装は彼女のスタイル(特に胸)を強調しているようで、正直目の毒といっていい。一体何でこんな可愛い子が、俺の部屋にいるんだ?

「……えっと、ちょっといくつか質問するけどいいかな。君は、一体……?」

「ボク? ボクはラブだよ♪ 今日一日よろしくねっ、タロー君♪」

(きょっ、今日一日!? 一体何で……あっ、ひょっとしてあの本を買ったからか? という事は……あの噂って、ガセじゃなかったのか!)

 というか、この状況から考えてそれしか原因が思いつかない。しかし、ショートカットで巨乳のボクっ娘とは何という俺得。こうも俺の性癖を正確に把握しているなんて……アルティ・エストランス、一体何者なんだ?

 そんな事を考えていると、不意に俺の腹が音を立てて鳴った。時計を見ると、もう昼近い時間になっている。

「あはっ、タロー君お腹空いてるんだ♪ ボクがご飯作ってあげるから、ちょっと待ってて♪」

「えっ!? い、いや、そこまでしてもらうわけには……」

「遠慮しないの♪ ほらほら、タロー君はご飯作ってる間に着替えてて♪」

 そう言うと、ラブは大きな胸を弾ませながら、とてとてと台所へ向かっていった。

「えーと……とりあえず、着替えるか」

 昨日そのままの格好で寝ていた事を思い出し、俺は服を着替える事にした。







「出来たよ〜♪ さっ、冷めない内に召し上がれ♪」

「お、おぉ……!」

 目の前に並べられた料理を前に、思わず感嘆の声が口から漏れる。女の子、それも俺の好みどストライクの子の手料理というだけでも十分過ぎるくらいなのだが、そういった要素を抜きにしても、俺の前に並べられた料理の数々は素晴らしい出来だった。

「こ、これ全部ラブさんが作ったの? 料理、上手なんだ……」

「そ、そうかな? 冷蔵庫にあったもので作っただけなんだけど……」

「いやいや、十分過ぎるくらいすごいって! 俺じゃこんなに上手く料理出来ないだろうし」

 実際、普段あまり料理をしない俺には、目の前に並んだ料理を作れる自信はこれっぽっちもない。外見も性格も俺好み、しかも料理も得意なんて……いかん、思わず惚れてしまいそうだ。

「え、えへへ……あっ、そうそう♪ ボクの事はラブでいいよ♪ 何かさん付けで呼ばれるのって、慣れてないんだよね♪」

「そ、そうか。え、えっと……ラブ?」

 緊張しながら、そう口にする俺。女の子の名前をさん付け無しで呼ぶのなんて、何年ぶりだっけ? いやそもそも、そんな機会あったか? 等と思いながら。

「んー? どうしたの、タロー君?」

「いや、その……ラブの分は、作らなかったのか? 見た所、俺の分だけみたいだけど……」

 そう。目の前にあった料理は、一人分だけだった。ひょっとして遠慮でもしているのだろうか。

「ああ、それ? ボクのゴハンは普通の人とはちょっと違うから、大丈夫だよ♪ ほらほら、のんびりしてると料理が冷めちゃうよ♪」

「あ、ああ。そうだな……」

 ラブの言っている事の意味はよくわからなかったが、とりあえずせっかく俺の為に作ってくれた料理を無駄にするわけにもいかない。俺は両手を合わせて挨拶をしてから、料理に端を伸ばした。

「……美味しい!」

「本当? タロー君の口に合ったみたいで、よかった♪」

 そう言って、にっこりとほほ笑むラブ。その笑顔があまりにも可愛すぎたので、思わず料理に夢中になっているようなふりをして顔を逸らしてしまう。

 ……いや、本当に可愛いんだよこれが。ひょっとして天使か何かなんじゃないかと思うくらいに。

「……ふふっ♪」

 俺を見ながら、ニコニコしているラブ。そんなラブを前に何やら気恥かしさを覚えながらも、俺は彼女の手料理を次々に口へと運んでいった。







「……ふぅ、ごちそうさま! すっごく美味しかったよ、ラブ」

「えへへ、どういたしまして♪」

 ラブが作った料理を平らげて、俺は一息吐いた。それにしても、こんなまともな食事にありついたのは何年ぶりだろうか。普段はカップ麺やレトルト食品で済ませる事が多いからなぁ。

「……さて、と。それじゃ、ボクもゴハン食べようかな♪」

「ご飯? そういやさっき、普通の人とはちょっと違うって言ってたけど……って、ら、ラブ? な、何でこっちに近づいてきてるんだ?」

「ふふふっ……何でだと思う〜?」

 蕩けそうな笑顔を浮かべながら、俺の方ににじり寄ってくるラブ。彼女との距離が近づくにつれ、仄かな甘い匂いが鼻に届く。

(な、何だ? だんだん頭が、ぼーっと……し……て……)

「ふふっ……ちゅっ♪」

「んっ……むぐっ!?」

 突然、俺の口がラブの唇に塞がれる。当惑する俺に構わず、彼女は俺の口内に舌を潜り込ませてきた。そしてそのまま、俺の口の中を舌先で蹂躙する。

「んっ、んんっ……んむっ……んっ……」

「んんんっ、んむっ……んんっ、んぁっ……ふぁぁぁぁ……」

 ラブの舌による甘美な刺激は、次第に俺を蝕み、虜にしていく。気付けば目はとろんとなり、ラブから与えられる感触に夢中になっていた。

「んっ……っふぅ。えへへ……ボクのキス、そんなによかった?」

「ふぁぁぁ……ら、ラブぅ……」

「ふふっ、聞くまでも無かったみたいだね♪ それじゃあ……今からもっと、気持ちいい事してあげる♪」

 そう言うとラブは、俺の服を脱がし始めた。みるみるうちに俺の服が一枚一枚脱がされていき、最後の砦であったトランクスもあっさりと突破されてしまう。それと同時に、十二分に硬くなっていた俺のモノが姿を現した。

「あははっ、もうこんなになってたんだ♪ タロー君ってば、やーらし♪」

「……ふああっ!?」

 ラブは手を伸ばし、俺の肉棒を軽く握る。ただそれだけだというのに、俺は大きく身体を震わせた。

「あはっ、タロー君は敏感なんだね♪ これは責めがいがありそう……♪」

「ら、ラブ……一体、何を……?」

「ふふっ、タロー君はじっとしててね♪ 今からタロー君の事、気持ちよくしてあげるから♪」

「き、気持ちよくって……あっ、あああっ!?」

 そういうと、ラブは俺のモノを握ったまま、手を上下に動かし始めた。自分でする時とはまるで違う感触に、俺の口から自然と声が漏れ出す。

「あはっ♪ ボクのおててでシコシコされるの、そんなに気持ちいいんだ♪ ほらほら、だんだん早く扱いちゃうよ〜♪」

「あっ、あああああっ!?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、俺の逸物を扱くラブ。ただそれだけだというのに、俺は為すすべもなく悶絶していた。

「ふふっ、手でシてるだけでこんなに感じちゃうんだね♪ 手だけでこんなに感じちゃうのなら、お口でペロペロしてあげたり、おっぱいで挟んだりしてあげたらどうなっちゃうのかなぁ?」

「あっ、あひぃぃぃっ!? ふぁっ、ふああああああっ!?」

 笑顔を浮かべたまま、そんな事を口にするラブ。しかし俺には既に、反応を返す余裕はなかった。

「ほら、こんなのはどう? 右手でおちんちんを扱きながら、左手で先っぽの方をなでなで……ふふっ、すごいでしょ?」

「……ひゃああああああっ!? そっ、それっ、だめぇぇぇぇぇっ!?」

 あまりにも強烈な快感を前に、もがこうとする俺。だが次の瞬間、ラブの背中からコウモリのような羽がにょきにょきと生えてきた。突如現れたそれは形を変え、俺の手足に巻きついて動きを封じる。

「ふふっ、ダメだよタロー君♪ タロー君は大人しく、ボクにおちんちんを扱かれてればいーのっ♪ ほーら、先っぽから出てきた汁を、全体に塗りつけてあげるね♪ ついでに乳首も舐めてあげる♪」

「あっ、あはぁぁぁぁぁぁっ!?」

 そして再び、ラブは手コキを再開する。手足の自由を失った俺は、彼女の手が蠢く度に身体を震わせ、大きな声で喘ぐ事しかできなかった。

 そうこうする内に、限界が近づいて来る。元よりこれだけの快感を受けて、今まで堪え続けられていた事自体がおかしかったのだ。

「あっ、あああっ……もっ、もうっ……」

「ふふっ、出ちゃう? 出ちゃうんだ……いいよ、イっちゃえ♪」

「ふあああっ、あああっ……ああっ、ああああああああああ――――――っ!?」

 一際大きな声を上げて、俺は精を放っていた。びゅくびゅくと飛び出した白い粘液が、ラブの手を汚していく。

「あはっ、こんなにいっぱい……あむっ、ちゅるっ……」

 ラブは手に付いた精液を嬉しそうな目で眺めながら、ぺろぺろと舐め取っていく。そのエロチックな姿を前に、一度精を放出したはずの俺の肉棒は徐々に硬度を取り戻し始めていた。

「んーっ、おいしっ♪ って……おやぁ? タロー君のここ、どうしてまた硬くなってるのかなぁ〜?」

「うっ……、そ、それは……」

 意地悪そうなラブの視線に、思わず口ごもる俺。

「ふふっ、自分で出した精液が舐められてるの見て興奮しちゃった? このままじゃ可哀想だから、今度はお口でシてあげるね♪」

「く、口でって……ふぁぁぁぁっ!?」

 抵抗する間もなく、ラブの口に俺の猛ったモノが飲み込まれる。口内の甘美な感触に、俺は為すすべもなく身をよじらせる事しかできない。

「んちゅっ……れろぉ……じゅぷ……あむっ……」

「ああっ、ふあああああっ!? こっ、こんなのすごすぎ……くふぁぁぁぁぁっ!?」

 心なしか嬉しそうな表情で、俺の陰茎を頬張るラブ。時には舌を絡め、時には激しく吸い込む変幻自在の責めに、俺は容易く昇り詰めさせられていく。

「ああっ、もっ、もう駄目っ……うああっ、あああああああああああ――――――っ!?」

 二回目の絶頂は、一回目よりも早かった。ラブはこくこくと喉を鳴らしながら、俺が放った欲望の残滓を嚥下していく。

「んっ……ふふっ、朝ご飯ごちそ―さまっ♪」

「あっ、はわぁぁぁぁ……」

 天使のような可愛らしい微笑を顔に浮かべるラブ。そんな彼女を前に、俺はしばらくの間快感の余韻に浸っていた。







「……えっと、つまりラブは本物のサキュバスってことなのか?」

「うん、そーだよ♪」

 少し落ち着いてから、俺はラブにそう尋ねてみた。健康的な笑みを浮かべたまま、あっさりと答えるラブ。

 なお先程の俺の声は、ラブが使ったという結界とやらにより外には伝わらないようになっていたらしい。実にありがたい事だ。もしお隣さんにあんな声を聞かれていたら、今後のご近所づきあいが大変な事になる。

(しかし……ラブがサキュバスってことは、アルティ・エストランスはサキュバスを使役してるってことなのか? いや……ネットには普通のサキュバス以外にもラミアさんやスキュラさんの画像もあったから、サキュバスだけでなく淫魔全てを使役出来ると考えた方がいいか? 本当に何者だよアルティ・エストランスって)

 ちなみに知らない人の為に解説しておくが、淫魔というのは精液を糧とする存在を指す。その中でも一般的に、人型の淫魔はサキュバスと呼ばれるそうだ。基本的にサキュバスを含む淫魔は全て雌性体であり、男は存在しないという。まあいわゆる両性具有の淫魔も稀に存在するらしいが、それでもベースは女性なのだとか。

 ……どこかにインキュバスなる男の淫魔が存在するという情報は、とりあえず置いといて。

「……ひょっとして、ボクがサキュバスだと嫌だったかな?」

「いやいやいやいや、そんな事はこれっぽっちもありませんとも!」

 むしろエッチな女の子とか大好物です。特にちょっぴりSっ気のあるショートカットで巨乳のボクっ娘とかなら最高です。言う事無しです、はい。

「え、えへっ……ありがと、タロー君♪」

「い、いや、こちらこそよろしく」

 何だか非常に照れくさい。それもこれも、ラブが可愛すぎるからだ。目の前にいるのが普通の女なら、ここまでは緊張しないだろう。

「あっ……そういえばタロー君、今日はお仕事とか大丈夫なの?」

「仕事? ああ、今日は休みだから大丈夫だよ」

「そっか♪ じゃあ今日一日、ずっとタロー君と過ごせるね♪」

「そっ、そうだな……」

 本当、今日が休日で良かった。もし仕事のある日にラブが来ていたら、あまり一緒にいられなかったわけだし。

「あっ、そうだ♪ もしよかったら、ボクと一緒にデートしない?」

「で、デート!? い、いいのか? そりゃあラブがデートしてくれるってのなら嬉しいけど……」

「じゃあ決まりだね♪ ちょっと待ってて、今着替えるから♪」

 そう言うとラブは胸の谷間に手を突っ込み、そこから携帯を取り出した。そしてそれをカチカチと操作すると、不思議な事に彼女の着ていたボンデージ風の服装が、彼女に似合った可愛らしい服へと変化する。もっとも、彼女の双丘は変わらぬ存在感を示していた。うん、大きいって素晴らしいなぁ。

「お待たせっ♪ それじゃ、行こっか♪」

「あ、ああ。しかしそれ、どうなってるんだ?」

「これ? よくわからないけど、これに登録されてる服装を選ぶと、今着てる服がそれに変わるんだって♪」

 ふむ……それはまた便利なものだ。

「それ、一体どういう仕組みになってるんだ?」

「えっと……そこは企業秘密なんだって。だからボクもあんまりよくわからないの」

 まあ、それもそうか。しかし企業秘密ね……実は会社でも経営してるのか、アルティ・エストランスってのは。

「……それじゃ、そろそろ行こっ♪」

「そ、そうだな」

 こうして、俺はラブとデートすることになったのだった。







「んーっ……お家で一緒にいるのもいいけど、外で遊ぶのもいいよね♪」

「あ、ああ。そっ、そうだな……」

 やや上ずった声で、返事をする俺。今俺達はラブの希望で、映画を見るために映画館へ向かっている所だ。それで、俺が何でこんなに緊張しているかと言うとだな……ラブが、俺の腕にしがみついてるからなんだ。彼女がしがみつくと、当然そのたゆんなモノが俺の腕に当たるわけで。

(うおっ、おおおおおおおおおおおっ!? おおおおお、俺のっ、俺の腕にっ、柔らかいものが二つもぉぉぉぉぉぉぉっ!? おおおおおおちけつ、じゃなかった落ち着け俺! こっ、こういう時は素数を数えるんだ! たっ、確かどこかの本に、そう書いてあった! さっ、さあ数えるぞ! 2、4、6、8、10、12、16……ってこれ偶数じゃねえか!)

 とまあそんな感じに、現在絶賛動揺中なのである。

「……えへっ♪ 何かこういうの、恋人っぽくていいよね♪」

「あ、ああ。そっ、そうだな……」

 そんな状態なので、まともな返事をする余裕は俺には無かった。それでも頭の中に広がるピンク色の妄想をラブには悟られまいと、必死に平静を保とうとする。

「むぅ〜……タロー君ってば、さっきからずっと同じ返事ばっかり。ボクと一緒にいるの、そんなにつまらないかな……?」

「そっ、そんな事ないよ! ただそのっ、ラブの胸が当たって……あっ、いやっ。そうじゃなくて、そのっ……」

「……ふふっ、わかってるよ♪ ボクのおっぱいが当たってて、興奮してたんでしょ♪」

 ……どうやら、彼女にはお見通しだったらしい。

「……あっ、着いたよ♪ ほらほら、早く行こうよぉ♪」

「わっ、ちょっ、そんなに引っ張らなくても!」

 ぐいぐいとラブに腕を引っ張られながら、俺とラブは映画館へと入って行った。







『随分手段を選ばないのね。サキュバスを人質にとるなんて、貴方が始めてよ』

『生憎、戦場で手段を選ぼうとするほど高潔じゃないんでな。で、どうする? 俺を見逃すか?』

「わわっ、まさかこんな展開になるなんて……」

「そ、そうだな……」

 俺とラブが見ているのは、最近話題になっていたアクション物のラブストーリーだ。スクリーン上にはサキュバス達を束ねる女王の一人という設定の女性と、彼女の部下に拉致されたという主役の男が映っている。

『そうね……見逃してあげてもいいわ。条件があるけど』

『その条件ってのは……何だ?』

「わくわく、わくわく♪」

「…………」

 映画はかなり面白そうな内容ではあった。あったのだが……。

(ぜ、全然集中できない……)

 隣にいるラブの事が気になって、俺は映画の内容がほとんど頭に入らなかった。ちらちらと、ラブの様子を横目で窺ってしまう俺。主にそのたゆんな胸とか、黒いストッキングに包み込まれている太股とか、ミニスカートからまれにちらりと見える未知のデルタゾーンとかを集中的に。

「……もう、タロー君ってばどこ見てるの?」

「あっ……ごっ、ごめん!」

 ごめんラブ、でもそれが男の性なんだ。許してくれ。

「……仕方ないなぁ♪ じゃあ映画が終わったら、後で気持ちよくしてあげよっか♪」

「ほ、本当か!?」

「うん♪ でも、それまではおあずけだよ♪」

(ああ、今程時間を飛ばしたいと思った事は無いのに……!)

 ラブの言葉に期待を膨らませながら、俺は上映が終わるまでしばらくの間悶々とし続けた。







「うっ、うああああっ!?」

「ふふっ、こんなにカチカチにしちゃって……そんなに期待してたんだ♪」

 映画館の近くにあった、人気のない路地裏。そこで俺は、ラブの責めを受けていた。俺のペニスはラブのたわわに実ったモノに挟み込まれ、ビクビクと震えている。

「あはっ、タロー君のこれ、嬉し涙流しちゃってるね♪」

「あっ、あああああっ!?」

 ふにふにと柔らかい感触が、俺の肉棒を両側から襲う。ラブの言葉通り、俺の逸物はその先端を我慢汁で濡らしていた。

「うああっ、はああっ、あううううっ!?」

「もう、そんなに大きな声出しちゃって……結界張ってるから音は漏れないけど、絶対に人が来ないとは限らないんだよ? 誰かにこんな恥ずかしい姿を見られちゃってもいいの?」

「だっ、だってぇ……ふあああああっ!?」

 こんな恥ずかしい姿を、ラブ以外に見られたくはない。だが、彼女のパイズリによる刺激は強烈過ぎて、とても声を我慢する事なんて出来ないのだ。

「ほらほらぁ♪ ボクのおっぱいでムニュムニュされてるからって、そんなに大きな声出しちゃ駄目だよ♪ ちゃんと我慢しないと♪」

「むっ、無理ぃ……ああっ、あふぁぁぁぁぁっ!?」

 無慈悲にも、ラブは彼女の持つ二つの凶器で俺の刃を責め続ける。そんな彼女の責めを受ける度に、俺はみっともなく身体をよじらせ、情けない喘ぎ声をあげるしかなかった。

「ふふっ、そんなに感じちゃて……ちょっとサービスしてあげよっかな♪ んっ……ちゅっ……」

「ふああっ、ああああああっ!?」

 ラブは谷間から顔を出した俺のモノに顔を寄せると、そのまま軽く口づけた。そしてその後、先端に舌を這わせ始める。新たに与えられた刺激に、俺は先ほどよりも大きく身体を震わせる。

「あっ、ああああっ……もっ、もうっ……!」

「あはっ、もう駄目? イっちゃいそう? いいよ……ボクのおっぱいでグリグリされて、えっちなお汁いっぱい出しちゃえ♪」

「ふぁぁっ、はぁうううっ……あふぁぁっ、あああっ、ああああああああああああ――――――――っ!?」

 ラブの責めを堪え切れず、俺はびゅく、びゅく、と精を放ってしまった。ラブは俺が出した液体を口で受け止め、そのまま飲みほしていく。

「……えへっ♪ ボクのおっぱい、最高だったでしょ?」

「あぁぁ、ふぁぁぁぁぁ……」

 為すすべもなく精を搾り取られ、しばらくの間俺は放心していた。







 それからしばしの間、俺とラブはデートを楽しんだ。

 ゲームセンターでクレーンゲームを楽しんだり、エアホッケーをやったり、久しぶりにホウリング場へ行ってみたり。まあクレーンゲームでは結局一つも取れなかったし、エアホッケーはラブが前かがみになった時に見える胸の谷間が気になって集中できずにボロ負けしてしまったし、ボウリングではラブのミニスカートの奥から時折覗く未確認物質に心を奪われてロクにピンを倒せなかったわけだが。まあ、楽しかったから良しとしよう。

 そして、デートを存分に楽しんだ俺達はとある場所に来ていた。まあ……所謂、恋人達の為の休憩所って所に。

「ほらほら、タロー君も早く早く〜♪」

「あっ、ああ! ちょっと待っててくれ」

 風呂場から、先に服を脱ぎ終えて入っているラブの呼び声が聞こえてくる。普通なら男の俺の方が脱ぐのは早いのだろうが……まあ、彼女の前で服を脱ぐのが恥ずかしかったというわけだ。既に一回裸を見られてるってのはこの際、気にしないことにする。

「……よし、行くか!」

 覚悟を決めて、風呂場に突入する。そこには俺と同じく、一糸纏わぬ姿となったラブがいた。ラブの裸体のあまりの美しさに、俺は見惚れてしまう。

「んー? どうしたのタロー君、そんな所に立ってないで、早くおいでよ♪」

「あ、ああ。悪い、ちょっとボーっとしてた」

 そう言って、ラブの元へおっかなびっくりといった調子で歩み寄る。

「そうそう。ボクはもう身体洗っちゃったけど、もしよかったらタロー君の身体洗ってあげようか?」

「い、いいのか? えっと……それじゃ、お願いしよう、かな」

 緊張しながらも、そう応える俺。いや、こんな可愛い女の子に身体を洗ってもらえるチャンスがあったら、男として飛びつかないわけにはいかないだろう。

「おっけ〜♪ それじゃ、洗ってあげるから背中向けて♪」

「あ、ああ……これでいいか?」

 ラブに言われるがまま、俺は彼女に背中を向けた。その直後、むにゅりという感触が背中に走る。

「うっ、うおおおっ!? こっ、これはぁっ!?」

「ふふっ、ボクのおっぱい、柔らかいでしょ♪ このままおっぱいで、タロー君の身体を洗ってあげるね♪」

 そう言うと、ラブはボディーソープに塗れた胸を俺の背中に擦りつけ始めた。背中から伝わる得も言われぬ感触に、俺の脳は次第に思考力を失っていく。

「ふぁぁぁ……」

「あはっ、タロー君ったらよだれ垂らしちゃってる♪ ボクのおっぱい、そんなに気持ちいい?」

 惚けたような表情の俺に、そんな言葉を投げかけるラブ。しかしそれもすぐに耳を通り抜けていき、俺の頭には残らない。今の俺の頭の中は、ラブのおっぱいの事でいっぱいだった。

「……おやぁ? 何だかタロー君のここ、おっきくなっちゃってるよ?」

 そう言って、小悪魔的な微笑を浮かべるラブ。彼女の指摘通り、俺のペニスは既に屹立していた。

「よぉ〜し、こっちの方も洗ってあげる♪ え〜い♪」

 今日だけで三度は抜かれているというのに、まるで一週間禁欲生活を送った後のようにギンギンになっている俺の肉棒。そこに、ラブのお尻から伸びた黒い尻尾が絡みついた。既にボディーソープが絡んでいたそれは俺のモノにしゅるしゅると巻き付くと、竿の部分をゆっくりと扱き始める。

「あっ、何これっ……ふぁぁっ!?」

「えへっ、ボクの尻尾でタロー君のおちんちんをゴシゴシしてあげてるんだよ〜♪」

 胸を俺の背中に押しつけながら、楽しそうに笑うラブ。その間にも、ラブの尻尾は絶え間なく俺の息子に刺激を与え続けていた。時には竿の部分を締め付けるように動いたり、時にはカリ首のあたりを重点的に責め立てたりと、その責めは多彩で決して慣れる事が出来ないようなものだ。そんな変幻自在の責めに、俺はあっという間に高められていった。

「あっ、あううううっ!? こっ、こんなの我慢出来なっ……うあああああっ!?」

「ふふっ、そろそろ限界かなぁ? それじゃあ……最後はボクの尻尾の中に出させてあげる♪」

 ラブの言葉と共に、肉棒に巻きついていた尻尾の先端が変形を始める。みるみるうちに、ラブの尻尾は先が筒状の経常に変わっていった。ラブの尻尾の中はピンク色で、内部には同じ色をした無数の触手がうねっている。

「えへへ……ボクの尻尾、すっごく気持ちいいんだよ♪ タロー君はどれくらい耐えられるかなぁ?」

「あっ、あぁぁ……」

 うねうねと触手がのたうち回る尻尾の中を、俺に見せつけるラブ。あの中に入れたらどんな感触なのだろうか。恐れと期待が入り混じった目で、俺は目の前に突き付けられた物を見つめていた。

「……そろそろ覚悟はできたかな? それじゃ、いっくよ〜♪」

「ふわぁぁぁぁぁぁぁっ!? なっ、何これぇ……あっ、あああああああああ――――っ!?」

 筒状になったラブの尻尾の先端が、俺の肉棒を先っぽから一気に飲み込む。その瞬間、俺は未曽有の快感に大きく悶えた。無数の触手が俺のモノに絡みついて来る絶妙な感触に瞬く間すら耐える事が出来ず、あっさりと尻尾の中に精を放ってしまう。

「えへっ、瞬殺しちゃった♪ でも、まだまだ終わりじゃないよ♪」

「ふあああああああっ!? まっ、まだ動いてっ……あはぁぁぁぁぁぁっ!?」

 俺が白濁液を吐き出した後も、尻尾の内部は蠢き続けた。全体は俺の陰茎を柔らかな手で握り締めるようにぎゅうぎゅうと締め付け、無数の触手はペニスの表面を這い回る。射精直後の肉棒を弄くり回される感覚に、俺は大きな声を出して悶え狂った。

「うああああああっ!? まっ、また出ちゃ……うああああああああ――――っ!?」

「は〜い、二回目〜♪ それじゃ、もう一回出してみよっか?」

「そっ、そんなぁ……ひゃああああああっ!?」

 竿を、カリ首の辺りを、鈴口を、亀頭を、無数の触手が余す所なく縦横無尽に貪り尽くす。その責めは、立て続けに二度射精したばかりのモノを再び絶頂させるのに十分過ぎるものであった。

「あっ、あああっ……だっ、駄目っ……あうっ、ふぁぁっ、ああああああああああああ――――――っ!?」

「あはっ、またイっちゃったね♪」

 俺が達するのを見ながら、にんまりと微笑むラブ。その間にもラブの尻尾は、尿道に残った精すら一滴残さず吸い尽くそうと吸引を行っていた。やがてもう吸い終わったと判断したらしく、俺の肉棒はようやく尻尾から解放される。

「さぁ〜て、タロー君もキレイになった事だし、一緒にお風呂入ろっか♪」

「ふぁぁぁぁ……」

 ラブは未だ余韻に浸っている俺を、湯船まで引っ張って行った。







「……湯加減はどうかな、タロー君?」

「あ、ああ。ちょうどいいんじゃないかな」

 俺の膝の上に乗ったままこちらを振り返るラブに、そう返事をする。俺の視線の先には、湯船に浮かんだ肌色の凶器が二つ。

(おっぱいって、水に浮かぶんだな……初めて知ったよ)

「こぉ〜ら、どこ見てるの〜?」

 そんな俺の視線に気付いたのか、ラブは悪戯っぽい口調で俺を咎める。

「ごっ、ごめん!」

「あはは、別に気にしてるわけじゃないから大丈夫だよ♪ それにしても、ボクのおっぱいそんなに気になっちゃう?」

「それは、その……まあ、正直に言えば」

 ぶっちゃけすっごく気になってます、はい。

「えへっ、そっかぁ……じゃあ、触ってみる?」

「い、いいの?」

「うん♪ いつでもどーぞ♪」

「じゃ、じゃあ失礼して……」

 恐る恐る、俺はラブのおっぱいに手を伸ばした。指先が触れると同時に、ふにゅっという柔らかい感触が伝わってくる。

「う、うわぁ……柔らかい……」

「ふふっ、そんな遠慮がちじゃなくてもいいんだよ?」

「そ、それじゃ遠慮なく……」

 俺は掌で、ラブのおっぱいを掴んだ。先程の柔らかく癖になりそうな感触を、今度は掌全体から受ける。

「……あんっ、えっちな触り方♪ ふふっ、もっと激しくしてもいいよ?」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ラブのおっぱい、すごく柔らかい……」

 無我夢中で、俺はラブの胸を揉みしだく。手がまるでラブのおっぱいに張り付いてしまったようで、離そうとしてもまるで離れてくれない。いや、そもそも離そうという気さえ起きなかった。

「ふふっ……えいっ♪」

「あっ……ふぁぁっ!?」

 不意に、ラブが腰を浮かせる。次の瞬間、ラブの可愛らしいお尻が俺の肉棒にぐりぐりと押しつけられていた。股間を襲う柔らかな感触に、思わず声が漏れる。

「ほらほら、どうしたの? 手、止まっちゃったよ?」

「だっ、だってラブが……ふあああっ!? おっ、お尻擦り付けるのっ、駄目ぇ!」

 すべすべで柔らかいお尻が、興奮して硬くなっていた俺のモノに擦り付けられる。それだけだというのに、俺は為すすべもなく喘がされていた。

「お尻を擦り付けられるのは駄目なの? じゃあ……こうしてあげる♪」

「えっ……あっ、あああああっ!?」

 ラブは悪戯っぽく笑うと、健康的な太股で俺のペニスを挟み込んだ。お尻に負けず劣らず柔らかな感触を前に、俺の口から情けない声が漏れていく。

「ほらほらぁ♪ ボクの太股でスリスリされるの、気持ちいい?」

「ふぁっ、ふあああああっ!? だっ、駄目ぇ……」

「駄目なの? でも、やめてあーげない♪」

 楽しそうに笑いながら、ラブは太股で俺の逸物を嬲る。きゅっ、きゅっとラブが俺の肉棒を太股で締め付ける度、俺は身体を震わせ大きな声で喘いだ。

「あっ、あああああっ!? もっ、もう出ちゃうっ……!」

「あはっ、また出しちゃうんだ? それじゃあ……太股でスリスリされながら、気持ちよ〜くイっちゃえ♪」

「そっ、そんなぁ……ひゃああっ、あうううっ!? うああっ……あっ、ああああああああ――――――っ!?」

 太股の柔らかな感触に、為すすべもなく俺は達してしまった。ラブはそんな俺を見つめながら、にっこりと微笑む。

「ふふっ、ボクの太股、やわやわで気持ちよかったでしょ? それじゃ、そろそろあがろっか♪」

「ふわぁぁぁぁ……」

 そう言って、先に湯船から出ていくラブ。そんな彼女を、俺は呆けたような表情で見送る事しかできなかった。







「ら、ラブ、お待たせ」

「おっ、出てきたね♪」

 ようやく精神が現実世界に復帰した後、俺は湯船から出て身体を拭いた後、ラブの待つベッドへと向かった。ラブはバスタオルを身体に巻いた格好で、ベッドの端に腰かけている。ドクドクと激しく脈打つ心臓を宥めながら、俺はゆっくりとラブの隣に座る。

「ふふっ、タロー君ったら緊張してるの? ボク達、お互い裸まで見せた仲なのに変なの〜♪」

「そっ、それはそうなんだけどさ……」

 まあ風呂場ではラブの身体を隅々まで観賞する余裕が無かったというのもあるが、何と言うか……ラブの身体は艶めかし過ぎるのだ。健康的な肌の色といい、たわわに実ったおっぱいといい、あらゆるパーツが男の目を惹き付ける為に存在するのではないかと思える程に。正直、正視しているとそれだけで脳がラブの事しか考えられなくなってしまいそうだ。

「……どうしたの〜? ボクの身体、タロー君の好きにしてもいいんだよ♪」

「すっ、好きにって……っ!?」

「ふふっ……♪」

 ごろりとベッドの上に仰向けになるラブ。彼女の誘うような視線に、俺は全身の血液が体中を駆け巡るのを感じた。心臓の鼓動はさらにペースを上げ、だんだん息も荒くなってくる。

「ほらぁ……タロー君、来てぇ……♪」

「……らっ、ラブ!」

 脳髄を蕩けさせるようなラブの言葉に、俺は無我夢中で彼女に覆いかぶさっていた。彼女の身体を隠すバスタオルを慌ただしく外すと、たぷんたぷんと揺れるラブのおっぱいが目の前に曝け出される。その存在感に、俺は思わず唾を飲み込んだ。

「……ふふっ、タロー君ったらがっついちゃって♪」

「はぁっ、はぁっ……! ラブの、ラブのおっぱい……っ!!」

 そのまま両手を伸ばし、ラブの胸を揉みしだく。そんな俺を、ラブはくすくすと笑いながら見つめていた。

「ほらほら、タロー君はおっぱいをモミモミするだけで満足なの? 先っぽをペロペロしたり、ちゅうちゅう吸ったりしてもいいんだよ♪」

「はぁっ、はぁっ……あむっ、れろっ、ちゅっ、ちゅぱっ……!」

 ラブの言葉に導かれるようにして、ピンク色の乳首を口に含む。そのまま吸い付いたり、口の中で飴玉をねぶるように舐めまわす俺。ラブはそんな俺を見つめながら、微かにだが顔を上気させていた。

「んっ……あはっ♪ ねぇ、そろそろ下の方も……触ってぇ♪」

「んちゅっ……んっ……はむっ……」

 片手でラブの胸を揉み、もう片方の胸の乳首を口内に含んだまま、ラブの秘所に空いた手を伸ばす。ラブのそこは、既にぐっしょりと濡れていた。恐る恐る指をその中に入れてみると、指は苦も無くラブの中に飲み込まれてしまう。ラブのアソコは俺の指を離すまいと咥え込みながら、にゅるにゅると絡みついて来る。それまで一度も味わった事のない感触に、それだけで背筋が震えた。

「あんっ……んっ……タロー君の指、いいよぉ……♪」

 頬を僅かに紅く染めながら、微笑むラブ。それを目の当たりにしただけで、俺の身体は度数の高い酒を流し込まれたかのように熱くなった。

「んっ……ふふっ♪タロー君の、もうこんなになってる……♪ ねぇ、そろそろ入れちゃう?」

「ら、ラブの中に……俺の、を……!」

 頭が熱い。まるで熱病に冒されでもしたかのようだ。俺はラブのクレバスに、自身の膨張したモノをあてがった。

「タロー君、来てぇ……♪」

「い、行くよラブ……!」

 誘われるがままに、俺は腰を突き出してラブの中に肉棒を捻じ込んだ。そして……。

「ふぁっ、ふあああああああああっ!? なっ、なにこれぇ!? ああっ、あふっ、ふあああああああああああ――――――――っ!?」

「くすっ……あーあ、サキュバスのおまんこに入れちゃったね♪」

 挿入した瞬間、ペニスを襲った凄まじい快感に俺は悶絶し絶叫していた。魔性としか表現しようのないその圧倒的な快感を前に、刹那も耐えきれず盛大に射精してしまう。ラブは淫魔に相応しい妖艶な微笑を浮かべながら、そんな俺を見つめていた。

「ふふっ……タロー君は知ってるかな? ボク達サキュバスのおまんこはねぇ……無理矢理おちんちんを入れられたら、最後の一滴を搾り取るまで解放してあげないんだよ♪」

「ああああっ、あふあああああああっ!?」

 そう言えば、以前どこかで聞いた事がある。曰く、サキュバスの膣には本能的な防御機能が備わっており、陵辱の意志を持った者が、男性器をねじ込んできた場合それを抜けなくするのだとか。そして哀れな獲物は、一滴残らず精液を搾り取られて死に至る……と。

「やっ、やだぁぁぁぁぁっ!? うあああっ、ああああああああああああああ――――――――っ!?」

「あはは、またイっちゃったね♪ ボクの中、すっごく気持ちいいでしょ?」

 必死に腰を引いて自身のモノを引き抜こうとする俺。だがラブの秘裂は俺の肉棒を深く咥え込み、決して離そうとはしない。そしてその間にも、ラブの肉壺は俺のペニスに絡み付き、休むことなく責め立ててくる。あまりの快感に耐えきれず、俺は再び精を放ってしまった。

「ほらほらぁ、このままだと吸い尽くされちゃうよ〜? それが嫌なら、ちゃんとボクを満足させてくれないとね♪」

「くっ、うああああっ!? はっ、はうううううっ!?」

 そうだ、あの話には続きがあった。確か、サキュバスの肉体に備わった防衛機構を解除するには、相手を絶頂させればいいのだと。だが、同時にこうも書いてあった。サキュバスを人間の性技で絶頂させることなど不可能だと。

「あっ、ああああああああっ!? うっ、くっ……ふああああああっ!?」

「ふふっ、そんなに腰振っちゃって♪ タロー君ったら、かーわいい♪」

 それでも一縷の望みに縋るように、俺は必死に腰を動かしてラブの中を掻き回した。そんな俺の姿を見ながら、ラブは優しげな微笑を顔に浮かべる。

「あっ、あふあああああああああっ!?」

「あはっ、タロー君どうしたの? 腰、止まっちゃったよ?」

 数回の抽送の後、不意にラブの内部が妖しく蠢き出した。まるで先程のピストン運動のお返しとでも言わんばかりに、膣肉がずりずりと擦り付けられる。あまりの快感に、俺はそれ以上腰を動かす事が出来なかった。

「ふふっ……えいっ♪」

 快感に悶え、隙だらけの俺。そんな俺を、ラブは身を起こしてベッドの上に押し倒した。必然的に、俺はラブに馬乗りされた体勢となる。

「えへへ……タロー君はこれ以上動けないみたいだし、ここからはボクがタロー君を犯してあげるね♪ ほ〜らほ〜ら、腰振っちゃうよ〜♪」

「あっ、あひいいいいいいっ!? ふああっ、あああああっ、うああああああああああああああ――――――――っ!?」

 騎乗位の体勢のまま、腰を上下に動かして俺を責めるラブ。その刺激で三度ラブの膣奥に精を放出するが、それでもラブの責めは止まらない。強すぎる快感に、俺は悶え狂う。咄嗟にラブの身体を押しのけようとするが、その前に両手の手首をラブに抑えつけられてしまった。

「あははっ♪ これでもう、タロー君は抵抗できないね♪ それじゃ、今から本格的に犯してあげる♪」

「そっ、そんなぁ……あふっ、うああっ、あああああああああっ!?」

 そう言うと、ラブは腰を前後左右にグラインドさせ始めた。縦横無尽にラブの膣壁が俺の逸物に擦り付けられ、俺はベッドに抑え込まれたまま大きく仰け反り身体を震わせる。最早、俺にはラブの責めを逃れる事は出来そうになかった。

「ふふっ、こんなのはどう? おまんこでタロー君のおちんちんを……きゅっ、きゅっって締め付けちゃう♪」

「ふああああああっ!? そっ、それだめぇぇぇぇっ!?」

 きゅうきゅうと俺のモノを締め付けてくる膣内の感触に、俺はさらに大きな声を出して喘ぐ。いつしか、俺はこのままラブに吸い尽くされてしまいたいと思うようになっていた。

「やっ、はうううっ、ひゃああああああっ!? あああっ、あひっ、うあああっ、あああああああああああああああああ――――――――っ!?」

「ほらほらぁ、まだまだ搾り取っちゃうぞ〜♪」

 何度も何度も精を搾り取られ、次第に意識が遠のいていく。最後に俺が耳にしたのは、楽しそうに俺を犯すラブの声だった。







(うっ……うーん……)

 口の中に、何か甘い物が流れ込んでくる。それを飲み干していくと、薄靄がかかったような意識が徐々にはっきりし始めた。ほとんど力が入らなかった体に、体力が戻ってくる。

「んっ……あれ、ここは……?」

「あっ、タロー君起きた?」

 目を開けると、そこにはこちらを覗き込むラブの姿があった。ラブは自身の乳首を俺の口内に含ませていて、そこからじんわりと甘い液体が染み出してくる。俺はそれを舐め啜る事に夢中になっていた。

「んっ……はい、おしまい♪」

「あっ……」

 ちゅぽん、という音と共に、ラブの乳首が俺の口から引き離される。もう少し味わっていたかったのにと、俺は名残惜しい気持ちになっていた。

「こぉ〜ら、そんな顔しないの♪ もう身体は大丈夫でしょ?」

「それは、そうなんだけどさ……その……」

「だぁ〜め♪ ほら、服着ないと風邪引いちゃうよ?」

「うぅ、ラブの意地悪……」

 恨めしそうな目でラブを見つめながら、渋々服に手を伸ばす俺。

「……そう言えば、一つ気になったんだけど。どうして、俺は生きてるんだ?」

 確か、サキュバスをレイプ(俺の場合は合意だったと思うが)した場合、相手をイかせないとそのまま搾り取られてしまうはずだ。なのに、何故俺は生きているのか。

「あ、それ? サキュバスはねぇ、自分の意思でイっちゃう事も出来るんだよ♪」

「えっ……で、でもそれってすごく恥ずかしい事なんじゃあ……」

 確か、サキュバスを含む淫魔にとって、絶頂する姿を見られるのは何よりの恥辱であると聞いた事がある。それゆえ、心から愛する者にしかそのような姿を見せることはないだろう、とも。

「ま、まあ恥ずかしかったのは確かだけど……だからってタロー君を吸い殺しちゃうわけにはいかないしね♪ それに……タロー君、けっこうボクの好みだし♪」

「えっ……!? こ、好みって……たとえば、どんな所が?」

 生まれてこの方、異性に好みだと言われた記憶はちょっとしか……いやごめん、本当は全くない。一体どんな所が彼女のお気に召したというのだろうが。

「んーとね、すっごく敏感で感じやすい所とかぁ、我慢出来ずにすぐにイっちゃう所とかぁ、感じてる顔がいじめたくなっちゃうくらい可愛い所とかぁ……他にも優しい所とか、色々あるよ♪」

「そ、そうなのか……何か、ちょっと複雑な気分だな……」

 男として、可愛いと言われるのはどうかと思う。だがその反面、それがラブに気に入られているという事実を嬉しいと思う自分もいた。それほどまでに、ラブは俺の心の中で大きな部分を占めていた。

「あっ、あのさっ! じゃあ、も、もしラブがよかったら……そっ、そのっ! おっ……俺とっ、付き合ってくれないかなっ!」

「へっ……ふぇぇぇぇっ!?」

 バクバクと鳴っている心臓を抑えながら、俺は思い切ってそう口にしていた。それを聞いたラブは、顔を真っ赤にしながらわたわたと慌てている。

「えっ、えっと……そっ、それってボクを、彼女にしたいって事……だよ、ね?」

「あ、ああ! その……俺じゃ駄目、かな……?」

 恐る恐る、返事をする俺。内心、断られたらどうしようとドキドキしっぱなしだった。

「嬉しいよ……タロー君の言葉、すっごく嬉しい……」

「じゃ、じゃあ!」

 ラブの言葉に、思わず俺の表情が明るくなる。だが俺が見たラブの表情は、あまり芳しくないものだった。

「でも……ゴメン。ボクは、タロー君と付き合う事は出来ないの」

「ど、どうして……?」

 一転してどん底に突き落とされ、俺は呆けたような表情でそう尋ねるのが精一杯だった。

「別に、タロー君の事が嫌いってわけじゃないよ。むしろ、その……す、好きなくらいだし。けど、ボクは……ボク達は、誰かと付き合ったり出来ないの……ごめんね、タロー君」

「つ、付き合ったり出来ないって……」

 それは一体どういう事なのだろうか。ひょっとして、アルティ・エストランスとやらの指示によるものなのか。あるいは、何か別の要因があるのだろうか。

「名残惜しいけど、もう時間みたい……そろそろボクも、帰らなきゃ……」

「じ、時間って……ああっ!?」

 部屋に置いてあった時計を見ると、ちょうど夜中の0時になろうとしている所だった。

(そうだ、俺が買った本は十冊だけ……そしてラブと過ごせる期間は、十冊なら一日……!)

 そして、その一日はもう終わりを告げようとしていた。

「そっ、そんな!」

「……ごめんね、タロー君。でも、ボクにはどうしようもないの……」

 ぽろり、とラブの目尻から、涙が一粒零れ落ちる。そんな彼女に手を伸ばしたその時――時計の針が、真上で重なった。

「ぐすっ……もう、お別れしないと……えっ、えへへ♪ バイバイ、タロー君……♪」

 目からぽろぽろと水滴を流しながら、それでも俺に精一杯の笑顔を向けるラブ。そして……俺の手が彼女に届くよりも一瞬早く、ラブの姿はかき消えてしまった。まるで、最初からそんなものは無かったとでもいうように。

「そんな……何で、何でなんだよ……っ!?」

 いつしか、俺の目からは涙が溢れていた。彼女の残り香が未だ漂うベッドの上で、俺は涙でぐしょぐしょになった顔を枕に埋める。

「ラブっ……ラブっ……うあっ、あああああっ!!」

 しばらくの間、俺は感情のままに咽び泣き続けていた。







「……ただいま」

 あの後、俺はようやく家に辿り着いていた。どこをどうやって帰ってきたのか、自分でもよく覚えていない。ただ、ラブがもういないという現実だけが、空虚な心に残っていた。

「……何なんだろな、本当に」

 帰宅を告げた所で、誰かが返事をしてくれるわけがない。ましてや、迎えに来てくれるなんてありえない。つい昨日までなら当たり前だったその事実は、否応なく今の自分を叩きのめしていた。

「ラブ……」

 たった一日。されど、それだけあれば人が人を好きになるには十分過ぎるのかもしれない。目を瞑れば、今でも彼女の声が脳裏に蘇ってくる。

『ボク? ボクはラブだよ♪ 今日一日よろしくねっ、タロー君♪』

『え、えへへ……あっ、そうそう♪ ボクの事はラブでいいよ♪ 何かさん付けで呼ばれるのって、慣れてないんだよね♪』

『えへへ、どういたしまして♪』

『え、えへっ……ありがと、タロー君♪』

『……えへっ♪ 何かこういうの、恋人っぽくていいよね♪』

『……もう、タロー君ってばどこ見てるの?』

『んー? どうしたのタロー君、そんな所に立ってないで、早くおいでよ♪』

『こぉ〜ら、どこ見てるの〜?』

『……どうしたの〜? ボクの身体、タロー君の好きにしてもいいんだよ♪』

『ま、まあ恥ずかしかったのは確かだけど……だからってタロー君を吸い殺しちゃうわけにはいかないしね♪ それに……タロー君、けっこうボクの好みだし♪』

『えっ、えっと……そっ、それってボクを、彼女にしたいって事……だよ、ね?』

『嬉しいよ……タロー君の言葉、すっごく嬉しい……』

『別に、タロー君の事が嫌いってわけじゃないよ。むしろ、その……す、好きなくらいだし。けど、ボクは……ボク達は、誰かと付き合ったり出来ないの……ごめんね、タロー君』

『名残惜しいけど、もう時間みたい……そろそろボクも、帰らなきゃ……』

『……ごめんね、タロー君。でも、ボクにはどうしようもないの……』



『ぐすっ……もう、お別れしないと……えっ、えへへ♪ バイバイ、タロー君……♪』



「ラブ……会いたいよ、ラブ……っ!」

 愛してその人を得ることは最上である。愛してその人を失うことはその次によい。イギリスの小説家、ウィリアム・M・サッカレーの名言だ。だが、今の俺にはその言葉は嘘っぱちにしか思えなかった。一番と二番を選べるのなら、誰だって一番を選ぶだろうから。頂点を知らなければ不足の無かった事も、知ってしまった今となっては何もかもが色あせて見える。

「こんなことなら、あんな本なんて買わなきゃ……ああっ!?」

 ふと、自分の言った言葉で気付いた事があった。我に返り、頭の中でそれを整理してみる。

(そうだ、確か噂では、十冊なら一日、百冊なら二週間、そして千冊では半年の間、好みの相手と過ごせるって事だった。けど……どこにも『同じ相手と二度過ごす事は出来ない』なんて事は書いてなかった! と、いう事は……!)

 即ち、再びあの本を買えば、またラブと過ごす事も可能という事。

「そうだ、二度と会えないわけじゃないんだ! だったら……」

 慌ただしく預金通帳を引っ張り出し、その額を確かめる俺。そして、俺の顔は見る間に喜色に満ちていく。

「いける……! これなら、もう一度ラブと……!」

 高鳴る胸の鼓動を押さえながら、俺はパソコンの電源を入れて通販のページにアクセスした。







 無機質なコンクリートの壁で覆われた部屋。パソコンが一台とベッドが一つ、それと無造作に床に置かれている本くらいしか物が無いその部屋に、二つの人影があった。と言っても、片方は人と呼ぶには少々苦しいかもしれない。何せ、外見からして人とは違っているのだ。赤いゲル状の物質で構成された身体を持つ、奇妙な生命体。その前には、前が見えないほど髪を長く伸ばした人間が立っていた。あまりに髪が長いので顔立ちはおろかその体型すらはっきりとは見えず、男か女かどうかも定かではない。その人間(とりあえず、便宜的に『彼』と呼ぶ事にしよう)は、目の前――正直、本当にそちらを向いているのかすら怪しいが――に存在する粘液状の生物に向かって、何やらぶつぶつと唱えていた。

「……ル・エカ・キ・カオ・キ・シン・ニ……ノソ!」

 その言葉と共に、赤い粘体生物の姿がみるみるうちに女性の姿へと変わっていく。その姿形は、まるでもぎたての果実のように瑞々しい肌の色といい、世の全ての女性が羨み全ての男性が望むような理想的な体型といい、世界のどんな彫像すらも色あせて見えるほどに整った顔立ちといい、人のそれと寸分違わぬ、いやむしろ人よりはるかに優れたものとなっていた。二股になった三つ編みの髪は元と同じ赤い色をしているが、それすらも彼女の魅力を掻きたてる要素の一つとなっている。その美しい身体はロングスカートのメイド服に包まれており、あたかも彼女が非現実の存在であるかのような印象すら受ける。

「こ、これが……私? す、すごいです……!」

「まあ、私の手にかかればこんなものだよ。あと念のために言っておくが、その服は私の趣味じゃなくて、相手方の趣味だからな……まあ、私もこういうのは嫌いじゃないが」

 感嘆の声を洩らす女に対し、事も無げに『彼』はそう口にする。最後の言葉はぼそりと呟くような声であったため、目の前にいるメイド服の彼女の耳には届かなかっただろうが。

「……それで、やるべき事はわかっているかな?」

「は、はい! えっと……今から『――――』様の所に行って、一日間過ごしてくる、でしたよね。その……こ、恋人らしく……」

「ああ、そう言う事だ。じゃあ、早速先方の所に向かってくれ。そろそろ日付が変わる頃だからな」

 そう言って、『彼』はパソコンのモニターの右下に目をやった。そこには『23:59』の表示がある。

「……今、0時になりました。それではこれから、向かいますね」

「ああ、行ってらっしゃい」

 パソコンの前に座った『彼』に一礼すると、女は姿を消した。それと入れ替わるように、胸の大きな美少女――ラブが、姿を現す。

「……ただいま」

「おかえり……どうしたのかな、そんなに赤い眼をして」

 『彼』の言葉通り、ラブの目は泣き腫らしたかのように赤くなっていた。いや、恐らくは実際にそうだったのだろうが。

「……ねぇ、アルティさん」

「……何だい、ラブ」

「その、こんな事を言うのはどうかとも思うんだけど……ボク達が相手の人と付き合ったりって、どうしても出来ないのかな?」

 おずおずと、アルティと呼んだ『彼』に対し、そう口にするラブ。その様子は、まるで何か強大な物に畏怖しているかのようでもあった。

「ああ、その事か。それなんだが、最近会った相手を恋人にしたいと望む連中が多いようなのでね。ちょっと新しい噂を流そうかと思っている」

「えっ!? あっ、新しい、噂って……?」

 がばっと顔を上げ、『彼』の言葉の続きを待つラブ。

「うむ。これまでの噂に加え、『一万冊購入した場合、一生好みの相手と過ごす事が出来る』というのを流すつもりだ。それを選んだ者が相手の場合に限り、恋人同士になってもいいとしようと考えている。まああくまでも、お互いの合意があった上での話だがね」

「一万冊って……確か、一冊が五百円くらいだったから……ごっ、五百万!?」

「何を驚く事がある? その程度で理想の伴侶を得られると思えば、安いものだろう?」

 驚くラブに対し、『彼』は何でもない事のようにそう言ってのける。恐らく『彼』にとっては、そのような話は本当に何でもないような事なのだろうが。

「あうぅぅ……そ、そんな大金、普通の人はまず出せないよねぇ……」

「そうでもなかろう。仮に一月に十万ずつ貯めたとすれば、四年と二ヶ月で貯まる計算だ。散財せず地道に働けば、十分どうにかなる」

(……まあ、一度この味を覚えてしまえばそれも難しい話だろうがな)

 内心の呟きは口に出さず、『彼』はラブに応じる。

「四年以上なんて……そんなに待たなきゃいけないのかなぁ……」

「あくまで、貯金が無い状態からスタートした場合の話だ。それに半年に千冊買い続けるのなら、一月に十万ずつ貯めていればお釣りが来る。まあ、どうせやるなら最初から一万冊買った方が得だがな」

「うーん……それはそうなんだろうけど……」

 納得の行かないといった顔で、うんうんと唸るラブ。

「あっ……そう言えば一つ気になったんだけど、何でわざわざ噂を流してるの? 最初から本の解説にでも書いておいた方が早いんじゃない?」

「ん? ああ……それをやると、売春防止法辺りに引っ掛かりかねないんだよ。まあ別に国家権力の一つや二つ、どうにかならない事もないんだが……むやみに騒いで、本が売れにくくなったら困るからな」

 椅子の背もたれを倒しながら、『彼』はそう答える。

「どうにかならない事もないんだ……それって、やっぱりアルティさんの能力で?」

「はて? 私は大した力も持たない、ただの一般人ですが?」

「よ、よく言うなぁ……ボクの姿を変えたり、一度に百人以上の淫魔を召喚したり出来るくせに」

 半ば呆れたように、そう口にするラブ。それに対し、『彼』はかぶりを振った。

「生憎、召喚の方は私の管轄じゃないよ。まあ、もう片方は私の能力だけどね」

「そうなの? ちなみに、どんな能力なのかな?」

「生憎、それは企業秘密だよ。手品の種を自分から明かす程、私はお人よしじゃないのでね」

「う〜、アルティさんのケチ〜」

 頬を膨れさせ、拗ねるラブ。

「いやいや、別にそれほど大した能力じゃないさ。稚拙で無力かつ欠陥だらけ、おまけに未だ発展途上の能力だからね。まあ……全知全能には到底及ばないが、神様の真似事くらいならやってやれない事もない程度の能力って所か」

「……いや、それが出来るなら十分大したものなんじゃないかな」

 『彼』の言葉に、ラブはそう答える。

「まあ、あまり気にする事もないだろう。さて、今日の所はもう帰るといい。また君を必要とする時が来たら、その時は呼ばせてもらう事にするよ」

「はーい……タロー君、また呼んでくれるといいなぁ……」

 ぶつぶつと呟きながら、ラブはその場から姿を消した。彼女がいなくなったのを確認すると、『彼』は盛大に溜息を吐いた。

「……しっかしまあ、どいつもこいつも恋だの愛だのと、くっだらない事で馬鹿みたいに騒いじゃってさあ。あーやだやだ。人間、ああはなりたくないものだねぇ」

 椅子の背もたれに寄りかかりながら、『彼』は部屋の天井を見上げる。そこには、蛍光灯があるだけだった。

(あいつは自分の認識が、私に『書き換えられている』なんて思いもよらないんだろうな……あいつの姿が変わってるのも、あいつが相手を好きになったのも、全部私が認識を『書き換えた』からだってのに)

 そう、それこそが『彼』の持つ能力。ほとんどあらゆる認識を知る事ができ、それを自由に書き換える事が出来る能力。それを以ってすれば、誰かの姿を認識させないようにしたり、逆に誰かが深層意識化で理想だと認識している姿として周囲に認識させる事も容易に可能となるのだ。もっとも世界そのものの認識を書き換えるとまではいかないため、認識の関係無い『現象』には無力という重大な欠点も存在するのだが。

「……ふん、別に羨ましくないよーだ」

 誰に言うとでも無く、『彼』はそう独りごちる。

 愛してその人を得ることは最上である。愛してその人を失うことはその次によい。しかし、誰かを愛する事すら出来ない者は、そのどちらにもなる事が出来ないのだ。

『彼』が一人たそがれていたその時、『彼』の前にあったパソコンのモニターが電子音を立てた。

「……ん? メールか、どれどれ……」

 カチカチとマウスを操作し、届いたメールを確認する。そこには、十冊以上購入した人物のリストが記されている。本名で無いものも多数混じっているが、その名前を使って本を購入した人物の認識そのものを読み取れば、何の問題も無い。

「……おや、これはこれは。どうやら、またあの子を呼ばないといけないようだねぇ」

 『彼』の視線が千冊本を買った人物の名前に差し掛かった時、『彼』は声を洩らした。そして……。

「くっくっく……毎度あり」

 にやりと笑いながら、『彼』はそう呟いた。                                                  (終)





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