淫魔城の人質王子
淫魔界――その名の通り、女淫魔が支配する世界。
人型の淫魔をサキュバスと呼ぶのが一般的だが、他にも多種多様の姿を持つサキュバスが存在するこの世界。
そんな世界にたった一つだけ、人間の王国が存在した。
人間の王族に、人間の家臣。人間の兵士に、人間の領民――この淫魔界にあって、その国だけが人間の国家であった。
まれに人間界から淫魔界に迷い込んでしまった者は、ほとんどの場合サキュバスの餌食になってしまう。
しかし幸運にも親切なサキュバスに拾われた場合、彼女達はこの国へ迷い人を送ってくれるだろう。
淫魔界における唯一の人間統治国家、ユーマンス王国に――
「……さあ、乗りなさい」
迎えのサキュバスに促され、ユーマンス第二王子は馬車へと乗り込んだ。
「おお、ウェルス……! おお、神はなんと残酷なの……!」
「すまぬ、ウェルス……不甲斐なきお前の父を、力なきユーマンス国王を許してくれ……」
さめざめと泣く母、己の無力さに怒りすら見せる父。
彼らは、馬車の中で手を振る息子を見送っていた。
「大丈夫です、父上、母上。命まで取られるわけではありませんから」
そう言いながらも、ユーマンス第二王子ウェルスはもう二度と父母とは会えないことを理解していた。
それが、ユーマンス王家次男に課せられた運命なのだから。
「――では、行くぞ」
迎えのサキュバスの一人が、内側から馬車のドアを閉めてしまう。
下半身からにゅるにゅると蠢く無数の触手を隠そうともせず、彼女は続けて従者へと指示を出した。
馬のいななきとともに馬車が走り出し、車内が軽く揺れ始める。
「……」
父母から離れ、たちまち不安に駆られた若き王子ウェルス――彼は、落ち着きなく馬車の中を見回していた。
馬を走らせている従者を除き、迎えのサキュバスは四人。
いずれも清楚なメイド服に身を包んでいるが、四人ともそれぞれ別の種族である。
ウェルスの左右に座っているのは、下半身が触手のスキュラ型に、下半身が蛇のラミア型。
向かいの席には、八本の足と特有の形状の腹部を持ったクモ型に、全身が粘液で形作られているスライム型。
サキュバスという種族、それも王族に仕える存在――例外なく、四人とも息を呑むほどの美女である。
ウェスティリアから出迎えに来たサキュバス四人は、静かに馬車の中で座していた。
ユーマンスの隣国であるウェスティリアは、当然ながらサキュバスの国。
そして、人間の国家であるユーマンスなど比較にもならない大国である。
しかしウェスティリアは、吹けば飛ぶような小国ユーマンスに独立と自治を保障していた。
その代償が、ユーマンス王家に代々課されてきた約定――
ウェスティリアに、ユーマンス第二王子を人質として差し出すことだったのである。
それだけで、この大国はユーマンスに手を出さず、むしろ淫魔界での生存を手助けすらしてくれる。
しかし、この約定を破れば――たちまち、ユーマンスが焦土と化すことは間違いないだろう。
代々の王としては、選択肢は他にないのである。
今年14歳になった若き王子ウェルスがサキュバスの馬車に揺られているのも、そうした事情であった。
「……父母の元を離れるのは辛いか?」
不意に、スキュラ型のサキュバスは尋ねてきた。
「いえ、覚悟は出来ています……」
そう言いながらも、ウェルスは震えを隠せない。
人間である彼にとって、サキュバスとは異質な存在なのだ。
まして馬車内にいるサキュバスは4人とも、異形の肉体を持った者達である。
いかに凛々しく振舞おうとも、まだ十四歳の少年。この状況で恐怖を催さないはずがない。
「ウェスティリアに到着するまで馬車で二時間。その間に、幾つか質問――いや、尋問をさせてもらう」
スキュラは、そんなウェルスを突き放すような口調で告げた。
「これに答えない場合、もしくは虚偽の返答をした場合、苦痛を受けることになる。
それも君ではなく、ユーマンスの民が――この意味が分かるな?」
「覚悟しています……」
戸惑いを抑えながら、ウェルスは頷いた。
自分はユーマンス国からの人質であり、自身の一挙一動で祖国の命運が決定する。
それを、ウェルスは十分に自覚していた。
いかなる質問にも、正直に答えなければならない――
「まず――精通は済んでいるか?」
「え……!?」
スキュラの質問は、ウェルスの予想をまるで外したものだった。
「そ、そんなの……!」
「質問に答えないという選択肢も残されているが、それで苦しむのはユーマンスの民だ。
自尊心ゆえに領民を犠牲にするか? それとも、領民の為にあえて恥辱をも甘受するか?」
ぴしゃりと告げるスキュラの前で、ウェルスは唇を震わせていた。
「す、済みました……」
四人のサキュバスの前で、ウェルスは恥辱そのものの答えを返す。
「それはいつだ?」
「に、二年前……十二歳の時です……」
震える唇で、そして朱色に染まった頬で返答するウェルス。
そんな恥ずかしいことを、こんなに綺麗な四人の前で――彼の羞恥心は頂点に達していたのだ。
「女性経験はあるか?」
「え……? ありません……」
ウェルスはスキュラの質問に対して、嘘偽りひとつない答えを返していた。
「そうか……」
スキュラは少し黙った後、冷酷な視線をウェルスに向ける。
「君はこれから先、ウェスティリアの慰み者となる。
君の元にあらゆる種のサキュバスが押し寄せ、容赦なく輪姦される。
多くの者が戯れに君を犯し、また多くの者が君の種を孕む。
監禁と陵辱の日々――その覚悟はできているか?」
「え……!?」
彼女の余りの言葉に、ウェルスは硬直してしまった。
今のはスキュラにとって答えを求めた質問ではなかったようで、無回答も咎められない。
馬車の中は静まり返り、ラミア型淫魔も、クモ型淫魔も、スライム型淫魔もただ黙り込んでいた。
そして――次にスキュラは、ウェルスに対して明確な問いを投げ掛けてくる。
「我々とて鬼畜ではない。君にも選択の自由を与えよう。
この馬車にいるサキュバス四人、誰に童貞を奪われたい?」
To be continued...